第拾八話 初めての〇〇 梶間頼子の場合(脚本)
〇街中の道路
梶間頼子「カズとの出会い?」
飯尾佳明「いや、龍使いになった時の話だよ」
梶間頼子「カズとの出会いがどうでも良いと?」
飯尾佳明「いや、そういう訳じゃなくてな、」
姫野晃大「なあ、テツ」
古橋哲也「何?」
姫野晃大「梶間さんって、橘のこと好きなのか?」
古橋哲也「仲良しではあるけど、どうだろう」
飯尾佳明「それに、 龍使いになった日=カズに出会った日 だろ?」
梶間頼子「まあ、確かに」
姫野晃大「それでさ、話してたんだよ」
姫野晃大「龍使いになった日のこと」
飯尾佳明「思い出す度にうんざりするけどな」
梶間頼子「あれ、そう?」
頼子は意外そうな顔をした。
姫野晃大「梶間さんは違うの?」
梶間頼子「そんなに悪いものでも無かったけどね、あたしは」
〇電器街
梶間頼子「えーっと、どの辺だったかな・・・」
その日、頼子は新しく開店した手芸の店に行く予定だったのだが、
梶間頼子「どうしよ、迷った・・・」
物の見事に道に迷っていた。
梶間頼子「何でこんな場所に開店したんだろ・・・」
周りの店舗はホビー系の店舗ばかり。
各店舗の主張が激しすぎて目眩がする。
〇電器街
梶間頼子「もう夕方じゃん・・・」
頑張って探してみるか、それとも諦めて帰るか、と時計を見てみたら、
梶間頼子「え、うそ」
頼子が着けている腕時計はまだ昼前。
梶間頼子「そんな・・・」
ちょうど近くにあった時計屋のショーケースの中の時計も、昼前。
梶間頼子「どうなってるの・・・?」
空を見上げ、時計を見て回り、頼子は気付いた。
梶間頼子「時間、止まってる」
加えて、
梶間頼子「人がいない・・・!?」
頼子以外の人間がいない。
まるで頼子だけが世界に取り残されたかのようだ。
???「ずいぶんな狼狽え様だな」
梶間頼子「誰!?」
声がした方を見ると、
一人の男が居た。
〇電器街
梶間頼子「あなた、誰?」
魔族「知る必要は無いぞ、紫龍の宿主」
言うが早いか男は頼子に飛びかかる。
梶間頼子「!!」
魔族「ぬうっ!!」
突然雷が走り、男へと伸びた。
男は両腕を交差して防御態勢を取るが、雷の衝撃には耐えられずに後方に飛ばされた。
魔族「ちっ・・・」
男は舌打ちする。
梶間頼子「っ・・・」
頼子の右腕が熱く脈打つ。
梶間頼子(何・・・?)
頼子が自分の右腕を見ると、
梶間頼子「!!」
頼子の右前腕が雷を纏っている。
梶間頼子「何、これ」
???「我が名は紫龍、雷を操る龍なり」
頼子の脳裏に声が響く。
声の主は自分の右腕にいる何かだと、何故か頼子には分かった。
梶間頼子「しりゅう・・・?」
魔族「だが紫龍よ、斯様な小娘が宿主では十全に力を発揮できまい!」
再度男が頼子に飛びかかる。
紫龍「右手をかざせ!」
梶間頼子「・・・うん」
言われるまま、頼子が右手を前にかざすと、
頼子の五指から雷が伸び、
梶間頼子「痛っ」
頼子の右腕全体に痛みが走る。
魔族「ちっ!!」
男は雷が届く前に飛び退き、再び間合を取る。
魔族「守りに徹するか、紫龍」
紫龍「何でも良い、武器をイメージしろ」
梶間頼子「あ、うん」
紫龍「武器を手に持つイメージを強く思い浮かべろ」
梶間頼子「分かった」
紫龍に言われた通り、自分が武器を手にした姿をイメージする。
そのイメージは非常にリアルで、実際に手にしている感覚がして、
梶間頼子「わ、何コレ」
ズシリとした重みを右手に感じたので目をやると、
自分の右手に刀があった。
〇電器街
梶間頼子「・・・すごい」
金色の鍔に金色の縁金。
刀身にも金象嵌の紋様がある。
雷の力を宿しているのが一目瞭然だ。
梶間頼子(・・・これなら、いける)
確信した。
今の自分なら、アイツと戦える。
魔族「得物を手にした程度で粋がるなよ!」
梶間頼子「エイっ!!」
刀を振ると雷が伸び、魔族へと向かっていく。
魔族「ふん!」
梶間頼子「!!」
しかし、雷は男には当たらなかった。
梶間頼子(避けられた!!)
魔族「素人め!」
左斜め前方から男が頼子に飛びかかる。
頼子は刃を返して横薙ぎの体勢を取るが、
緑龍「切っ先を奴に向けろ!」
梶間頼子「分かった!!」
頼子は緑龍の声に従って刀を返し、切っ先を男に向ける。
魔族「!!!!!!」
間一髪。
雷が網のように広がって男の攻撃を止め、下がらせた。
魔族「やはり厄介だな、雷は・・・」
魔族(だが!!)
男も勝機を全く見出だせない訳では無かった。
魔族「どこまでついてこられるかな!!」
男は三度頼子に向かって来た。
頼子は切っ先を男に向けて意識を集中する。
刃から雷の走るイメージが見えたが、
次の瞬間、男は真横に跳んだ。
刀から雷が走るが、そこに標的たる男の姿は無い。
梶間頼子「っ!!」
頼子は素早く切っ先を男へと向け直すが、
男の姿が消えた。
梶間頼子「どこ!?」
魔族「ここだ!!」
梶間頼子「!!」
男の声が斜め後ろから聞こえた。
語気強く大きな声に、頼子の体がビクリと震える。
そして咄嗟に振り向いた頼子の目に入ったのは、
梶間頼子「え」
体躯が肥大化した男の姿だった。
〇電器街
男の体躯は倍程に膨れ上がり、
魔族「死ねぃ!!」
丸太ほどもありそうな腕が唸りを上げ、大きく鋭い爪が頼子に襲い掛かる。
頼子と男の中間に雷球が発生し、爆ぜた。
魔族「うお!!」
男は腕を弾かれ、上体を仰け反らせる。
しかし、
魔族「ぬん!」
耐えた。
踏ん張る足がアスファルトを割って沈み込み、無理矢理上体を戻しつつ、
魔族「せあ!!」
もう片方の腕が頼子を狙う。
梶間頼子「だあっ!!」
これには頼子も反応出来た。
刀を真っ向から振り下ろす。
男の腕は下へと弾かれてアスファルトを抉った。
その隙に頼子は間合を取り、相手をよく見る。
梶間頼子(・・・デカい)
身長、肩幅、手足の長さ。
全てが増している。
ついでに太さも増している。
梶間頼子(どうしろってのさ)
体格では圧倒的に不利。
小回りなら頼子が有利だが、それもどこまで通用するか。
紫龍「案ずるな、私がいる」
梶間頼子「でも、どうやって」
紫龍「私の電撃を叩き込め」
紫龍「魔法の言葉を教えよう」
梶間頼子「!!」
紫龍から直接脳裏に送られた言葉に、頼子は目を丸くした。
紫龍「呼吸に集中し、丹田に力を込めろ」
紫龍「発音は私が補佐してやる」
梶間頼子「分かった」
梶間頼子「・・・・・・」
頼子は深く息を吸い込み、刀を中段に構える。
魔族「雌雄を決するか、よかろう」
男も構えをとる。
共に息を整え、最高の一撃を放てるように集中する。
己の気の高まりを感じ、相手の揺らぎを注視する。
それが見えたと感じた瞬間に、
魔族「おおっ!!」
動いたのは男の方が先。
頼子が見せた僅かな切っ先の揺れを好機と断じて攻めかかった。
梶間頼子「──────────!!!!!!!!」
男の動きに刹那の遅れを見せつつも、頼子は生涯最大音量で叫んだ。
それは正に電光石火。
全てを覆い尽くす光と轟音が耳目を埋め尽くす。
轟音が止んで光が消えた時、
〇電器街
魔族「ぬ、う・・・」
男は未だ立っていた。
全身を焼け焦がされながらも、男は未だ倒れていなかった。
魔族「これが、雷帝の力か・・・」
足にはまだ力がある。
梶間頼子「う、そ、・・・」
頼子の方はと言えば、先程の絶叫で気力を出し尽くしてしまっていた。
刀を持ち、立っているので精一杯だ。
紫龍「未だ倒れずか・・・」
紫龍も驚きを隠せない。
魔族「宿主、せめて貴様だけでも、」
両手の爪を伸ばして男は一歩踏み出したが、
梶間頼子「!!」
黒い霧に全身を包み込まれて消えてしまった。
〇電器街
橘一哉「危なかったね」
男を呑み込んだ黒い霧の向こう側から姿を現したのは、一人の少年。
橘一哉「それとも、余計な手出しだったかな?」
梶間頼子「あなた、誰?」
橘一哉「俺は橘一哉」
橘一哉と名乗った少年は左の袖を捲り、
橘一哉「黒龍使いさ」
左前腕を見せた。
梶間頼子「黒龍使い?」
彼の左前腕には、黒い龍が巻き付いているような痣があった。
紫龍「ほう、お前が黒龍の宿主か」
紫龍が頼子の右腕から顔を出した。
梶間頼子「うわキモ」
紫龍「( ゚д゚)!!!!!! (※紫龍の画像がないため顔文字で表情を表現致しましたby作者)」
橘一哉「うわストレート」
紫龍「orz (※紫龍の画像を用意できなかったため、AAにて様子を表現しておりますby作者)」
紫龍があからさまにしょげている。
橘一哉「言い過ぎではねえですか?」
あまりにもひどすぎて一哉も些か引いた。
口調も乱れている。
梶間頼子「あ、ゴメン」
紫龍「いや、いい、気にするな」
梶間頼子「それで?黒龍使いの貴方が何の用?」
気を取り直して頼子が問い掛けると、
橘一哉「腕試しをしたい」
梶間頼子「腕試し?」
橘一哉「そ、腕試し」
いつの間に腰の鞘に納めたのか、刀の柄を一哉は軽く叩く。
橘一哉「紫龍の宿主になった君の力を試したい」
紫龍「だが、彼女は先程の戦いで精根尽き果てている」
紫龍「これ以上の戦いは無理だ」
橘一哉「それはさっき見た」
だからこそ、あの敵に彼が止めを刺したのだろう。
頼子がやられる前に。
紫龍「ならば」
橘一哉「その先が見たい」
紫龍「その先、だと?」
紫龍が怪訝な顔をする。
橘一哉「なに、紫龍が少しばかり彼女、」
そこまで言って一哉は紫龍から頼子へと目線を移す。
梶間頼子「頼子」
察した頼子は名を名乗った。
梶間頼子「梶間頼子だよ、橘くん」
橘一哉「じゃあ、頼ちゃんか」
橘一哉「俺のことはカズでいいよ」
梶間頼子「・・・」
可愛い笑顔だな、と頼子は思った。
こんな無邪気な笑顔をする少年が、手負いとはいえ敵を一刀で斬り伏せたのだ。
梶間頼子(人は見かけによらないよね)
目の前の少年が心強くも恐ろしい。
橘一哉「紫龍が頼ちゃんに少し力を貸せば、一合くらいはやれるでしょ」
紫龍「可能ではあるが、どうする?」
紫龍の問いかけに、
梶間頼子「分かった、やる」
頼子は首を縦に振った。
〇電器街
橘一哉「よし、じゃあやろうか」
紫龍「頼子、深呼吸をしろ」
紫龍に促され、頼子は深呼吸を始めた。
紫龍から頼子の脳裏にイメージが直接送り込まれる。
足の裏から背骨を伝い、頭頂から体の前を通して下腹部の丹田へ。
そのイメージと呼吸を重ねて、何度も繰り返す。
橘一哉(お〜・・・)
気の流れが一哉にも感じられる。
頼子の身体に気が満ちていく。
梶間頼子「・・・ふう」
一際大きく息を吐き、頼子は目を開いた。
先程よりも身体が軽くなっている。
梶間頼子「で、どうすればいいの?」
橘一哉「お互いに一撃を出す、それだけ」
梶間頼子「・・・分かった」
頼子は刀を握る手に力を込める。
対する一哉は腰を落とし、刀は鞘に納めたまま。
梶間頼子「抜かないの?」
橘一哉「もう戦いは始まってるよ」
沈黙が流れる。
梶間頼子(居合かな・・・)
時代劇で時々みる、抜き打ちに斬りつける技。
それをやるのだろう。
頼子がやる事は決まっている。
先ほどと同じ、雷を放つ。
それだけだ。
「・・・」
互いにタイミングを見計らう。
梶間頼子(たぶん、大丈夫だよね)
これは単なる腕試し。
今までの言動から察するに、一哉は戦い慣れている。
出来るか分からない力の加減をするよりも、むしろ思い切りやった方が安全だ。
なぜか、一哉を見ているとそう思える。
少しずつ緊張感が高まっていき、
「──────────!!!!!!!!!!」
互いの発声は、頼子の刀から発せられた雷の轟音にかき消された。
放たれた雷は抜き放たれた一哉の刀へと伸びていき、
抜き打たれた一哉の刀から発した黒い霧とぶつかり合い、
弾けて消えた。
橘一哉「お、っと」
よろめきながら数歩後ずさる一哉。
梶間頼子「大丈夫?」
心配した頼子が声を掛けると、
橘一哉「うん、大丈夫」
一哉は慣れた動きで血振りをし、刀を鞘に納める。
橘一哉「大丈夫そうじゃん」
一哉はニッ、と笑い、
橘一哉「それじゃ、またね」
踵を返して数歩歩き、
姿を消した。
〇街中の道路
梶間頼子「そんなんだったよ、カズと初めて会ったのは」
姫野晃大「・・・」
飯尾佳明「ん?どうした、姫野?」
姫野晃大「納得いかねぇ」
飯尾佳明「何が?」
姫野晃大「あいつ、やっぱり全部見てるだろ」
姫野晃大「でなきゃ、そんなに都合良く出てこられる訳ないって」
飯尾佳明「そりゃそうだ」
梶間頼子「つまり、あたしが一人で倒せるかどうか見てた、ってこと?」
姫野晃大「絶対そうだよ」
飯尾佳明「つうか、魔族って変身するのかよ」
梶間頼子「あたしの時は変身したよ?」
梶間頼子「それに、今まで戦った中にもいたじゃん」
飯尾佳明「あー、確かにそうだわ」
記憶を辿れば、確かに頼子の言う通りだった。
姿を変える魔族は、何度か相手にしたことがある。
古橋哲也「もしかして、僕や飯尾くんは舐めプされたのかな」
飯尾佳明「・・・可能性はあるな」
龍の宿主といえど未熟と見て舐めてかかったか。
あるいは、運良く相手が全力を出す前に倒せたかのどちらかだろう。
???「あ、頼ちゃんだ!」
少し離れた所から頼子を呼ぶ声。
皆が振り向くと、
辰宮玲奈「何々?みんなも待ち合わせ?」
玲奈がこちらに駆け寄ってきた。