龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第拾参話 逆襲(脚本)

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〇学校の廊下
橘一哉「ひでぇ、ひでえよ頼ちゃん・・・」
梶間頼子「いやー、面白いものが見れたなぁ」
  ケラケラと笑う頼子。
  その隣で一哉は後ろを向いて半泣きで壁にもたれ掛かっている。
  嘘泣きだが。
辰宮玲奈「ちょっと頼ちゃん、あんまりカズをいじめないでくれる?」
梶間頼子「ごめんごめん、どうしても試してみたくなっちゃってさ」
  魔族に与する神獣使い・天蛇王の事は玲奈にはぼかして話をした。
  ちょっと手強い魔族が出てきて、一哉の頼子の二人で相手をしたが腕をやられた、といった具合の話にしてある。
  一哉の反応が面白いので、つい彼の腕を突付いてしまう。
梶間頼子「これからはちゃんと奥様の許可を貰うようにするから、ね?」
  ゴメンね、と手を合わせると、
辰宮玲奈「もう、しょうがないなぁ」
  あっさり許されていた。
橘一哉(変わり身早えー・・・)
辰宮玲奈「頼ちゃんの方は本当に大丈夫?」
梶間頼子「言ったでしょ、紫龍がいるから大丈夫だって」
  電気を操る紫龍の力を利用すれば、筋肉を動かす程度は容易い。
橘一哉「でも、そっちに力回しちゃうと、いざって時に不具合が出るんじゃない?」
梶間頼子「あー、そっか」
  龍の力の使い方で、身体操作の補助と戦闘の同時使用は今までやったことがない。
梶間頼子「じゃあ、あたしはしばらく休ませてもらおっかな」
辰宮玲奈「そうだね、誰かにフォローして貰った方が安全だね」
橘一哉「誰に頼む?」
「・・・」
  間。
「・・・え?」
  玲奈と頼子の声がハモった。
橘一哉「ん?」
  二人の反応に一哉も怪訝な顔をする。
辰宮玲奈「あたしじゃないの?」
  玲奈が自分を指さして一哉に問い掛ける。
辰宮玲奈「同性でクラスメイトで大親友、最適じゃない?」
  ドヤ顔をする玲奈。
橘一哉「え?」
辰宮玲奈「え?」
  見つめ合う二人。
  沈黙が流れる。
  しかしロマンティックの欠片も無い。
辰宮玲奈「もしかして、あたしじゃ信用できないとか頼りにならないとか思ってる?」
橘一哉「いや、そうではなくて、」
辰宮玲奈「じゃあ、何?」
  一哉に詰め寄る玲奈。
橘一哉「複数人の方が良いのではないかと」
辰宮玲奈「あ、そういうことか」
  玲奈は納得したらしい。
辰宮玲奈「護衛担当と迎撃担当の二人は欲しい、ってコトね」
橘一哉「そう、その通り」
橘一哉(そういう事にしておくか)
  一哉の元々の思惑とは違ったのだが、玲奈が納得してくれたのなら、まあそれで良い。
辰宮玲奈「飯尾くんがいいんじゃないかな」
橘一哉「よっくんか・・・」
  佳明の宿す龍は、金属を属性とする緑龍。
橘一哉「紫龍の力を活かすなら、そうかも」
  金属と電気なら、分かりやすい相乗効果も狙える。
橘一哉「よっくんには俺から話してみるよ」
梶間頼子「うん、お願い」

〇中庭
橘一哉「そんなワケで、よろしく」
飯尾佳明「何がよろしくだよ」
  珍しく一哉の方から話があるというから聞いてみたら。
  頼子が不調だからフォローをしてほしいという。
飯尾佳明「俺と梶間は別クラスだぞ」
  授業中に魔族が来たらどうするつもりなのだろうか。
橘一哉「そんなこと言わずにさあ」
  頼むよ、と一哉は手を合わせて佳明に頼み込む。
飯尾佳明「梶間だったら、辰宮が同じクラスなんだから問題無いだろ」
  佳明の言う通りだ。
  同性でもあるから、一緒にいられる時間は長いし、長時間一緒にいても怪しまれたりはしない。
橘一哉「いやあ、玲奈だけだとさ、不安でさ」
  玲奈自身は親友の危機とあって意欲は充分すぎるほどにあるのだが、
橘一哉「玲奈ってさ、一度頭に血が上ると見境つかなくなるバーサーカーだから」
  そんな物騒な性格だっただろうか、と佳明は玲奈の言動を思い出してみる。
飯尾佳明(うーむ・・・)
  そんな一面は見たことがない。
  一哉の勘違いではなかろうか。
  それはそれとして、
飯尾佳明「フォロー頼むってんなら、お前はどうなんだよ」
  だいぶ派手にやられた、とは聞いた。
  両腕を重点的に攻められ、得物を持つのも難しいとは言っているが、
橘一哉「刀は使えなくても、腕を振り回せるから多分大丈夫」
  腰を捻って腕を振る一哉。
  肩の力も抜けており、下半身の力で動かしているのが分かる。
橘一哉「ほらほら」
  そこに体捌きも加えて腕を振る方向を巧みに変えてみせたり、
橘一哉「足も使えるからイケるイケる」
  器用に足を振り回したり曲げ伸ばしをしてみせる。
  更には真上に足裏を向けてピタリと静止してみせた。
  足回りの可動域、能動域、バランス感覚の何れも申し分無い。
飯尾佳明「お前なあ・・・」
  佳明は呆れた。
  腕振りも足振りも様になっており、素人の真似事や踊りには見えない。
  だが、問題はそこではなく。
飯尾佳明「治す、って選択肢は無いのかよ」
橘一哉「それはもうやってる」
  即答。
  今現在も黒龍の力で毒素の侵蝕を防ぎつつ、分解の真っ最中らしい。
飯尾佳明「なら、いいけど」
  それを聞いた佳明は一瞬納得しかけたが、
飯尾佳明「いや、良くねえわ」
  思い直した。
飯尾佳明「全快までに要する日数の見込みは?」
橘一哉「さあ?」
  キョトンとした顔で一哉は小首を傾げる。
飯尾佳明「首傾げても全然可愛くないからな」
橘一哉「胸キュンされてもそれはそれで困る」
飯尾佳明「じゃあやるなよ」
  そして照れるな、と佳明は言いたかったが、寸前の所で飲み込んだ。
橘一哉「やらずにはおれぬ大和魂を」
飯尾佳明「察したりしねえよ!」
飯尾佳明「そんな大和魂があってたまるか!」
橘一哉「つめたい」
  泣きそうな顔をする一哉だが、勿論演技である。
草薙由希「ねえ、あたしはいつまで二人の漫才を見てればいいのかしら?」
飯尾佳明「見てないで止めてくださいよ草薙先輩・・・」
草薙由希「イヤよ、だって面白いもの」
  ケラケラと笑う由希。
  本当に楽しんでいるようだ。
飯尾佳明(この従姉弟は・・・)
草薙由希「部活の方はどうするの?綾子がうるさいんじゃない?」
  こんなのでも一哉は一応剣道部の期待の新人である。
  何かあれば話題の種になってしまう。
  特に、部長であり玲奈の姉である綾子は余計に心配して詮索してくるかもしれない。
橘一哉「私用で休むって言えば良いっしょ」
草薙由希「そうね」
草薙由希「さ、見せてご覧なさい」
橘一哉「こんな感じになってる」
  無造作に両腕を差し出す一哉だったが、
草薙由希「これ、ひどいじゃない!」
  由希の顔色が変わった。
飯尾佳明「お前の方がよっぽど重症じゃねえか!」
  佳明も声を荒げる。
  学生服に隠されていた一哉の両腕は、悍ましい色に変わっていた。
橘一哉「この状態で動き回れば、囮として非常に有効だと思う」
???「囮にはならないんだなぁ、これが」
  物陰から声がした。

〇中庭
  結界が張られ、空の色が変わる。
都筑恭平「俺の目的は、もう達成済みだ」
橘一哉「天蛇王か」
草薙由希「天蛇王・・・」
飯尾佳明「こいつが・・・」
  身構える一哉、由希、佳明。
都筑恭平「そうだよ、俺が天蛇王だ」
都筑恭平「俺の狙いは黒龍に手傷を負わせること」
都筑恭平「だから、俺はもうクリア済みなんだよ」
都筑恭平「だが、あのまま終わるのは癪なんでな」
  一哉を鋭い目つきで睨みつけ、
都筑恭平「まずはテメェからだ黒龍使い!」
  袖口から蛇行剣を出して構える。
橘一哉「おうさ!」
  一哉も天蛇王に応じて戦闘態勢を取ろうとした時、
草薙由希「待ちなさい!」
  由希の一喝と共に、二人の間に薙刀が割って入った。
  地面と平行に伸びた刃渡り二尺はあろうかという大薙刀が、柵となって一哉と天蛇王を隔てている。
都筑恭平「あぁ?」
  一哉と自分の間に差し伸べられた薙刀の持ち主を見る天蛇王。
都筑恭平「お前も、龍使いか」
草薙由希「青龍使いの草薙由希よ」
  由希は名乗りを上げ、
草薙由希「カズと戦いたければ、あたしを倒してからにしなさい」
  言うが早いか刃を寝かせて天蛇王目掛けて薙刀を横薙ぎに振った。
都筑恭平「おわっ!!」
  慌てて躱す天蛇王。
都筑恭平「このゴリラ女が!!」
草薙由希「誰がゴリラよ!」
  天蛇王へと薙刀を突き付ける由希だったが、
飯尾佳明(剛力なのは確かだからな・・・)
  口には出せないので内心でツッコミを入れる佳明。
  由希は今、大薙刀の石突を片手で持ち、腕と薙刀を一直線にして地面と平行になるようにして天蛇王に切っ先を突きつけている。
都筑恭平「並の女にできる事じゃ無いからな」
  天蛇王からも解説が入った。
草薙由希「言ったわねヤサグレ陰キャ!」
都筑恭平「誰が陰キャだ!」
  天蛇王と由希の戦いが始まった。
橘一哉(え、俺、放置?)

〇教室
辰宮玲奈「んっふっふ〜」
梶間頼子「随分とご機嫌だね」
  玲奈の機嫌が良い。
  理由は分かっている。
  昨日二人で頑張った、アレだ。
辰宮玲奈「お昼休みが楽しみだね、頼ちゃん」
梶間頼子「・・・そうだね」
  少し間を置いて頼子は頷いた。
辰宮玲奈「どうしたの、頼ちゃん?」
  玲奈が怪訝な顔をして頼子を見るが、
梶間頼子「なんでもないよ」
  頼子は笑って誤魔化した。
梶間頼子(まだ知られちゃいけない)
  天蛇王の一件を知られてはならない。
梶間頼子(知れば玲奈は、きっと、)

〇中庭
草薙由希「カズの仇!」
都筑恭平「くそっ!!」
  刃を躱せば石突が、石突に応じると刃が、途切れることなく天蛇王に襲いかかる。
  緩急をつけて、間断なく。
橘一哉(俺、まだ生きてるんだけどなあ・・・)
  気合を入れるのは良いが、勝手に死人にされてしまうのはちょっと困る。
  由希の勢いは強い。
  天蛇王も長物相手とあって、かなり苦戦しているようだ。
都筑恭平「ここだ!!」
草薙由希「っ!!」
  薙刀の刃が蛇行剣の波の窪みに嵌った。
都筑恭平「オラッ!!」
  蛇行剣を捻って由希の得物を下げ、左手で掴みに掛かるが、
橘一哉「よいしょお!!」
都筑恭平「くっ!」
  横合いから一哉が蹴りを入れた。
  蛇行剣から手を離して飛び退る天蛇王。
草薙由希「せいっ!!」
  薙刀を大きく横に振り、引っ掛かっている蛇行剣を遠くに放り投げる。
飯尾佳明「さあ、ここからは俺が相手だ!」
草薙由希「飯尾くん!」
  佳明が入ってきて天蛇王に打ち掛かるが、
橘一哉「ちょっと待った!」
  佳明の鞭剣を、割って入った一哉が受け止めた。
  素手で。
飯尾佳明「何のつもりだカズ!」
  思わず佳明が声を荒げると、
橘一哉「天蛇王の標的は俺だ」
橘一哉「だから、俺が相手をする」
飯尾佳明「本気で言ってるのか、お前」
  一哉の傷は未だ癒えていない。
草薙由希「わざわざ相手の挑発に乗る必要なんてないでしょ」
  由希の言う通りだ。
  しかし、
橘一哉「これは誇りの問題だ」
  そう言って一哉は天蛇王に向き直る。
橘一哉「俺はこれだけ動けるんだ、お前の目的はまだ達成なんか出来ちゃいないぞ?」
都筑恭平「ああ、そうみたいだな」
  横合いから蹴り飛ばしたかと思えば、今度は庇われた。
  しかも、龍の力が宿った武器を、彼は素手で受け止めている。
  あれだけ毒を打ち込んだのに、短時間でかなり回復しているようだ。
都筑恭平「今度こそ、再起不能にしてやる・・・!!」
  蛇行剣が飛ばされた方向に天蛇王が手をかざすと、
草薙由希「!!!!」
  蛇行剣が跳ねて一直線に天蛇王の手元に戻ってきた。
  慌てて身をかわし、由希は我が身に蛇行剣が当たるのを防いだ。
都筑恭平「蛇の毒、たっぷり味わわせてやる」

次のエピソード:第拾四話 再戦

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