小川はバッハのこと(脚本)
〇シックなカフェ
納二科寧音(なにかねね)「要は、身元に危険が及ぶ可能性があたしの素性からも高い」
納二科寧音(なにかねね)「多分あたしの素性に触れた人も、危ない」
部長「なるほど」
部長「ジョジョの5部みたいな」
納二科寧音(なにかねね)「いやジョジョは知らないですけど」
納二科寧音(なにかねね)「昔から、そう・・・・・・周りから人がすぐ居なくなって」
部長「・・・・・」
部長「そうか。 本当の事を言うと、手っ取り早いのが、作家として認知されることなのだが・・・無理にとは言わない」
そうだろうと、思った。
あたしも部長だったらそう言うかもしれない。
部長「夢だ、と宣言すれば、誰か力に」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・まあ、機会があればっすね」
例えば夢を語るのが、あたしにとってどれだけ覚悟が要るのかを、誰も知らない。
どれだけ重くて、口にする事さえ恐ろしい事なのか。
今だって、家庭1つが簡単に壊れる程、重たい言葉。
・・・・・・に、なりたいんだって?(笑)
なれたか?
(笑)
笑ったやつがそういえば、居たっけ。
納二科寧音(なにかねね)(あのバカのせいで、みんなの前で母さんにわざわざ叱られたなぁ。 人前に出るような事は絶対駄目、って)
納二科寧音(なにかねね)(家から閉め出されて、冷たい夜空の下を歩いたものだ。 どうして、空気読めないのかな?)
納二科寧音(なにかねね)「とりあえず、作成立てましょう」
それから、あたしと部長は作戦を練った。
まず、身元を明かすと脅迫や誘拐を企てる恐れがある。
これは,作家協会側に、既にその実績がある事も判明している。
納二科寧音(なにかねね)「という訳で、まず条件としてあたしが参加するなら作者不明にすることですね」
部長「そうだな」
納二科寧音(なにかねね)「今回の目的は、作家になる事じゃない」
納二科寧音(なにかねね)「なるな、って親にも言われてるし」
作家にどうしてもなってくれと頼まれでもしないなら、あたしから小説だけで生きて行けるとは思えない。
それ以上に、幼い頃から受け続けた処遇、作家になるなと毎日言われた事の方が重大で――――いや、家が荒れる方が怖かった。
たぶん、赤坂みたいなのが尋ねて来て、また家の近辺を調べ回るだろう。
母さんは、過去にそんな事があったからあたしに目立つ職業全般につく事を禁じたのだろうか?
納二科寧音(なにかねね)(まぁ、これがバレたら確実に、このことで家が壊れるだろうな・・・)
部長「あぁ、あくまでも目的は協会と接触する事そのものだ」
部長「目指したければ目指しても良いが」
納二科寧音(なにかねね)「無理ですよ」
納二科寧音(なにかねね)「というわけで、次に、確実に落とされに行く方法2ですね」
部長「そこに全力なの、お前くらいだろうな・・・」
納二科寧音(なにかねね)「確か、ああいうとこって、作風が似てるものは必ず落としてきます」
納二科寧音(なにかねね)「だからあえて、落ちやすいように、絶対に批判を貰えるように西峰の文体で行きます」
納二科寧音(なにかねね)「まぁ、文体模倣と言うより半分あたしなんですけどね」
部長(・・・・・・作家が物凄く嫌いという情熱だけ凄く伝わってくるな)
部長「だが、選ばれる自信はあるのか?」
納二科寧音(なにかねね)「――――選んでくると思いますよ。選ばなくてもあたしは困らないですが」
フォノ「すみませーん、アイコください」
「はーい! 少々お待ちくださーい」
フォノ「ふぅ、こんな日は冷たいアイスコーヒーに限りますね」
〇シックなカフェ
妙に見た目の整った男性が、隣の席に着く。
納二科寧音(なにかねね)「!?」
すれ違うとき、なんとなく、
怖い、と感じた。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・?」
部長「仮にだが、 それは、一部分を隠すくらいではだめなのか?」
納二科寧音(なにかねね)「駄目ですね」
納二科寧音(なにかねね)「・・・信じて貰えないかもですけど、あたしって、一部分だけでも知ってる人が分かるんですよ」
納二科寧音(なにかねね)「自分でも、うまく言えないけど・・・・・・そういう、些細なところが他人より優れているみたいで」
納二科寧音(なにかねね)「もしかしたら、『遺伝』かもしれない」
部長「一部だけでも、情報を与えてしまうと確信している、か」
納二科寧音(なにかねね)「そうだ。もし、部長に何かあっても、あたし、見つけますからね」
部長「・・・・・・そうだな」
部長「その時はよろしく頼む」
納二科寧音(なにかねね)「はい」
フォノ「・・・・・・あの二人」
納二科寧音(なにかねね)「?」
途中、隣の男が何か言っていた気がする。しかし、気にしようにも
すぐ席を立ってしまっていた。
納二科寧音(なにかねね)(なんだろ・・・・・・)
〇大きい交差点
具体的な内容はまだだけど、村田さんの件や他の状況を踏まえ
安全確保を優先した作戦を立てる、ということが決まった。
それ次第では、あたしも協力出来るかもしれない。
部長「しかし、私もここまで手が早いとは、思っていなかった」
部長「役職付きか、その娘くらいにしか付き纏わないと思って居たんだが」
部長「申し訳ない・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「あんなの予測出来ませんって!」
納二科寧音(なにかねね)「部長が指揮してるわけじゃ無いんですから」
あたしはあたしで、見たことない親が極悪人である可能性も捨てきれないせいで、部長の庇い方がわからない。
納二科寧音(なにかねね)(あたしを狙ってるかもしれないし・・・・・・)
〇女性の部屋
納二科寧音(なにかねね)「――とは言ったものの・・・・・・」
後ろ盾とはいかなくても、注目にある程度の数は欲しい。
匿名で有名になる必要がある、なら、現代ではやっぱり炎上商法が手っ取り早そうだ。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・適当に目立ちそうな発言をしたら炎上するかな」
あたしはひとまず、前に一応取得したけど使ってないSNSを開いた。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
――炎上は、そう甘いものじゃなかった。
納二科寧音(なにかねね)「あー、だめだ」
何回、何処で炎上しそうなことを書いても、上には上がいる。
あたしは自分の立場をちゃんと知らなかった。
いかに、なり済ましが巧妙化しているのか。
納二科寧音(なにかねね)「また、毛玉サイコパスさんだ・・・」
例えば、燃えそうな発言を
インフルエンサーに送る・・・・・・少し注目が高まる。しかし必ず現れる火消し。
さすがに無茶苦茶と思うコメントをしても中和されそうなコメントをしたり擁護に回ったりする人が必ず現れるのだ。
――――まるで、あたしが注目されるのを阻止してる?
納二科寧音(なにかねね)(炎上したいって思うときは、なかなか出来ないんだなぁ)
やがて、何処かから沸いた他のアカウントが、あたしが呟いた発言を同時に投稿しだした。
かと思えば、芸能人が同じ発言をして代わりに炎上し始める。
内容だけが一人歩きし、あたしには誰も目もくれない。
中でも特にしつこいのが、毛玉サイコパスさんと、ライチさんで、
別に頼んでもないのに発言を毎秒拾いたがる。
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