第4話 呪われすぎた村からの脱出! 前編(脚本)
〇合宿所の稽古場
婆4「祟りじゃ〜〜〜!」
緋崎神郎「・・・沙鬼、これで何人目だ?」
沙鬼「えーと、4人目?」
緋崎神郎「おばあちゃん、お帰りはあちらですよ」
スケキヨ「では次のおばあちゃんどうぞ」
緋崎神郎「・・・スケキヨさん、まだいます?」
スケキヨ「あと5人ほど」
緋崎神郎「この村、なんでこんなに祟りばっかりなんだよ!」
スケキヨ「ここは呪われた村なのです」
緋崎神郎「呪われすぎだろ!」
俺は緋崎神郎。
殺人事件に首を突っ込んでは探偵のフリをして事件を解決し、関係者から謝礼を巻き上げる詐欺師だ。
だから専門はミステリであってホラーではない。
そんな俺がなぜこんなホラーな状況に巻き込まれているのかと言うと・・・
沙鬼「え? 私のせい?」
緋崎神郎「お前のせいに決まってるだろ!」
〇車内
――6時間前。
沙鬼「ね、神郎。もう買い物終わり?」
緋崎神郎「ああ、終わった」
沙鬼「チョコは買ってくれた?」
緋崎神郎「チョコもポテチもトマトジュースも、お前に頼まれたものは全部買ったよ」
沙鬼「じゃあもう帰るだけ?」
緋崎神郎「そうだな」
沙鬼「ちょっと寄り道してもいい?」
緋崎神郎「寄り道? どこに行くんだ?」
沙鬼「ポケクリのクリーチャーを探しに行きたいの!」
緋崎神郎「何だよポケクリって」
沙鬼「ポケット・クリーチャー。 あちこち歩きまわってクリーチャーを集めるソシャゲだよ」
緋崎神郎「そんなもんは知らん」
沙鬼「特定の場所にしかいない限定クリーチャーがいるの。今から探しに行こ?」
緋崎神郎「歩いていけよ」
沙鬼「やだよ! せっかく車に乗ってるのに!」
緋崎神郎「わかったわかった・・・じゃあナビしてくれ。できるか?」
沙鬼「あー、バカにした! できるよそれくらい!」
〇車内
緋崎神郎「・・・おい、まだか? もう5時間くらい走ってて外は真っ暗なんだが」
沙鬼「たぶんもうすぐだと思うけど」
緋崎神郎「店も民家も見えないな・・・お前どこ目指してるの?」
沙鬼「○☓海浜公園」
緋崎神郎「はあ!? どう見ても山奥なんですけど!? 山2つくらい超えてますけど!?」
沙鬼「あっ、明かりが見える!」
緋崎神郎「・・・ひとまず道でも聞いてみるか」
〇寂れた村
沙鬼「・・・七墓村公民館?」
緋崎神郎「あからさまに人が死にそうな名前の村だな・・・」
――ガヤガヤ。
村人A「お前は誰が大神家の次期当主になると思うべ?」
村人B「悩ましいな。なんせ候補が7人もいっからな」
村人A「俺は3人目のニセ太郎に千円賭けるべ」
村人B「んだば、おらは4人目のサギの助に2千円だ」
沙鬼「夜なのに人がいっぱいいるね。 お祭りでもあるのかな?」
緋崎神郎「あ、すみません。そこのマスクの人」
スケキヨ「はい? ・・・おや、村の方ではないですね?」
緋崎神郎「はい、道に迷って来ちゃったんですけど」
スケキヨ「最寄りの街に出るには4時間ほどかかります」
スケキヨ「もう遅いですから、今夜は公民館にお泊りになっては」
緋崎神郎「4時間・・・そうするか」
スケキヨ「私はスケキヨと言います。去年村に移住してきた新参ですが、何かわからないことがあればお声がけください」
沙鬼「ね、なんでマスクかぶってるの?」
緋崎神郎「おい、込み入ったこと聞くな」
スケキヨ「ハハ。 まあ、あまり顔を見られたくないというか」
緋崎神郎「すみません・・・ええと、今日はお祭りでもあるんですか? 夜中にしては人が多いですけど」
スケキヨ「ええ、村で事件がありまして」
緋崎神郎「事件?」
スケキヨ「この村の土地はほとんどが大神家という大地主のものなのですが、そこの当主が先週亡くなったのです」
緋崎神郎「もしかして・・・殺人とか?」
スケキヨ「いえ、殺人ではないですが・・・」
沙鬼「なんだ、違うんだ」
スケキヨ「大神家は相続者である長男が1年前に失踪していて、現在、次期当主が不在なのです」
緋崎神郎「・・・きな臭くなってきたな」
沙鬼「どゆこと?」
緋崎神郎「ミステリの香りがしてきたってことさ」
スケキヨ「そこに当主の隠し子を名乗る自称・息子が7人も現れて・・・」
緋崎神郎「ほらな」
スケキヨ「さらにその7人の殺人を予告する手紙が届き・・・」
沙鬼「おー」
スケキヨ「村では誰が生き残って当主になるかトトカルチョが始まり、ちょっとしたお祭り騒ぎになっているというわけです」
緋崎神郎「みなさん楽しんでますね・・・」
スケキヨ「田舎町は娯楽がありませんから。 では私はこれで・・・」
緋崎神郎「・・・チャンスだ」
沙鬼「チャンス? トトカルチョに参加するの?」
緋崎神郎「違う。仕事のチャンスってことだ」
沙鬼「仕事っていつものやつ?」
緋崎神郎「殺人予告されてる奴が7人もいるんだぞ? 犯人を捕まえれば謝礼が7人分入るってことだろ」
沙鬼「おー!」
緋崎神郎「てなわけで、ちょっと大神家に行ってくるわ」
〇合宿所の稽古場
沙鬼「この村、電波通じなくてソシャゲできない・・・」
沙鬼「早く帰りたいな・・・あ、神郎! どうだった?」
緋崎神郎「バッチリだ。 7人それぞれと殺人犯から守るって契約を結んできた」
沙鬼「全員と? すごいじゃん!」
緋崎神郎「7人とも殺人予告は他の候補者の仕業だって思ってるからな。すぐ飛びついてきた」
沙鬼「犯人ってやっぱ候補者の誰か?」
緋崎神郎「まあ、そうだろうな。 うまくいけば遺産総取りになるわけだし」
沙鬼「じゃあ7分の1だし楽勝だよね! 早く解決して家に帰ろ? ここ退屈なの!」
緋崎神郎「そうだな。チャチャッと・・・」
婆1「祟りじゃ〜〜〜!」
沙鬼「きゃあああ!」
緋崎神郎「・・・いきなり何ですか、おばあちゃん」
婆1「大神家の当主は首なし地蔵の祟りで死んだのじゃ」
婆1「欲深き7人も祟りにより殺されるであろう!」
緋崎神郎「スケキヨさん、首なし地蔵って?」
スケキヨ「村には首なし地蔵と呼ばれる7体の地蔵があるんです」
スケキヨ「その地蔵に殺人予告そっくりのわらべ唄が刻まれてまして・・・」
緋崎神郎「誰かがわらべ唄になぞらえて当主候補を殺そうとしている・・・今回は見立て殺人ってことか」
沙鬼「見立て殺人って?」
緋崎神郎「童謡とかの歌詞に合わせて殺人を起こすのさ。祟りのせいに見せかけてな」
婆2「祟りじゃ〜〜〜!」
沙鬼「あれ? さっきと違うおばあちゃん?」
婆2「あれは七人の落ち武者の祟りじゃ〜!」
沙鬼「え? 首なし地蔵じゃないの?」
緋崎神郎「・・・落ち武者の墓もあるんです?」
スケキヨ「はい。そこには殺人予告そっくりの短歌が刻まれてまして・・・」
婆3「祟りじゃ〜!」
婆4「祟りじゃ〜!」
緋崎神郎「何人出てくるんだよ!」
〇合宿所の稽古場
婆10「祟りじゃ〜」
沙鬼「はいはい。 おばあちゃん、おやすみなさーい」
緋崎神郎「今のでひとまず最後か。 出てきた祟りは・・・全部で10個?」
沙鬼「ね、祟りってホントにあるの?」
緋崎神郎「なわけないだろ。 誰かが祟りに見せかけて殺人しようとしてんだよ」
沙鬼「でもこれだけ祟りの話があるんだよ? 1つくらい本物だったり・・・」
緋崎神郎「なわけないだろバカ。 今の世の中、祟りなんて迷信なの。 怪異なんて存在しないの」
沙鬼「バカってなに! 私いちおう吸血鬼なんですけど? 怪異なんですけど!」
緋崎神郎「そういやそうだったな。 つい忘れちゃうんだよ。 なんかこう、怪異っぽくないからさ」
沙鬼「むきー! バカだからって言いたいんでしょ!」
緋崎神郎「そこまで言ってないだろ!」
沙鬼「さっきからバカバカムカつく! バカっていう方がバカなんだよ!」
緋崎神郎「うるさいな。 誰のせいでこんなとこに来たと思ってんだ」
沙鬼「はいはい、どーせ私のせいですー!」
緋崎神郎「そう怒るなよ」
沙鬼「責任とって解決すればいいんでしょ!」
緋崎神郎「解決って、どうするつもりだ」
沙鬼「祟りなんて存在しないなら、殺人予告を出した犯人は人間でしょ?」
沙鬼「で、私は死を呼ぶ呪いにかかってるから、出歩いてれば殺人犯に殺されるはずでしょ?」
緋崎神郎「まあ、理屈ではそうだな」
沙鬼「殺されて犯人の姿を見てきてあげるもん! 役立たずの神郎の代わりに!」
緋崎神郎「役立たずとは何だ」
沙鬼「うっさい! 行ってきます!」
緋崎神郎「おい、沙鬼!」
――バタン!
緋崎神郎「・・・人の話も聞かないで」
緋崎神郎「こんだけ村人が騒いでる中で人殺す奴はいないと思うがな・・・まあ、そのうち帰ってくるだろ」
沙鬼「きゃー!」
緋崎神郎「え! もう殺されちゃった!?」