ヘイサール王国(脚本)
〇立派な洋館
シャイローゼ「ここがヴィッツの住む家なのね・・・私たちの国と少し雰囲気が似ているわ」
蝶々夜胡桃「そうだね、それにこっちの方が向こうより若干涼しいみたい」
ノンヴィティエス「よく気がついたね。この国はあちらの国と違って四季がない変わりに、夏でもそれほど暑くない。冬は寒いけれどね」
シャイローゼ「私寒いのって苦手だから、こちらに輿入れしても朝起きれないかも・・・」
蝶々夜胡桃「あははっ!確かに!ローゼってば、冬に私の家に来るときは大体眠そうな顔してるしね」
アレグラット「冬場に馬車を使って移動するときはほとんど寝てますもんね・・・登校の際もですが」
シャイローゼ「もう、皆で恥ずかしいことをヴィッツに教えないでよー!」
ノンヴィティエス「ふふ、それなら輿入れの時期は丁度春が来る頃だからちょうどいいね。布団とかドレスもなるだけ暖かいのを用意するよ」
シャイローゼ「アリガトウ・・・でもやっぱり恥ずかしいわね・・・」
アレグラット(他学年との夜会でも婚約発表をしてから、もう半年が経った。お二人は中々に良い関係を築いているようだ)
蝶々夜胡桃「アル、これから2人は中で10日後の日程とか諸々決めるみたいだから私たちは街の様子を見に行きましょう」
アレグラット「あぁ、まずは荷物を預けてこようか」
アレグラット(俺たちも最初は若干の距離があったものの、胡桃の方から話しかけに来てくれて良好な関係を築いている)
アレグラット(だけど、俺はまだ・・・)
蝶々夜胡桃「アル?大丈夫?」
アレグラット「大丈夫だ、じゃあ行こうか」
〇ヨーロッパの街並み
蝶々夜胡桃「わあ、ここがヘイサール王国の城下町なのね。あちらと同じくらい賑わっているわ!」
アレグラット「あぁ、だがあちらよりも魔法学などが発展していて、町の灯りも魔法で灯されるみたいだ」
蝶々夜胡桃「そうなのね、それなら夜ここに来るのも楽しそうだわ」
蝶々夜胡桃「そういえば夜市もあるみたい。帰りに少し寄っていかない?」
アレグラット「ああ、じゃあ夜まで視察といこうか」
蝶々夜胡桃「まずは、ええと魔道書店に行ってもいい?少し気になるものがあって」
アレグラット「奇遇だな、俺も行きたかったんだ」
〇古書店
店長「・・・いらっしゃい、店内では静かにしてくれよ」
蝶々夜胡桃「うあぁ、学校では見ないくらい高位な魔法がこんなにたくさん・・・」
アレグラット「値が張るとはいえ、一般人でも買えるというのだから、この国の魔法軍事力の高さが聞かずともわかるな」
蝶々夜胡桃「そうね。じゃあこの事は国王にお伝えしましょう」
蝶々夜胡桃「じゃあ私は私で欲しい本見つけてくるから。アルも欲しい本があるのよね?一旦別行動にしましょ」
アレグラット「わかった、なにかあったら教えるよ」
アレグラット「さて、魔道具についての本はどこだ・・・」
アレグラット「いや、それより魔道具に組み込める付与魔法の本か」
アレグラット「あー、でも魔道具に使える付与魔法についてもっと詳しく知りたいな。こちらも探そう」
蝶々夜胡桃「えーっと、まずは混合魔法についての基礎的なことはあっちでも学べるから。あとは防御魔法についてかしら...?」
蝶々夜胡桃「あ、この本も使えそう。でもどれも難しそうだわ」
蝶々夜胡桃「いざとなったらアルに・・・あ」
蝶々夜胡桃(そうだ、このことは秘密にしなきゃいけないんだわ)
蝶々夜胡桃「さて、探し物の続きしなきゃね」
〇ヨーロッパの街並み
アレグラット「とんでもない時間とお金を浪費した・・・」
蝶々夜胡桃「あはは、私もだよ・・・今日はもうお城に戻って、また明日夜市に来ようか?」
アレグラット「そうしよう、帰るのが遅くなってあの2人に怒られるのはいやだな」
蝶々夜胡桃「そうね・・・よいしょっ、と」
アレグラット「貸して。少し持つ」
蝶々夜胡桃「え、アルが持ってる分含めたら相当重いでしょ?さすがに私が持つから!」
アレグラット「俺は鍛えてるから心配しなくても大丈夫。ありがと」
蝶々夜胡桃「う、うん・・・」
蝶々夜胡桃(私ってば、なにこのくらいで顔赤くしてるの、全然慣れないわ・・・)
蝶々夜胡桃(アルは涼しい顔しちゃってるだろうし・・・)
蝶々夜胡桃「アル、どうしたの?・・・あ」
小さな子供「グスッ・・・おかあ、さん・・・」
蝶々夜胡桃「迷子かしら?でもその割に服がボロボロで・・・あ、アル!」
アレグラット「どうした、迷子か?」
小さな子供「お母さんを待ってるの・・・で、でもお母さん、すぐに帰ってくるって、言ってくれたから、ちゃんと待たなきゃいけないの・・・」
小さな子供「でも、寂しくって・・・グスッ」
アレグラット「そうか、ちなみに名前は?」
小さな子供「・・・サーシャ」
蝶々夜胡桃「サーシャというの。いい名前ね。サーシャちゃん、お母さんがここを離れたのはいつごろ?」
小さな子供「おとといの夜にここを出て、お母さん、戦争後でお金がないからってお仕事を探しにいって...」
アレグラット「一昨日・・・ご飯は?食べたか?」
小さな子供「ううん、昨日の夜にお母さんから貰ったパン食べ終わっちゃったの・・・」
蝶々夜胡桃「・・・そう」
蝶々夜胡桃「アル、これって・・・」
アレグラット「金がなくて口減らしに置いていかれた子供だな・・・」
蝶々夜胡桃「教会に連れていきましょう。そこならこの子も安全に暮らせるわ」
アレグラット「サーシャちゃん、今日から教会でお母さんを待たないか?このままだとお腹が減って死んじゃうよ」
小さな子供「やっ、死にたくないよお・・・でも、おかあさん・・・」
蝶々夜胡桃「教会にいればお母さんが見つけに来てくれるかもしれないわ。だから今からお姉ちゃんたちと行きましょう?」
小さな子供「・・・ほんと?じゃあ、行く」
蝶々夜胡桃「かなり精神的にも体力的にも厳しそうね。教会に行く前に、なにか買ってくるわ」
アレグラット「あぁ、頼んだ」
アレグラット「今お姉ちゃんが食べ物を買ってきてくれてるから、その間にいいものをあげる」
小さな子供「いい、もの?」
小さな子供「わあ、ちょうちょさんだ!かわいい!」
アレグラット「この子が今日からサーシャちゃんを少しだけ助けてくれる。仲良くしてあげてくれ」
小さな子供「うん!この子は・・・えーっと、えっとね、じゃあローズ!」
アレグラット「──なんで、ローズにしたの?」
小さな子供「おかあさんの好きなお花が薔薇なの!お父さんがプロポーズのときにくれたんだって!」
アレグラット「・・・そっか、いい名前だね」
アレグラット(こんなささいなことで反応するだなんて、俺もまだまだだ)
蝶々夜胡桃「ただいま!簡単に食べれそうなの買ってきたわ!」
蝶々夜胡桃「はい、どうぞ」
小さな子供「これ、たまごぱんだぁ!」
蝶々夜胡桃「卵パン好きなの?よかったわ。教会に行く前に、一緒に食べましょう」
小さな子供「ありがとう!いただきます」
蝶々夜胡桃「私たちも食べましょう」
アレグラット「いやでも、卵なんて・・・高かったろう」
蝶々夜胡桃「それがね、これ300ミルーで買えたのよ。この国は酪農が盛んで、卵とかもよく取れるみたい。婚約の狙いは貿易関係かしら?」
アレグラット「なるほど、たしかにうちの国は酪農にあまり向かない地形だからな」
蝶々夜胡桃「そうねぇ・・・サーシャちゃん?どうしたの?」
小さな子供「お兄ちゃんとお姉ちゃんって、夫婦?なの?」
蝶々夜胡桃「えーっと、それは話しにくいんだけれど・・・」
アレグラット「まだだけど、もうすぐ結婚する予定、だよ」
蝶々夜胡桃「!!」
蝶々夜胡桃(アルの口からそう聞くと、どうしようもなく顔が・・・)
〇洋館のバルコニー
シャイローゼ「なるほど、それで帰りが遅かったのね」
ノンヴィティエス「でもありがとう。その子を教会まで連れて行ってくれて」
蝶々夜胡桃「えぇ。それとあの子、「お礼にどうぞ」ってこれをくれたのよ」
ノンヴィティエス「あぁ、クローバーか。しかも四葉だなんて珍しいね」
アレグラット「僕も貰ったんですよ。2つも四つ葉のクローバーを見つけるだなんて、すごい」
シャイローゼ「そのクローバー、2人でしおりにしたら?日頃から使えるし」
蝶々夜胡桃「それいいね、じゃあ私が作っておくから帰りまでにアルに渡すよ」
アレグラット「ありがとう。じゃあ、これ渡しておく」
蝶々夜胡桃「はーい、確かに預かりました!」
ノンヴィティエス「・・・本当は、そういう子達が少なくなって欲しいんだけれど。現状では中々難しいよね」
ノンヴィティエス「でも、この国は僕が王になったら変えるよ。他国との貿易も盛んにして、誰もが職や食べるものに困らない国を創ろう」
蝶々夜胡桃「・・・すごいなあ。私はまだそんなに考えられていないよ」
アレグラット「あぁ。だがヴィッツ様とこの国変わると同時に、俺たちも、シャルメーク国も変わらなければならない」
アレグラット「・・・俺は確かに、戦うのは得意な方だ。だがこれは他の誰かや国を貶める為に使いたくないんだ」
アレグラット「誰かを守ったり、誰かを幸せにするためにこの力は使いたい。──だからその1歩として」
アレグラット「俺は、ミルェーツを必ず打ち倒す」
シャイローゼ「色彩の悪魔、ミルェーツはまだ分からないことが多い。けれど、アルならきっと倒せるわ。私も力になるから」
蝶々夜胡桃「私ももっと強くなって、アルがその悲願を達成できるように支えるわ」
ノンヴィティエス「ミルェーツは不可思議なことが多すぎるからね。僕も微力ながら援助しよう。でもこの国に滞在する間くらいは少し羽を休めてね」
アレグラット「・・・3人ともありがとう。でもなんだか、その」
アレグラット「・・・少し、恥ずかしい」
「えっ、アルのそんな顔初めて見たんだけど!ちょっと、歩くの早いってば〜!」
シャイローゼ「ふふ、あの2人はもうあんなに仲良しなのね」
ノンヴィティエス「あぁ、アルも前より少し雰囲気が柔らかくなったみたいだし、胡桃さんも楽しそうだ」
ノンヴィティエス「さあ明後日は僕たちも頑張らなきゃいけない日だ。少し早いけれど、もう寝ようか」
シャイローゼ「えぇそうね。じゃあまた明日。おやすみなさい」