エピソード4(脚本)
〇近未来の闘技場
アルディン「ここだ!」
アルディンは格納庫内に懸架されている緊急脱出艇の前に移動するとラナシスに告げた。
緊急脱出艇は、通常航海用の動力を持たない、乗員を宇宙の真空や放射線等から保護するためだけに造られた簡易宇宙艇である。
他の船に回収してもらうことを前提としているが、その分生命維持能力を充実させており、
長期間の待機に備えて乗員分の冷凍睡眠装置が設置されている。
もっとも、緊急脱出艇は、あくまでも緊急用の代物で、
航海用の動力を持ったシャトル船の方は既に空だった。
かつてのアドラーの乗員達はそれで艦を逃れたのだろう。
ラナシス「はい、中に何があるのか楽しみですね!」
ラナシスはノリの良い言葉で返答する。こういった所は本当の人間のようだ。
アルディン「ああ、しかし宝の隠し場所としては良いアイデアだな」
アルディン「艦システムから独立させてしまえば、肉眼で確認するしかないし、普通は緊急脱出艇の中までは調べたりしない」
アルディン「俺もラナシスを見つけられなければ、ここまでたどり着けなかっただろう!」
ラナシス「ほんとですか・・・私もアルディンさんの役に立ててうれしいです!」
アルディン「ふふ、そう言われると悪い気はしないな」
アルディン「ちなみに、ラナシスにはこの艦の探索が終えてからも俺のアシスタントとして、」
アルディン「一緒に行動させようと思っているんだが、どうだ? やる気はあるか?」
ラナシス「ええ! やりたいです! お願いします!」
アルディン「そうか!・・・まあ、まずはお宝を確認してからだな!」
ラナシス「はい!」
アルディンは目標の緊急脱出艇のハッチを開ける作業を続けながら、ラナシスと湧き上がる昂揚感を共有する。
これまで一人で活動していた彼にとっては新鮮な体験だ。
欲を言えば彼女がその声と言動に似合った美しい女性であれば完璧なのだが、それは過ぎた願いというものだろう。
ラナシス「な・・・何か、後ろから音がしましたよ!」
まもなく緊急脱出艇のハッチを開ける解析作業が終わろうとした場面で、ラナシスが怯えるように警告を発した。
アルディン「俺には何も聞こえな・・・」
アルディン「ぐわぁ!?」
後ろを振り返ようとしたアルディンだが、唐突に強い力で背中を押され突き飛ばされる。
アルディン「な、何をす・・・」
アルディン「・・・る!」
アルディンは辛うじて受け身をとって床に叩きつけられることを避けると、顔を上げながらラナシスに問い掛ける。
彼女がこの場において裏切ったと推測したのだ。
だが、彼の勘違いは直ぐに訂正される。
アルディンの瞳に映ったのは一瞬前まで自分がいた場所に立つ、頭部を破壊されたラナシスの姿だった。
〇近未来の闘技場
アルディン「ラナシス!!」
悲鳴にも似た呼び掛けに応じたのはラナシスではなかった。
彼女がその場に崩れ落ちると背後から別の人型の存在が姿を現した。
アルディン「くそ!」
悪態を吐きながらもアルディンは本能的な感覚で銃を抜き、トリガーを絞る。
収束されたレーザーの光筋は正確に彼の狙いどおりに導かれたが、既に敵は退避し格納庫の壁を焼いたに過ぎなかった。
初撃を躱されたアルディンだったが、彼の脳は状況に対応しようと活性化する。
破壊されたラナシスの姿、突如現れた敵らしき存在、背後から突き飛ばされた理由、これらの事実が瞬間的に彼に一つの結論を齎す。
ラナシスは襲い掛かってきた敵から自分を助けるために身代わりになったのだと。
そして今胸に満ちている感情が、ラナシスを破壊した敵への怒りであることも理解した。
アルディン「何者だ?!」
誰何の声を上げながらもアルディンは二射目を放つ、これは距離を詰める動きを見せた敵に対する牽制だ。
元より期待していなかったが、人型からの応答はない。アルディンは改めて敵と認め対峙した。
敵はラナシスとは別の自律式ドロイドだった。おそらくは高級機らしく、より人間的で当時の帝国軍の与圧服を纏っている。
男とも女とも取れる中性的な外見で無表情にこちらを窺っているが、強烈な殺気を秘めていた。
アルディンは現在、艦のマザーシステムへの再登録により、この艦の最高責任者である艦長の地位にある。
その彼が襲われたことから、このドロイドも艦のシステムから外されていると判断することが出来た。
この状況を脱するには自力で倒さなければならない。
思考を読んだわけではないだろうが、アルディンが積極的な攻勢に入ろうとしたところで、
敵ドロイドが一気に距離を詰めようと突撃を開始する。
アルディンは迎撃にレーザーを放ちドロイドの左腕を切断するが、敵は勢いを維持したまま彼に襲いかかった。
アルディン「うぐ!!」
激しいタックルを受けて倒されながらもアルディンは、敵の胸に銃を押し付けて零距離射撃を試みる。
ドロイドが残った右手で彼の首を引きちぎろうとしたところで、その動きが間一髪で止まった。
〇近未来の闘技場
アルディン「くそ! 重いんだよ!」
完全に止めを刺すために再びレーザーを撃ちこむアルディン。
だが、敵ドロイドは活動を停止してもなお、彼の上に覆い被さって苦しめた。
「今助けるわ!!」
アルディンは不意にラナシスから助けの声を掛けられる。
アルディン「た、頼む!・・・助かった!」
アルディン「・・・しかしラナシス・・・お前は破壊されたはず!?」
腕を引かれながら敵の下から這い出たアルディンは、ラナシスを労わろうと顔上げるが、同時に驚愕の声を漏らした。
そこに立っていたのは白い薄衣姿の若い女性だったからだ。
謎の美女「ふふふ、どういたしまして。驚くのは無理もないけど、私もラナシスよ」
謎の美女「・・・あのドロイドの見聞きしたデータは覚醒アプローチと一緒に同期しているから、全ての事情を把握しているわ」
謎の美女「・・・緊急脱出艇に隠されていたのは私だったの!」
長い金髪を掻き揚げながら、女性は呆気に取られるアルディンに向けて、驚愕の事実を伝えたのだった。