星屑の財宝

月暈シボ

エピソード3(脚本)

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〇コックピット
アルディン「それじゃ、背中を向けてメンテナンスハッチを開けてくれ」
アルディン「前の艦長が登録から外したことで、お前のデータには艦内のマザーシステム経由ではアクセス出来なくなっている」
アルディン「だから直接繋いで解析する」
  ブリッジに戻ったアルディンはドロイドに告げる。
  説明のとおり彼女はその存在を艦設備から抹消されていて干渉は不可能だった。
  この状態だと解析用の端末を物理的に繋げて解析するしかない。
  艦自体のデータ解析も完全には終わっていないので、後回しにしても良かったのだが、
  アルディンの勘はこの謎のドロイドの正体と戦艦アドラーに隠されていた任務は、
  何かしらの理由で繋がっていると睨んだのである。
謎のドロイド「な、何をするんですか?! ら、乱暴なことはしないで下さい!」
  だが、そんなアルディンの意図に水を差すようにドロイドは奇妙な抵抗を示す。
  その言動と自分の身体を抱き締めるような防御姿勢は、まるで痴漢に怯える女性の仕草だった。
アルディン「・・・ら、乱暴も何も、データを解析するだけだ」
アルディン「・・・そもそもお前の身体に変なことなど出来るわけないだろう!」
  まさかドロイドにこのような事を言われるとは思ってもいなかったアルディンは、反応に困りながらも正論を告げる。
  彼も愛玩用のドロイドが存在することは知識として知っていたが、
  さすがに、このような作業用ドロイドに女性型AIをインストールしている意味は見いだせなかった。
謎のドロイド「そ、そんな・・・」
アルディン「わ、わかった!俺の言い方が悪かった! 謝るから許してくれ!」
アルディン「き、君の身体の調子を調べるから協力してほしい・・・これは必要なことなんだ!」
謎のドロイド「・・・わ、わかりました・・・」
  そんなつもりではなかったのだが、ドロイドがその場に蹲ってしまったので、
  アルディンは咄嗟に慰めながらも改めて協力を求める。
  その誠意が通じたのか彼女はゆっくり立ち上がると、恥ずかしがるように背中を向けた。
アルディン「じゃ、内部データを解析させて貰うよ」
謎のドロイド「は、はい・・・」
  アルディンは優しく諭しながらドロイドのメンテナンスハッチを開けて有線で解析用端末を繋ぐ。
  面倒な相手ではあったが、このところ女っ気の無かった彼としては新鮮な気持ちを味わえていた。

〇コックピット
アルディン「結論から言うと、記録容量の殆どが人格を形成するデータで満たされていた」
アルディン「君を通常任務から外した艦長のコマンドも口頭で伝えられ、人格データの中に組み込まれているはずなんだ」
アルディン「・・・何か思い出せることはないかな?」
  データ解析を終えたアルディンはドロイドに問い掛ける。
謎のドロイド「はい・・何か重要なことを命令されたのは覚えています・・・」
謎のドロイド「ですが、今は思い出せません・・・すいません・・・」
アルディン「そうか・・・焦らすつもりはないから、ゆっくり思い出してくれ」
謎のドロイド「はい、ありがとうございます!」
  ドロイドは申し訳なさそうに答えるが、アルディンは寛大な言葉で落ち着かせる。
  彼女の人格形成は違法スレスレとも言えるほど、人間のアルゴリズムを模倣されている。
  これでは人間のように物忘れをしても仕方ないと言えた。
謎のドロイド「・・・あ、一つ思い出したことがあります!」
アルディン「おお!何かな?!」
  ドロイドの発言にアルディンは笑みを浮かべて答える。見た目こそ機能一転張りだが、仕草と声は可愛らしい。
  彼は徐々にこの奇妙なドロイドの扱いに慣れ始めていた。
謎のドロイド「私は以前、ラナシスと呼ばれていたような気がします!」
アルディン「ラナシスか・・・」
アルディン「よし、その名前で艦内データを検索してみよう!」
  ラナシスはエクリール帝国勃興期に現れた女帝の名前で、帝国の礎となった人物だ。
  このことから帝国の女性名としてかなり人気がある。検索で何かしらの手掛かりが掴めるかもしれなかった。

〇コックピット
アルディン「・・・緊急脱出艇の格納庫の一つが、ラナシスと名付けられているな・・・、」
アルディン「これは帝国軍の慣例としてはあり得ないことだ。こういった場所に、人名や固有名詞を使うとことはない」
アルディン「・・・いよいよお宝の在り処を見つけたかもしれないぞ!」
ラナシス「お宝ですか?」
アルディン「ああ、俺はこの艦は何かしらの貴重品、金や天然宝石を帝都に移送していたのではと睨んでいる」
アルディン「実際、当時の艦長はラナシス・・・君を使って、隠し場所の隠蔽と管理をさせようとしていたように感じられる」
アルディン「どうだ、何か思い出さないか?」
  アルディンはラナシスと名付けられたドロイドに自分の推測を説明する。
ラナシス「・・・そう言われれば、そのような気がして来ました!」
アルディン「・・・本当か?!」
アルディン「まあ良い。善は急げだ!」
アルディン「その区画を調べるぞ! ラナシスも手伝ってくれるな?」
アルディン「この艦は既に法的には俺の財産だから、お前が番人だったとしても抵抗はしないでくれよ!」
ラナシス「はい! アルディンさんは私を助けてくれた方ですし、そもそも私に抵抗なんて出来ません!」
アルディン「よし、じゃ、お宝とご対面だ!」
  ラナシスの同意を得るとアルディンは艦長席から立ち上がる。
  仮に彼女が反乱を起こしたとしても、先ほどの解析で緊急停止コマンドは設定済みである。
  もっとも、彼はラナシスに何事もなければ売り払わずに部下として、これからも相棒役を担わせるとを考えていた。
  多少面倒なところもあるが、奇妙な愛着が湧きつつあったのだ。

〇近未来の通路
  ドロイドと同じく〝ラナシス〟と名付けられた格納庫は、
  やはり艦内のマザーシステムを離れて当時の艦長の独立コマンドで制御されていた。
  この区画に入るには、実際に赴いて隔壁制御を解析する必要があった。
アルディン「・・・ここに入るには、艦後部の隔壁全てを解除する必要があるな」
ラナシス「そうなのですか?! そんなことがわかるアルディンさんは凄いですね!」
アルディン「まあ、基本は端末にやらせているだけどな。俺は接続箇所を見つけて繋げているだけだ」
  ラナシスの返事を聞きながら、アルディンは制御盤に端末を接続し解除作業を進める。
  何の役に立つのかわからないドロイドではあるが、話し相手としては悪くない。
  彼女との会話は孤独な探索活動の潤滑油になりつつあった。
  今回のサルベージが成功して大金を手に入れたら、
  ラナシスのAIを最新鋭の愛玩用ドロイドに入れ替えるのもありかもしれないと思えてくる。
  少なくても、もっと穏健なデザインの身体を用意するべきだろう。
ラナシス「わあ、凄い! 開きましたよ!」
アルディン「ああ、ここが開けばもう少しだ!」
ラナシス「はい!」
  アルディンはいよいよ格納庫の中に足を踏み入れた。

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