第85話 雪を越え、その先へ(脚本)
〇広い屋上
2021年 イリノイ州 ピオリア市 ピオリア郡 シビック・センター屋上
チョ・ヨンス「クソっ···想定外だ!あの鳥のせいか気温がどんどん上がってきている···!」
チョ・ヨンス「しかもあの鳥、今気づいたけど···傷を負った場所が発火して『治癒』してやがる···!」
羽ばたく姿は全ての者を魅了し、燃える体から落ちる火の粉は『宝玉』と見間違える程煌びやか
そんな鸞鳥をまるで祝福するかのように月は凛と光を発し、その美しい翼をより美しく輝かせていた
そんな鸞鳥を前にしても尚ヨンスは戦う意志を見せた。しかしそんな意思を呆気なく破壊するかのように
鸞鳥は自身の足でがっしりヨンスを掴もうと上空から突進をしてくるが、ヨンスは懐から銃を取り出し
鸞鳥に向かって連射を行った。しかし鸞鳥は痛がる素振りは見せるも、自身の足でガッチリヨンスを掴むと
そのまま天高く羽ばたいた。当然ヨンスは能力を使って脱出を試みるが
チョ・ヨンス「こいつの血···やっぱりそうだ···マグマと同じで『高い粘性』を持っている!」
チョ・ヨンス「俺が能力で脱出をするのを遅らせる為にワザと『攻撃』をさせて···はっ、俺の負けってワケか···」
チョ・ヨンス「いくら摩擦力を操れるっつっても···こんな空気の薄い所から地上に落下したら一発で死ぬな···」
チョ・ヨンス「あーあ···もっと『奥手になれば良かったな』」
その後鸞鳥はゆっくり地上に降り、斎王達の前に姿を現す
〇渋谷ヒカリエ
シビック・センター 地上部分
斎王幽羅「おかえり鸞、やっぱり無事だと思ったよ」
鸞鳥は斎王を見つけると左足でヨンスを踏みつけ、斎王に向かって『お辞儀をするかのように』頭を下げた
斎王幽羅「え?あ···えと···返した方がいい···よね?」
斎王がぎこちない一礼をすると、鸞鳥はその姿を変え
やがて皆が知っている鸞に戻っていった
鸞「少し新技を出すのに苦戦していたが···どうにかレッドスモークを捕らえることに成功した」
斎王幽羅「思いっきり踏みつけられてるもんね···というかその角度スカートの中見られるんじゃ···?」
鸞「今更下着の1つや2つ見られて恥ずかしいとか言ってられん。とりあえずこいつを拘束する物を持ってきてくれ」
マリア・イアハート「待ってろ、すぐに持ってくる!」
エンチャント魔導法士「··· ··· ···」
鸞「笑ってんじゃねぇぞジジイ、ブチ殺すぞ」
エンチャント魔導法士「おい、なんでだ!ワシまだ何も言っとらんだろうが!」
チョ・ヨンス「ピンクと黒のレース···意外に攻めてるなお前」
ヨンスがニヤッと笑うも鸞が踏みつける力を強めながらヨンスに警告した
鸞「俺の動揺を誘ったのか注意を逸らしたのか、それはどうでもいいが···」
鸞「諱忍術『鸞』で発生したものは人間も姿になっても継続される。つまりお前は俺の足と」
鸞「出血している血による粘着で固定されている。あまりくだらん事はしない方がいいと警告しておく」
チョ・ヨンス「そうかよ··· ··· ···でも俺にはまだ仲間がいる。そうだろ!?マルティナ!!」
ヨンスは駆けつけた姫騎士を目撃すると大きな声でそれを伝え、周りはどよめいた
マルティナ・バートン「私が···お前の仲間···?もう一度言ってみろ、その減らず口を閉じさせてやる」
マルティナはホルダーに入れていた銃を取り出しヨンスに向ける。しかしヨンスはそれに構わず喋り続けた
チョ・ヨンス「おいおい···おかしいと思わないのか?なんでマルティナが恩人の孫である斎王共を追い出そうとしたんだ?」
チョ・ヨンス「マリアは失楽園の天使達の内部で争ってたからわかるが、斎王共は関係ない。どうしてだろうなぁ~?答えはひとつだ」
チョ・ヨンス「マルティナは『自分の地位』を条件に俺に協力してくれてたってワケだ」
マルティナ・バートン「ち、違う!仮にも誇り高き姫騎士である私が我欲に溺れてそんな事···!」
しかしマルティナの弁明は信用されず、姫騎士達は互いの顔見合わせると
徐々にマルティナに拘束具を持って近づいていた
鸞(マズイな···この期に及んでまだ逆転の目があったとは···どうするか···)
マルティナ・バートン「マ···マリア!お願い助けて!マリアを貶めようとしたのは事実だけど···その男と組んでるなんて嘘なの、信じて!」
マルティナ・バートン「離しなさい!っ···お願いマリア···私達コロンビア内戦やスノードーム防衛戦も乗り越えてきたじゃない···」
マリア・イアハート「わ···私はどうすれば···マルティナを捕らえるべきか?しかしマルティナはコロンビアから一緒だったメンバーだし···」
困惑した表情を見せながらマリアは目の前で拘束されるマルティナを見ているしかなかった。
しかしそんなマリアに斎王はある言葉をかける
斎王幽羅「『道路のそれをご覧なさい。貴女はそれを触らず雪か氷か区別がつくの?』」
マリア・イアハート「それは···頼様のお言葉···」
斎王幽羅「他人の声ではなく、自身が見てそれに何を感じたが『真実』なんだ。マリ姉はさ」
斎王幽羅「組織の長としての責任感が強すぎるよ。今だけは···マリア・イアハート個人としてマルティナに向き合ってあげて?」
マリアはそう言われるとマルティナに近づき、彼女の頬に触れながら話し始めた
マリア・イアハート「マルティナ··· ··· ···昔から私達は対立ばかりだったな。勉強やスポーツ、ダンスや歌···色々してきたな」
マリア・イアハート「いがみ合ってはいたが···私はあの時間が楽しかった。お前と時間を過ごす度、お前を知っていくあの時間が好きだった」
マリア・イアハート「コロンビアを抜け、頼様の手引きでカナダに腰を下ろす時からだったか···私はお前を見る『余裕』が無くなっていった」
マリア・イアハート「こうして組織の長として生きていくうちに、知っていたはずのお前の気持ちや思いが分からなくなっていった」
マリア・イアハート「私は··· ··· ···私はそれを『察知』してやれなかった。だからこの場で言わせてくれ···」
マリア・イアハート「『ごめんなさい、マリィ』」
マルティナはそれを聞くとその場で脱力し、涙を流し始める。姫騎士達が起こそうとするも
斎王が『やめてあげて』と言い彼女達を止めると、マルティナも言葉を返した
マルティナ・バートン「私は···私はお前が『羨ましかった』···」
マルティナ・バートン「私がいくら努力しても、いくら戦果を上げても、頼様にお褒めいただくのはお前だった···」
マルティナ・バートン「そんな中私と同等の戦果や功績を残して頼様に認められていくお前が···『離れていく気がした』んだ」
マルティナ・バートン「コロンビアにいた頃私達はいがみ合いながらも、肩を並べて一緒に走っていたのに···」
マルティナ・バートン「カナダに来てからいつの間にか遠くに行ってしまったお前が···『嫌だった』。そうして必死に追いつこうとするうちに私は···」
マルティナ・バートン「自分の目標を見失って··· ··· ···私からも言わせて欲しい」
マルティナ・バートン「『ごめんなさい、マリィ』」
そして2人は涙を流しながらお互いを強く抱き締めあった。
互いが互いを知り、理解を深め合う事でより一層2人の絆は深まっていった
失楽園を追われた天使達は、そこで新たな楽園を築くことは無かった。今の彼女達に『復楽園』は必要ない
To Be Continued··· ··· ···