魔界都市 渋谷

白貝ルカ

初デート(脚本)

魔界都市 渋谷

白貝ルカ

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〇オタクの部屋
  「知っているかい?渋谷っていう街には魔物が住み着いているんだ」
城ケ崎匠「魔物?なんだそれ」
  「そう、魔物だ。現に和也も亨もあの町に飲み込まれた。いいか。お前は絶対にあの街に近づくんじゃないぞ。
  たぶん、いや、きっとお前も・・・
  帰ってこれないから!!」

〇住宅街
  高校生の頃、中学の時に仲良かったオタク仲間の康太は僕にそう言った。
  和也も亨も中学の時には仲が良かった仲間だが、高校に上がると共に疎遠になり連絡は途絶えていた。
  だから、中学を卒業して以来彼らがどうなったかは定かではない。

〇改札口前
  大学に上がり私は東京の工業大学に進路を決めた。ここは居心地が良かった。
  9割は男でその内7割は根暗なオタク。
  その環境が僕には何とも居心地が良かった。
  出掛ける時は秋葉原が中心。
  精々上野から池袋までが行動範囲内で、新宿や渋谷などの若者が集うエリアは縁遠い街であった。

〇電車の中
城ケ崎匠「そもそも化け物が出るから、近づけないし」
  でも、今日は昔の教え、いや、ルールを破って渋谷に行くことになった。
  いわゆるデートというやつだ。
  相手はゲーム仲間で夜な夜なオンラインでやりとりをしている同い年の女性。
  リアルで会うのは初めてだった。
  趣味も合い、会話も弾み流れで、今日一緒に遊ぶことになった。
  彼女がデート場所で選択したのが渋谷だった。
城ケ崎匠「渋谷なんて行ったことないぞ」
  電車の中でソワソワ。
  空いてる席にも座らずに立ったまま、ドア上部のモニターで渋谷までの路線図を見て気持ちを落ち着かせた。
「次は渋谷、渋谷です」

〇駅のホーム
  僕は意を決して渋谷に初上陸した。
  何てことはない四方八方から聞こえる雑踏と、同い年ぐらいの若者たちがお出迎えしてくれる。
  誰もが綺麗な服装をしていて、田舎のスーパーで買い揃えた服を身につけているのは僕ぐらいしかいない。
  明らかに浮いている。

〇広い改札
  今どこ
城ケ崎匠「渋谷怖いな」
  僕は大型犬がいるドッグランに放り込まれたチワワのように震えていた。
  それでも彼女との約束を無下にするわけにはいかない。
  もしかしたら、今日会う女性が、将来の彼女。未来の奥さんになる可能性だってある。
  渋谷になんてビビっていられない。
  私も渋谷に付いたよ( ^ω^ )
  どんな服装してる?

〇ハチ公前
  渋谷のハチ公前、多種多様な人種が今日という日を楽しむために待ち合わせをしている。
  遠くの方で歓声があがる。
  青と赤の髪色をした女子が
女子「ひさしぶり〜!!」
女子2「超久しぶりじゃん!!」
  なんて声をあげている。
  僕は隅っこで目立たないように同じ人種を探す。
  遠くに部屋着姿でみすぼらしい恰好のロン毛の男がいる。
  どことなく親近感。
ホスト風男「よっ!!」
オタク風男「おお、行くか」
  その男の連れが現れたが、金髪でスーツを決めたホスト風の男。
  違う世界軸の男たちが交わっている。
  僕にとっては意味不明、気持ちが悪い世界。
  ハチ公前の電車の模型の後ろの地下に向かっている階段のところにいる。ボーダーのシャツを着てる
城ケ崎匠「彼女が来れば大丈夫。大丈夫だろ」
  渋谷に成れている彼女が要れば、きっとこの状況が変わるはずと信じていた。
謎の女性「ああ、いた。コリョタさんですよね」
  可愛らしい声で話掛ける女性。ようやく彼女が来たと僕は息を吐く。
城ケ崎匠「え?」
ミキザムライ「ごめんなさい、もしかして違う人でしたか」
  そこには見たこともない化け物が立っていた。
城ケ崎匠「いや、えっと、合ってるけど、違うかも」
ミキザムライ「はははっ、変なのー」
城ケ崎匠(俺が変なのか)
ミキザムライ「こんなに人が多いから、見つけられないかと思った」
  回りを見渡すが、彼女を見て驚いている人はいない。
ミキザムライ「あっ、自己紹介まだでしたよね。私ったら、あはは。 いつもゲームでお世話になっています。ミキザムライと申します」
  彼女が頭を下げる。僕は只気が遠くなる。
城ケ崎匠「えっと、コリョタと言います。改めてよろしくお願いします」
ミキザムライ「ああ、良かった。コリョタさんが普通の人で、怖い人だったら私どうしようかと」
城ケ崎匠(僕は貴方が怖いです)
城ケ崎匠「あの、失礼ですが、ミキザムライってハンドルネーム、本名がミキさんだからそいう名前にしてるんですか」
ミキザムライ「ああ、良く聞かれるんですけど、違います。私の本名はコミュータス・アケノルド・ザムライって言います。長いですよね」
城ケ崎匠「ああ、ザムライの方ね」
ミキザムライ「早く行きましょ。人生で今日という日は今しかないんですから」
城ケ崎匠「ああ、はい」

〇アパレルショップ
ミキザムライ「見てみて、この服可愛い」
城ケ崎匠「可愛いですね。えっと、服、服着るんですか」
ミキザムライ「ははは、何言ってるんですか。人間なら誰でも服着るじゃないですか」
城ケ崎匠(人間なら・・・)
ミキザムライ「見てみて、似合ってますか」
城ケ崎匠「えーと、似合ってますよ」
ミキザムライ「どうしようかな、試着してみようかな」
城ケ崎匠「いや、試着はやめた方がいいかもしれないです」
ミキザムライ「何でですか」
城ケ崎匠「背中の突起とか、体表のぬるぬるとか多分買い取ることになるかと」
ミキザムライ「そうですか。だったら、私に似合う可愛い服選んでください」
  僕は長めのタオルを差し出す
ミキザムライ「なんか馬鹿にしてます?」
城ケ崎匠「してないです。でも、着れる服、いや、布っていったらこれぐらいしか」
ミキザムライ「最初はもっと良い人かと思ったのに。性格は最悪ですね。もう、私帰ります」
  私は追いかけずにその背中を見送った。
  粘液が道標のように床を濡らしている。
城ケ崎匠「魔界都市渋谷、なんと恐ろしい街か」

コメント

  • たしかに魔物なのに、どうやって服を着るんだろう?と考えてしまいました。
    ひょっとして、匠くんにだけそう見えてる?とも考えました。
    会話のリズムがよくて楽しく読めました!

  • 魔物に縁のあるタイプだったのですね。彼の同級生はその素質を見抜いてそう告げていたのかも。せっかくの初渋谷が、初デートがこんな結果に終わりただただ気の毒でした。

  • すごく面白いやりとりで笑ってしまいました!
    特に名前のところとか、ザムライの方が本名からとってるところとか笑
    結局友人の言葉通り、魔物がいましたね!

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