読切(脚本)
〇美しい草原
昔の話だ。
まだSNSが携帯端末を持つ全ての人間に開放されていた時代
私「・・・・・・」
彼女「・・・・・・」
当時中学生だった私は、一人の腐女子と出会った。もちろんSNS上での話だ。
彼女は20年前のアニメのBL二次創作を書いていた。
それだけではない、なんとリアタイ時から・・・つまる所20年間も同じカップリングを推しているのだ。
俺にはその心境が理解できなかった。
失礼な話ではあるが、その作品の世間からの評価お世辞にも良作とは言えず、
20年過ぎた今でも駄作の代表として挙げられる。
私「・・・怖くないんですか?」
彼女「何故?」
私「何故って・・・」
彼女「ふふ、不思議に思うのは分かるわ」
彼女「ネットを出歩けばこのアニメの悪口を言っている人ばかりで、冬と夏になれば私にそれを浴びせる人も出てくる」
彼女「・・・でもね」
彼女「どんな駄作にだってファンはいるの」
彼女「そして貶め愛じゃなくて、素直にいいなって言いたい。そんな人も少なくない」
彼女「そんな人達が・・・私のような人が安心できる場所を少しでも作りたい。 そんな所かしらね」
彼女「・・・もっとも、薔薇を描いてるような人がそんな事言ってもだけれどね」
私「・・・・・・」
それから、法律が改正され未成年だった俺はそのSNSから強制的に弾き出された。
その人と会う事は二度となかった。
その二次創作を続けているのか?
やめてしまったのか?
話を聞く限りでは高齢の方だったらしいので、もしかすると、もう・・・
〇繁華街の大通り
あれから時間が過ぎた。
俺は歳を取った。
いわゆるオッサンになった。
けれどもオタクであり続けた。ペンもツールも手放さず、あの日のように創作を続けている。
ただ当時と違うのは、二次創作ではなくオリジナルを描いているという事。
しかし内容は中高時代に楽しんだライトノベルの二番三番四番煎じ。
散々叩かれ消えていって、今や皮肉や風刺を込めたパロディの題材にしかならないハーレムラブコメ。
それでも・・・だとしても。
アンチ「令和にもなってこんなもん書いてるのか? いい加減自分らがキモがられてオワコンになったって気づけよ!」
私「・・・・・・」
〇美しい草原
〇繁華街の大通り
私「令和だからだよ」
アンチ「なに?」
私「俺みたいな奴が帰る場所を残しとかないと可哀想だろ」
私「どんなキモいモンにだってファンはいるもんだ」
〇黒背景
誰がために筆を取る?