贋作世界

雪乃

第七話・別れ(脚本)

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雪乃

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〇近未来の病室
  第一階層・国立病院
ユーラ・スノーヘル「お父さま」
テオ・スノーヘル「おお、ユーラか」
テオ・スノーヘル「来てくれてありがとう」
ユーラ・スノーヘル「お身体の具合はいかがですか」
テオ・スノーヘル「いや、大したことは無い」
ユーラ・スノーヘル「反政府組織の襲撃を受けたと伺いましたが」
テオ・スノーヘル「ああ、そればかりか優秀な研究者まで奪われてしまった」
テオ・スノーヘル「この国の安全を預かる身でありながら、情けないよ・・・・・・」
ユーラ・スノーヘル「お父さま」
テオ・スノーヘル「ああそうだ、ユーラ」
テオ・スノーヘル「ひとつ、大事な話がある」
テオ・スノーヘル「ベリル・オークランドくんのことなんだが」
テオ・スノーヘル「彼とは、もう会えないものと思って欲しい」
ユーラ・スノーヘル「なぜですか?」
テオ・スノーヘル「彼は我々と、異なる道を歩むことになりそうだ」
ユーラ・スノーヘル「一体、何が────」
テオ・スノーヘル「お前は知らなくて良いことだ、ユーラ」
ユーラ・スノーヘル「・・・・・・はい、お父さま」
「局長閣下、失礼いたします」
「ニール・ハウルゼンです」
テオ・スノーヘル「入りたまえ」
ニール・ハウルゼン「局長閣下がお怪我をされたと伺いました」
テオ・スノーヘル「なに、そう大した怪我ではないさ」
テオ・スノーヘル「そう遠くないうちに退院できるだろう」
テオ・スノーヘル「それよりハウルゼン四等調査官、娘のユーラだ」
ニール・ハウルゼン「はじめてお目にかかります。ニール・ハウルゼンです」
ユーラ・スノーヘル「ユーラ・スノーヘルです」
ユーラ・スノーヘル「いつも父がお世話になっております」
テオ・スノーヘル「そうだ、ハウルゼン四等調査官」
テオ・スノーヘル「私が退院したら、君に見てもらいたいものがある」
ニール・ハウルゼン「私に?」
ユーラ・スノーヘル「お父さま」
ユーラ・スノーヘル「お仕事のお話なら、わたくしは外しますね」
テオ・スノーヘル「ああ、すまないね」
ユーラ・スノーヘル「また来ます」
テオ・スノーヘル「どうだね、うちの娘は」
ニール・ハウルゼン「どう、とは?」
テオ・スノーヘル「いや、妻が今躍起になって見合いの相手を探しているんだ」
テオ・スノーヘル「私にも、見合い相手を探すよう妻が言ってくるんでね」
テオ・スノーヘル「娘はまだ大学生なんだが、君は年も近いし──」
テオ・スノーヘル「・・・・・・どうした?」
ニール・ハウルゼン「いえ、その・・・・・・」
テオ・スノーヘル「言ってみたまえ」
ニール・ハウルゼン「最近、先輩──いえ、オークランド二等調査官の姿を目にしていないと思いまして」
テオ・スノーヘル「ああ、彼なんだが」
テオ・スノーヘル「もう治安維持局長の人間ではない」
ニール・ハウルゼン「やめた、ということですか?」
ニール・ハウルゼン「なぜですか!?」
テオ・スノーヘル「我々とは相いれない道を選んだ、ということだ」
ニール・ハウルゼン(先輩、まさか本当にアマテのところに・・・・・・)
テオ・スノーヘル「ハウルゼン四等調査官」
ニール・ハウルゼン「はい」
テオ・スノーヘル「君のすべきことは何だね」
ニール・ハウルゼン「この国を守ることです」
テオ・スノーヘル「そうだ、何があっても」
テオ・スノーヘル「頼んだよ、これからも」
ニール・ハウルゼン「・・・・・・?はい」

〇入り組んだ路地裏
  第四階層
「やっぱり、ここにいた」
ベリル・オークランド「この声は」
ベリル・オークランド「ユーラさん?」
ユーラ・スノーヘル「久しぶりね、オークランドさん」
ベリル・オークランド「なぜ、第四階層に」
ユーラ・スノーヘル「なんでかしらね」
ユーラ・スノーヘル「ただここに来れば、あなたに会える気がしたから」
ユーラ・スノーヘル「父が言ったの」
ユーラ・スノーヘル「あなたとは、もう会えないと思いなさいって」
ユーラ・スノーヘル「あなた、何したの?」
ベリル・オークランド「私は・・・・・・」
ベリル・オークランド「私を「共通の英雄」にするつもりかとお尋ねしました」
ユーラ・スノーヘル「私が言ったことじゃない」
ユーラ・スノーヘル「父はやっぱり、あなたをそうしたかったのね」
ユーラ・スノーヘル「あの人にとってはすべてが手駒。部下のあなたも、娘の私も」
ベリル・オークランド「はい・・・・・・そのようです」
ユーラ・スノーヘル「で、父はなんて?」
ベリル・オークランド「貴様も所詮は第六階層出身か、と激高されました」
ユーラ・スノーヘル「あなた、それに何て返したの」
ベリル・オークランド「反発しました」
ユーラ・スノーヘル「要は父に歯向かってクビ?」
ベリル・オークランド「はい」
ベリル・オークランド「時々、分からなくなるんです」
ベリル・オークランド「私は第六階層出身の人間です」
ベリル・オークランド「そして〈トモシビト〉計画の実験台になった」
ベリル・オークランド「他にもいたんです、同じような境遇で、実験台にされた子どもたちが大勢」
ベリル・オークランド「生き残ったのは俺だけだった」
ベリル・オークランド「でも、もう一人だけ、生きている人間がいました」
ベリル・オークランド「俺の幼馴染です」
ベリル・オークランド「俺が一度は倒したはずだったのに、生きていた」
ベリル・オークランド「今、彼は反政府活動をしています」
ベリル・オークランド「彼に誘われました、一緒に来ないかと」
ユーラ・スノーヘル「続けて」
ベリル・オークランド「彼のしていることは、現に犠牲者を出している」
ベリル・オークランド「あなたと美術館で目撃した〈昏人〉も、彼が送り込んだ者だ」
ベリル・オークランド「だから断りました」
ベリル・オークランド「自分の生きる意味は、この国を守ることだからと」
ベリル・オークランド「でも、それが本心なのか、分からなくなる」
ベリル・オークランド「夢に彼が出てくるんです、昔からずっと」
ベリル・オークランド「その度に思うんです、自分は結局、一度手にした第一階層の暮らしを手放したくないだけなんじゃないかと」
ベリル・オークランド「使命だの何のを振りかざしたところで、結局俺も、第一階層にしがみつきたいだけなんじゃないか」
ベリル・オークランド「第六階層の暮らしを、人生を、捨てたいんじゃないかと」
ベリル・オークランド「そのために俺は、彼を倒したいと思っているんじゃないかって、ずっと──」
ユーラ・スノーヘル「オークランドさん」
ユーラ・スノーヘル「私はね、この国の体制は間違っていると思うわ」
ユーラ・スノーヘル「皆同じ人間なんだから、階層で分けられて支配されるなんて正しくないって、そう思ってる」
ユーラ・スノーヘル「でもね、思ってるだけなの」
ユーラ・スノーヘル「何も行動を起こせない」
ユーラ・スノーヘル「結局私も、たまたま運よく与えられた、第一階層の生まれにしがみつきたいだけの人間よ」
ユーラ・スノーヘル「オークランドさん」
ユーラ・スノーヘル「あなたも私も、どこか似ているわ」
ベリル・オークランド「似ている・・・・・・?」
ユーラ・スノーヘル「父からも母からも、逃げたいって思う時もある」
ユーラ・スノーヘル「でも結局、この地下の世界で逃げ場なんてなくて」
ユーラ・スノーヘル「ずっと同じ場所にいるだけ」
ユーラ・スノーヘル「見えないふりをしてきた「正しくないこと」もたくさんあるわ」
ユーラ・スノーヘル「第一階層で生きていくために」
ユーラ・スノーヘル「きっと皆、そうやって生きてる」
ユーラ・スノーヘル「どの階層でも」
ユーラ・スノーヘル「自分の場所を守ろうとすることは当然よ」
ユーラ・スノーヘル「オークランドさん」
ユーラ・スノーヘル「私はあなたが抱えている問題を解決することはできない」
ユーラ・スノーヘル「でも、一緒にいることはできる」
ユーラ・スノーヘル「いいかしら、あなたのそばにいて」
ベリル・オークランド「ユーラさん・・・・・・」
ベリル・オークランド「ありがとう、ございます・・・・・・」
ユーラ・スノーヘル「ね、私がたまに遊びに行ってた店があるの」
ユーラ・スノーヘル「行きましょ、道で話すのもなんだか好きじゃないし」
ベリル・オークランド「危なくないですか」
ユーラ・スノーヘル「あなたがいれば、きっと大丈夫よ」
ベリル・オークランド「・・・・・・はい」

〇古書店
ユーラ・スノーヘル「ここ。古書店よ」
ベリル・オークランド「第四階層に、こんな店が」
ユーラ・スノーヘル「良い本置いてるのよね。地上時代の本があったりするわよ、たまにだけど」
ユーラ・スノーヘル「暗いのはいつものことだから気にしないで」
ベリル・オークランド「本、選べます?」
ユーラ・スノーヘル「目が慣れれば、案外読めるから」
ベリル・オークランド「だからあのとき、第四階層にいたんですね」
ユーラ・スノーヘル「そう。それであなたに見つかったってわけ」
ベリル・オークランド「申し訳ありません」
ユーラ・スノーヘル「どうして謝るの」
ベリル・オークランド「いえ、その、もっと──」
ユーラ・スノーヘル「いかがわしい店で遊んでると思った?」
ベリル・オークランド「いえあの、断じてそういうわけでは・・・・・・!!」
ユーラ・スノーヘル「顔に書いてある。結構分かりやすいわよね、あなた」
ベリル・オークランド「そうでしょうか」
ユーラ・スノーヘル「ねえ、ずっと言おうと思ってたんだけど」
ユーラ・スノーヘル「私に敬語で話すの、そろそろやめてくださらない」
ユーラ・スノーヘル「上司の娘だからでしょうけれど」
ユーラ・スノーヘル「今は元・上司ね」
ユーラ・スノーヘル「何にせよ、あなたの方が年上だし」
ベリル・オークランド「はい、わかり・・・・・・ました」
ユーラ・スノーヘル「敬語になってる」

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