あなたの記憶、買います。(脚本)
〇病室のベッド
エマ「毎度、エマラボです」
ヒロ「記憶と引換に願いを叶えて差し上げます。但し等価なもので宜しく」
エマ「願いから訊くわ」
結衣「恋人の記憶の中の私を、妹の明日香に書き換えて欲しいの」
エマ「それ、高くつくわよ。代わりにどんな記憶を?」
結衣「彼との記憶を。出会ってから今日までの。等価になる?」
エマ「価値的には問題ないわ。どうして恋人の記憶を書き換えようと?」
結衣「明日香はね、ずっと看病してくれたんだ。彼を好きな気持ちを隠しながら。もしかしたら、傷つけることになるかもしれないけど」
結衣「もう時間がないの。彼には幸せになって欲しいの」
エマ「その役目を妹に託そうとしてる?」
結衣「願い、きいてもらえる?」
エマ「いいわ」
〇土手
貴之「呼び出してごめん」
明日香「ううん、嬉しい」
貴之「返事、訊きたくて」
明日香「何の?」
貴之「キミとの残された時間を諦めることはできないんだ」
明日香「どうしたの?」
貴之「何が?」
明日香「どうして私に?姉さんじゃなく」
貴之「姉さんって?」
明日香「「ゆい」姉さんだよ」
貴之「ゆい・・・って」
貴之「誰?」
明日香「変な冗談はやめてよ」
貴之「キミのほうこそ」
〇病室のベッド
明日香「貴之さん、最近おかしくない?」
結衣「たかゆきって、明日香のいいヒト?」
明日香「姉さんの彼氏のだよ」
結衣「こんな状態の人間が恋してるワケないでしょ」
明日香「姉さんまでどうしちゃったのよ」
明日香「これって──」
結衣「そんな大切なものを置き忘れるようじゃ、先がおもいやられるなあ」
ヒロ(どうもなあ。こんな調子で、役目を果たせるのかなあ)
明日香(誰?)
ヒロ(えっ!?キミ、ボクの声、聞こえるの?)
明日香(あなた、何者?)
ヒロ(キミの姉さんと交換取引をしたエマラボのヒロだよ)
明日香「交換取引って、あなた何言ってるの?」
ヒロ(彼氏の記憶の中の像を姉さんからキミに書き換えたけどね。こんなんじゃ、役目果たせないんじゃない?)
明日香(ちょっと待って。記憶を書き換えたって何?役目って)
ヒロ(彼を幸せにする役目を妹に託すとかなんとか)
明日香(そんなバカな・・・。今のこの状況って。何とかしなくちゃ)
〇土手
明日香「ゴメン、突然」
貴之「いいよ」
明日香「携帯、貸して」
貴之「どうしたの急に。はい」
明日香(絶対にあるはず)
明日香「これ見て」
貴之「一緒に映ってる人って」
明日香「結衣姉さんだよ。それとこれ」
貴之「これはキミに渡した──」
明日香「相手は私じゃない──」
貴之「うわああ」
貴之「俺もなんか違和感を感じてて。でも、よくわかんなくて。ゴメン」
明日香「謝らないで」
明日香「信じられないと思うけど、二人の間に愛していた記憶が消えてしまったとしても」
明日香「それでも、最後まで姉さんのそばにいて欲しいの」
貴之「俺、行くよ」
明日香「──」
明日香「わああ──」
明日香(これでよかったんだよね?)
ヒロ(人間の「感情」は難しすぎて、だからわからない)
明日香(教えてあげる)
明日香(これ、「思いやり」っていうだよ)
ヒロ(思いやり・・・どういう感情かよくわかんないけど、なんだか美しいものだったりする?)
明日香(そうだね。美しくて、尊いものかな)
ヒロ(そっか。教えてくれてありがと)