龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第拾弐話 蛇 後篇(脚本)

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〇教室
梶間頼子「・・・ん」
  教科書を見ていた頼子は気配の変化に気付いた。
梶間頼子(カズの動きが活発化してる)
  頼子が宿す神獣・紫龍は、雷の力を特性とする龍。
  紫龍を宿したことにより、頼子は電流を察知できるようになった。
  生物の体内を流れる微弱な電流を感知して、相手の動きを読み取れるようになったのである。
  この能力の感度と精度を高める訓練の一環として、頼子は身近な人間の生体電流の探知を日課にしている。
  どういう訳か一哉の龍気が比較的感知しやすいため、彼の生体電流を観測するのが頼子の日課になっていたのだが、
梶間頼子(・・・戦ってる・・・?)
  どうも一哉の挙動がおかしい。
  静と動が目まぐるしく変化する。
  座学をしていないのは確かだ。
  頼子が一哉を観測対象に選んだ理由は、ここでは述べないことにする。
梶間頼子(・・・ん?)
  黒板を見ようとして顔を上げた時、ようやく頼子は気が付いた。

〇教室
梶間頼子「あたしも巻き込まれてるじゃん」
  教室が無人になっている。
  時計の秒針も止まっている。
  窓の外が夕暮れ時の色に染まっている。
  結界特有の空模様、『逢魔時』になっている。
梶間頼子「行かなきゃ」
  頼子は立ち上がり、教室を出た。

〇屋上の入口
梶間頼子「うわあ・・・」
  あまりにもあからさまだった。
  廊下を挟んで頼子の教室の向かいにある階段。
  上へと登っていくと、屋上への出入り口がある。
  その出入り口が、開いていた。
梶間頼子「くさい」
  異臭もする。
梶間頼子「間違いない」
  階段を登って屋上に出ると、
梶間頼子「嘘でしょ」
  頼子は自分の目を疑った。

〇高い屋上
都筑恭平「だいぶキツくなってきたろ?」
橘一哉「なぁに、まだまだ」
  足を大きく開き深く腰を落として前傾し、切っ先を落としている一哉。
  歯を食いしばり、肩で息をしている。
  制服の袖が切り刻まれてボロボロになっていた。
  対する相手は波打つ刃の短剣を逆手に持って拳法の構えを取り、口元にはうっすらと笑みすら浮かべている。
梶間頼子(カズが苦戦してる)
  珍しい光景だった。
  一哉がここまで追い込まれているのを見たことがない。
梶間頼子「あなた、誰」
橘一哉「頼ちゃん!?」
都筑恭平「おや、お仲間か」
  二人とも驚いた様子で頼子を見る。
都筑恭平「結界には黒龍だけを入れたはずなんだがなぁ」
  天蛇王は首を傾げる。
都筑恭平「繋がってたのか、黒龍と」
梶間頼子「・・・・・・」
  頼子はフイと目を背ける。
橘一哉「え、何、何なのその反応」
  一哉も頼子のリアクションに動揺した。
梶間頼子(・・・言えない)
梶間頼子(まさか、カズの様子を観察してただなんて・・・)
  口が裂けても言えない。
都筑恭平「まあいいや」
  天蛇王は頼子へと向き直り、
都筑恭平「お前も始末してやる」
梶間頼子「やってみなよ」
  強気に言い放ち、頼子は金剛杵を手にした。
都筑恭平「へえ、お前も龍使いか」
梶間頼子「何故分かるの?」
都筑恭平「何故って、そりゃ、」
  天蛇王は頼子の右腕を指さし、
都筑恭平「得物を出す時にはっきり形が出てるだろうが、その腕に」
橘一哉(こいつ、)
(おそろしく目敏い)
  普通の人間には、属性の力が噴き出しているようにしか見えない。
  その芯にある龍の姿を把握できるのは、かなり優れた眼力の持ち主だ。
都筑恭平「お前も龍使いなら好都合だ」
都筑恭平「依頼には無かったが、追加で相手をしてやるよ」
橘一哉「おう待てや」
  二人の間に一哉が割って入る。
橘一哉「相手は俺だ」
  そして刀を構えるが、
梶間頼子「カズは下がって」
  頼子は一哉の袖を引っ張った。
梶間頼子「今のままじゃ勝てない」
橘一哉「まだいける」
  振りほどこうとする一哉に、
梶間頼子「流れが乱れてる」
梶間頼子「整えて」
  短く、しかし強く、頼子は言い放った。
橘一哉「分かったよ」
  一哉は刀を下ろして頼子に道を譲った。
梶間頼子「そういうわけだから」
  頼子は金剛杵を両手に持ち、一歩進み出て相手と対峙する。
橘一哉「頼ちゃん気をつけて、そいつは天蛇使いの拳法家だ」
梶間頼子「神獣使いなの!?」
都筑恭平「ああ、俺は天蛇王だ」
  言うが早いか、天蛇王と名乗った若者は間合いを詰める。
梶間頼子(速い!)
  頼子は金剛杵を一つ放り投げて後ろに下がる。
  金剛杵から雷が飛び散り、天蛇王の行く手を遮る。
都筑恭平「おっと!」
  天蛇王は即座に踏みとどまり、蛇行剣を放り投げた。
  蛇行剣の切っ先へと雷が集中し、その衝撃で蛇行剣は天蛇王へと返ってきた。
  それを体を丸めてしゃがみ込んで回避すると、
都筑恭平「しゃあっ!」
  全身のバネを使って跳躍し、再び頼子との間合いを詰める。
梶間頼子(武器を捨てた!?)
  一瞬驚く頼子だったが、彼が拳法家ならば不思議はない。
梶間頼子「っはあ!」
  頼子は金剛杵の先端を天蛇使いに向けて振り下ろすが、
都筑恭平「おっと!」
  天蛇使いは掌で頼子の前腕を止めた。
梶間頼子「っぐ!」
  痛みに呻く頼子。
  しかし、天蛇王は頼子の腕を強く握りしめているわけではない。
  掌に乗せ、五指は軽く添えているだけ。
都筑恭平「おっ!」
  頼子の右腕から雷が起こる。
  天蛇王は頼子から手を離して飛び退り間合を取った。
梶間頼子「やるじゃん」
  頼子の右袖に鈎裂きができている。
  暗器の類だろう。
梶間頼子(アレか)
  注意してよく見てみると、手に何か嵌めている。
都筑恭平「龍の奴は過保護だなぁ、おい」
  言いながら足元の蛇行剣を拾う天蛇王。
  今度は逆手ではなく順手持ちで構えを取る。
梶間頼子「・・・」
  頼子が手に持つ金剛杵の先端が割れ、三鈷杵へと形を変えた。
都筑恭平「第二ラウンド、いこうか」
  蛇行剣の刃が飛んできた。
梶間頼子「っ!!!!」
  咄嗟に三鈷杵で受けると、
都筑恭平「そら!!」
  飛んできた刃が戻り、同時に天蛇王が間合を詰めてきた。
梶間頼子「!!」
  触れられたら危険だ。
  天蛇王の手に向けて三鈷杵を打ち込む。
  頼子の三鈷杵と天蛇王が手に嵌めているものがぶつかり合い、火花と青紫の霧が飛び散った。
  焦げ臭い匂いも広がる。
都筑恭平「へえ、俺の毒を焼いて無効化したか」
梶間頼子「・・・まあね」
都筑恭平「やるじゃねえか」
  蛇行剣の刃は、柄とワイヤーで繋がってぶら下がっている。
  そのワイヤーが鍔元へと引き込まれて刃が柄に収まり、元の蛇行剣になった。
梶間頼子「武器は二つなんだね」
都筑恭平「ハハ、バレたか」
  天蛇王は左の掌を見せた。
  鉄の輪が嵌められており、掌側には鋭い突起がついている。
橘一哉「バグナクだ」
  一哉が口を開いた。
橘一哉「俺もあれで散々やられた」
  何度も何度も腕を取られ、袖をボロボロにされたのだ。
  その目的は一つ。
  一哉の剣術を封じるためだ。
  天蛇王の目的は一哉を打ち倒すことでは無かった。
  彼の力を削ぐことが狙いだったのだ。
梶間頼子「手の内明かすなんて余裕だね」
都筑恭平「明かしたんじゃねえ、お前らに見破られたんだ」
  天蛇王の口振りにも態度にも、悔しさは見られない。
  手の内を見破られるのも予想の範囲内ということか。
都筑恭平「で?俺を破る算段はついたのか?」
  天蛇王は構え直して頼子に狙いを定める。
梶間頼子「・・・」
  雷と共に頼子の金剛杵の先端が更に割れて五鈷杵になった。
梶間頼子「手は幾らでもある」
  紫龍の属性である雷は一撃必殺の威力がある。
  直撃しなくとも、わずかに触れたり掠めることができれば与えられるダメージは大きい。
  ただ、消耗が激しく連発できないのが弱みだ。
都筑恭平「なら、その手を見せてもらおうか!」
  天蛇王が斬りかかる。
梶間頼子「っ!!」
  金剛杵二つで頼子は巧みに天蛇王の攻撃を捌く。
  五股に分かれて先端が大きくなったお陰で、防ぎやすくなっている。
  しかも、先端には常に雷を纏わせている。
  接触即感電のリスクを警戒して、天蛇王も迂闊に手を伸ばせない。
  しかし、
都筑恭平「どうした?そっちのやり方は守るだけか?」
  攻めているのは主に天蛇王の方で、頼子は守勢に回っている。
都筑恭平「守ってるだけじゃ勝てねえぞ!!」
  口八丁に手八丁。
  軽口を叩きながらも攻め手は一向に緩まない。
  手慣れている。
梶間頼子(こいつ、経験者だ)
  一哉や由希や玲奈のように、武道や格闘技を実際に習っているのだろう。
  頼子が捌いているとはいっても、紙一重のところだ。
都筑恭平(フフ)
  それは天蛇王の狙い通りでもあった。
梶間頼子「っ・・・!!」
  何度目かに間合を離した時、頼子は己の異変に気付いた。
梶間頼子(なに、これ・・・)
  体が怠い。
  特に、腕が重く、感覚が鈍ってきている。
都筑恭平「やっと効いてきたか」
都筑恭平「当たらなければいい、そう思ってたんだろ」
都筑恭平「天蛇の毒は、そんなに甘くないぜ」
梶間頼子(蛇の、毒・・・)
  倦怠感に負けじと両手を上げて構える頼子だったが、
橘一哉「さあ、選手交代だ」
  一哉が前に進み出た。

〇高い屋上
  一哉は刀を両手で持ち、脇構えに構える。
都筑恭平「そんなボロボロの腕で、まだ剣術に拘るのかい?」
橘一哉「これが一番慣れてるからな」
  一瞬だった。
  真後ろに向けていたはずの一哉の太刀先が、いつの間にか天蛇使いの首筋にピタリと付けられていた。
都筑恭平「こいつ・・・!!」
  今までで一番早い太刀筋だった。
  見えていたのに反応できなかった。
  天蛇の毒が回っているとは思えないほどの動きだった。
橘一哉「誰の差し金だ」
  強い語気で一哉は問うが、
都筑恭平「さあな、知らねえよ」
  天蛇王は白を切る。
橘一哉「そうかい」
  コッ、と音がして天蛇王の頭が揺れ、白目を剥いてその場に昏倒した。
  一哉は倒れた天蛇使いから目を離すことなく足を引いて残心をとり、慎重に刀を鞘に納める。
橘一哉「ここで暫く頭を冷やしとけ」
梶間頼子「気絶させたんだ」
  天蛇王の胸が微かに動いている。
  まだ息はあるようだ。
橘一哉「正解。さすが頼ちゃん、よく見てる」
梶間頼子「腕は大丈夫なの?」
橘一哉「正直、ヤベェ」
  軽い口調で笑ってはいるが、一哉の口元は引き攣っている。
梶間頼子「あたしも、ちょいヤバい」
  倦怠感は幾らか薄れたが、右腕の感覚がおかしい。
梶間頼子「紫龍がフォローしてくれないと、まともに動かすのはキツイかもしれない」
橘一哉「だろうなぁ」
  一哉は頷いた。
橘一哉「めちゃくちゃ痺れてるもん、俺」
梶間頼子「ほほう?」
  頼子は一哉に歩み寄り、
梶間頼子「ほい」
  一哉の肘をを人差し指でチョンと突付いた。
橘一哉「ぎゃああああぁぁああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
  一哉の絶叫が屋上に響き渡った。

〇階段の踊り場
橘一哉「今回は中々ハードだったわー」
  階段に腰掛けて呟く一哉。
梶間頼子「その一言ですむ?」
  その隣に座りながら頼子も口を開いた。
橘一哉「派手にやられたからなぁ」
  天蛇王との戦いを思い出しながら遠い目になる。
梶間頼子「あいつ、何者なんだろうね」
橘一哉「アイツの言葉を信じるなら、蛇の神獣使いだね」
梶間頼子「蛇かあ・・・」
橘一哉「んで、魔族側」
梶間頼子「そうなるよね」
  龍使いに戦いを仕掛けてきたということは、魔族に与していることになる。
橘一哉「ところでさ、」
梶間頼子「なに?」
橘一哉「なんで結界に入っちゃったの?」
梶間頼子「ゔっ」
  頼子の頬が引きつる。
橘一哉「天蛇王はさ、」

〇高い屋上
都筑恭平「結界には黒龍だけを入れたはずなんだがなぁ」
都筑恭平「繋がってたのか、黒龍と」

〇階段の踊り場
梶間頼子(なんで覚えてるかな・・・)
  一哉は物覚えが良い方だとは知っていたが、まさかこんな所で裏目に出るとは。
梶間頼子「あー、それは・・・」
  何と言えば良いのだろう。
  言ってしまうと、自分の秘密を曝け出すことになってしまう。
  だが、言わないと余計な不信を抱かせることになってしまう。
梶間頼子「えーっと、ですね・・・」
  頼子が言葉に迷っていると、
橘一哉「まあ、いいか」
  頼子は思わず前につんのめった。
梶間頼子「はあ!?」
橘一哉「そんなこともあるさ」
  あっけらかんとした顔で一哉は答えた。
梶間頼子「カズはそれでいいの?」
  一哉は頷いて頼子を見る。
梶間頼子「っ・・・」
  不意に一哉と目が合ってしまい、頼子は頬を赤らめた。
橘一哉「それよりも、玲奈への言い訳を考えなきゃ」
梶間頼子「そ、そうだね・・・」
  察したのか鈍感なのか、一哉は今一分からない。
  それはそれとして、
梶間頼子(こんな大変な時でも、『玲奈』か・・・)
  何となくイラッとした頼子は、
梶間頼子「ほいさ」
橘一哉「ぎにゃあぁあ!!」
  再び一哉の肘を突付いた。

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