九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

第7回『求めた一欠片の』(脚本)

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〇シックなリビング
フリートウェイ「・・・シリン、お前なぁ」
フリートウェイ「お前が変な言い回しするせいで、 またレクトロが一人で混乱してるぞ」
シリン・スィ「私は事実を言っただけよ。 一人でまたああなっているのよ」
  フリートウェイは、一人わたわたしているレクトロを、少し引きながら見つめていた。
レクトロ「チルクラシアと夜におでかけするんだよね?」
レクトロ「それって、人間の言葉で言う『デート』ってやつだよね!」
レクトロ「いいなぁ!! 僕は羨ましいよ!!」
フリートウェイ「うるせぇなぁ・・・・・・ 少し黙っててくれねぇか?」
  うるさいレクトロと、ずっと悪い笑みを浮かべているシリンを交互に見たフリートウェイは、ため息をつく。
  二人の相手に疲れたフリートウェイは、さっさと自分のしたいことを話すことにした。
  第7回『求めた一欠片の』
  ──数時間後
フリートウェイ「漸く落ち着いたか?レクトロ」
レクトロ「うん・・・」
  漸く落ち着いたレクトロは、砂糖が大量に入ったホットミルクを飲んでいた。
フリートウェイ「オレはチルクラシアとお出かけしたい」
フリートウェイ「お前の外出許可が必要だろ? いきなり拐ったりはしねぇさ」
レクトロ「うん、いいよ。 そろそろチルクラシアも外に出るべきだし」
レクトロ「そもそも、チルクラシアはインドア派なんだよ。 必要最低限の外出しかしない」
シリン・スィ「いくら誘っても、必ず断られるのよ」
シリン・スィ「貴方が『出かけるきっかけ』になってくれればいいんだけど」
  レクトロとシリンの反応が思っているよりも良かったため、フリートウェイはチルクラシアを起こそうと考える。
フリートウェイ「さっさと支度をして──」
  フリートウェイがリビングを出ようとした時──
レクトロ「チルクラシアは、多分夕方まで起きないと思うよ~」
フリートウェイ「夕方!?」
レクトロ「うん。 あの子は夜行性だから、昼間はほぼ動かないよ~」
レクトロ「だから、夕方まで待ってくれるとありがたいな」
フリートウェイ「・・・・・・・・・」
フリートウェイ「・・・分かった。 夕方まで待つよ」
フリートウェイ「その間、オレは部屋にいるから」
  フリートウェイは、リビングから出ていった。
  ・・・本人は『自室にいる』と言っていたが、チルクラシアの部屋に向かっているのだろう。
「・・・・・・・・・」
  残されたレクトロとシリンは、内心フリートウェイの『お出かけの提案』に複雑に思っていた。
  チルクラシアの体調を考えれば、外出と運動はとても大切で毎日やるべきだ。
  だが、レクトロとシリンは、チルクラシアの外出には慎重な姿勢だ。
レクトロ「急にどうしたんだろう? 何かあったかな」
レクトロ「チルクラシアは、異形に狙われやすいから・・・ちょっと心配」
レクトロ「大丈夫かな・・・」
シリン・スィ「大丈夫ですよ、多分!」
シリン・スィ「あのフリートウェイが、チルクラシアのために何もしないわけ無いじゃないですか」
シリン・スィ「しばらく、様子を見ましょうよ。 イカれてて面白いし」
レクトロ「それはただの悪口じゃない・・・!?」
レクトロ「まぁ、しばらく観察するのは賛成だけどね」
レクトロ「でも、何かやらかしちゃったら、止めるんだよ!分かったね、シリン!!」
レクトロ「傍観してちゃダメだよ!!」
シリン・スィ「・・・は~い・・・」
レクトロ「落ち込まない!!!」

〇可愛い部屋
チルクラシアドール「ZZZ...」
  自室のベッドで爆睡しているチルクラシア。
  ほぼ絶え間ない眠気により、1日のほとんどは寝て過ごしている。
フリートウェイ「チルクラシア?」
フリートウェイ「寝ているのか・・・ 1日に何時間寝ているんだか」
  チルクラシアの隣に座ったフリートウェイは、彼女を起こす術を考える。
フリートウェイ(どうするかな・・・・・・)
  何かチルクラシアを起こせそうなものは無いか、と部屋中を探すフリートウェイだが、特にそういうものは無かった。
フリートウェイ(あれは・・・)
  チルクラシアのベッド近くの机に、猫型のアロマストーンが置かれている。
  その隣には、アロマオイルの小瓶が置かれていた。
フリートウェイ「成程、ねぇ・・・ 熟睡出来るのも納得だ」
  部屋中に、ベルガモットやラベンダーの爽やかな香りと、苔と微かな土の匂いを感じる、甘過ぎず落ち着ける香りが広がっている。
フリートウェイ「何か起こすのも悪いし、寝顔でも見てるかな・・・」
  フリートウェイが、チルクラシアの寝顔を見ようと近づいたのと同じタイミングで、チルクラシアは目を開けた。
チルクラシアドール「!」
チルクラシアドール「キュルル~(『おはよ~』)」
フリートウェイ「あぁ、おはよう」
フリートウェイ「熟睡していたな」
  目を覚ましたチルクラシアが、上体を起こして背筋を伸ばしているのを見たフリートウェイは、笑みをこぼす。
フリートウェイ「具合は大丈夫かい?」
チルクラシアドール「キュ!(『うん!』)」
フリートウェイ「それなら、今夜はオレとお出かけしないか?」
フリートウェイ「既にレクトロとシリンの許可は取っているけど・・・無理には誘わないよ」
チルクラシアドール「キュー!キュー!(『行く行く~!』)」
  フリートウェイの誘いが嬉しいチルクラシアは、ベッドの上で飛び跳ねる。
フリートウェイ「ストップストップ。 上手く息が出来なくなるぞ」
フリートウェイ「ちょっと落ち着いて欲しいんだが・・・」
チルクラシアドール「ヒュー、ヒュー・・・」
  フリートウェイの言う通り、チルクラシアは嬉しさのあまり過呼吸になってしまっていた。
フリートウェイ「だから言ったのに・・・・・・」
フリートウェイ「深呼吸だ。 ゆっくり息を吸って吐いて・・・・・・」

〇可愛い部屋
  ──20分後
フリートウェイ「落ち着いたな」
フリートウェイ「・・・もう行く気だな。 そんなにオレの誘いが嬉しいか?」
  過呼吸が落ち着いたチルクラシアは、小さなリュックを背負って、ベッドの上で正座をしていた。
  フリートウェイは、自分の片手を見つめ、手のひらを指先でとんとん、と軽く小突いている。
  何かの信号のようなリズムが終わると同時に、部屋の時計を横目で見る。
  時計の針は午後5時30分を指している。
  ──そろそろ外出してもいいだろう。
フリートウェイ「そろそろ、行くか! どこでも連れてくぜ」
チルクラシアドール「キュルルゥッ(『海に行きたい』)」
  チルクラシアは海が好きで、外出の度に行っている。
  街中や駅近くに行くと高確率で体調不良を起こしてしまうので、自然豊かな場所へ行きたいらしい。
フリートウェイ「海か・・・ 分かった、行こうか」
フリートウェイ「何か欲しいものはあるかい?」
チルクラシアドール「キュ(『これ』)」
  チルクラシアは、精油の入ったボトルが欲しいようで、それを指さしていた。
チルクラシアドール「キュウゥゥ・・・(『今夜の分しか無いの・・・』)」
フリートウェイ「それじゃ、海に行く前に買い物をすませようか」
  おでかけのプランが決まったところで、チルクラシアはベッドから降りてドアを開ける。
チルクラシアドール「キュル、クルルッ!(『行こっ、行こう!』)」
フリートウェイ「気が乗ってきたところで、行きますかね・・・」

〇リサイクルショップの中
  家を出たフリートウェイとチルクラシアは、近くの小さな店に入った。
  この店はチルクラシアのお気に入りで、ここと浜辺だけは一人無断でたまに行っているほどだ。
フリートウェイ「精油だっけ、買ってきなよ」
チルクラシアドール「キュルルッ!(『やった!』)」
  チルクラシアは、精油をカゴに入れる。
  が、そのままレジにはいかなかった。
フリートウェイ「・・・? 気になるものでもあるのか・・・?」
  フリートウェイは、カゴを覗く。
  精油の他に、様々な色や長さのリボンと小さな鎖が大量に入っていた。
フリートウェイ(・・・・・・???)
フリートウェイ(何故、リボンと鎖、を・・・・・・?)
チルクラシアドール「・・・お会計、しまーす・・・・・・」
  フリートウェイが、リボンと鎖の使い道を探ろうとしている内に、チルクラシアは会計をし始める。
フリートウェイ「・・・・・・」
チルクラシアドール「はい、おしまい! 海行こうよ」
  会計を終えたチルクラシアは、フリートウェイの顔を背伸びをして見る。
チルクラシアドール「何かあった?」
フリートウェイ「何でもない」
フリートウェイ「抱っこするからおいで」
  フリートウェイはチルクラシアを片手抱きした。
  ・・・フリートウェイとチルクラシアから見るとこれはただの『一動作』でしかない。
  周りの目などは気にしないのだ。
  二人は、この体勢のまま海へ向かうようだ。

〇海辺
  浜辺についた時には既に、夜になっていた。
フリートウェイ「着いたぞ。 起きな、チルクラシア」
チルクラシアドール「ゥヴ・・・(『んん・・・』)」
  僅かにうめき声を上げながら、フリートウェイの胸の中で起きるチルクラシア。
  片目を擦り、辺りを見渡している。
チルクラシアドール「!!」
  自分が浜辺にいることを知り、笑顔を見せた。
チルクラシアドール「キュ~♪(『やった~♪』)」
チルクラシアドール「クルルッ♪(『ありがとー♪』)」
フリートウェイ「お礼は結構。 君のリクエストを聞いただけだから」
  フリートウェイはチルクラシアを降ろし、ふらついている彼女の背中を後ろから支える。
フリートウェイ「ちょっと歩いてみたらどうだ?」
チルクラシアドール「キュルッ・・・(『歩く・・・』)」
  チルクラシアは一歩前へ進む。
  両足に力が入らないからかやっぱりふらついている。
フリートウェイ「ゆっくりでいいから」
チルクラシアドール「!」
  転倒だけはしたくないのか、彼女はフリートウェイの身体にしがみついた。
フリートウェイ「大丈夫だって! 転んでも何とかなるから」
チルクラシアドール「キュ?(『本当?』)」
フリートウェイ「別に嘘ついているつもりはないぞ!」
チルクラシアドール「・・・・・・・・・」
フリートウェイ(信用されていないな、これ)
  チルクラシアの疑念に近い無の表情を見たフリートウェイは、彼女の少し前に立つ。
フリートウェイ「ここまでおいで」
チルクラシアドール「・・・・・・」
チルクラシアドール「~♪」

〇海辺
チルクラシアドール「!!」
フリートウェイ「おい!?」
  彼女はフリートウェイの腕を掴みたかったのか、片腕を中途半端に上げたまま砂浜に倒れてしまう。
フリートウェイ「何もない所で倒れるか!?」
フリートウェイ(まぁ、いいか)
  チルクラシアの転倒にツッコミを入れながらも、フリートウェイは後ろに倒れた彼女に手を差し伸べる。
フリートウェイ「おーい、大丈夫か・・・?」
フリートウェイ「!」
  チルクラシアは、微笑を浮かべながら寝そべっていた。
  数秒前に転んでしまったようには見えないほどに。
  フリートウェイは、思わずチルクラシアへ伸ばした手を引っ込んでしまう。
チルクラシアドール「身体は痛くないよ! だから、大丈夫」
チルクラシアドール(転ぶのって、いつものことだもん)
チルクラシアドール「・・・キュゥ?(『・・・あれ?』)」
  フリートウェイの挙動がおかしいことに気がついたチルクラシアは、首を傾げる。
チルクラシアドール「んにゃ?(『どうしたの?』)」
チルクラシアドール「キュルルッ?(『何かあった?』)」
フリートウェイ「・・・まずは、身体を起こそうか」
  チルクラシアの両腕を自らへ引き寄せるフリートウェイ。
  だが──
フリートウェイ「危ない!」
  腕を引っ張る勢いが強すぎたのか、チルクラシアの小さな身体は、尻餅をついたフリートウェイの胸の中に収まった。
チルクラシアドール「♪~」
  フリートウェイが怪我をしていないことを確認したチルクラシアは、彼を少しきつく抱き締める。
フリートウェイ「~~っ!」
チルクラシアドール「フリートウェイ、照れて、ル?」
フリートウェイ「・・・・・・・・・うるさいなぁ」
  チルクラシアに急に抱きつかれたフリートウェイの頬は、林檎のような『赤』に染まっていた。
  が、夜だからかその『赤』はチルクラシアには見えていないようだ。
フリートウェイ「・・・・・・・・・」
フリートウェイ「まぁ、いいけどさ・・・」
  フリートウェイは、辺りを見渡すと、
  チルクラシアの背中に両腕を回した。
フリートウェイ「寒いかと思って・・・ もう少しだけ、このままでいようぜ」
チルクラシアドール「うん♪」

〇海辺
  ──数分後
フリートウェイ「そろそろ帰ろうか?チルクラシア」
チルクラシアドール「キュー(『うん』)」
  しばらく抱き合っていたフリートウェイとチルクラシア。
  本当はもう少しこのままでいたかったが、そろそろ帰らないとレクトロが心配するので家に帰ることにした。
フリートウェイ「真っ直ぐ帰るか・・・ チルクラシアはオレの手を繋いで──」
「!?」
  立ち上がったチルクラシアの足元に、大きな扉が出来ていた。
チルクラシアドール「──!!!!」
  フリートウェイの手が自分と繋がる前に、チルクラシアは扉に吸い込まれるように落下してしまう。
フリートウェイ「良いところだったのに・・・・・・ 邪魔しやがって」
フリートウェイ「オレからチルクラシアを離して・・・ 許さないぞ」
  不機嫌になったフリートウェイは、
  右手に『刀身の無い刀』の柄(ツカ)を握り、異空間の開いた入口に飛び込んだ。

次のエピソード:第8回『身、縛る底冷え』

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