ヒキツギ

たくひあい

引き金ID/継ぎ接ぎパスワード(脚本)

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〇街中の道路
  ──ヒキツギ──
納二科寧音(なにかねね)「あのときは、あんなふうに結果が無理矢理変わるなんて、 芸能界くらいだと思ってたな」
  現在。
  馬田が死んでも変わらない日常の中、
  あたしは、同じようにあの道を歩いている。
  単に、買い物に行くだけだけど
  部長の話、どうする――――?
  分からない。
  戸惑っている。
  こんなに早く目の当たりにするなんて思わなかった。
  社会が、企業が、こんなに直に襟好みしている現実。権力者があんなふうに他人を迫害する光景。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・部長もあの様子なんだよね。出版社も、か・・・・・・」
  これじゃ、例えば参戦したとして戦う事が出来たとしても利権目当てであっという間に立場だけ奪い取る、というのはあり得る。
  裕子さんのような人が入って来て、大騒ぎすればスポンサーの多い方に一瞬で傾くだろう。
  ・・・・・・それで、目を付けられていたら。
  という事はあたしの作品がいつのまにか西峰維織になっていても・・・
  いい?
  小説家には、ならないでね
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・選ぶことも、拒否することも、自分の事なのに、最初から出来ないのか」
  誰にも汚されない、まだ価値のついていない自分が居ないのか。
  何の為に生きているんだろう。
納二科寧音(なにかねね)「ん?」
  携帯端末を開くと膨大な迷惑メールが来ていた。
  中身は決まって隠し撮り、盗撮、誹謗中傷。
  いつからか漏れ出している個人情報
  によって生み出された狂気だ。
納二科寧音(なにかねね)「またか・・・・・・」
  差出人は、   『ガスライター』
  ガスライター、ガス灯は昔の映画で、
  夫が手を直接は加えずに環境要因を動かし妻を精神的に追い込むというものだ。
  現在ではガスライティング、を調べると集団ストーカー被害を訴える記事が多く出てくる。
  しかし証明の困難さから同時に、精神疾患の方が自身の健康状態と脳内を統合出来ないことを正当化する場にもなっているらしい。
  現代なら、証明も統合化もしやすくなっていくと思うけれど、ネットの普及していない昔は尚更見分けがつかなかったことだろう。
  ということは、証明方法さえ確立してしまえば、
  妄想と分けることが可能なわけだが、何故だか未だにそういった声を表立って聞かない気がする。
  ・・・・・・ガスライターをわざわざ名乗るのは、あたしの知る中で二人目。
  わざわざ、ガスライターを知ってほしいと言わんばかり。
  政治的な環境要因、消費者的な環境要因を動かせる人ならあたしも心当たり、あるんだけどな。
納二科寧音(なにかねね)「西峰・・・・・・」
  添付されている、あたしの隠し撮り写真を消去しながら考える。
納二科寧音(なにかねね)(もし、麺が来るとして・・・・・・)
納二科寧音(なにかねね)「?」
  店に向かう途中だったあたしの横、道路に救急車が走ってくる。
  そこから出て来た数人が担架を持って、目の前のビルに入っていった。
  何かあったらしいという事はわかったけれど、火事や交通事故が起きている訳でもない。怪我人とか病人とかそういうのだろう。
  そんな事を思いながら、なんとなくその場から目が離せなかった。
  何故だろう、なんだか嫌な予感があった。
  それに、周囲の人がざわめいているように感じる。
  気のせいだろうか、誰かの噂をしているような。
「カフェのとこ・・・・らしいよ」
「知ってる、今ネットで・・・・・・」
  あたしは何気なく、
  端末から、若者に流行っているsnsを見た。
  今あるトレンドが急上昇しているようで、多くがそれについて話している。
  『カフェ【 ナッツ姫】で刃物を持った男が店員に詰め寄り、首や腹部などを切りつけか』
納二科寧音(なにかねね)「それって、此処のビルじゃ・・・・・・」
??「あーあ」
  ふいに、あたしの背後、路地裏の方から男性の声がした。
  誰かの声に、似ている。
  でも、誰だっただろう。
??「彼奴も運が無いなぁ」
??「どうせ俺たちはみんな大人の保険として、盾になる為の個人情報なんだ。 データにそれ以上の価値なんて無いのに」
  目の前、担架に乗せられた誰かが運ばれていく。
  ビルの階段を降りる一瞬、人だかりの隙間からその顔が見えた。
納二科寧音(なにかねね)「!」

〇街中の道路
納二科寧音(なにかねね)「村田さ・・・・・・ん」
  頭や腹部から血を流し、ぐったりと横たわる村田さん。マスクでほとんど顔は分からないが、あたしにはわかる。
  馬田のときと違い、直接見たからか、ショックで呆然としてしまった。
  ナッツ姫に村田さんが居たことは、あたしも知らなかった。
  その場に居て、もし居合わせたところで適切な対処が出来たかはわからないのに、何も出来ないのがなんだか悔しい。
納二科寧音(なにかねね)「そんな・・・・・・」
「見たよ〜。 なんか、トイレ貸して!って最初は叫んでたけど、そのうちあの人指名してた」
「あー、もしかして準優勝しかけたって言う」
「何にもしてないでしょ(笑) 大袈裟。 普通に落ちただけの一般人(笑)」
  ――本当に、ただの事件だった?
  ――本当に、村田さんは何もなく、落ちただけなの?
  去っていく救急車を見送りながら、あたしは考える。
  此処に集まる野次馬の複数人が大会の話をして笑っている。
  親しいあたしとは違い、彼女たちは落ちただけのただの一般人の村田さんのこと、逐一覚えてた?
  それで、わざわざ集まりに来て笑ってるというの? コンテストの名前を出してまで?
  裕子さんが勝ったならその話をすればいいだけじゃないか。わざわざ集まって、村田さんを確かめに来るなんておかしい。
  対して関わり無さそうな複数人から喧嘩腰で
  囲まれるという状況からしても
  村田さんから聞いた、裕子さんがキレて全部無かったことにしたという話の方が筋が通ると感じた。
「てかさ、悔しいならもう一回出ればよくない?」
「ギャハハハ! 言えてる! こんなとこで働いてないでもう一回受けろよ(笑)」
納二科寧音(なにかねね)「何アレ・・・・・・」
  何も知らないくせに。よくあんなことが言える。
  
  彼女は悔しいなんて言わなかった。
  嬉しかった、って言ったんだ。
  個人情報が取り引きされていて
  待ち伏せされていて、
  
  コンテストが終わっても終わらない。
  あたしたちは、まるで社会の所有物みたいだ・・・・・・
納二科寧音(なにかねね)「はい・・・・・・」
  突然の着信。かけてきたのは部長だった。
部長「ナッツ姫で次の事件が起こったらしい」
納二科寧音(なにかねね)「知ってます」
  思わず声が、震える。
  部長が見てるわけじゃないのに、目の前の事件が他人事みたいに言われたようで苛立っていた。
部長「どうした? もしかして、そっちに居るのか」
納二科寧音(なにかねね)「今、運ばれて行きました。 村田さんが」
部長「!」
部長「・・・・・・どうして、彼女が」
「アハハハハ!」
  雑踏の中でわざとらしく女の声がした。
「あの女が審査員に色目使ったんだ! 周りをどんな手で騙したか知らないけど」
「努力も無しに、チヤホヤされて、私からファンを盗るからだ!」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・かけなおします」
部長「あ、あぁ・・・・・・」
  通話を切って女子の群れを探す。
  近くから聞こえたと思うのだが・・・・・・
納二科寧音(なにかねね)「あ・・・・・・あれかな」
  今どきのKpopにありそうな、モノトーンで韓国風のファッションの若者が4人程前方を歩いている。
「楽して上がって来るやつ?ムカつくよね」
「私松本が良かった!」
「まぁ、もう無理でしょ」
  狂って居るとしか思えない憎悪を帯びた声。わざわざ叫ぶのを抑えきれない感情。
  楽してるかなんて、誰がわかるんだろう。
萢村邦清(やつむらくにきよ)「あ、貴方、村田さんの知り合い?」
  唐突に声をかけられて、しばらく固まってしまった。
萢村邦清(やつむらくにきよ)「あ、ごめんなさい、村田さんの話をしてる気がしたから・・・」
  真面目そうな子だ。
  村田さんの友人だろうか。
納二科寧音(なにかねね)「えと・・・・・・」
萢村邦清(やつむらくにきよ)「私は萢村邦清。ナッツ姫で働いてます」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・あ、そうなんですね。えと・・・・・・クラスメイトの納二科寧音です。村田さんが運ばれるのが見えて、それで・・・・・・」
萢村邦清(やつむらくにきよ)「お話があるんですが、ちょっといいですか」
  どうしよう。買い物が、と一瞬脳裏に過ったが、彼女を無碍に出来そうにもない。
納二科寧音(なにかねね)「なんでしょうか」
萢村邦清(やつむらくにきよ)「村田さん、前からおじさんに粘着されてて・・・・・・ 高い腕時計貰ったり」
萢村邦清(やつむらくにきよ)「学校でそんな話してましたか?」
納二科寧音(なにかねね)「いや・・・・・・初耳です。あ、でも、彼女の性質からしても、無理は無い、かと。だから、その」
納二科寧音(なにかねね)(そんな話、余計揶揄われるよね・・・・・・)
  さっきの韓国風メイクの集団みたいなのがよく思わないのは明らかだ。
萢村邦清(やつむらくにきよ)「わかっています、私も相談したらとかお説教に来たわけじゃないんです」
  そんな前置きの後に、彼女は言った。
  今朝運ばれる前に、「此処も西峰か」って言ってて

〇巨大なビル
  ――――ここは子宮――――
  
  「子」を持たない我らにとっての子宮。
  
  
  我らの発展の為の、透明なゆりかご。
フォノ「身元不明の被験体X、その作品集(ポートフォリオ)を先取って販売してしまう」
フォノ「唯一の問題は、特定保健用食品が取り引き先に特定されることだが」
フォノ「彼らの身元が取り引き先に割れることはまずない・・・・・・」
フォノ「今のところ、我が社は安泰でしょう」
ウィグル「こんな素晴らしいビジネスにお招き頂いた事、至極光栄でございます」
ウィグル「これまで通り、自治区の管理はお任せください」
グルド「あたしはぶっ倒せればなんでもイーヨ」
フォノ「フフフ・・・・・・元気があって良いですね」
ウィグル「はい、もしもし・・・・・・ またデモですか。焼身?ハハッ」
ウィグル「ちょっと軍を率いてきます」
グルド「あたしも行くヨー!」

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