第壱話 光あれ(脚本)
〇本棚のある部屋
姫野晃大「・・・」
姫野晃大「いよいよ明日か・・・」
明日から姫野晃大は高校生になる。
とはいっても、大した変化はない。
周りの面子はほぼ同じ。通う場所が変わるだけだ。
ほぼ唯一の変化である新しい環境には、期待もあるし不安もある。
が。
姫野晃大「・・・」
それだけではない何か。
妙な胸のざわめきを晃大は感じていた。
姫野晃大「落ち着かないな・・・」
呟いて、ふと窓の外に目をやった、その時。
姫野晃大「うわあああぁぁあ!!!!」
素っ頓狂な声を上げて叫んでしまった。
魔族「こんばんは」
窓の外、ベランダに人がいた。
壮年の男が立っている。
窓にはしっかり鍵をかけてある。
なのに、男の発した声がはっきりと聞こえた。
魔族「ちょっと、お邪魔するよ」
バギイッ!!!!
姫野晃大「うえぇ!?!?」
鍵が壊れて弾け飛ぶ。
それほどの力がかかっているのに、男は涼しげな顔で全く力む様子もなく窓をスルリと開けて部屋に入ってきた。
魔族「姫野晃大くん、だね?」
姫野晃大「あ、はい」
男の落ち着いた雰囲気に流され、晃大は素直に首を縦に振る。すると、
魔族「じゃあ、死んでもらおうか」
男の雰囲気が変わった。
晃大は初めて殺気というものを肌で感じ取った。
男の眼光が気迫と鋭さを増し、全身に力が漲っていくのがはっきりと分かる。
姫野晃大「(殺される!)」
分かっていても体が動かない。
魔族「目覚める前に宿主諸共滅びろ!」
男が右手の指を伸ばして揃え、晃大目掛けて突き出した、その瞬間、
魔族「ぬぁっ!?」
眩い光が部屋を満たし、男は光に弾き飛ばされた。
「随分と焦っているな、魔族の」
魔族「ちっ、目覚めおったか」
体を起こし、男は舌打ちした。
そして、声の主を睨みつける。
姫野晃大「え、え、え?」
晃大と男の間に、金色に光り輝く龍がいた。
龍としか言いようのないそれは、晃大に背を向けて男を見つめている。
姫野晃大「(何だこれ・・・)」
わけがわからない。全くもって訳が分からない。
しかし、さっきまでと違うことがあった。
姫野晃大「(力が、湧いてくる)」
金色の龍の放つ光と声は、晃大の心と体を奮い立たせた。
姫野晃大「人んちにいきなり入ってきて何様のつもりだコノヤロウ!」
姫野晃大「不法侵入と器物破損と恐喝と殺人未遂で訴えてやる!警察呼ぶからな!」
立ち上がって啖呵を切り、スマホを取ろうとして周りを見回し、
姫野晃大「あ、れ?」
〇草原
スマホがない。
スマホを置いていたベッドがない。
机も椅子もない。
本棚もない。
窓もない。壁もない。
家も、街も、自分の周りにあったはずの全てがない。
だだっ広い、遮るものの何一つ無い、正に広野。
「狭いのは不便なのでな、結界を張らせてもらった」
姫野晃大「結界ぃ!?」
魔族「くっ・・・」
姫野晃大「結界って何なんだよ!こんなオッサンと二人きりなんてやだよ俺!」
「うむ、だからこいつを倒す」
姫野晃大「は?」
「だから、こいつを倒す」
姫野晃大「どうやって?」
姫野晃大は、ごくごく普通の若者である。
戦闘経験はない。
ごっこ遊びや喧嘩はしたことはあるが、命のやりとりをした事はない。
武道や格闘技も未経験だ。
戦い方など全く知らないし分からない。
急に言われてもできるわけがない。
「念じてみろ 己がどのように戦うのか」
金色の龍に言われるがまま、晃大は目を閉じてイメージしてみた。
自分なら、どのように戦うのか。どんな武器を使うのか。
姫野晃大「・・・」
両手を腹の前に出して握る。
すると、眩い光が拡がって形を成していく。
やがて光が消えた時、
姫野晃大「おぉ・・・」
晃大は一振りの刀を手にしていた。
「まあ、そうなるか」
姫野晃大「何その溜め息」
「気にするな、お前もやはり日本人だな、と思っただけだ」
魔族「それで、準備はできたのかね?」
苛立ち混じりに魔族と呼ばれた男が声を掛けてきた。
魔族「いかに目覚めたとはいっても、馴染まなければ力を存分に発揮できまい!」
魔族「一気に討ち果たしてくれる!」
「やってみろ」
姫野晃大「うぇぇ!?」
光龍が消えた。
晃大の右腕に吸い込まれるようにして消えた。
姫野晃大「ちょ、おい、どうすんだよ!」
慌てて晃大が自分の右腕に向かって叫ぶと、
「(何も考えずに全力で振り抜け)」
脳裡に金色の龍の姿が浮かび、声が聞こえた。
姫野晃大「くそっ・・・」
アドバイスにしては、あまりにも単純すぎる。
ド素人にどうしろというのだ。
しかし不思議と絶望感はない。
やってやる、という気力が湧いてくる。
魔族「宿主諸共滅びろ光龍!!」
光龍、というのが、あの金色の龍の名前だろうか。
飛びかかってくる男目掛けて、晃大は野球のバッティングよろしく思い切り横薙ぎに振り抜いた。
鋭く光る男の両手の爪が晃大に届く寸前、
魔族「!!!!!!!!!!」
刀が男に当たった手応えを感じた。
光が男を包み込み、何かを叫んでいたようだったが声すらも光にかき消され、
男は文字通り消滅した。
姫野晃大「やった、のか?」
刃筋も振り方もめちゃくちゃ。ただただ思い切り振り抜いただけ。
手からすっぽ抜けたり、体勢を崩していないのが奇跡的だ。
「やったな」
姫野晃大「うわ、でてきた!」
金色の龍が晃大の右腕からヌゥっと出てきた。
「やればできるではないか 流石は我が宿主」
姫野晃大「いやあ、それほどでも」
「我が名は光龍 我が宿主、姫野晃大、今後とも宜しく頼む」
ようやく名乗りを済ませた光龍は、再び晃大の右腕に吸い込まれるようにして消えた。
姫野晃大「あれ?」
晃大はふと気がついた。
姫野晃大「光龍、結界がそのままになってるぞ」
「すまん晃大、やられた」
姫野晃大「何を?」
「私の結界を再利用して張り直された 気をつけろ、次のやつは手強いぞ」