九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

第14回『予期せぬ二色の一計』(脚本)

九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

今すぐ読む

九つの鍵 Version2.0
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇貴族の部屋
フリートウェイ「・・・」
  倒れたフリートウェイは、ナタクによって部屋に運ばれていた。
フリートウェイ(倒れて気絶した、のか)
  ベッド近くのテーブルに、メモ用紙と出来立てのお粥が置いてあった。
フリートウェイ「さっきまで、誰かがいたんだな」
  ほとんど味のしない薄いお粥を食べながら、メモ用紙に目を通す。
  『無理するな、大人しくした方がいい』
  一行しか書かれていないのと見たことのない筆跡だったため、フリートウェイは自分を介抱した相手のことは分からなかった。
  ──だが
フリートウェイ「ちゃんと恩返しはしないとなぁ・・・ 誰がオレを助けてくれたんだろう?」

〇城の廊下
ナタク「・・・レクトロ」
  倒れたフリートウェイを介抱したナタクは、レクトロを見つけると後ろから腕をぐっと強く掴んだ。
レクトロ「え!?えっ!!?」
レクトロ「何でナタ君がいるの!!?」
  第14回『予期せぬ二色の一計』
  振り返ったレクトロは、ナタクを見て驚愕の表情をする。
  彼にとって、ナタクが来ることは完全に想定外だったのだ。
レクトロ「どうしたの急に・・・ 遊佐一族はロアを支配しないはずだよ!?」
ナタク「支配などしない。 遊佐殿の命令だ」
  『遊佐殿』──『崙崋(ロンカ)』の一人、遊佐景綱の名を出されると、レクトロも強く出れないようだ。
レクトロ「あー・・・・・・ なるほど、ね・・・景綱君か」
レクトロ「僕とシリンが何かやらかしちゃったかと思ったよ・・・!」
ナタク「・・・心当たりがあるのか?」
レクトロ「あってたまるかい!!!」
  まだロアの王へ危害を加えた可能性があることを言わないことにしたレクトロは全力で白を切る。
ナタク「・・・本当か?」
  レクトロの勢いがあまりにもありすぎたせいか、ナタクは信用していない。
レクトロ「本当だよ! マジで大したことしてないの!」
ナタク「・・・ならいいが」
  とりあえずレクトロを信じることにしたナタクは自分が突然来た理由を漸く話す。
ナタク「俺は今から”チルクラシア・ドール”の元へ向かうつもりだ。 彼女に用事があってな」
レクトロ「・・・チルクラシアちゃんに用事?」
レクトロ「会いに行くのはいいけど・・・・・・ 何するのさ?」
  ナタクがチルクラシアに会いに行く理由が分からないレクトロは、疑問を彼にぶつける。
ナタク「レクトロは・・・すぐに”フリートウェイ”の回復をした方がいいだろう」
  だが、話題を逸らされてしまった。
  それでも気にしないのがレクトロという男である。
ナタク「不安の材料は減らしておくべきだ。 ・・・この意味、分かっているな?」
レクトロ「言われなくても分かっているつもりだよ!」
  レクトロは笑顔を見せる。
レクトロ「チルクラシアちゃんは強いからね・・・ 僕なんかよりも、ずっと!」
ナタク「はっ!それはちょっと買い被りすぎだ」
ナタク「あの子は誰よりも繊細なのだよ」
  ナタクはレクトロに背を向ける。
ナタク「・・・チルクラシアを治そうとしてくれてありがとう」
レクトロ「・・・・・・は?」
  ナタクから思わぬ変化球を食らったレクトロは
レクトロ「こういう時にデレないでって何回言えば、分かってくれるのさ!!!」
  廊下のど真ん中で一人大声を出す。
  ・・・誰も近くにいないことだけが救いだろうか。

〇宮殿の部屋
  ──フリートウェイが寝ている間、チルクラシアはどうするかというと
チルクラシアドール「お兄ちゃん、ナタク兄ちゃんだ」
ナタク「兄か・・・慕ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと違うねぇ」
  白衣に着替えたナタクが彼女に対応していた。
ナタク「今日は顔を見に来たんだ。 後、遊佐殿の為に写真を撮りに」
チルクラシアドール「・・・写真?」
  ナタクがカメラを構えたのを見たチルクラシアは布団から出てベッドの上に正座する。
チルクラシアドール「フラッシュは嫌だなぁ・・・」
ナタク「大丈夫だ、フラッシュは使わないから」
チルクラシアドール「本当?」
  人をあまり信用しないチルクラシアは、フラッシュが大嫌いであり、些細なことにも反応してしまう。
  だが、ナタクはそれを『誰よりも』理解していた。
ナタク「大丈夫さ。君が眩しいものが嫌いなのは知っているから」
  チルクラシアに信じてもらえるように、ナタクは部屋のテーブルを撮影する。
  ナタクがカメラのシャッターを押す瞬間、一筋の光りも無かったことを確かに見たチルクラシアは、彼を信じることにした。
チルクラシアドール「眩しく無さそう・・・かも」
ナタク「信じてくれたようで何よりだよ」
ナタク「一枚だけ撮る。 ちょっとだけ、動かないでくれよ・・・」
チルクラシアドール「撮れた?撮れた?」
  写真を確認するために、チルクラシアはナタクの隣にピッタリ身体をくっつけた。
ナタク「ちゃんと撮れているよ。 君はこれを食べてて」
  チルクラシアは、ナタクから渡されたおにぎりにすぐ食いついた。
ナタク「空腹だったのかい?」
チルクラシアドール「お腹空いてた」
  小さな口を開け、おにぎりを頬張る姿は食事中のハムスターのようだ。
  だが、そのおにぎりの中は何故かピンク色と水色だ。
  チルクラシアがおにぎりに夢中になっているうちに、ナタクは先ほど撮った写真を確認する。
  写真の中のチルクラシアはどこを見ているか分からなかったが、それ以外は特に異常は見られない。
ナタク(よかった・・・)
  それに安心しながら、チルクラシアがおにぎりを少しずつ食べる姿を、ナタクは微笑みを浮かべて見守った。
チルクラシアドール「ねぇ、ナタク兄ちゃん」
チルクラシアドール「今日は『優しさ』と『安定』なんだね」
  チルクラシアはおにぎりの中のピンク色と水色を見つめながら言った。
ナタク「そうだ。 これは感情──君にとって大切なものだ」
  ナタクは、感情を宝石にしたものをおにぎりの中へ混入していた。
  だが、この宝石が見えるのは『特殊能力』──『普通』とはかけ離れた存在だけである。
チルクラシアドール「ピンク色のは『甘い』から好きだなぁ」
  チルクラシアは、色々な色の『宝石』を食べてきた。
  『怒り』を表す『朱色』や『悲しみ』を表す『青色』・・・・・・
  だが、『赤色』と『黒色』の宝石だけは食べたことがなかった。
チルクラシアドール「ごちそうさま、でした!」
  おにぎりを食べたチルクラシアの瞳には、少しの光が入っている。
チルクラシアドール「・・・まだ、無いの?」
  おかわりを要求するも
ナタク「一度に食べられる宝石は2つまで。 これ以上は絶対勧めないし、そもそも禁止されている」
チルクラシアドール「えぇ~・・・」
  あっさり止められてしまった。
チルクラシアドール「分かった!明日、食べるの楽しみにしてる!」
  まだ見れぬ明日の楽しみが一個増えるから、とチルクラシアは笑顔を浮かべた。
ナタク「いい子だ。 ちゃんと明日も作るからな」
  ナタクは笑顔を浮かべるチルクラシアの頭を撫でる。
  次のおにぎりの『中身』が決まったような気がした。

〇宮殿の部屋
チルクラシアドール「ZZZ......」
  ナタクと一緒にいることで精神や体調が安定してきたのか、彼女は『夜』になってすぐに寝ていた。
  『人』の身体だったチルクラシアは、
  ナタクの目の前で人形の姿に逆戻りした。
  人形の左目からはブロットが涙のように一筋だけ出ている。
ナタク「本当によく寝るな・・・ ブロットが溜まりすぎているからか?」
ナタク(そういう体質──『先天性』のものだったと言っても、彼女は信じてはくれないだろう・・・・・・)
ナタク「・・・・・・・・・」
  人形の左目から出ているブロットの涙を指で拭う。
  ・・・静電気に似た痛みを感じた。
ナタク(俺と遊佐殿のせいだ・・・)
  ナタクは知っている。
  チルクラシアが”ドール”になる前のことを。
  だが、それを言うには相応の覚悟と受容が必要ですぐに言えるものでもない。
ナタク(”フリートウェイ”なら・・・あの男に期待するのも一興だろうか)
ナタク「・・・・・・・・・」

〇城壁
  会議前、シリンは夜空を見つめていた。
「・・・シリン」
  チルクラシアを寝かしつけ、袴に着替えたナタクがシリンの隣に来る。
シリン・スィ「あら、ナタク」
シリン・スィ「わざわざ遊佐邸から来てくれたの?」
ナタク「俺は命令に従っているに過ぎないよ」
シリン・スィ「そうかしら?」
シリン・スィ「貴方には『別の目的』があるような気がしてならないんだけど」
  シリンは、生まれつき勘が良かった。
  本人は意識していないのだが、相手の図星を突いてしまうことがある。
ナタク「・・・・・・・・・」
  図星を突かれたナタクは、動じることなく
ナタク「そうだな。 俺には遊佐殿の代わりにチルクラシアを支え、守る義務があるんだ」
  ──言い切った。
シリン・スィ「・・・チルクラシア・ドールを?」
シリン・スィ「私では不足があるということかしら?」
ナタク「いや?君の仕事と立場はちゃんとあるはずだ」
ナタク「常人が踏み込めない領域まで入ってこれるのは俺と遊佐一族だけ」
ナタク「ただそれだけのことだ。 思い詰めなくていい」
シリン・スィ「・・・・・・」
シリン・スィ「分かったわ」
  シリンは自分が踏み込んでは決していけない領域の近くに来ていることを察する。
  これはナタクからの『遠回しの警告(と忠告)』であると認識した。
シリン・スィ「レクトロにも私から伝えておくわよ?」
ナタク「それは多分、遊佐殿が直々に言うだろうから大丈夫だろう」

〇城壁
  ──数分、二人は互いに起きた出来事を話し盛り上がっていた。
ナタク「・・・失礼」
ナタク「・・・もしもし」
  『ナタクか?遊佐景綱だ』
  電話の相手は遊佐景綱──
  ナタクの主君にしてシリンが『殿』と呼ぶ人物だ。
  そしてレクトロと同じく『崙崋(ロンカ)』の一人である。
  『生体反応が急に増えたな。
  フリートウェイが動き始めたからか?』
ナタク「”フリートウェイ”は過労で寝ている。 レクトロの集中治療でも受けているのでは無いか?」
  『そうか・・・フリートウェイはこちらの想定通りに動いているようだな』
  『・・・で、お前の隣の人間は誰だ?
  スィ家の娘か?』
  景綱はナタクの隣にいるシリンの存在を、電話越しから視ていた。
ナタク「レクトロの従者、シリン・スィ。 名前通り、スィ家の人間だ」
  ナタクは電話の相手をシリンに変えるために、携帯を彼女に渡す。
シリン・スィ「こ、こんばんは・・・」
  『初めまして、スィ家の乙女』
  『私は遊佐家第12代当主、遊佐景綱だ』
  景綱の声は、シリンが怖じけつけないようにと少し優しくなっていた。
  『レクトロのこと、よろしく頼む。
  あいつの顔はうるさいが良い奴だから』
シリン・スィ「『顔がうるさい』・・・って・・・あはは」
  シリンは苦笑いする。
  レクトロの感情表現はオーバー過ぎるほどに豊かだ。
  『顔がうるさい』という表現はある意味的確だった。
シリン・スィ「ここが良いところだと思うんですけど・・・」
  『そうだな』
  『あいつの笑顔に何度救われたことか、私は分からん』
  電話からの景綱の声は、明らかに機嫌良さそうだ。
  『いつか会える時にまた話そうか』
  『お前さんしか知らないレクトロを、私にも教えてくれ』
シリン・スィ「はい」
  『決まりだな。ナタクに変わってくれ』
  シリンはナタクに携帯を返した。
  『スィ家の乙女はなかなか面白そうだったな』
  『彼女を異形との戦いに巻き込むな。
  決して死なすなよ』
ナタク「了解」
シリン・スィ「貴方の主人、すっごく優しそうね。 会えるのが楽しみよ!」
シリン・スィ「レクトロがビビっている男だもん、興味深いわ」
ナタク「・・・遊佐殿からのプレッシャーは強烈だからな。 逆らう気力すら無くなってしまうほどに」
ナタク「だから、シリンも遊佐殿を怒らせない方がいい。 圧で死人が出るほど恐ろしいぞ」
シリン・スィ「あら?レクトロの話を聞く限りだと そんなにおっかない男とは思えないのだけど」
  レクトロとシリンが見る『殿』と
  ナタクが知っている『遊佐景綱』が思っているよりも違う。
  返答に困ったナタクは一言だけ。
ナタク「・・・遊佐一族は君が思っているよりも闇が深いぞ」

〇屋敷の大広間
  その遊佐景綱は、大量の仕事とシリンとの僅かな会話を終え、ナタクから送られてきた書類を無言で見つめていた。
遊佐景綱「ナタクはよくやってくれる・・・ 我が従者に相応しい男だ」
  従者が提出する書類の出来がとても良いのと、ナタクが自分の命令通りに動いてくれることで仕事が楽になっている。
遊佐景綱「・・・ん?」
  書類に何か小さな紙が挟まっている。
  それは、ナタクが撮ったチルクラシアの写真だった。
遊佐景綱「相変わらずどこを見ているか分からんな・・・」
遊佐景綱(だが、元気そうで良かった。 レクトロが主導の治療が上手く行っているようだ)
遊佐景綱(後で、ナタクとレクトロに褒美を与えなければ・・・)
  どこかうっとりとしたような表情で、景綱は一枚の小さな写真を見つめる。
  『殿が笑っているぞ・・・』
  『明日は大雨でも降るのか?』
  『我々、何かやらかしてしまったか?』
  残っている仕事のことや従者が話していることなど忘れ、朝焼けになるまで写真を見つめ続けていた。

次のエピソード:第15回『虚無の心』

コメント

  • ついに殿にも声が!
    今回は比較的まったり進行でしたね。
    次回も楽しみにしております。

成分キーワード

ページTOPへ