龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第弐拾弐話 初めての〇〇 橘一哉の場合(脚本)

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〇街中の道路
橘一哉「みんなしてどうしたん?」
姫野晃大「龍使いになった時のことを聞いてたんだ」
草薙由希「さっきはあたしの話をしてたの」
草薙由希「流れ的に次はカズの番ね」
橘一哉「別にいいけど、どこから話す?」
姫野晃大「どこって?」
橘一哉「俺さ、龍の痣は多分生まれつきなんだよ」
「生まれつき!?」
  一哉の言葉に一同は驚きの声を上げた。
橘一哉「物心ついた時には腕にあってさ」
草薙由希「ちょっと待って」
  由希が割って入った。
草薙由希「あんたの腕に龍の痣なんて、少なくともあたしが覚醒する前は見たこと無いわよ」
辰宮玲奈「あたしも」
  由希の言葉に玲奈も頷く。
  従姉の由希と幼馴染の玲奈。
  一哉を幼い頃から知っている二人が口を揃えて同じ事を言うのだから、それは本当のことなのだろう。
橘一哉「でもさ、龍使いになった後は玲奈も由希姉も見えてるわけで」
  うんうん、と名指しされた二人は揃って首を縦に振る。
橘一哉「多分さ、宿主になったら見えるんだと思う」
  一哉は左の腕を晃大に見せる。
橘一哉「コウちゃんには見えるっしょ?」
姫野晃大「ああ、はっきり見える」
  今、一哉の左前腕には痣が浮かび上がっている。
  はっきり、くっきりと、刺青よりも遥かに濃密な黒色の龍が巻き付いている。
橘一哉「で、更に集中すると、」
姫野晃大「ちょ、おい!!」
  黒い霧や火花のようなものが断続的に舞い散るが、
姫野晃大「あ、あれ・・・?」
  道行く人々は誰も気に留めない。
  素通りしていく。
  気付いていながら敢えて意図的に目を逸らしている様子も見られない。
  どうやら、本当に普通の人には見えていないらしい。
橘一哉「コウちゃんもやってみ?」
姫野晃大「お、おう」
  晃大も右の袖を捲り、試しにやってみた。
  光を放つ龍の形の痣が浮かび上がるが、
姫野晃大「・・・」
  誰も気付かず、気にしない。
  片袖をまくる晃大の姿に一瞬目を向ける人はいるが、それ以上に驚く様子はない。
  龍の痣が光を放っているにも関わらず、だ。
姫野晃大(本当に見えてないのか・・・)
  ここにいる八人以外の普通の人間には見えていないようだ。
姫野晃大「不思議なもんだな」
橘一哉「だよなぁ」
橘一哉「そんなんだけどさ、初めて黒龍が出てきて話をしたのは魔族と初めて出くわした時なんだよね」
姫野晃大「橘が初めて魔族に出くわしたのって、いつ頃なんだ?」
  ようやく本題に入れた。
橘一哉「あれは、確か十歳くらいだったかな」

〇普通の部屋
  少年・橘一哉には秘密があった。
  それは、
橘一哉「む〜・・・」
  眉間にしわを寄せ、自分の左前腕を睨みつける一哉。
  暫く意識を集中していると、
橘一哉「見えてきた、見えてきた」
  少しずつ、黒く細長い痣が見えてきた。
  だが、
橘一哉「うわ、薄いなぁ・・・」
  思っていたよりも薄い。
  この痣、その日の調子によって色の濃さが変わるという不思議なものだった。
橘一哉「今日はあんまし良くないなぁ・・・」
  色の濃淡がその日の運勢と比例関係にある。
  色が濃ければ調子が良く、万事が上手くいく。
  逆に色が薄いと、ちょっとした不運に見舞われたり、調子が悪かったりする。
  この痣は、一哉が物心ついた時には見えていた。
  しかし、一哉以外の人間には見えていないらしい。
  両親に言っても取り合ってくれなかった。
  それでも見えるものは見えるわけで、その見え方の違いにもやがて気付いた。
  以来、自分だけの秘密の占いとして毎日暇さえあれば自分の腕と睨めっこをしている。
  ついでに言うと、この痣を見ていると何故か安心して心が落ち着く。
  どんな時でも、この痣を見ていると自然と気分が安らぐのだ。
橘一哉「まあ、どうにかなるか!」
  痣の濃淡がどうあれ、何だかやる気が湧いてくる。
橘一哉「さ、何しようかな」

〇普通の部屋
橘一哉「って、もう夕方!?」
  遊ぶどころではない。
  痣を見るのに集中しすぎたらしい。
  時計を見ると、
橘一哉「あれ?」
  時計が示しているのは午前。
橘一哉「何で・・・?」
  時計が壊れているのかと思ったが、秒針は普通に動いている。
  だが、窓の外の景色は確かに夕暮れ。
橘一哉「ええ・・・?」
  一哉が首を傾げると、
???「宿主一名、御案内」
  不気味な声が響いた。

〇普通の部屋
橘一哉「え!?何!?」
  声の主を探してキョロキョロしていると、
魔族「やあ、少年」
橘一哉「うわぁ!!」
  一哉は腰を抜かしてへたり込んだ。
  ベランダに人がいる。
  男がベランダの手摺の上に立っている。
魔族「お邪魔するよ」
  男は窓を押し破って部屋に入って来た。
  窓枠がひしゃげ、ガラスが砕け散って部屋の中に散乱する。
魔族「さ、あの世に送ってやろう」
  男は手の爪を伸ばして揃え、一哉に向けて突き出した。
  が、
魔族「な!!」
  何かの力で男の手が止められた。
???「そこまでだ」
  声と共に一哉の左腕から黒い霧が噴き出して形を成していく。
???「この子はやらせん」
  霧は黒い龍の形となり、一哉と男を遮るように二人の間に割って入った。
???「我らの希望、失わせはしない」
  黒い龍はチラリと一哉に目を向け、
黒龍「私は黒龍、君の力となるものだ」
  優しく、しかし力強い口調で語りかけた。
橘一哉「黒龍・・・?」
黒龍「さあ、この敵を倒すぞ」
橘一哉「・・・うん」
  一哉も力強く頷き、立ち上がる。
黒龍「そうだ、それでいい」
  生きていれば、立ち上がれる。
  立ち上がれるなら、戦える。
  戦えるのなら、決して負けはしない。
黒龍「カズ、お前の力は、今、ここにある」
  一哉は両手を握り、腹の前で上下に重ねた。
  黒い霧が手から伸びていき、
  一振りの刀が一哉の手の中に現れた。
  まだ子供の一哉の体格に合わせた、細身で短いものだ。
  金具も柄糸も黒、刀身にも黒い紋様がある。
橘一哉「いくぞ!!」

〇普通の部屋
魔族「随分と可愛いものだ」
  男の顔に笑みが浮かぶ。
  如何に龍の宿主とはいえ、年端もいかぬ子供。
  大人と子供では、余程の事がない限り大人が負けるなどありえない。
  実際、その通りだった。
橘一哉「えいやあっ!!」
  チャンバラ遊びの経験があるのだろう、それらしき身のこなしで一哉は果敢に切りかかり刀を振るう。
  しかし、所詮は児戯。
魔族「ハッハッハ」
  笑いながら男は一哉の太刀を受け、流している。
  躱そうとすらせず、伸ばした両手の爪で難なく捌いている。
  膂力も速さも、全く足りない。
  一哉の攻撃は、男に全く届かない。
  力の差がありすぎて、完全に遊ばれている。
魔族「少年、足が痛くはないのかね?」
橘一哉「え?」
  男に言われた一哉は動きを止め、足元を見た。
橘一哉「あ」
  気付いた。
  気付いてしまった。
  足が赤く染まっている。
橘一哉「うわあぁぁ!!」
  声を上げる一哉。
  散乱したガラスで、足が切れていた。
  しかし、
橘一哉「・・・あれ?」
  痛くない。
黒龍「私の力で痛みを感じないようにしている」
  黒龍の声が一哉の脳内に聞こえた。
黒龍「思い切りやってしまえ!!」
橘一哉「うん!!」
魔族「ええい、小癪な!!」

〇荒野
橘一哉「え、何!?」
  部屋が消え、荒野になった。
魔族「もう一つ『奥』ならば、我らの有利よ!!」
黒龍「気にすることはない」
黒龍「やつら魔族のいる世界に少し近いだけだ」
魔族「いかにも」
魔族「それは即ち、人間たる小僧にとっては一段不利になり、私にとっては一段有利になるということだ」
橘一哉「やっぱりヤバいじゃん!!」
黒龍「その程度の不利、私を使える一哉には無いも同然だ」
  一哉の左腕から黒い火花が舞い散る。
魔族「ぬかせ!!」
  如何に子供の宿主といえど、要所要所で龍の補佐があっては倒す事もままならない。
魔族「ヌウゥ・・・ッ!!」
  魔族は全身に力を漲らせた。
黒龍「やつは変成するようだ」
黒龍「そうなる前に私を使って奴を倒せ」
橘一哉「うん」
  一哉は刀の柄から左手を離すと大きく後ろに引き、
  そして、
橘一哉「でやあっ!!」
  横薙ぎに大きく振り抜いた。
魔族「な!?」
  魔族の集中が途切れ、目が大きく見開かれる。
  魔族の視界を黒いものが覆い尽くし、
魔族「ぐっ!!」
黒龍「ぐは!!」
  正面衝突。
  魔族に、黒龍が、ぶつかった。
  魔族の頭と黒龍の頭が正面衝突。
魔族「ぬ、う、」
黒龍「おい、カズ、」
  黒龍が何か言おうとしたが、
橘一哉「でい!」
黒龍「ぬあ!?」
魔族「ぐ!!」
  もう一発。
橘一哉「このっ!このっ!」
魔族「ぐ!」
黒龍「ちょ!」
魔族「ぬ!」
黒龍「おま!」
魔族「ぅあ!!」
黒龍「やめ!」
  中々シュールな光景だった。
  一哉が左腕を振り回し、前腕から飛び出ている黒龍を魔族に何度も叩き付ける。
  黒龍が自衛のために全身に張っている龍の力『龍気』が魔族にぶつかり、着実にダメージを与えてはいる。
  魔族が避けようとしても、龍気の余波が飛んできたり、龍自身が伸びてきて避けようがない。
  龍自身が暴れ回っているようなものだ。
  その内、
魔族「ぐふ!!」
  龍の角が魔族に当たり、皮膚を切り裂いた。
  が、一哉は気付いていない。
  更に、
黒龍「ぐっ!!」
  黒龍が呻き、
橘一哉「あっ」
  魔族に引っ掛かった。
  ちょうど顎の下あたりが魔族の脇腹に当たり、引っ掛かっている。
魔族「捉えたぞ、黒龍・・・」
  魔族が黒龍を脇に抱え込む。
橘一哉「離せ!」
  一哉が引っ張るが、子供の力では振りほどけない。
黒龍「ぬ、ううぅ・・・」
  黒龍が、苦しそうに呻く。
魔族「このまま絞め落としてやる!!」
  魔族は更に力を込めていく。
  絞め落とされまいとして力を込める黒龍の力が、一哉にも伝わる。
橘一哉「がんばれ黒龍!!」
黒龍「ぬうううぅぅぅっ・・・っ!!!!」
  黒龍が牙を剥いて唸り始めた。
魔族「なに!?」
  空気が、大地が、激しく揺れ始め、
黒龍「ガアアアァァアアッ!!!!!!!!」
  吠えた。
  天地を揺るがす大咆哮が響き渡り、
  黒い炎が爆ぜ、魔族を包み込んだ。
橘一哉「え!?え!?」
  炎が収まった時、そこに魔族の姿は無かった。
橘一哉「すげえ・・・」
黒龍「我が逆鱗に触れた報いだ」
  黒龍の瞳は怒りと殺意に満ちていた。

〇普通の部屋
黒龍「なあ、カズ」
  魔族を倒した後、一哉と黒龍は元の部屋に戻ってきていた。
  激した黒龍の咆哮は魔族を打ち倒しただけでなく、結界すらも破ってしまった。
  戻ってきた一哉の部屋は、何も壊れていなかった。
  魔族が破った窓も、ひしゃげた窓枠も、散乱したガラスも、全てが元通りになっていた。
  全ては『結界』の中の出来事で、実際の一哉の家には何の影響も無い、と黒龍は語った。
橘一哉「・・・はい」
  部屋の真ん中で一哉は正座し、黒龍と向かい合っている。
  黒龍から『反省会をしたい』と申し入れがあったのだ。
  ここに至って一哉は自分がしたことを振り返り、
橘一哉(ヤバいことしちゃったあ・・・)
  自分の所業の重大さに気が付いたのである。
  結果、一哉は自然と正座して黒龍と向き合っていた。
黒龍「確かに私は、『私を使え』と言った」
橘一哉「・・・はい」
黒龍「だがそれは、『私の力を使え』という意味だ」
橘一哉「・・・はい」
  常識的に考えれば、その通りだ。
  だが、
黒龍「まさか、私自身を使うとは予想外だったよ」
橘一哉「・・・」
  まさか黒龍自身が文字通り振り回されることになろうとは。
黒龍「私の言葉が足りなかったのは認める」
黒龍「緊急事態だったから、焦りもあった」
黒龍「ゆえに、説明不足になってしまったのは私の落ち度だ」
橘一哉「・・・」
  あの時は一哉も無我夢中だった。
  刀よりも長く、魔族に攻撃を届かせるのに一番手頃だったのが、左腕から出ている黒龍だった。
  だから反射的にやってしまった。
黒龍「とはいってもだ、」
橘一哉「・・・」
黒龍「まさか、一切の指示もなく私自身を奴に叩き付けるとは、驚いたよ」
黒龍「出した武器を使うかと思ったら、それすらも介さず、私を直接、文字通り『使う』とはな」
  遠い目をする黒龍。
橘一哉「・・・えと、ごめんなさい?」
  やる前に一声かけるべきだったのだろう。
黒龍「だが、その発想と胆力は見事だ」
橘一哉「!!」
黒龍「ちゃんとした戦い方は、これから少しずつ覚えていけばいいさ」
黒龍「よろしくな」
橘一哉「うん、よろしく!!」

〇街中の道路
橘一哉「て感じだった」
姫野晃大「ええ・・・」
  これは流石にドン引きである。
  まさか、龍自身を振り回して敵に叩き付けるとは。
  発想の飛躍が恐ろしい。
橘一哉「最初に出した武器が刀だったからさ、」
橘一哉「それもあって剣道始めたの」
姫野晃大「そっちの切っ掛けにもなってたのか」
橘一哉「そ」
  一哉は頷く。
橘一哉「剣道と剣術じゃ結構違うけどさ、胆力と咄嗟の判断力を養うのに役立ってる」
姫野晃大「剣術の稽古はしてるのか?」
橘一哉「勿論」
  ここで晃大は結界の以外な活用法を知ることになる。
橘一哉「結界を張って、その中で素振りと打ち込みをね」
姫野晃大「結界で!?」
橘一哉「結界の中は時間が止まってるからね、タイパ最高よ」
姫野晃大「へー・・・」
橘一哉「今度、結界使って合同稽古会でもやってみる?」
姫野晃大「考えときます・・・」

次のエピソード:第弐拾参話 大殺陣

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