エピソード1(脚本)
〇学生の一人部屋
昨日は締め切りが近い課題に追われていて、ほとんど寝られなかった。
なのに今日は朝からバイトだ。
眠気を感じながら、慌ただしく準備をする。
昨日充電し忘れたスマホを確認すると、バッテリーの残りは19%を示していた。
俺(ああ、最悪だ。もう時間もないし)
俺(とりあえずバイトは、駅まで走ればぎりぎり間に合うか)
────
俺(よし、準備できた、行こう)
〇電車の座席
俺(ふう、なんとか間に合った)
いつもの流れでスマホをポケットから取り出す。
俺(そうだ、充電ないんだった。はぁ・・・)
後で使えなくなると面倒なので、仕方なくスマホをカバンにしまい顔を上げた。
すると、前に座る小さな男の子と目があった。
なんとなく、マスクをしたまま目だけで笑いかけてみた。
しかし男の子は、何もなかったかのように隣に座るお母さんにおしゃべりを始めた。
俺(何似合わないことやってんだよ、俺・・・)
〇電車の中
そのまま周囲に目をやったが、ほとんどの人が手元のスマホに視線を落としている。
あとは本を静かに読んでいる人と、端の席で寄りかかりながら眠っている人。
誰とも目が合わない ──
俺(俺も眠いけど、今寝ちゃったら乗り過ごすだろうな・・・)
〇電車の座席
また前に向き直り、男の子の頭ごしに窓の外を眺めた。
いつも使っている電車なのに、知らない街並みが通り過ぎていく。
俺(いつもはずっとスマホを見てるから、外の景色って意外と知らないもんなんだな)
そのまま、いつも通る知らない風景を眺めていた。
──
次は、渋谷〜 渋谷〜
〇渋谷駅前
普段は、イヤフォンをして好きな音楽を聴きながら歩く。
しかし、今日はスマホの充電がないので聴かずに歩き出した。
俺(眠いし、スマホ使えないし、音楽も聴けないし。ほんとついてねえなあ・・・)
???「あの〜、すみません」
俺「あ、はい」
???「ちょっとここへの行き方をお聞きしたいんですけど・・・」
俺「ああ、それならこの交差点を渡って、あの通りを進むと左手に見えますよ。目立つんですぐわかります」
???「そうなんですね。ご親切にどうもありがとうございます」
俺「いえいえ」
〇渋谷駅前
俺(道聞かれるのなんて、いつぶりだろうな)
俺(いつもだったら、イヤフォンして、ポッケに手を突っ込んで・・・)
俺(そりゃ聞かれるはずないか)
────
俺(あれ、そういえば街中ってこんなに人の声聞こえてたっけ !?)
俺(しかも、車の走ってる音ってこんなにうるさかったんだな)
今まで見えていなかったもの、聞こえていなかったものに、今日はよく気がつく。
俺(渋谷はもう知り尽くしてると思ってたけど、なんか違う街に見えてくるな)
俺(意外と面白いじゃん)
〇渋谷駅前
俺(なんだか今日はいい発見がありそうだな)
マスクの下で自然と口角が上がっているのに気がついた。
俺(今ならあの男の子も笑い返してくれそうだ)
俺(よし、とりあえず今日も頑張るか!)
肩の力がふっと抜けるいい作品ですね。
昔はスマホなんてない時代に青春時代を過ごした私としては、現代の若者はスマホ片手に世間を見つめる事がないから、少し協調性に欠ける人が多い様に感じています。
スマホは便利だけど、あの小さなスクリーンに釘付けになっていると確かにまわりが見えなくなる。やっぱり人と人とのふれあいはあたたかないな。たまにはスマホを持たずに街をぶらぶらしてみようと思いました。