第二話・邂逅(脚本)
〇ホールの広場
ベリル・オークランド(祝賀会の場に呼ばれてしまったが、やはり場違いな気がするな)
テオ・スノーヘル「オークランドくん」
ベリル・オークランド「局長閣下!」
テオ・スノーヘル「来てくれて嬉しいよ」
テオ・スノーヘル「妻もきっと喜ぶ」
ベリル・オークランド「・・・・・・恐縮です」
アリル・スノーヘル「あなた」
テオ・スノーヘル「おお、アリルか」
テオ・スノーヘル「紹介するよ、妻のアリルだ」
アリル・スノーヘル「初めまして」
アリル・スノーヘル「お目にかかれて嬉しいわ」
アリル・スノーヘル「ベリル・オークランドさん」
ベリル・オークランド「恐れ入ります」
アリル・スノーヘル「そうだ、娘を紹介しましょう」
アリル・スノーヘル「今大学生でね、オークランドさんより少し年下なんだけれど」
アリル・スノーヘル「ユーラ!」
ユーラ・スノーヘル「はい、お母さま」
アリル・スノーヘル「ユーラ、こちらベリル・オークランドさん」
アリル・スノーヘル「治安維持局にお務めなの」
ユーラ・スノーヘル「初めまして、ユーラ・スノーヘルと申します」
ユーラ・スノーヘル「父がいつもお世話になっております」
ベリル・オークランド「いえ、こちらこそ局長閣下にはお世話になっております」
アリル・スノーヘル「さ、あとは若い方たちだけでお話してちょうだい」
アリル・スノーヘル「私はご挨拶に回ってくるから」
アリル・スノーヘル「ユーラ、後は頼んだわよ」
ユーラ・スノーヘル「はい、お母さま」
ユーラ・スノーヘル「・・・・・・はぁ、やっと解放されたわ」
ベリル・オークランド「どうかなさいましたか」
ユーラ・スノーヘル「ああ、いえ、ごめんなさい」
ユーラ・スノーヘル「さて、これですっかり自由ね」
ユーラ・スノーヘル「あなた、治安維持局の方なんでしょう?」
ベリル・オークランド「はい」
ユーラ・スノーヘル「大変ね、こんなところにまで駆り出されて」
ユーラ・スノーヘル「どうせ父が無理を言ったんでしょう」
ユーラ・スノーヘル「あの人、そういう人だから」
ベリル・オークランド「いえ、そのようなことは──」
ユーラ・スノーヘル「・・・・・・ごめんなさい、不躾だったわ」
ユーラ・スノーヘル「ただ、私と同じかもしれないと思ったから」
ベリル・オークランド「同じ?」
ユーラ・スノーヘル「私も母に言われて来たの」
ユーラ・スノーヘル「こういう場って本当に苦手」
ユーラ・スノーヘル「ドレスを着て、化粧をして、ニコニコ笑って」
ユーラ・スノーヘル「置物みたいに立ってやり過ごせばいいだけだけど、やっぱり疲れるわ」
ユーラ・スノーヘル「すみません、私ったら、話し過ぎたわ」
ユーラ・スノーヘル「どうか、なさいました?」
ベリル・オークランド「いえ、その」
ベリル・オークランド「非礼な発言であればお許しください」
ユーラ・スノーヘル「何がかしら」
ベリル・オークランド「御母堂と一緒におられたときと、随分と印象が違うな、と」
ユーラ・スノーヘル「あら、確かにそうね!」
ユーラ・スノーヘル「あれは、母に見せるための私」
ユーラ・スノーヘル「母が選んだドレスを着て、母が選んだ化粧をして、母が望んだとおりに振る舞うの」
ユーラ・スノーヘル「その方が楽なのよ、うちの家では」
ベリル・オークランド「そう・・・・・・でしたか」
ユーラ・スノーヘル「ごめんなさい、初めてお会いする方にする話ではなかったわ」
ベリル・オークランド「いえ、私で良ければどうかお話しになってください」
ユーラ・スノーヘル「優しいのね、オークランドさん」
ユーラ・スノーヘル「私あなたの前だと、とても話しやすいわ」
ユーラ・スノーヘル「それにあなた、私を同じ目をしている気がする」
ベリル・オークランド「同じ目?」
ユーラ・スノーヘル「そう。まるで、ここが本当の居場所だと思っていないような、そんな目」
ベリル・オークランド「それ、は──」
ユーラ・スノーヘル「冗談よ」
アリル・スノーヘル「ユーラ」
ユーラ・スノーヘル「お母さま」
アリル・スノーヘル「オークランドさんとお話はできたかしら」
ユーラ・スノーヘル「はい、とても素晴らしい方ですわ」
アリル・スノーヘル「あら、それは良かったわ」
アリル・スノーヘル「オークランドさん」
ベリル・オークランド「はい」
アリル・スノーヘル「これからも、よろしくお願いしますわね、いろいろと」
アリル・スノーヘル「娘は大学で〈トモシビ〉の研究をしていますの」
アリル・スノーヘル「いつかお仕事でお会いするかもしれませんわね」
ベリル・オークランド「それは・・・・・・ぜひ、楽しみにしております」
アリル・スノーヘル「さ、ユーラ」
アリル・スノーヘル「お父さまが呼んでいるわ」
アリル・スノーヘル「そろそろ行きましょう」
ユーラ・スノーヘル「はい、お母さま」
アリル・スノーヘル「ではオークランドさん、私たちはこれで失礼しますわ」
ベリル・オークランド「はい、局長閣下にもよろしくお伝えください」
ベリル・オークランド(彼女が、局長のご息女か・・・・・・)
ベリル・オークランド(意外だったな、あのような話をするとは)
ベリル・オークランド(ここが本当の居場所ではない、か)
ベリル・オークランド(彼女に見透かされてしまいそうだった)
ベリル・オークランド(俺が第六階層の出身であることを)
〇諜報機関
第一階層・治安維持局
ニール・ハウルゼン「先輩」
ベリル・オークランド「どうした?」
ニール・ハウルゼン「ここのところ増えてますね、謎の失踪事件」
ニール・ハウルゼン「階層が低いほど件数も多いですし」
ベリル・オークランド「「下」はもとからそういう事件が多いだろう」
ニール・ハウルゼン「まあ、そうですけど」
ニール・ハウルゼン「上の階層でも増えてるんですよ」
ニール・ハウルゼン「第四階層に加えて、第三階層でも数件ですか発生しています」
ニール・ハウルゼン「第三階層なんて、治安も悪くないはずなのに」
ベリル・オークランド「呼び出しか」
ニール・ハウルゼン「先輩だけ、ですか?」
ベリル・オークランド「の、ようだな」
ニール・ハウルゼン「最近多いですね、先輩が一人で行く仕事」
ベリル・オークランド「上の判断だ」
ベリル・オークランド「君が気にすることではない」
ニール・ハウルゼン「そう、かもですけど・・・・・・」
ベリル・オークランド「行ってくる。第四階層だ」
ニール・ハウルゼン「はい。お気を付けて」
ニール・ハウルゼン「先輩、何の仕事をしてるんだろう?」
〇入り組んだ路地裏
第四階層・とある路地裏
ベリル・オークランド「ここか、〈昏人〉の出現地点は」
ベリル・オークランド「今日はお前か」
ベリル・オークランド「今、送って──」
「いや、誰か!」
ユーラ・スノーヘル「助けて・・・・・・」
ベリル・オークランド「ユーラさん!?」
治安維持局の令嬢──ユーラ・スノーヘルが、あろうことか〈昏人〉に襲われている。
ベリル・オークランド(なぜ彼女がここに?)
ベリル・オークランド「いや、今はそんなことどうでもいい!」
昏人B「あ・・・・・・あ・・・・・・」
ベリル・オークランド「間に合った・・・・・・」
ベリル・オークランド「お怪我はありませんか」
ユーラ・スノーヘル「オークランドさん」
ベリル・オークランド「訊きたいことはありますが、今は一旦この場を離れましょう」
ベリル・オークランド「ここは危険です」
ユーラ・スノーヘル「え、ええ・・・・・・」
〇地下道
ユーラ・スノーヘル「ここは?」
ベリル・オークランド「政府の人間しか使わない通路です」
ベリル・オークランド「ここなら安全に第一階層へ戻ることが出来ます」
ユーラ・スノーヘル「・・・・・・そう」
ユーラ・スノーヘル「助けてくださって、ありがとうございます」
ユーラ・スノーヘル「命の恩人だわ」
ベリル・オークランド「いえ・・・・・・あなたが無事なら、それで」
ベリル・オークランド「ひとつ、質問をしてもよろしいですか」
ユーラ・スノーヘル「分かってます」
ユーラ・スノーヘル「なぜ私が第四階層にいたのか、でしょう」
ベリル・オークランド「そうです」
ユーラ・スノーヘル「遊んでたのよ」
ベリル・オークランド「遊んでいた?」
ユーラ・スノーヘル「だって退屈なんだもの」
ユーラ・スノーヘル「第一階層はお役所と、役人の住む家ばかり」
ユーラ・スノーヘル「第二階層ならまだ遊ぶところがあるけれど、お行儀のいい店ばっかりでつまらないの」
ベリル・オークランド「それで第四階層に?」
ユーラ・スノーヘル「そう」
ユーラ・スノーヘル「くだらないでしょう」
ユーラ・スノーヘル「自分でも、分かってるわ」
ベリル・オークランド「いえ、問題はそこではありません」
ベリル・オークランド「治安維持局長のご息女がお一人で第四階層にいるなど、あまりにも危険です」
ベリル・オークランド「反政府組織からしたら──」
ユーラ・スノーヘル「利用価値がある」
ベリル・オークランド「そうです」
ベリル・オークランド「理解なさっているのなら、なぜ」
ユーラ・スノーヘル「さっきも言ったわ。退屈なの」
ベリル・オークランド「それは、その、理解はしますが肯定できる行動ではありません」
ベリル・オークランド「何かあったら局長がどれほど悲しまれるか──」
ユーラ・スノーヘル「そうね、そうだといいけれど」
ベリル・オークランド「何か」
ユーラ・スノーヘル「本当に悲しむかしら、あの人」
ユーラ・スノーヘル「あの人にとって、私は手駒よ」
ユーラ・スノーヘル「私とあなたを引き合わせたのだって、家の利益になるお見合い相手を探しているだけ」
ベリル・オークランド「ユーラさん!」
ベリル・オークランド「退屈だからといって、それがあなたが自身の身を危険に晒していい理由にはなりません」
ユーラ・スノーヘル「確かに馬鹿な真似をしているのは理解しているわ」
ユーラ・スノーヘル「でもどうしてあなたが怒るの?」
ユーラ・スノーヘル「父の部下だから?国の人間だから?」
ベリル・オークランド「確かに私には、この国と、この国に住む人々を守る責務がある」
ベリル・オークランド「それが、それが私の──」
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