読切(脚本)
〇オフィスのフロア
私は半年前、自律神経失調症になって会社を辞めた。
ずっと予兆はあったのに・・・
気付かないフリをしてきた。
誰にも頼まれてないのに、勝手に
〔いいひと〕を演じて、疲れ果てて・・・
ある朝、心も体も動かなくなってしまった。
一瞬は引き止められたり
惜しまれたりしたが、それは一応の儀式で
その後は一切、誰からも連絡はない。
プレゼンや商談で、私のセンスを求められるような、まるで世の中を動かしてるみたいな感覚は、もう・・・ない。
電話もメールもフェイスブックのいいね!
からも解放され、正直ホッとした。
〇電車の中
週末に1人で外出なんて、
どれくらい振りだろう。。。
しばらくプチ引きこもり生活だったけど、
今の自分の状態を確かめたくなって、
日曜日の山手線に乗り、あえて人混みの渋谷を目指した。
流れる景色を見ながら、今日で20代も終わるけど、もう夢も希望もないから、
今世にサヨナラしてもいいかな・・・
なんて。
ふと向かい側の席に、やたらと目が合う制服を着た女の子がいる。
私、なんか・・・変なのかな?
〇渋谷駅前
改札を出て歩き出すと、
ふいに背後から声を掛けられる。
振り向くと、さっきの女の子だ。
麗子「スミマセン。公園通りから代々木公園への 行き方を教えてくれませんか?」
舞「えっと・・・私もそっち方面に歩いてこうと思ってたので、良かったら一緒に行きます?」
麗子「ありがとうございます!助かります!」
〇渋谷駅前
いまどきアプリの道案内もあるのに、
聞いてくるなんて珍しいな。
携帯を忘れてきたのかな?
やたらキョロキョロしてるし。
〇渋谷の雑踏
もしかして渋谷は初めて?地方から?
アイドルのコンサートでも行くのかな?
質問なんて野暮だよね。だって私も今、無職だし。
〇大企業のオフィスビル
麗子「渋谷も変わりましたね~ こんな高層ビルいつできたんだろ? あ、パルコが新しくなってる!」
彼女は見るもの全てに、
大げさにリアクションしている。
〇公園通り
舞「前に近くに住んでたの?でも、まだ若いから劇的には変わってないでしょうに」
ゆるい坂を登る途中で突然、
車のクラクションが大きく鳴り響く。
彼女は異様に怯え耳を塞ぎ立ち止まる。
そして深呼吸した後
麗子「あれ、モスはそのまんまだ!」
ホッとしたような表情に戻った。
〇池袋西口公園
麗子「私、歩行者天国が大好きで日曜日に通ってたんです!この辺にパフォーマンスグループがいたり、バンドがLIVEやってたり、」
麗子「いっぱい屋台も出てて、 毎週お祭りムードだったな~」
急にはしゃぎ出して、1人でテンションが
上がっている。
〇大きな公園のステージ
麗子「たしか、ここでオッカケしてた人が 踊ってて・・・懐かしいな~ わぁ泣いちゃいそう」
舞「推しって言わないんだ(笑) それさ、この辺を通るたんびに50代の母が言うんだけど、最近はこんなもんじゃない?」
たまにイベントをやっていると賑わうが、
たいていは原宿まで通り抜けるか、
散歩の人達くらいだ。
〇公園のベンチ
舞「今いくつ?まだ10代でしょ?」
麗子「はい18です。でも・・・ 本当だったら51歳、かな」
精神年齢のこと?
ときどき意味不明な事を言う。
〇公園のベンチ
麗子「今日はありがとうございました。 やっと来れました。 久々過ぎて道を忘れてしまって・・・」
麗子「でも、みんな何か小さい四角いモノを 見ながら歩いてるから話しかけるタイミングが見つからなくて・・・」
小さい四角いモノって・・・
スマホのこと?
麗子「お姉さんだけ、顔を上げて、前を見て歩いてたもので、、、」
麗子「私、麗しいに子供の子でレイコって 読みます。苗字は悠然の悠でユウです」
舞「これだけで自己紹介必要?(笑) ま、いっか。私は偶然にも渋谷。下は舞うと書いてマイ。じゃあね!」
軽く手を振ったのに、深々と丁寧におじぎ
する、まるで昭和からタイムスリップ
してきたみたいな女の子だった。
〇公園通り
(顔を上げて前を見て歩いてたから・・・)
反芻しながら、今の自分とは真逆で心の中で苦笑いする。
制服の後ろ姿をボンヤリ見送っていると、ふいに麗子が振り返り、
〇公園通り
麗子「お姉さん、あっ舞さん。 人生って、望んでなくても突然、強制終了 させられたりするんです。私みたいに・・・」
麗子「だから、せめて今は、リセットボタンを 押すくらいでいいと思いますよ」
私みたいに?
明らかに不可解な表情をしていると、
麗子「それでも苦しくなった時 『もう私、頑張んなくていいんだ。』 って声に出してみてください。 きっと少しは楽になれますから」
彼女は笑顔なのに、
私だけ急に涙が溢れ、視界がぼやける。
慌てて涙を拭っても景色が滲む。
思わず、その場に座り込む。
〇渋谷駅前
今日で20代は終わるけれど、
明日の30代からは、、、
もう私、頑張んなくていいんだ。
もう私、頑張んなくていいんだ。
だって今まで、
ガムシャラに頑張ってきたもの。
これからは
自分の魂が喜ぶこと、しよう。
そうしよう。
去年の私が、うらやむように。
来年の私が、悔やまないように。
悠、麗子・・・ユウレイ?
まさかね。
だったら彼女は、私に大切なメッセージを
わざわざ伝えに来てくれたの?
ようやく立ち上がった時、その姿はもう、
なかった。
タイトル と内容がマッチしていて素晴らしいと思いました
「もう頑張らなくていい」はとても大事な言葉ですね。頑張りすぎて疲れてしまう人に届けたい小説だと思いました!
私は自分自身でリセット、変換が出来るタイプなので麗子ちゃんはきっと現れないだろうなあ。若い女性がまだ30歳という年齢で終了ボタンに手を添えるという現象、現代社会でまず一番の問題点ですね。ボタンにかざした手に誰かが気づくことを願いたいです。