第3話 殺人の音はガチョーン? 後編(脚本)
〇立派な洋館
ビュウウウゥゥ・・・!
沙鬼「うきゃあああーーーっ!」
沙鬼「風つよい! 雨やばい! マジ落ちるって!」
緋崎神郎「がんばれー地面から応援してるぞー」
沙鬼「棒読みすぎる!」
沙鬼「ていうか屋根に登るとかフツー下僕の役目なんじゃない!?」
沙鬼「なんで私がこんなことやんなきゃいけないの!」
緋崎神郎「でも俺、吸血鬼じゃないから落ちたら死ぬし」
沙鬼「そうだけど!」
緋崎神郎「自信を持てーお前ならできるー」
沙鬼「せめてもっと感情込めて言って!!」
俺は緋崎神郎。
殺人事件現場に潜り込んでは探偵のフリをして事件を解決し、謝礼を巻き上げるケチな詐欺師だ。
そして台風の中で屋根にへばりついているのは、相棒である吸血鬼の沙鬼。
俺は沙鬼に血を吸われ、不本意ながら下僕になった。
つまり沙鬼は俺のご主人様にあたるわけだ。
そのご主人様がなんでこんなことをしているのか。
発端は1時間前に遡る。
〇広い更衣室(仕切り無し)
沙鬼「そう言えば、寝てるときガチョーンって音がしたような」
緋崎神郎「ガチョーン?」
沙鬼「そのガチョーンで密室作ったんだよ! たぶん!」
緋崎神郎「えー」
台風で孤立した島で発生した殺人予告。
事件解決のために沙鬼は最初の犠牲者になることに成功した。
しかし犯人(山田)は特定できたものの、殺害現場は密室になっていた。
殺人予告に書かれていた夜12時まであと2時間。
それまでに密室の謎を解いて第2の犯行を阻止しなければならない。
残されたヒントは、ガチョーンという音だけ・・・
〇広い更衣室(仕切り無し)
沙鬼「あ、おかえり神郎! どうだった?」
緋崎神郎「山田からヒント得ようとしたがダメだ。 警戒してて誰とも話そうとしない」
沙鬼「じゃあどうするの?」
緋崎神郎「さあ」
沙鬼「しっかりしてよ! そーゆーの神郎の役目でしょ?」
緋崎神郎「そもそもお前が寝なかったらこんなことになってないんだよ!」
沙鬼「さっきゴメンって言ったじゃん!」
沙鬼「あ、それより血吸ってもいい?」
緋崎神郎「お前、今回はそんなに血流してないだろ」
沙鬼「夕ご飯食べてないからお腹空いたの!」
緋崎神郎「・・・ほら、さっさと吸え」
沙鬼「ちゅー」
緋崎神郎「いてっ! もっと丁寧に吸えよ! 痕になるだろ!」
緋崎神郎「・・・痕になる?」
緋崎神郎「そうだ、音がしたのならどこかに痕跡が残ってるかも・・・おい沙鬼!」
沙鬼「ふにゅ?」
緋崎神郎「もっかい探すぞ」
沙鬼「部屋の中はさっき探したじゃん」
緋崎神郎「そういやドアは施錠されてたけど窓は開いてたんだよな・・・部屋の中とは限らない」
緋崎神郎「部屋の外も探してみよう」
沙鬼「外って、ここ4階だよ?」
緋崎神郎「外の地面に何かないか?」
沙鬼「地面? ちょっと待って・・・」
沙鬼「あ、土に輪っかみたいな痕がある」
緋崎神郎「フム・・・沙鬼、ちょっと頼みがある」
沙鬼「え?」
緋崎神郎「お前にしかできないことなんだ」
〇立派な洋館
嫌がる沙鬼をどうにか屋根に登らせて、今に至るというわけだ。
沙鬼「もうやだ! 帰る!」
緋崎神郎「事件終わったら徹夜でゲームに付き合ってやるから!」
沙鬼「・・・ホラー映画もいっしょに見てくれる?」
緋崎神郎「いくらでも見てやる!」
沙鬼「言ったね! 約束だからね!」
沙鬼「さっき言ってたアレ、どこにあるんだっけ?」
緋崎神郎「ホールに降りたときにテレビの映りが悪くなったとか言ってたな・・・たぶんテレビのアンテナの近くだ」
沙鬼「これかな? 神郎、投げるよ!」
ガチョーン!
沙鬼「あっ、この音!」
緋崎神郎「密室の謎はこれで解けた」
〇広い更衣室(仕切り無し)
沙鬼「あー、大変だった・・・で、これでどうやって密室を作ったの?」
緋崎神郎「これをゴニョゴニョして・・・」
沙鬼「え? それうまくいく?」
緋崎神郎「普通は失敗すると思うけど、ほら、お前殺される呪い受けてるだろ。 それでうまくいっちゃったんじゃないかな」
沙鬼「そういえば私、殺される前にこれ見たわ」
緋崎神郎「それ先に言えよ!!」
緋崎神郎「とにかく時間がない、これで山田を締め上げよう」
〇大広間
緋崎神郎「犯人は山田さん、あなたですね」
山田「違う! 僕じゃない!」
山田「証拠はあるのか! そうだ密室・・・密室の謎はどう説明するんだ!」
緋崎神郎「密室の謎なら解きました」
山田「なんだって・・・」
緋崎神郎「あなたはこれで密室を作った・・・違いますか!」
ジャーン。
オーナー「・・・なんですかそのでっかいの」
客A「ワイヤーをぐるぐる巻きにしたもののように見えますが」
客B「あ、ひょっとしてバネ?」
緋崎神郎「ハイ正解! 巨大なバネです」
客C「でかっ!」
客D「これでどうやって密室を?」
緋崎神郎「ほら、バネに長い紐が結んであるでしょ。この紐20メートルあります」
緋崎神郎「部屋の鍵はドア側についた落とし鍵を壁側にカチャンと落とす、あおり止めタイプの古い鍵です」
緋崎神郎「そしてドアには鍵がかかっていましたが窓は開いたままでしたね?」
オーナー「はい、確かに」
緋崎神郎「犯人はバネに結んである紐をドアの落とし鍵に引っ掛けて、窓から地面に向かってバネを思い投げつけました」
緋崎神郎「そして急いで部屋の外に出てドアを閉めたのです」
緋崎神郎「バネは地面に叩きつけられてガチョーンと跳ね上がり、屋根の上に飛んでいく・・・」
緋崎神郎「その際、バネによって紐がひっぱられて落とし鍵が落ち、ドアが施錠されたのです」
オーナー「えっ・・・」
緋崎神郎「・・・まあ、ツッコミどころはたくさんあると思いますが、たまたまうまくいって密室ができたんじゃないかと」
客A「あの・・・犯人の方に質問が」
山田「え?」
客A「バネがまっすぐ飛び上がらなかったらどうするつもりだったんですか?」
客B「バネが屋根の上に乗らずに誰かに発見されたら?」
客C「ていうか、バネ必要なくないですか?」
客D「鍵に結んだ紐を窓から垂らして外から引っ張るほうが確実よね?」
山田「ううっ」
緋崎神郎「・・・まあ、ダメ出しはその辺にしといてあげてください。山田さん、あなたが犯人ですね?」
山田「・・・はい」
山田「私は以前E子に騙されて全てを失いました。その復讐に・・・」
E子「え? ごめん、あなた誰? 憶えてないんだけど」
山田「本名は上原です、大学の同級生の」
E子「ごめん、やっぱ記憶にないわ」
山田「ううっ!」
緋崎神郎「・・・その辺にしといてあげてください」
〇豪華なクルーザー
緋崎神郎「・・・やっと島とおさらばだ」
山田「あの、いいんですか? 勝手に島から出ていっちゃって」
緋崎神郎「いーの、オーナーには話通してあるから。犯人は俺が警察に連行する、事件は噂にならないように処理するって」
山田「はあ」
緋崎神郎「船降りたら帰っていいよ」
山田「え、だって僕、人を殺して・・・」
緋崎神郎「あそこでゲームしてる子、誰だ」
山田「え? わあっ!? 僕が殺した子!?」
沙鬼「あれはびっくりして心臓止まってただけだから気にしないで〜」
緋崎神郎「本人もああ言ってるし、ね」
山田「でも僕、自由になったらまたあの女に復讐するかもしれませんよ?」
緋崎神郎「そんなの自由意志だし。 やりたきゃやればいいと思う」
緋崎神郎「あの女、やな奴だしさ。 さんざんゴネて謝礼くれなかったよ」
沙鬼「やな奴に関わったら自分もどんどんやな奴になっちゃうよ。やめときなよ」
山田「・・・そうですね、復讐はもうやめようと思います。僕、殺人の素質ないみたいだし」
緋崎神郎「俺もそう思う」
沙鬼「私もそう思う」
山田「う」
沙鬼「ねえ、そんなに素質ないのにどうして殺そうと思ったわけ?」
山田「E子がここに宿泊することを教えられたんです。台風も来るし、やるなら今だと・・・」
緋崎神郎「誰から?」
山田「匿名のメールがあって・・・」
緋崎神郎「匿名?」
もしかして・・・キリオか?
殺人事件が起きるように仕込んで、俺たちを呼んで事件に関わらせた。
いったい何が目的だ・・・?
沙鬼「これからどうするつもり?」
山田「今回、殺人を計画するにあたって、たくさんトリックを考えたんです。それを活かしてミステリー作家になろうと思います!」
緋崎神郎「やめたほうがいいと思う」
沙鬼「私もそう思う」