龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第拾七話 初めての〇〇 飯尾佳明の場合(脚本)

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〇街中の道路
飯尾佳明「なんで今更・・・」
  佳明はうんざりした様子だが、
姫野晃大「なあ、いいだろ?」
古橋哲也「お互いの事を知らないのは不公平、確かにその通りだと思わない?」
飯尾佳明「テツまで乗るなよ・・・」
  晃大に便乗して哲也まで。
飯尾佳明「そんな昔の話を掘り返してどうする気なんだ」
姫野晃大「別に?」
古橋哲也「飯尾くんはどうだったのかな、って」
飯尾佳明「しょうがねえな・・・」
  ハア、と溜め息をつき、佳明は話し始めた。
飯尾佳明「ありゃあ忘れもしない、二年前だ・・・」

〇本屋
  その日、佳明は趣味の本屋巡りの途中だった。
飯尾佳明「さーて、と・・・」
  佳明は人並み外れた知識欲の持ち主だ。
  小学生の頃から専門書に興味を示し、色々な本を読んできた。
  買って貰ったり、譲ってもらったり、立ち読みをしたり。
  今日はどの本を暗記しようか、と店内を物色していたら、

〇本屋
飯尾佳明「お、おお?」
  店内が真っ暗になった。
飯尾佳明(停電か?)
  店内を見回す佳明だったが、
飯尾佳明(・・・いや、違う)
  すぐに違和感に気付いた。
飯尾佳明(他の人間はどこいった?)
  佳明以外の人間がいなくなっている。
  物音一つしない。
  外の様子も同じ。
  人通りも、車の通りも無い。
  佳明一人だけが、この空間に取り残されている。
飯尾佳明(なんなんだ、一体)
  分からない。
  分からない。
飯尾佳明(異世界、ってやつか・・・?)
  都市伝説で囁かれている『時空の狭間』とか『異世界』というやつだろうか。
  知識とはやはり偉大である。
  まだ中学生の佳明だが、様々な話を知っているお陰で狼狽えずに済んでいる。
飯尾佳明(俺がすべきは、)
  まずは安全の確保だが、
飯尾佳明「っ!!」
  右腕に熱が走った。
飯尾佳明「何だ・・・?」
  腕を見てみるが、暗いためによく分からない。
飯尾佳明「そうだ、スマホで」
  照明代わりに使えそうな物があった。
飯尾佳明「どうなってんだ、」
  スマホをかざした瞬間、
飯尾佳明「んな!?」
  スマホが弾き飛ばされた。
飯尾佳明(狙われてる、のか・・・?)
  だとしたら、無闇に動くのも危険だ。
  ゆっくりとしゃがみ込み、棚の陰に身を隠す。
飯尾佳明「どうしろってんだ・・・」
  佳明が呟くと、
???「そのままにしていろ」
飯尾佳明「!!」
  声が聞こえた。
魔族「苦しまぬように仕留めてやる」
飯尾佳明(嘘だろ・・・)
  既に相手は真後ろにいた。
飯尾佳明(もうダメか・・・)
  佳明には格闘技の経験は無い。
  絶体絶命の窮地を脱する技術は持ち合わせていない。
  何よりも恐怖で体が動かない。
  後ろの男の殺気をこれでもかと言わんばかりに感じる。
魔族「龍の宿主となったのが運の尽きだ」
  男の殺気が一段と膨れ上がった瞬間、
飯尾佳明「!!」
  佳明の右手が熱を帯び、
魔族「ぐっ!」
  男のうめき声と、数歩後ずさる足音が聞こえた。
  何が起きたのか、おそるおそる振り向こうとしたら、
???「走れ!」
飯尾佳明「!!」
  佳明の脳裏に声が響き、声に従って佳明は走った。
  壁際まで駆け寄り、佳明が振り向くと、
魔族「おのれ、緑龍・・・」
  壮年の男が右手を押さえて此方を睨んでいた。
飯尾佳明「リョクリュウ・・・?」
  何のことだろう。
魔族「目覚めたか・・・」
飯尾佳明(目覚めた?)
  さっぱり分からない。
  だが、
飯尾佳明(どうすりゃいいんだ・・・)
  今のこの危機的状況を、如何にして脱すれば良いのか。
飯尾佳明(そもそも、どうにかなるのか・・・?)
  一旦逃げることができても、その先が見えない。
???「私の力を使え」
  また脳裏に声が響く。
飯尾佳明「だれだ!?」
  思わず佳明が声を上げると、
飯尾佳明「っ!!」
  右腕が脈動して熱を帯びる。
???「我が名は緑龍、金属を操る」
飯尾佳明「!!」
  三度佳明の脳裏に声が響き、右腕に龍の痣が浮かび上がる。
緑龍「何でも良い、武器を思い浮かべろ」
飯尾佳明「よし!!」
  使えそうなものなら何でも構わない。
  佳明が真っ先に思い浮かべたのは、
飯尾佳明「緑龍、これで良いよな!?」
緑龍「上出来だ、我が属性にも充分見合っている」
  満足げな声の緑龍。
  佳明の手には、一振りの刀。
  柄を巻く柄巻糸は濃緑色で、鍔も刀身もやや厚めなのは佳明が強度を意識したからだろう。

〇本屋
魔族「ほう、武器を出したか」
飯尾佳明「当たり前だ、簡単にやられてたまるか!!」
  啖呵を切る佳明。
  龍の存在と武器を手にしたおかげか、幾分か恐怖もやわらいでいる。
飯尾佳明「いくぞ!」
  早速斬りかかろうとする佳明だったが、
飯尾佳明「あっ!!」
  出ていたワゴンに刀が引っかかってしまった。
魔族「素人め、迂闊だな!!」
  狭い所で振り回せば、何かに引っかかるのは必定。
  恐怖が消えたは良いが、注意力が散漫になってしまったようだ。
飯尾佳明「くそっ!!」
  慌てて刀を外そうとしたが、焦りが勝ってうまく外せない。
  魔族の一撃が間近まで迫った、その瞬間、
魔族「ぬぐあっ!!」
飯尾佳明「!!!!」
  ワゴンが変形して無数の棘が魔族に突き刺さった。
魔族「ぐ、う・・・っ!!」
緑龍「我は緑龍、金属を操る龍なり」
  緑龍の声が店内に響き渡る。
飯尾佳明「そうか、それなら!」
  何かを悟った佳明は、身動きの取れない魔族を尻目に落ち着いて刀を外し、
飯尾佳明「緑龍!!」
  自らに宿る神獣の名を叫ぶと本棚に刀を叩き付けた。
魔族「!!!!!!!!」
  この店の本棚は、総て金属製だった。
  佳明の間近にある本棚も例外ではなく。
魔族「ぬおおあああっっっ!!!!!!!!!!」
  本棚が変形し、陳列されている大小様々な本を魔族に叩き付けていき、
魔族「ぐぶっ!!!!」
  幾つもの棘と化して魔族を滅多刺しにした。
魔族「あ・・・」
  魔族の瞳から光が消えて全身の力が抜けてダラリと手足を垂らし、
  光の粒子となって消滅した。
飯尾佳明「や、やった・・・」
緑龍「よくやってくれた」
飯尾佳明「これで、終わりだよな」
緑龍「いや、そうでもないようだ」
飯尾佳明「はぁ!?」
緑龍「まだ、この結界を使っている者がいる」

〇本屋
飯尾佳明「まだ、敵がいるのか?」
緑龍「敵かは分からんが、何者かがいる」
飯尾佳明「分からないのかよ・・・」
緑龍「巧みに気配を隠しているからな」
飯尾佳明「そうか・・・」
  佳明は本棚に刀を付けたままで周囲を見渡す。
  相変わらず暗い。
???「お手並み拝見、よろしいか?」
飯尾佳明「!!」
  出入り口の方から声がした。
飯尾佳明「誰だ!!」
  声のした方を見ると、
橘一哉「こんちわ〜」
  一人の少年がいた。
飯尾佳明「どっから入ってきた!!」
  佳明が問うと、
橘一哉「ここから」
  少年はコンコンと扉を叩く。
飯尾佳明「そうじゃなくて、」
緑龍「少年、君が結界を張り直したのか?」
  佳明の言葉を緑龍が継いで問いかけると、
橘一哉「そうだよ、緑龍」
  少年は肯定した。
緑龍「ほう、私を知るか」
  少年の言葉に緑龍の語気が鋭くなる。
橘一哉「俺は黒龍使いの橘一哉」
  そう言って少年・橘一哉は帯に差した日本刀を左手でやや持ち上げた。
緑龍「その割には、黒龍の気配があまり感じられないがな」
橘一哉「警戒心強いなあ」
  笑いながら一哉は佳明に歩み寄り、
橘一哉「なら、これで信じるかい?」
飯尾佳明「!!」
  一哉の姿が佳明の視界から消えた。
緑龍「下だ!!」
  暗いからよく見えないが、黒い塊が視認できた。
飯尾佳明「緑龍!!」
  本棚に刀を押し付ける力を強める。
  本棚が変じた棘が黒い影に向かっていく。
  何かが閃くのが見え、金属音が響き渡る。
橘一哉「あっぶねぇ・・・」
橘一哉「避けずに迎撃とか、容赦ねえなぁ」
  言いながらも一哉の顔は笑っている。
  まだ余裕がありそうだ。
飯尾佳明「マジかよ・・・」
  緑龍の力によって作り出された棘を、一哉は切り飛ばしていた。
緑龍「・・・ふむ」
  今の一撃で、緑龍も何かを悟ったらしい。
緑龍「今の一閃、確かに黒龍の力のようだ」
飯尾佳明「あれで分かったのか?」
緑龍「黒龍の属性は『闇』、その特性は『遮断』」
緑龍「刃筋が些かぶれていたが、黒龍の属性を用いて無理矢理分子の結合を解いたな」
橘一哉「すげえ、そこまで分かるの?」
緑龍「同胞が力を使えば分かるさ」
緑龍「黒龍の、お前も私の力を察知したからやって来たのだろう?」
橘一哉「その通り」
緑龍「それで?どうするのだ?」
  緑龍の問いかけに、
橘一哉「本番といこうか」
飯尾佳明「まだやるのかよ」
  一哉の口ぶりだと、先程の一撃は小手調べのようだ。
緑龍「この際だ、私の力に軽く慣らしておけ」
飯尾佳明「ええ・・・」

〇本屋
飯尾佳明「まあ、いいけどよ」
  多分、さっきの感覚で力を使えばよいのだろうが、
飯尾佳明「おまえ、絶対玄人だろ」
橘一哉「慣れてはいるよ」
  答えて構える一哉の身の熟しは、素人のそれではない。
  無駄な力みがなく、動きも滑らか。
  場数を踏んで手慣れている者のそれだ。
飯尾佳明(やるだけやってみるか)
  環境を確認する。
  緑龍は金属を操るという。
  手近な金属製品の位置を確かめておく。
飯尾佳明(多分、)
  佳明が緑龍の力で出した武器は、武器以外にも龍の力を使う際に宿主の負荷を軽減する効果がある。
  武器を経由した方が、力は使いやすいはずだ。
飯尾佳明(・・・あれ?)
  そこで佳明は気が付いた。
飯尾佳明「明るくなってる・・・」
橘一哉「結界の張り直し、完了したよ」
緑龍「親切なことだ」
橘一哉「仲間同士の腕試しだからね」
橘一哉「やりやすい方がいいでしょ」
飯尾佳明「そうだな」
  今回は力の使い方に慣れるのが目的だ。
  暗闇などという悪条件を設定する必要はない。
橘一哉「いくぜ!!」
飯尾佳明「!!」
  速い。
  こちらが力を使う暇も無い。
  刀で何とか受け止める。
飯尾佳明(意外に力があるなコイツ!!)
  やはり慣れているからか、痩せ気味の体つきの割には力が強い。
飯尾佳明「くそっ!!」
  思い切り力を込めて押し返す。
橘一哉「やるじゃん」
飯尾佳明「どこがだよ」
  受け止めるので精一杯だった。
  鍔迫り合いの時に一哉が何か仕掛けてきたら、ひとたまりもなかった。
橘一哉「もう一回、いくぜ」
  一哉は右腕を真上に真っ直ぐ伸ばして柄をピタリと右前腕に着け、柄頭を左手で握った。
飯尾佳明「え、お前、」
  佳明は驚いた。
  シンプルで特徴的、そして歴史の勝者の側にあったが故に、様々な媒体で取り上げられ、よく知られている流派。
飯尾佳明「それって、」
  佳明が言い切る前に、
橘一哉「チェアアァアアッ!!」
飯尾佳明「ウソだろオイ!!」
  見ると聞くでは大違い。
  裂帛の気合を上げて迫りくるその姿たるや、いざ対峙すると肝が縮み上がり身体が竦んでしまう。
緑龍「下がれ!!!!」
  緑龍の声に反射的に後ろに飛び退く佳明。
  鼻先一寸を一哉の振り下ろした刃が通り過ぎていく。
  更に、佳明の意志とは無関係に右腕が動き、本棚に刀が触れる。
  本棚が形を変えて一哉と佳明の間に障害物を作り出すが、
橘一哉「チェエエィ!!」
飯尾佳明「マジか!!」
  更に繰り返し斬撃を繰り出す一哉。
  障害物は切り刻まれて床に散乱し、
橘一哉「疲れた!」
  その手前で歩を止めた一哉の一声がそれだった。
飯尾佳明「えぇ・・・」
橘一哉「すげえや!」
橘一哉「あんなに沢山出すなんて驚きだ!!」
橘一哉「えっと、」
飯尾佳明「あ、」
  そこで初めて佳明は気付いた。
  名前を名乗っていない。
飯尾佳明「佳明、飯尾佳明だ」
橘一哉「じゃあ、よっくんだね」
飯尾佳明「初対面でソレかよ」
橘一哉「いいじゃんいいじゃん、いちゃりばちょーでー、って言葉もあるし」
飯尾佳明「いちゃ・・・?」
  急に知らない言葉が出てきた。
橘一哉「それじゃ、」
  しかし一哉は気にすることもなく刀を納め、
橘一哉「俺はこれで」
  踵を返して数歩歩いたと思ったら消えてしまった。
飯尾佳明「消えた・・・?」
緑龍「縮地を使ったな」
飯尾佳明「縮地?」
緑龍「地脈を利用した瞬間移動だ」
飯尾佳明「へえ・・・」

〇街中の道路
飯尾佳明「・・・とまあ、そんな感じだったよ」
  はぁ、と溜め息をつく佳明。
姫野晃大「・・・ふーん」
飯尾佳明「なんだよ、姫野」
古橋哲也「何かさ、僕らの時より礼儀正しくない?」
姫野晃大「そうだな」
  哲也の言葉に頷く晃大。
飯尾佳明「どこがだよ」
飯尾佳明「いきなり出てきて『戦え』だぞ?」
姫野晃大「でもさ、奇襲されてないじゃん」
古橋哲也「挨拶して、名乗ってからだし」
飯尾佳明「まあ、言われてみれば確かに」
  この二人は奇襲されたと聞いている。
  いや、奇襲した一哉本人から後に聞かされた。
  と、そこへ、
???「三人揃って何話してるの?」
  話の輪の外から可愛い声。
  可愛いには可愛いが、抑揚に乏しい。
飯尾佳明「ん?」
  よく聞き慣れた声に佳明が振り向くと、
梶間頼子「やっほ」
  頼子がいた。

次のエピソード:第拾八話 初めての〇〇 梶間頼子の場合

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