贋作世界

雪乃

第五話・世界の深層で(脚本)

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〇豪華な部屋
  第一階層・スノーヘル家
ベリル・オークランド「家にお招きいただくとは・・・・・・恐縮です」
ユーラ・スノーヘル「どうか楽になさって」
ユーラ・スノーヘル「今日は父も母もいないから」
ユーラ・スノーヘル「あの日、きちんとお別れの挨拶も何もないまま会えなくなってしまったでしょう」
ベリル・オークランド「あの日──」
ユーラ・スノーヘル「あなたと二人で出かけた日」
ユーラ・スノーヘル「結局あの後、あなたは治安維持局に行ってしまったから」
ベリル・オークランド「あの日は、失礼しました」
ユーラ・スノーヘル「あなたが謝ることじゃないわ」
ユーラ・スノーヘル「それに、私はお礼も言えてなかったから」
ユーラ・スノーヘル「また、助けてもらった」
ユーラ・スノーヘル「ありがとう、オークランドさん」
ベリル・オークランド「当然のことです」
ユーラ・スノーヘル「あなたは当然かもしれないけれど、簡単にはできないことよ」
ベリル・オークランド「ユーラ、さん・・・・・・」
ユーラ・スノーヘル「・・・・・・」
ユーラ・スノーヘル「国がとうとう、〈トモシビト〉と〈昏人〉のことを正式に公表した」
ユーラ・スノーヘル「あの日、たくさんの人が怪物を、そしてあなたを目撃したわ」
ユーラ・スノーヘル「それも第一階層や第二階層に住む人たちが、ね」
ユーラ・スノーヘル「あなたは今や国の英雄よ」
ユーラ・スノーヘル「自ら志願して〈トモシビト〉となり、〈昏人〉に立ち向かう英雄」
ベリル・オークランド「そう・・・・・・ですか」
ユーラ・スノーヘル「嬉しそうじゃないのね」
ベリル・オークランド「自分は、英雄などではありませんから」
ベリル・オークランド「なりたいと思ったこともないし、なれるとも、なったとも思っていません」
ユーラ・スノーヘル「あなたがそう思っていても、国はそう望まないわ」
ユーラ・スノーヘル「政府が求めているのは、国民の共通の敵と、共通の英雄よ」
ユーラ・スノーヘル「国をまとめるのに最も効率的な方法は、そのふたつを用意すること」
ユーラ・スノーヘル「地上時代から、何回も繰り返されたやり方よ」
ユーラ・スノーヘル「そしてあなたがその「共通の英雄」第一号になる」
ユーラ・スノーヘル「それこそ、この国と、父が望む物語よ」
ベリル・オークランド「局長閣下が?」
ユーラ・スノーヘル「父が目指しているのは、この国のトップ──統制会議の議長の座よ」
ユーラ・スノーヘル「この国は、表向き「統制会議」の評議員合議で政治をしているように見えるけれど」
ユーラ・スノーヘル「実際は議長が権力を振りかざしている」
ユーラ・スノーヘル「だから、ただの評議員や治安維持局長ではダメなのね、父にとって」
ユーラ・スノーヘル「あの人は、どうしても議長の椅子が欲しい」
ユーラ・スノーヘル「そのためには実績が必要なの。国民の支持を集められるような」
ベリル・オークランド「ああ、だから」
ユーラ・スノーヘル「あなたに、英雄となることを望んでいる」
ユーラ・スノーヘル「それでね、オークランドさん」
ユーラ・スノーヘル「父は私に、あなたとの結婚を望んでる」
ベリル・オークランド「は?」
ユーラ・スノーヘル「あなたを引き込んでおきたいのね、今のうちに」
ベリル・オークランド「しかし、私は」
ユーラ・スノーヘル「第六階層出身だから、結婚できないと思ってる?」
ベリル・オークランド「なぜそれをご存知なのですか」
ユーラ・スノーヘル「父から聞いたわ」
ユーラ・スノーヘル「でもあなたは今は第一階層の人間よ」
ユーラ・スノーヘル「いえ、「今は」じゃないわね」
ユーラ・スノーヘル「あなたは最初から第一階層の住民、ベリル・オークランド」
ユーラ・スノーヘル「IDも戸籍も何もかも、そうであるように作られたんだもの」
ベリル・オークランド「しかし──」
ユーラ・スノーヘル「何か問題?」
ベリル・オークランド「あなた自身の意志は、どうなるのですか」
ユーラ・スノーヘル「私の意志?」
ユーラ・スノーヘル「それは・・・・・・」
ベリル・オークランド「あなたの意志を無視して進めて良い話ではないでしょう」
ユーラ・スノーヘル「ねえ、オークランドさん」
ユーラ・スノーヘル「あなた、勘違いしてる」
ベリル・オークランド「何をですか?」
ユーラ・スノーヘル「私はね、あなたのことが好きなのよ」
ユーラ・スノーヘル「友人としても、お見合い相手のひとりとしても」
ベリル・オークランド「え?」
ユーラ・スノーヘル「あなた、秘密を守ってくれたでしょう」
ユーラ・スノーヘル「私が第四階層に行っていたこと、黙っていてくれた」
ユーラ・スノーヘル「別に出身の階層なんてどこだっていいわ、皆同じ人間じゃない」
ユーラ・スノーヘル「もちろん、あなたが嫌だっていうなら私から父に言うわ」
ユーラ・スノーヘル「でも私は、あなたと結婚したいと思ってる」
ユーラ・スノーヘル「私の意志で、私はあなたを選びたい」
ユーラ・スノーヘル「あなたはどうかしら」
ベリル・オークランド「私は・・・・・・」
ユーラ・スノーヘル「考えてくださる?」
ベリル・オークランド「申し訳ありません。少し、時間をください」
ユーラ・スノーヘル「分かったわ。お返事、待ってるわね」

〇簡素な一人部屋
  第一階層・ベリルの部屋
ベリル・オークランド「結婚?俺が?」
ベリル・オークランド「第一階層の、治安維持局長の娘と?」
ベリル・オークランド「第六階層出身の、俺が──」
ベリル・オークランド「呼び出しか?」
ベリル・オークランド「この番号は、ナイラ先生?」
「久しぶりだね、ベリル」
ベリル・オークランド「その声は、スユール!?」
「君に最後のチャンスをあげようと思ったんだ」
ベリル・オークランド「おい待て、何をしているんだ!?」
「第七階層に来てほしい」
「君の大切な人を、失いたくないのなら」
ベリル・オークランド「おい、スユール!スユール!」
ベリル・オークランド「先生、どうか無事で──」

〇近未来の開発室
  第七階層・フーカの研究室
スユール「初めまして、フーカ・ナイラ主任研究員」
フーカ・ナイラ「君は・・・・・・」
スユール「スユールと申します」
フーカ・ナイラ「なぜここに入れたのかな」
フーカ・ナイラ「ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだよ」
スユール「簡単な事です。すべて壊してしまえばいい」
スユール「警備の人間だろうが、どんなに厳重なセキュリティだろうが、この力の前には無力だ」
  そう言って、スユールは光の剣を一太刀降って見せる。
フーカ・ナイラ「〈トモシビト〉・・・・・・?」
スユール「ご名答」
スユール「ベリルと同じ実験で被検体にされた、第六階層の子どものひとりです」
フーカ・ナイラ「でも、あの実験で生き残ったのはベリルだけのはずだよ」
スユール「ええ、ですがあの方が助けてくださったんです」
スユール「そして政府の作り出す〈トモシビト〉を上回る、新たな力を授けてくださった」
スユール「そうですよね、アマテ様」
アマテ「そうだよ、私のかわいいスユール」
アマテ「君たち政府の人間が失敗作だのといって無残にも殺されそうになっていたスユールを、私が助けた」
フーカ・ナイラ「誰・・・・・・?」
スユール「アマテ様」
アマテ「ああ、自己紹介がまだだったね」
アマテ「私はアマテ。君たち人間が〈トモシビ〉と呼んでいるエネルギーを集めて作られた生き物だ」
フーカ・ナイラ「〈トモシビ〉を集めて?」
アマテ「〈トモシビ〉とは宇宙で発見された物質と呼ばれているが、本当は違う」
アマテ「〈トモシビ〉は、本来別の星に住んでいた生命体」
アマテ「地上時代の戦争で、数多の〈トモシビ〉が兵器として使われた」
アマテ「その兵器開発の一環で作られたのが私だよ」
アマテ「〈トモシビ〉そのものが生命であることに気が付いた研究者たちは、〈トモシビト〉を使った生体ロボットを作ろうと試みた」
アマテ「それで生まれたのが私だ」
アマテ「しかし私には自我が、意志があった」
アマテ「人間の操り人形になどなるつもりはなかったよ」
アマテ「研究者たちは私を地下深くに封印した」
アマテ「そしてこの地下の国で、今度は人間に〈トモシビ〉を埋め込む技術を研究し始めたんだ」
フーカ・ナイラ「それが、〈トモシビト〉・・・・・・」
フーカ・ナイラ「それで君たちは、こんなところにまで踏み込んで何がしたいの」
スユール「フーカ・ナイラ博士。あなたに手伝って頂きたいのです」
フーカ・ナイラ「手伝う?」
スユール「私たちはアマテ様のお力で同胞を増やそうと試みていますが、適合者があまりにも少ない」
スユール「私のように、〈トモシビ〉の力を使えるようになるのはごく一部」
スユール「多くが自我を失い、怪物と化します」
フーカ・ナイラ「ということは、やっぱり〈昏人〉は」
スユール「適合しなかった人間、ということですね」
フーカ・ナイラ「どうして、そんな真似をするの」
フーカ・ナイラ「〈昏人〉が増えて、その〈昏人〉が人間を襲って」
フーカ・ナイラ「いたずらに犠牲者を増やしているだけじゃないか」
スユール「ええ、ですから現状を打開するためにも、あなたの力が必要なのですよ」
スユール「あなたの力で適合率を上げる」
アマテ「そして〈トモシビ〉に適合した人間は、地上での生存が可能になる」
スユール「ナイラ博士、私は作りたいのですよ」
スユール「階層が存在しない、誰もが平等な国を、地上に」
スユール「そのためには、〈トモシビ〉に染まった地上でも生存可能な人間を生み出す必要がある」
スユール「そのために、私たちはあなたを必要としているのです」
スユール「反対する理由がどこにあります?」
スユール「平等な世界。自由な世界。あなただって望んでいるはずだ」
フーカ・ナイラ「それは──」
アマテ「傷ついていい人間なんていない」
アマテ「君の父親の口癖だったそうだね」
フーカ・ナイラ「どうしてそれを・・・・・・」
アマテ「君のことは、色々と調べさせてもらったよ」
アマテ「第三階層の医者の両親のもとに生まれ、優秀さを買われて第一階層の大学に入学を許された」
アマテ「そこで〈トモシビ〉研究と出会い、大学院卒業後は政府の研究機関に入る」
スユール「そこで、〈トモシビト〉となったベリルと出会った」
アマテ「君の両親は、こっそりと下の階層の患者を診ていたようだね」
アマテ「特に第五階層や第六階層、ろくな医療も受けられない貧民窟の人間を」
アマテ「平等な世界は、君の両親も望んでいることなんじゃないか?」
アマテ「でもそのことが露見し、政府に処罰された」
アマテ「階層の秩序を乱した、という罪状でね」
アマテ「そんな君が、なぜ政府の機関で働いている?」
アマテ「憎くはないのかい?」
フーカ・ナイラ「私は、私は・・・・・・」
フーカ・ナイラ「皆の暮らしを守りたくて〈トモシビ〉の研究を始めたんだ・・・・・・」
スユール「ならばなおさら──」
ベリル・オークランド「先生!」
フーカ・ナイラ「ベリル!?」
ベリル・オークランド「スユール、お前先生に何をした!?」
スユール「何も」
スユール「ただ、彼女なら僕たちに共鳴してくれるかと思って」
スユール「それよりベリル」
スユール「もう一度聞くよ」
スユール「本当に、僕たちと一緒に来る気はないの?」
スユール「僕たちはただ、平等で自由な世界を作りたいだけなんだ」
スユール「君ならわかるだろう?」
ベリル・オークランド「黙れ」
スユール「ああ、それとも第一階層のあの子のことが恋しい?」
スユール「君のことは何でも知っているからね」

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