読切(脚本)
〇病室のベッド
「渋谷に行きたいんだが・・・」
それは突然の告白だった。
拓海(なんで渋谷? 若者の街だぞ。 還暦を超えた親父が行くような場所では・・・と思いながらも)
がんを患い、余命半年と宣告された
親父の最後のお願い
断る理由などなかった。
そう、このとき、俺は何も知らなかったのだ。
〇ハチ公前
拓海「着いたぞ。親父 どこに行きたいんだ?」
親父「そうだな・・・」
拓海「しかし、今日はやけに人が多いな。 スクランブル交差点も車止まってるし、何かイベントか・・・」
そう言って、交差点に目をやると、見たことがある顔があった。
拓海「あっあれ、GoodBadじゃん!!」
GoodBadは、人気ユーチューバー。元警察官の3人組で危ない実験動画が人気を博していた。
拓海「で、どこ行く? ヒカリエ? 東郷神社?」
親父「ここでいい。悪いな、タクミ」
訳の分からない返答に困惑していると、突然、周りがざわめき始めた。
〇渋谷駅前
交差点の大型ビジョンに突如、メッセージが流れたのだ
〇渋谷駅前
あなたは目撃者です。
〇渋谷駅前
拓海「なんだ、あれ!?」
通行人A「イベントかな!?」
通行人B「テレビの宣伝じゃない!?」
〇渋谷駅前
渋谷にいる皆さん、こんにちは。
これはイベントでもテレビの宣言でもありません。
今から、あなたは目撃者になります。
〇渋谷駅前
拓海「ん?何が始まるんだ。 怖いし、離れようか、親父」
親父「悪いな、タクミ。お前を巻き込んで」
拓海「えっなに??」
意味が分からず茫然としていると、
衝撃音とともに、ビジョンに再び文字が浮かび上がる。
ようこそ、GoodBadの皆さん。
あなた方が今日の主役です。
どうぞ中央へ
GoodBad 合田「なんだよ。やっぱりテレビか!?」
GoodBad 城谷「仕方がないな、出てやるよ」
GoodBad 小川「ギャラは高いぞ!!」
GoodBadに気づいた周りから歓声が飛ぶ。
すごい人気ですね。
お一人ずつ、お名前をどうぞ。
大型ビジョンに流れるメッセージに、
GoodBadの3人がノリノリで答えていく。
拓海「親父、どういうこと?? 今、起きていることと親父は関係あるの!?」
親父「・・・・・・」
では、ゲームをはじめましょう。連想ゲームです。キーワードあげていきますので、答えが分かった時点で、お答えください。
賞金は百万円です!!
GoodBad 合田「百万?? マジかよ」
GoodBad 城谷「いいね。おもしろい!!」
GoodBad 小川「もちのろんで 参加だ!!」
では。いきますよ。
ひとつめのキーワードは
3.22
GoodBad 合田「なんだ? なんかの数字か?」
GoodBad 城谷「誰かの誕生日!?」
GoodBad 小川「それだけでわかるかよ!!」
〇渋谷駅前
白のワンピース
次々にキーワードが浮かび上がる。
赤い靴
15歳
〇渋谷駅前
GoodBad 小川「わかった。アイドルだ!!」
残念。ハズレ。わかりませんか?
では、ヒントを差し上げましょう。
20年前、あなた方が高校生だった時の話です。
GoodBad 合田「はっ、20年前!?」
GoodBad 城谷「ということは俺たちが18歳?」
GoodBad 小川「どういうことだよ!?」
まだピンときませんか。
では大ヒントです!!
KITAGUCHIRIKA
GoodBad 小川「はっ英語?余計わかんねーよ!!」
GoodBad 城谷「K I T A・・・あっ!?」
ひとりの男の顔が明らかに変わった。
GoodBad 城谷「KITAGUCHI RIKAだ──!!」
そして、大型ビジョンに最後のキーワードが、少女の写真ともに浮かぶ
〇渋谷駅前
「北口りか」
〇渋谷駅前
拓海「えっ嘘? どういうこと?」
その名前には見覚えがあった。
20年前に亡くなった姉の名前だ。
でも、どうして姉ちゃんが・・・
姉は、俺が三歳の時に交通事故で亡くなったはずじゃ・・・
拓海「親父、いい加減、教えてくれ。 どういうことなんだ!?」
親父「見てたらわかる!!」
名前と写真を見た瞬間、三人の顔が強張った。
〇渋谷駅前
ようやくわかりましたか。
そうです。20年前、あなた方が強姦した女性・北口りか。
当時15歳の娘をあなた方は渋谷で襲った。
それで一週間後、娘は・・・
自ら命を絶った・・・
交通事故ではなかった。
親はまだ幼かった俺には嘘をつき、
その事実をひた隠しにしていたのだ。
〇渋谷駅前
GoodBad 小川「はっ言いがかりだ。 証拠なんてないはずだ!!」
そうです。ありません。
あなた方が警察官である親に頼み揉み消したんですから。
でも、娘はあなた方の顔を覚えていた。
それで私に伝えていた。
警察は取り合ってくれませんでしたが・・・
GoodBad 城谷「じゃ―俺たちは無実だ。 当時は未成年。それに自殺はそっちの勝手だろうが!!」
その発言に親父がいきなり飛び出し言い放った。
親父「そうだ。罪には問われない。でも、それでは娘が不憫じゃないか。お前らのせいで、娘は・・・」
親父「法律が許しても、お前らの悪態は俺が裁く!!」
そう叫ぶ親父を見て、タクミも涙がとまらなかった。
ビジョンのメッセージもGoodBadを渋谷へ招待したのもすべて親父が仕向けたことだった。
親父「ここにいる皆さんが目撃者です。 罪には問われない。 でもお前たちは今日で終わりだ!!」
そして、ようやく警察官が現れた。
でも、騒ぎを起こしたとして、連行されたのは親父だった。
その時、ひとりの女性が親父に駆け寄ってきた。
女性「私、見ました。あいつらの暴行。 20年前の・・・」
女性「私が目撃者です!!」
〇渋谷の雑踏
ここ渋谷は人が多く集まる若者の街。
ただ、それだけじゃない。
人が多く集まる分、誰かが見ている。
その愛しさも優しさも、そして罪も。
誰も見ていないと思っていても、誰かが見ている。
そう、あなたが目撃者です。
法で裁けなく、賠償も困難、それでも行った父親の執念が感じられます。人生最後の大仕事かもしれないこの大舞台、念願が叶い読んでいて安堵の気持ちでいっぱいです。
お父さんは、この秘密を抱えたままでは安らかにいけなかったでしょうね。さいごに目撃者が現れてくれたことで、正義は最後には勝つというエンディングでほっとしました。やはり、悪いことをしたら、自分にいつかかえってきますね。
20年間辛かったでしょうね…死を目前にして、娘さんを自殺に追い込んだ犯人達を明るみに出せてよかったです。
もう犯人達は社会的に終わってしまったと思うので、お父さんの最後の仕事は無事終わったんですね。