第九話・新しい世界へ(脚本)
〇謎の施設の中枢
第七階層・とある研究室
ニール・ハウルゼン「局長閣下、無事にご退院されて何よりです」
テオ・スノーヘル「ありがとう」
ニール・ハウルゼン「私に見せたいものがあると伺いましたが」
テオ・スノーヘル「ああ、これのことなんだ」
テオ・スノーヘル「連れてきたまえ」
ニール・ハウルゼン「これは・・・・・・?」
テオ・スノーヘル「〈トモシビ〉と軍用ロボットを融合させた新兵器だ」
テオ・スノーヘル「ここのところ、ずっと研究させていたんだがね」
テオ・スノーヘル「君のような〈トモシビト〉と共に、今後はこれらを運用していこうと考えている」
テオ・スノーヘル「生体ロボットのみに絞ろうとも思ったが、やはり人間には人間の長所があるからな」
テオ・スノーヘル「〈トモシビト〉の数も増えてきた」
テオ・スノーヘル「そこで、君には〈トモシビト〉だけの部隊の隊長を任せたいと思っている」
ニール・ハウルゼン「本当ですか!?」
テオ・スノーヘル「ああ。君のような信頼のおける人物にこそふさわしい役職だ」
ニール・ハウルゼン「しかし──」
テオ・スノーヘル「なんだね?」
ニール・ハウルゼン「いえ、何でもありません」
テオ・スノーヘル「言いなさい」
ニール・ハウルゼン「その、私よりふさわしい方がいたのではないだろうかと」
テオ・スノーヘル「君より適任者はいないだろう」
テオ・スノーヘル「君こそ〈トモシビト〉の第一号なのだから」
ニール・ハウルゼン「第一号?」
ニール・ハウルゼン「第一号?」
ニール・ハウルゼン「この国で最初の〈トモシビト〉はベリル・オークランド二等調査官だったはずですが」
テオ・スノーヘル「そのような者はいない」
テオ・スノーヘル「もう一度言うぞ」
テオ・スノーヘル「そのような者はいない」
ニール・ハウルゼン「ナイラ主任研究員の姿も見当たりませんが」
テオ・スノーヘル「そのような者はいない」
テオ・スノーヘル「最初から、な」
テオ・スノーヘル「わかったね、ハウルゼン四等調査官」
テオ・スノーヘル「いや、もうすぐ三等調査官か」
テオ・スノーヘル「くれぐれも言動に気を付けたまえ」
ニール・ハウルゼン「・・・・・・肝に銘じます」
テオ・スノーヘル「では、命令だ」
テオ・スノーヘル「君の能力を以て、必ず反政府組織を殲滅しろ」
テオ・スノーヘル「わかったな」
テオ・スノーヘル「何があった」
ニール・ハウルゼン「第六階層に、〈昏人〉が出現したと」
テオ・スノーヘル「ちょうどいい。初陣といこうか」
テオ・スノーヘル「君もついてきたまえ」
〇廃ビルのフロア
ニール・ハウルゼン「〈昏人〉が出現したのはこのあたりと聞いていますが、いませんね」
アマテ「やぁ、久しぶりだね」
テオ・スノーヘル「お前は!?」
アマテ「あなたならよく知っているはずだよ」
アマテ「私を目覚めさせた張本人だからね」
ニール・ハウルゼン「局長閣下!?」
テオ・スノーヘル「騙されるな!こいつの言っていることはすべて出鱈目だ!!」
ニール・ハウルゼン「お前はあの日、先輩を襲った・・・・・・!」
アマテ「そう、反政府組織のリーダー」
アマテ「地上時代に作られた〈トモシビ〉を使った兵器で──」
アマテ「そこにいるロボットのプロトタイプだ」
アマテ「でも私は彼と違って、生憎自我があるもんでね」
アマテ「それを不都合に思った人間たちによって封印された」
アマテ「でも人間たちは、もう一度私が必要になった」
アマテ「自我を持たない、でも〈トモシビ〉の力は使える、そういう兵器を生み出すためにね」
アマテ「そうだよね、治安維持局長さん?」
テオ・スノーヘル「黙れ!!」
アマテ「私を目覚めさせれば、政府や人間に対する復讐心が生まれる」
アマテ「そこまで見込んでたんだよね、きっと」
アマテ「私という敵を作り、新しい兵器で倒すことで英雄になりたかった」
テオ・スノーヘル「ハウルゼン四等調査官!そいつを黙らせろ!」
テオ・スノーヘル「お前もだ!行け!」
アマテ「止まれ」
テオ・スノーヘル「動かなくなった!?」
アマテ「私は〈トモシビ〉の集合体」
アマテ「私も「彼」も、基本的には同じ技術で作られてる」
アマテ「「彼」に干渉することも不可能じゃない」
アマテ「詰めが甘いよ」
テオ・スノーヘル「こちらに、向かってくるだと!?」
テオ・スノーヘル「ハウルゼン!「彼」を破壊しろ!」
ニール・ハウルゼン「し、しかし・・・・・・!」
テオ・スノーヘル「早くしろ!「彼」の制御が効かなくなる前に!!」
ニール・ハウルゼン「はっ・・・・・・」
ニール・ハウルゼン「駄目だ、倒れない・・・・・・!!」
アマテ「兄弟、そのまま進もう」
テオ・スノーヘル「やめろ!!やめてくれーっ!!」
ニール・ハウルゼン「局長閣下!!」
アマテ「行かせないよ」
アマテ「邪魔しないでくれるかな」
アマテ「局長閣下のお望み通り、政府に復讐をしてあげてるんだから」
ニール・ハウルゼン「局長、閣下・・・・・・?」
アマテ「はー・・・・・・すっきりした」
アマテ「やっぱり、干渉は負荷が強いな・・・・・・」
アマテ「まあ、いいか・・・・・・」
アマテ「どうせ、私ももうじき────」
ニール・ハウルゼン「アマテ、お前は・・・・・・」
アマテ「ただの復讐だよ」
アマテ「人間に勝手に生み出されて、勝手に封印されて、勝手に目覚めさせられた」
アマテ「ただ、それをやり返したかっただけ」
アマテ「さあ、〈トモシビト〉のお兄さん」
アマテ「倒してよ、私を」
ニール・ハウルゼン「は?」
アマテ「君が一部始終を見ていた通り、私は治安維持局長を殺した」
アマテ「ここで君が私を倒せば、この世界は正しい形に収まるんだ」
アマテ「だから早く倒しなよ、私を」
アマテ「もう仲間も失った、さっきの干渉で身体に負荷もかかってる」
アマテ「私を倒すなら、今しかないよ」
ニール・ハウルゼン「本当に、いいのか」
アマテ「何、今更同情?」
ニール・ハウルゼン「知らなかったんだ。局長閣下がそんなことをしていたなんて」
ニール・ハウルゼン「先輩も、ナイラ主任研究員も消された」
ニール・ハウルゼン「それも全部、局長がやったんだ」
アマテ「そうだとしても、この国では記録に残らない」
アマテ「最初から、存在しなかったことになる」
アマテ「世界を変えたい?平等にしたい?」
アマテ「かつて何人もの反政府組織の人間が夢見たように?」
ニール・ハウルゼン「それは・・・・・・」
アマテ「そういう人間を片っ端から消してきたことは、君が一番分かってるはずだよ」
アマテ「ここで私を倒すのが一番正しい。そうと違う?」
アマテ「ここで私をを見逃がして、また国民が犠牲になったら?」
ニール・ハウルゼン「・・・・・・」
アマテ「覚悟は決まったみたいだね」
ニール・ハウルゼン「ああ」
ニール・ハウルゼン「これが俺の、正しさだ」
アマテ「さようなら」
ニール・ハウルゼン「やった、のか、俺は・・・・・・」
フーカ・ナイラ「今の音は何?」
ニール・ハウルゼン「ナイラ主任研究員!?」
ベリル・オークランド「先生、待ってください」
ニール・ハウルゼン「先輩!?」
ベリル・オークランド「ニール!?」
ベリル・オークランド「人が倒れて──局長に、アマテも?」
フーカ・ナイラ「何があったの?」
ニール・ハウルゼン「それが・・・・・・」
フーカ・ナイラ「とりあえず、場所を移そうか」
〇地下室
フーカ・ナイラ「つまり、治安維持局長が第六階層に治安維持局長が来るよう、アマテが仕向けた」
フーカ・ナイラ「そこで一緒にやってきたあの生体兵器に干渉して局長を殺した、そういうわけだね」
ニール・ハウルゼン「そうです」
フーカ・ナイラ「ハウルゼンくんは第一階層に連絡を」
フーカ・ナイラ「一部始終を話すと良い」
フーカ・ナイラ「君が責められる謂れはない」
フーカ・ナイラ「むしろ逆なはずだ。反政府組織の頭目を倒したんだから」
フーカ・ナイラ「どうしたの?」
ニール・ハウルゼン「いえ・・・・・・」
ニール・ハウルゼン「それが、この国にとって最も正しい姿なのはわかっています」
ニール・ハウルゼン「でも、俺は何のために〈トモシビト〉になったのか──」
ベリル・オークランド「少なくともアマテは国民を〈トモシビト〉にしようとしていた」
ベリル・オークランド「そして適合しなかった人間を〈昏人〉として、別の人間を襲わせていた」
ベリル・オークランド「その連鎖を止めたことは事実だ」
ニール・ハウルゼン「先輩・・・・・・」
ニール・ハウルゼン「自分、前に話しましたよね」
ニール・ハウルゼン「自分は兄の贋作として育てられた」
ニール・ハウルゼン「兄のようになるように、兄がなりたかった治安維持局の調査官になれるように」
ニール・ハウルゼン「だから自分は、兄が持っていないものが欲しかった」
ニール・ハウルゼン「兄の贋作ではない、本物の自分になりたかった」
フーカ・ナイラ「それで〈トモシビト〉に志願した」
ニール・ハウルゼン「はい」
ニール・ハウルゼン「なのに、信じていた局長にも、何もかも、裏切られた気持ちです」
ニール・ハウルゼン「この世界にさえも──」
ベリル・オークランド「ニール。お前はこの先、どうしたい」
ニール・ハウルゼン「先輩?」
ベリル・オークランド「君が決めるんだ」
ベリル・オークランド「生きている以上、君自身が決めなくてはならないんだ」
ベリル・オークランド「この先、どうしたいのかを」
ニール・ハウルゼン「先輩は、どうするんですか」
ベリル・オークランド「俺はこのまま第六階層に留まる」
ベリル・オークランド「いずれは死んだことに、いや──もう死んでいるという言葉すら当てはまらない」
ベリル・オークランド「俺の記録は抹消され、「ベリル・オークランド」という人間は最初から存在しなかったことになる」
ベリル・オークランド「そうしたら、俺はどこへも行く場所がない」
ベリル・オークランド「もはや、〈トモシビト〉ですらない」
ニール・ハウルゼン「どういうことですか?」
ベリル・オークランド「スユールが、俺の中にある〈トモシビ〉だけを殺したんだ」
ベリル・オークランド「俺は、ただの人間に戻った」
ニール・ハウルゼン「そんなこと、可能なんですか?」
フーカ・ナイラ「賭けだったよ、正直に言うとね」
フーカ・ナイラ「ベリルが今生きているのは奇跡だよ」
フーカ・ナイラ「スユールも〈トモシビト〉だったからこそ可能だったのかもしれない」
フーカ・ナイラ「それより、今は君の話をしているんだよ。ニール」
ベリル・オークランド「そうだ。ニール、君はまだ選べるんだ」
ベリル・オークランド「ニール」
ニール・ハウルゼン「俺は──」
ニール・ハウルゼン「第一階層に、戻ります」
ニール・ハウルゼン「戻って、できることを探します」
ベリル・オークランド「ニール」
ベリル・オークランド「君は、間違っていない」
ニール・ハウルゼン「ありがとうございます」
ベリル・オークランド「元気でな」
ニール・ハウルゼン「先輩も、お元気で」
ニール・ハウルゼン「ナイラ主任研究員は、どうなさるのですか」
フーカ・ナイラ「私もベリルと同じだよ」
フーカ・ナイラ「消された身──ここ以外に行く場所はない」
ニール・ハウルゼン「そう、ですか・・・・・・」
フーカ・ナイラ「ニール」
フーカ・ナイラ「私のことを助けようとしなくていい」
フーカ・ナイラ「すべて、私が選んだことだよ」
フーカ・ナイラ「治安維持局長に反抗したのも、何もかもね」
ニール・ハウルゼン「はい」
ベリル・オークランド「ニール、元気でな」
フーカ・ナイラ「身体に気を付けるんだよ」
フーカ・ナイラ「安心して、〈トモシビ〉研究機構には私以外にも研究者はちゃんといる」
ニール・ハウルゼン「二人とも、お元気で」
フーカ・ナイラ「じゃあね」
フーカ・ナイラ「行ってしまったね」
ベリル・オークランド「これで、良かったんです」
ベリル・オークランド「結果的に、彼を〈トモシビト〉にしてしまいましたが」
フーカ・ナイラ「彼は第二世代の〈トモシビト〉だ」
フーカ・ナイラ「君やスユールの抱えていた弱点もかなり改善されてる」
フーカ・ナイラ「信じよう、彼を」
ベリル・オークランド「はい」
〇豪華な部屋
一週間後、スノーヘル家の屋敷
ユーラ・スノーヘル「葬儀の後に送っていただいて、ありがとうございます」
ニール・ハウルゼン「いえ、お気になさらないでください」
ニール・ハウルゼン「お疲れでしょうから」
ユーラ・スノーヘル「そうですね、少し疲れましたわ」
ユーラ・スノーヘル「治安維持局長の葬儀ともなると、あんなに人が来るのですね」
ニール・ハウルゼン「この国の中枢でいらした方ですから」
ニール・ハウルゼン「御母堂のご様子は、大丈夫ですか」
ユーラ・スノーヘル「お気遣いいただきありがとうございます」
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