第三話・変わりゆく世界で(脚本)
〇地下広場
第五階層
ベリル・オークランド「今日はここか・・・・・・」
ベリル・オークランド「今送ってやる」
ベリル・オークランド「何、倒れない!?」
ベリル・オークランド「この〈昏人〉、何かが違う・・・・・・!」
ベリル・オークランド「やっと、倒れたか・・・・・・」
スユール「やあ、久しぶりだね」
ベリル・オークランド「お前は・・・・・・!」
スユール「スユールだよ」
スユール「懐かしいね、二十年ぶりの再会だ」
スユール「ちょうど、あの実験以来だね」
ベリル・オークランド「なぜ、お前が生きている・・・・・・?」
ベリル・オークランド「お前は・・・・・・」
スユール「そう。君が〈トモシビト〉計画の生き残りのうちのひとりさ」
ベリル・オークランド「違う、お前は、俺が──」
スユール「そう。僕は君にあの日の戦闘で倒されて、処分されるはずだった」
スユール「あの方が現れるまではね」
ベリル・オークランド「あの方?」
スユール「政府から僕を助け、生きる場所を与えてくれた方だ」
スユール「ねえ、ベリル」
スユール「いや、今はベリル・オークランドか」
スユール「第一階層の市民として、ご丁寧に家名を与えられたんだったか」
スユール「僕と一緒に来ないか」
ベリル・オークランド「何を言っている?」
スユール「憎くはないのかい、君は」
ベリル・オークランド「憎い?」
スユール「僕ら第六階層で暮らしていた子どもを勝手に実験台にして、兵器にしようとした」
スユール「生き残った子どもたちを戦わせ、兵器としての適性を調べていたなんて、人のやることじゃない」
スユール「第一階層の人間たちが憎くはないのかい?」
スユール「人間を階層で分ける、この不平等な社会が」
スユール「誰もが等しく光を享受できないこの世界を、おかしいとは思わないのかい?」
スユール「それとも、もう君は第一階層の市民だから関係がないと?」
ベリル・オークランド「・・・・・・やめろ」
スユール「僕は信じているんだよ」
スユール「僕たちが改造されたあと、二人で励まし合って乗り越えたあの日を」
ベリル・オークランド「やめろ!」
ベリル・オークランド「俺は、もう・・・・・・」
スユール「・・・・・・残念だな、ベリル」
スユール「君と共に革命をなすことができるのなら、きっと世界は変わる」
ベリル・オークランド「俺は────」
スユール「ひどいな、僕に攻撃するなんて」
スユール「でも、君がそうするなら・・・・・・」
スユールの手から光が放たれ、剣の形を取る。
そしてそれは、振り下ろされた。ベリルに向かって。
ベリル・オークランド「ああっ!」
ベリル・オークランド「なぜ、お前が・・・・・・」
スユール「言ったじゃないか、僕に生きる場所を与えてくれた人がいるって」
スユール「その方は僕に、力を与えてくれた」
スユール「政府の人間よりもずっと強い力をね」
スユール「今の君では、きっと僕に勝てない」
スユール「もう一度聞くよ、ベリル」
スユール「僕と一緒に来て欲しい」
スユール「この世界を変えるために」
ベリル・オークランド「俺は、俺は・・・・・・」
ベリル・オークランド「この国を・・・・・・守る」
スユール「そうか・・・・・・残念だよ」
ベリル・オークランド「ぐあぁっ!」
スユール「さようなら──ベリル・オークランド」
スユール「もしも次会うときが来るとしたら、その時は敵同士だ」
ベリル・オークランド(俺は・・・・・・この国を守る・・・・・・)
ベリル・オークランド(俺自身を、肯定するために・・・・・・)
ニール・ハウルゼン「先輩!先輩!」
ニール・ハウルゼン「やっと見つけ──先輩!?」
ニール・ハウルゼン「ひどい出血だ・・・・・・」
ニール・ハウルゼン「と、とにかく助けを呼ばないと」
ニール・ハウルゼン「先輩、死なないでくださいよ・・・・・・」
フーカ・ナイラ「ベリル!」
ニール・ハウルゼン「あなたは、ナイラ主任研究員!?」
ニール・ハウルゼン「どうしてあなたが」
フーカ・ナイラ「説明は後!」
フーカ・ナイラ「とにかく、ベリルのことは私に任せて」
ニール・ハウルゼン「は、はい・・・・・・」
ニール・ハウルゼン「行って、しまった・・・・・・」
ニール・ハウルゼン「医者ではなく、なんであの人が・・・・・・」
ニール・ハウルゼン「?」
ニール・ハウルゼン「この、人?」
ニール・ハウルゼン「死んでる・・・・・・」
ニール・ハウルゼン「何が起きてるんだ・・・・・・?」
〇近未来の闘技場
二十年前。
政府の実験施設で、〈トモシビト〉計画は秘密裏に進められていた。
タキ・クラナーこそ、その研究の中枢にいた人物である。
タキ・クラナー「実験を重ねて、残ったのはあなたたち二人だけですか」
ベリル(幼少期)「・・・・・・スユール」
ベリル(幼少期)「本当に、やらなくちゃいけないの?」
タキ・クラナー「早く始めなさい」
スユール(幼少期)「ベリル・・・・・・」
タキ・クラナー「戦いなさい。これが最終試験です」
タキ・クラナー「あなたたちが戦い、勝った者は晴れて第一階層に上がることが出来る」
タキ・クラナー「戸籍も身分も教育も、望むものはすべて与えましょう」
タキ・クラナー「それとも、何もせずに死にたいのですか?」
タキ・クラナー「〈トモシビ〉に適合しなかった奴らのように?」
タキ・クラナー「戦いなさい、あなたたち二人は〈トモシビ〉に選ばれた本物なんですよ」
タキ・クラナー「我々が目指した、真の〈トモシビト〉になるのです」
スユール(幼少期)「ベリル、やろう」
ベリル(幼少期)「でも──」
ベリル(幼少期)「俺、二人じゃなきゃ嫌だ」
ベリル(幼少期)「スユールと一緒じゃなきゃ、第一階層に行ったって意味ないよ!」
スユール(幼少期)「それは・・・僕もそう、だよ・・・・・・」
タキ・クラナー「会話を許可した覚えはありませんが」
タキ・クラナー「ここで従わなければ二人とも処分します」
タキ・クラナー「貴重な成功例を処分したくはありませんが、従順でないのはいただけませんからね」
スユール(幼少期)「ベリ、ル・・・・・・」
スユール(幼少期)「やろう」
ベリル(幼少期)「それで、いいの・・・・・・?」
スユール(幼少期)「いいよ」
ベリル(幼少期)「分かった」
スユール(幼少期)「ねえ、ベリル」
スユール(幼少期)「これだけ、約束しよう」
スユール(幼少期)「どっちが勝っても、幸せになろう」
ベリル(幼少期)「・・・・・・うん」
ベリル(幼少期)「っう・・・・・・!!」
タキ・クラナー「なぜ対抗しないのですか、ベリル」
タキ・クラナー「スユールは戦う意志を見せているというのに」
タキ・クラナー「戦わなければ生き残れませんよ」
スユール(幼少期)「うわぁぁっっ!!」
ベリル(幼少期)「スユー、ル?」
タキ・クラナー「一撃でこの強さ・・・・・・素晴らしい」
ベリル(幼少期)「ねえ、スユール!!」
タキ・クラナー「おめでとうございます、ベリル」
タキ・クラナー「あなたが勝者。本物の〈トモシビト〉です」
ベリル(幼少期)「ねえ先生、スユールは・・・・・・」
タキ・クラナー「まだ理解していないのですか?」
タキ・クラナー「あなたが倒したんですよ」
ベリル(幼少期)「・・・・・・え」
タキ・クラナー「連れて行きなさい」
タキ・クラナー「失敗作は処分。成功した個体は第一階層の市民としての登録を進めてください」
ベリル(幼少期)「スユール!スユール!」
こうしてベリルは第一階層市民──ベリル・オークランドになった。
〇近未来の開発室
十年前。
フーカ・ナイラ「初めまして、君がベリルくんだね」
フーカ・ナイラ「私は〈トモシビ〉研究機構のフーカ・ナイラ」
フーカ・ナイラ「君の検査を担当するよ、よろしくね」
ベリル・オークランド「よろしくお願いします」
フーカ・ナイラ「ベリルくん」
フーカ・ナイラ「今まで、よく頑張ったね」
ベリル・オークランド「は?」
フーカ・ナイラ「君の今までの記録を読んだ」
フーカ・ナイラ「〈トモシビト〉計画の、たったひとりの生き残り」
フーカ・ナイラ「ずいぶん大変なことだったと思う」
ベリル・オークランド「やめてください」
ベリル・オークランド「同情ならいりません」
ベリル・オークランド「俺は子どもじゃない」
フーカ・ナイラ「同情してるんじゃない」
フーカ・ナイラ「それに、君は子どもだよ」
フーカ・ナイラ「子どもであるべきなんだ、十五歳なんだから」
フーカ・ナイラ「ま、たった十歳上の私が言っても説得力がないかもしれないけど」
フーカ・ナイラ「子どもは本来守られるべきだし、それに」
フーカ・ナイラ「傷ついていい人間なんて、いないよ」
フーカ・ナイラ「だから政府が君にしたことを、私は許しがたいと思っている」
ベリル・オークランド「驚いた」
フーカ・ナイラ「どうしたの?」
ベリル・オークランド「政府の人間が、そんなことを言うなんて」
ベリル・オークランド「変わった人だ」
フーカ・ナイラ「よく言われるよ」
フーカ・ナイラ「私はね、もともと純粋に〈トモシビ〉の研究がしたくてここに来たんだ」
フーカ・ナイラ「それが今や〈トモシビト〉になった君の検査を担当してるわけだけど」
フーカ・ナイラ「これも何かの縁だよ。仲良くしよう」
ベリル・オークランド「・・・・・・はい」
これが、ベリル・オークランドとフーカ・ナイラの出会いだった。
〇近未来の病室
ベリル・オークランド「・・・・・・ここは?」
フーカ・ナイラ「良かった、目が覚めたみたいだね」
ベリル・オークランド「ナイラ先生」
フーカ・ナイラ「連絡を受けたときには驚いたよ」
フーカ・ナイラ「〈昏人〉との戦闘で負傷したと報告を受けたけど」
ベリル・オークランド「スユールに、会いました」
フーカ・ナイラ「スユール?」
ベリル・オークランド「〈トモシビト〉計画の被検体のひとりです」
フーカ・ナイラ「でも、あの計画で成功したのは君だけのはずじゃ・・・・・・」
ベリル・オークランド「誰かが、力を与えてくれたのだと言っていました」
フーカ・ナイラ「誰か?」
ベリル・オークランド「詳しいことは知りませんが・・・・・・」
フーカ・ナイラ「〈トモシビト〉を生み出せる存在が、政府のほかにいる」
フーカ・ナイラ「そういうことになるね」
ベリル・オークランド「そのようです」
フーカ・ナイラ「とすると、君のその傷も?」
ベリル・オークランド「そうです」
フーカ・ナイラ「君がこれほどの重傷を負ったとなると、相手はかなり強かったということになる」
フーカ・ナイラ「報告をありがとう」
フーカ・ナイラ「目が覚めたばかりのところで悪いね」
フーカ・ナイラ「君は今は・・・・・・ゆっくり休んで」
ベリル・オークランド「傷ついていい人間なんていない」
フーカ・ナイラ「え?」
ベリル・オークランド「昔の夢を見ていました」
ベリル・オークランド「あなたと初めて会った日、あなたはそう言った」
フーカ・ナイラ「そうだったね」
ベリル・オークランド「俺を初めて人間として扱ってくれたのがあなたでした」
ベリル・オークランド「ナイラ先生」
ベリル・オークランド「傷ついていい人間なんていないと、あなたは今でもそう思っていますか」
フーカ・ナイラ「思っているよ」
ベリル・オークランド「そうですか・・・・・・」
フーカ・ナイラ「どこか、痛いところは?」
ベリル・オークランド「ありません」
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