怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード9(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇学校の廊下
  気づくと、見慣れた学校にいた。
  放課後なのか、廊下に差し込む光はオレンジ色に染まっている。
茶村和成「・・・・・・」
  俺、なにしてたんだっけ?
  あ、そうだ。帰らなきゃ。
  家に帰って、それから・・・。
  玄関に向かって、一歩踏み出す。
  すると突然、先ほどまであったはずの廊下もオレンジ色の光もなくなった。

〇黒
  そこにあるのは暗闇だけで、足元から恐怖が這(は)い上がってくる。
  ヒヒャキェキャキェゲキャ!!
  脳裏に焼き付いた声が近づいてくる。
  ——嫌だ、来るな、うんざりだ、やめろ!
  足も腕も、声さえも自由がきかない。
  背後から無数の白い手が伸びてきて、俺の首や腕、腰にからみついてくる。力は強く、身体(からだ)を締め付けられる。
  ——逃げなきゃ、死にたくない。
  もがくことすらできず、ただ呼吸が苦しくなるだけだ。
  ぼんやりと現れた白骨化した死体。ないはずの双眸(そうぼう)が、恨めしそうにこちらを見ている。
  ゆっくりと上げられた手が、俺を指さす。
  なンデ気付イてクれなカッたノ——?

〇簡素な一人部屋
茶村和成「ッ——!」
茶村和成「はあっ・・・はっ・・・。 ゆ、夢・・・か?」
  汗で部屋着が張りついて気持ち悪い。身体は冷えているのに、額からは汗が滲(にじ)んでいた。
  ・・・この悪夢も、何度目だろうか。
  鏡に閉じ込められたあの日から、もう1週間が経つ。それからずっと、悪夢による不眠に悩まされていた。
  カーテンの隙間から漏(も)れる光は、もう明るい。
  俺は深呼吸をしてから、布団から出た。
  時計を見ると、すでに8時を過ぎている。
  早く学校に行かないと。
  素早く準備を終え、ひったくるように鞄を取って家を出た。

〇住宅街
  いつもの道を、少し早足で歩く。
茶村和成「くそっ・・・これも全部、薬師寺のせいだ・・・」
  ふっとあのへらへらした笑顔が頭によぎり、苛立ちを覚えた。
  “異世界鏡”の一件以来、俺は薬師寺を避けている。
  薬師寺はあのあともたびたび教室に来ていたが、3日くらい逃げていたら来なくなった。
  あいつに関わるとろくな目にあわないのは明らかである。こうするのが一番だ。

〇教室
  教室についたのは、ホームルームが始まる直前だった。
  ほっと息をついて席につくと、由比とスワが声をかけてきた。
由比隼人「おはよ〜茶村! ギリギリじゃん」
諏訪原亨輔「おはよう、珍しいな」
茶村和成「おはよ、ふたりとも。 ・・・ちょっと寝坊しちゃってさ」
  ぎこちなく笑って答えると、由比が眉間に皺(しわ)を寄せて俺を見る。
由比隼人「・・・茶村、お前最近ずっとクマひでーぞ」
由比隼人「なんかあった? 大丈夫か?」
茶村和成「えっ」
  自覚はなかったが、どうやらひどい状態らしい。慌てて笑顔を浮かべる。
茶村和成「大丈夫大丈夫、なにもないって」
  由比の心配を軽く流すと、ホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った。
  由比とスワは納得のいっていないような表情だったが、席に戻るように促す。
  日直の号令に合わせて、席を立った。
  すると、視界がぐにゃりと歪(ゆが)む。
  ・・・あ、やばいかも。

〇黒
  そう思った瞬間、地面が目の前にあって、それからのことは覚えていない。

〇保健室
  消毒液のにおいで目が覚めた。白くて清潔そうなシーツと枕カバー、どうやらここは保健室らしい。
  立ち上がってカーテンを開けると、気づいた保険医が俺を見て目を細める。
  保険医いわく、睡眠不足とのことだ。
  今日はもう帰って休め、だと。
  正直なところ、めちゃくちゃ体が重いので、お言葉に甘えることにした。

〇住宅街
  ふらふらと頼りない足取りで帰路につく。
  いつもの道程が長く感じて、やっとのことで家の鍵を扉に差し込んだ。

〇簡素な一人部屋
  まずは覚えているうちに、道場に今日は休む旨を連絡する。
  時刻は13時を過ぎていて、なにか食べなきゃと思いつつも食欲がわかない。
  そしてそのまま、制服を脱ぎ捨てて布団に倒れこんだ。
  嗅ぎ慣れたにおい。誘われるがままに、俺は意識を手放した。

〇簡素な一人部屋
  突然鳴り響いたインターホンの音で、目が覚めた。
  気を失うように眠っていたらしい。外からオレンジ色の光が部屋に差し込んでいる。
  とりあえず、出なければ。
  俺は眠い目を擦(こす)りながら、ガチャリと玄関を開けた。
茶村和成「はーい、・・・?」
  誰もいない。
茶村和成「・・・?」
  もしかして、寝ぼけてしまったのだろうか。首を傾(かし)げながら玄関を閉めた。
  部屋に戻って台所へ向かう。水を飲んで、ずいぶん体力が回復しているのを感じた。
  やっぱり睡眠って大事だな、と息をつくとまたもやインターホンが鳴り響く。
  やっぱり、さっき人がいたんだろうか。
茶村和成「はい」
  扉を開けたが、やはり誰もいなかった。
茶村和成「・・・・・・」
  ・・・いたずらか?
  なんでこんな体調が悪いときに限って・・・
  ため息をついて、扉を閉めた。
  また来ても、無視することにしよう。
  部屋に戻って布団に倒れ込んだ。
  すると、再びインターホンが鳴った。
  ・・・どうせいたずらだろ。無視する。
  もう十分寝たと思ったが、また眠くなってきた。寝れるときに寝てしまいたい。
  しかし、またインターホンが鳴る。
  ・・・無視。
  うとうとするたび、徐々に短いインターバルで鳴ってくる。
  それでも無視し続けていると、だんだん連続して鳴るようになった。
  さすがに我慢の限界で、俺はたまらずに玄関へ向かった。
  乱暴にドアノブを掴もうとすると、ドン! とドアが揺れた。
  びくっと身を震わせたあと、手を伸ばしたままその場から動けなくなる。
  すると、再びドアが揺れた。
  インターホン同様、どんどん間隔が短くなっていく。
  ほとんど連続で叩かれている状態になって、恐怖がゾワゾワと背中を駆け上がる。
  しばらくして、音と震えが止まった。
  ・・・そっと、のぞき穴を覗(のぞ)いてみる。
  誰もいない。

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