贋作世界

雪乃

第六話・守るべきもの(脚本)

贋作世界

雪乃

今すぐ読む

贋作世界
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇豪華な社長室
  第一階層・治安維持局の局長室
テオ・スノーヘル「〈昏人〉討伐は順調なようだね」
ベリル・オークランド「恐縮です」
ベリル・オークランド「まさか、第二世代の研究がここまで進んでいるとは存じていませんでしたが」
テオ・スノーヘル「いや、私も驚いたよ」
テオ・スノーヘル「ニール・ハウルゼン四等調査官が自ら志願してきたときはね」
テオ・スノーヘル「しかし彼のような若者こそ、無論君もだが、この国の宝」
テオ・スノーヘル「これからも研究は進んでいくだろう」
テオ・スノーヘル「君も頑張ってくれたまえ、ベリル・オークランド二等調査官」
ベリル・オークランド「局長閣下」
テオ・スノーヘル「何だね」
ベリル・オークランド「私の職位は三等調査官のはずですが」
テオ・スノーヘル「ああ失礼、正式な辞令交付はまだ先なんだがね」
テオ・スノーヘル「君の働きは素晴らしい。よって君を二等調査官とすることとなった」
テオ・スノーヘル「おめでとう」
ベリル・オークランド「ありがとうございます」
テオ・スノーヘル「ああ、それでね」
テオ・スノーヘル「仕事とは直接関係のない話で申し訳ないんだが・・・・・・」
テオ・スノーヘル「君、うちの娘をどう思う」
ベリル・オークランド「ご息女のことですか?」
テオ・スノーヘル「妻が今躍起になって娘の見合い相手を探しているんだが」
テオ・スノーヘル「どうかな、君は」
ベリル・オークランド「それは・・・・・・」
ベリル・オークランド「とてもご聡明でお優しい方です」
ベリル・オークランド「しかし、その、結婚となりますと・・・・・・」
テオ・スノーヘル「君なら何の問題もない」
テオ・スノーヘル「この私が人となりをよく知っている」
テオ・スノーヘル「まぁ突然の話で混乱もするな、すまない」
テオ・スノーヘル「よく考えてくれたまえ、君自身のためにも」
ベリル・オークランド「はい」
ベリル・オークランド「では、私はこれで失礼します」
テオ・スノーヘル「ああ」

〇組織の廊下
ベリル・オークランド(このまま〈昏人〉を倒しながら生き、この国を守る)
ベリル・オークランド(そして、治安維持局長の娘と結婚する)
ベリル・オークランド(ユーラさんと結婚すれば将来は約束すると、局長は暗にそう言っているのだろう)
ベリル・オークランド「本当に、それでいいのか?」
ベリル・オークランド(スユールが、夢に出る)
ベリル・オークランド(昔から、何度も、何度も)
ベリル・オークランド(俺だけが第一階層の住民として生き、裕福な暮らしを享受している)
ベリル・オークランド(第六階層には、かつての俺のような子どもたちが沢山いるというのに)
ベリル・オークランド(スユールにつくか?)
ベリル・オークランド(いや、それだけはあり得ない)
ベリル・オークランド(あいつは現に、犠牲者を増やし続けている)
ベリル・オークランド(ここ最近起こり続けていた行方不明事件の首謀者もあいつだ)
ベリル・オークランド(住民を攫って実験台にするなど、それこそ政府が俺たちにしてきたことと同じじゃないか)
ベリル・オークランド「俺は、どうすればいい・・・・・・?」
ベリル・オークランド(考えろ、最良の手段を──)

〇地下室
  第六階層
アマテ「大丈夫かい、スユール」
スユール「はい、申し訳ありません、アマテ様」
アマテ「仕方ないよ、あの〈トモシビト〉は確かに強かった」
スユール「アマテ様、お願いがあります」
スユール「私にどうか、力をお授けください」
アマテ「本当に、いいの」
アマテ「君はただでさえ、政府の手術のせいで身体に負担がかかっている」
アマテ「私の力で補っているとはいえ、これ以上の力を求めれば、君自身の命が危うい」
アマテ「私の計画を遂行する上で、君を失うのは大きな痛手だ」
アマテ「君以上の適合者は未だ見つからないし、フーカ・ナイラを引き込むことにも失敗している」
スユール「ですから、次はかならずやり遂げて見せます」
スユール「アマテ様・・・・・・どうか・・・・・・」
アマテ「分かった」
アマテ「君がそこまで言うなら、やろう」
アマテ「ただし、君の怪我が完全に治ってからだ」
アマテ「いいね」
スユール「はい。ありがとうございます」
アマテ「私は少し出てくるよ」
アマテ「しばらく一人になるけど、いいかな」
スユール「どちらへ?」
アマテ「適合者を探しに行く」
スユール「それは自分が」
アマテ「だから、君は怪我を治してからだ」
アマテ「大丈夫、誰が襲ってこようが、私は負けないよ」
スユール「はい。行ってらっしゃいませ」
スユール「アマテ様・・・・・・」
スユール「僕に、生きる場所と意味をを与えてくださった方」
スユール「アマテ様、あなたのためなら僕はなんだってします」
スユール「あなたの理想を叶え、真に平等な世界を作る」
スユール「たとえ、どれほどの犠牲を出そうとも」

〇近未来の開発室
  第七階層・フーカの研究室
ベリル・オークランド「ナイラ先生」
フーカ・ナイラ「ああベリル、いらっしゃい」
フーカ・ナイラ「ごめんね、この前の一件でまだちょっと散らかってるけど気にしないで」
フーカ・ナイラ「どうかしたの?」
ベリル・オークランド「先生、ご相談があります」
フーカ・ナイラ「何かな」
ベリル・オークランド「私を第二世代の〈トモシビト〉にすることは可能ですか?」
フーカ・ナイラ「無理だね」
ベリル・オークランド「何故です?」
フーカ・ナイラ「君が〈トモシビト〉第一号として誕生してから、第二世代の第一号──ニールくんが成功するまで、二十年の開きがあるんだ」
フーカ・ナイラ「二十年もあれば、技術は相当変わるよ」
フーカ・ナイラ「君に施された術式とは大きく変わった点も多いし、何より君自身の身体が耐えられるかどうかわからない」
ベリル・オークランド「それでも、やらなくてはならないことがあるんです」
ベリル・オークランド「俺はスユールを止めなくてはならないんです」
ベリル・オークランド「この手で、直接」
ベリル・オークランド「今の力では、スユールに勝てない」
フーカ・ナイラ「気持ちはわかるよ、ベリル」
ベリル・オークランド「仮に、ですよ。成功の確率は?」
フーカ・ナイラ「ない、とは言わない」
ベリル・オークランド「なら──」
フーカ・ナイラ「でも、許可はできないよ」
ベリル・オークランド「可能性が少しでもあるなら、それに賭けたいんです」
フーカ・ナイラ「駄目だ」
ベリル・オークランド「どうしてですか?」
フーカ・ナイラ「もし君が仮に力を手に入れて、スユールを倒し、君が生き残ったとしよう」
フーカ・ナイラ「でも、その先には何がある?」
ベリル・オークランド「それ、は・・・・・・」
フーカ・ナイラ「たぶん、何も考えていないんだろう」
フーカ・ナイラ「君には君の人生がある」
フーカ・ナイラ「〈トモシビト〉計画に関わる私がこんなことを言う権利はないのかもしれないけれど」
フーカ・ナイラ「それでも私は君に、なるべく傷ついてほしくないんだよ」
ベリル・オークランド「先生、あなたは正しい」
ベリル・オークランド「そしてあなたの正しさは優しい」
ベリル・オークランド「でもあなたの正しさは、私の正しさとは違う」
ベリル・オークランド「スユールと決着をつけ、あいつを止める」
ベリル・オークランド「それが私にとって、「正しい」ということなんです」
フーカ・ナイラ「ベリル・・・・・・」
ベリル・オークランド「私の我儘であることは承知しています」
ベリル・オークランド「ですから、どうか」
テオ・スノーヘル「私としては、承服しかねるな」
ベリル・オークランド「局長閣下!?」
フーカ・ナイラ「何か、御用ですか」
テオ・スノーヘル「ナイラ主任研究員に用があったのだがね」
テオ・スノーヘル「オークランド二等調査官」
テオ・スノーヘル「君を第二世代の〈トモシビト〉にする許可は出せない」
テオ・スノーヘル「危険な賭けを、君のような優秀な人間にやらせたくはないのだよ」
ベリル・オークランド「しかし、ニール・ハウルゼン四等調査官は自ら志願しました」
ベリル・オークランド「無論リスクを承知したうえで」
ベリル・オークランド「私も明確に、私の意志でそうなることを望んでいます」
ベリル・オークランド「何の違いがあるのですか」
フーカ・ナイラ「ベリル、それ以上は・・・・・・」
ベリル・オークランド「「共通の英雄」を用意するためですか」
テオ・スノーヘル「何だと!?」
ベリル・オークランド「共通の敵と、共通の英雄。その二つを用意することこそ、国と統治する最も効率の良い方法」
ベリル・オークランド「私を、共通の英雄とするためですか」
ベリル・オークランド「私を「共通の英雄」という名の手駒にして──」
テオ・スノーヘル「共通の英雄とは!!」
テオ・スノーヘル「君もまた、大きく出たものだな!」
フーカ・ナイラ「ベリル、今すぐ謝罪しなさい」
テオ・スノーヘル「舐めた口をきくな!!」
テオ・スノーヘル「君にはあらゆる教育を受けさせたが、所詮は第六階層出身ということか!!」
ベリル・オークランド「局長閣下、その発言は──」
テオ・スノーヘル「君も感化されたか、あの反政府組織の奴らに?」
ベリル・オークランド「そうではありません」
テオ・スノーヘル「もう良い」
テオ・スノーヘル「ベリル・オークランド二等調査官」
テオ・スノーヘル「君をここで始末してもいいんだぞ」
テオ・スノーヘル「貴様の任を解く」
テオ・スノーヘル「貴様はもはや危険分子だ」
テオ・スノーヘル「連れていけ!」
治安維持局員「かしこまりました」
ベリル・オークランド「局長閣下!!」
テオ・スノーヘル「さて、と」
フーカ・ナイラ「申し訳ありません、局長閣下」
フーカ・ナイラ「私がもっと早く彼を止めていれば」
テオ・スノーヘル「君が謝ることじゃない、ナイラ主任研究員」
テオ・スノーヘル「それより、例の件はどうなっている?」
フーカ・ナイラ「〈トモシビト〉技術を応用した生体ロボットですか」
テオ・スノーヘル「そうだ」
フーカ・ナイラ「順調に進んでいます」
テオ・スノーヘル「それは良かった」
フーカ・ナイラ「局長閣下」
テオ・スノーヘル「何だね?」
フーカ・ナイラ「生体ロボットの計画、そして技術」
フーカ・ナイラ「あまりにも、出来すぎていませんか」
テオ・スノーヘル「何だね?」
フーカ・ナイラ「順調すぎるのです、何もかもが」
フーカ・ナイラ「〈トモシビト〉計画には、あれだけの膨大な時間が投じられたのに」
フーカ・ナイラ「この研究には、何かベースになったプロジェクトがあるのではないですか」
テオ・スノーヘル「何が言いたい?」
フーカ・ナイラ「〈トモシビ〉を使用した生体ロボット」
フーカ・ナイラ「地上時代に開発され、封印されたアマテという個体がいます」
フーカ・ナイラ「この計画は、アマテをいわば「再利用」し、新しいアマテを生み出そうとするもの」
フーカ・ナイラ「そのためには、封印したアマテを一度目覚めさせる必要があった」
フーカ・ナイラ「あなたですね、局長閣下」
テオ・スノーヘル「君も第六階層に落とされたいか?」
フーカ・ナイラ「局長閣下がお命じになるなら、私はこの研究から降ります」
テオ・スノーヘル「降りるだけで済むと思うか?」
フーカ・ナイラ「いいえ」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:第七話・別れ

成分キーワード

ページTOPへ