〇居酒屋の座敷席
　　今日は、結婚が決まった俺を祝って
　　飲み仲間の悪友達が飲み会を
　　開いてくれた。
悪友１「しかし・・・ お前が結婚出来るなんて・・・ 信じられないよなぁ・・・」
悪友２「そうだよ・・・ 俺なんか・・・ お前に春を呼ぶためにどれだけ 苦労したか・・・」
悪友１「まっ・・・ とにかくこれでお前も一人前だな・・・・」
俺「ありがとう」
　　お祝いと言いながら・・・
　　どいつもこいつも俺の事をクソミソに
　　言いやがる・・・
　　しかし・・・
　　みんな・・・
　　一応喜んでくれてるので・・・
　　俺もニコニコしながら
　　ありがとう・・・
　　と言っていた。
彩子「今日・・・ 彼女が来なかったのは残念だったわ・・・」
　　このグループの紅一点の彩子が言った。
俺「しかたないよ・・・ 仕事が忙しいらしいから・・・」
彩子「ぜひ・・・ あなたの彼女に会いたかったのに・・・」
悪友２「しかしよぉ・・・ 俺はアヤとお前がお似合いだと思ったんだけどなぁ・・」
彩子「まぁ・・・縁がなかったんでしょ・・・」
　　俺も彩子に対しては恋心を抱いてた時期も
　　有った。
　　しかし・・・
　　彩子には俺の事は恋愛の対象とは
　　思われてなかったらしい・・・
　　少なくとも俺にはそう感じられた。
　　だから・・・
　　俺も強力なアブローチをしなかった。
　　そのかわりに彩子とは良い友達だった。
　　他の人間に言いにくい相談なんかも
　　お互いにしていた。
　　男女の友情って有るんだな・・・
　　なんて思ったりなんかして・・・
　　元々が酒好きの連中なので、
　　俺の事など忘れて単なる飲み会と
　　なっていた。
　　そろそろ、おひらきにすると
　　幹事が言い出した。
　　丁度良い頃合だろう・・・
　　すでに泥酔状態の奴が何人か出ていた。
　　俺は店を出てみんなに御礼を言った。
　　二次会と言い出してる奴も居たが
　　丁重にお断りした。

〇ネオン街
　　彩子も帰ると言うので二人で
　　一緒に帰る事にした。
　　特に会話もなく、しばらく二人とも黙って
　　歩いていた。
彩子「ねぇ・・・お腹すかない・・・??」
　　彩子が不意に言った。
俺「そうだなぁ・・・ 軽く食べたい気分だな・・・」
彩子「それじゃぁ・・・ そこのラーメン屋に入らない？」
俺「いいねぇ・・・ 飲んだ後のラーメン・・・ 基本だな！」
彩子「そう言う事・・・・」
　　俺達二人はラーメン屋に入った。

〇ラーメン屋のカウンター
　　席に着いて注文をした。
俺「考えてみたら・・・ お前と二人っきりで店に入ったの 初めてじゃないか？」
彩子「そうねぇ・・・ いつもみんなと一緒だったからね・・・」
俺「だから・・・ 知り合って３年近く経つのに何も無かったんだなぁ・・・」
彩子「周りは私達をくっつけようとしてたみたいよ」
俺「え?!」
彩子「あいつは良い奴だからアヤどうだ？ ってね・・・」
俺「そんな事言ってたんだ・・・ あいつら・・・」
彩子「あんまりうるさく言うから一度怒った事が あるのよ」
俺「しかし・・・ 何で俺なんだろうなぁ・・・ 他にも独身者は沢山居るのに・・」
彩子「仲良くしてるからじゃない・・・ 気心知れてるからね」
俺「言いたい事言い合ってるしな・・・・」
彩子「でも・・・ あんまり周りが騒ぎすぎると当人達は 反発するものなのにね・・・」
俺「もし・・・ 周りが騒がなかったら俺達くっついたかもな・・・」
彩子「それは・・・どうかしらね・・・」
　　俺はちょっとがっかりした。
　　おまち!!
　　カウンター越しにラーメンが出てきた。
彩子「さぁ・・・食べましょう！いただきます!!」
　　俺達はラーメンを食べ始めた。
　　本当に飲んだ後のラーメンは旨かった。
彩子「でも・・・ くっつきそうになった時有ったよね？」
　　俺は危うくラーメンを吹き出しそうになった。
　　しかし何とか冷静を保って答えた。
俺「今更こんな事言うのも変かもしれないけど、俺お前の事好きだったよ！」
彩子「そうだったの・・・・」
　　またそっけなく彩子は答えた。
俺「くっつかなかったのは・・・ たぶん・・・ 俺が悪かったんだろ」
俺「もっと強引にアプローチしてたら・・・・」
彩子「そうじゃないよ！ たぶん強引にされてたら・・ 私・・逃げてたと思うよ」
俺「そうか・・・？」
彩子「あなたとの付き合い方はこれで 良かったんだと思う・・・・」
俺「それじゃ彩子にとって俺は友達が一番 って事か・・・？」
　　彩子は少し間を置いて。
彩子「あのね・・・ あなたが結婚するって聞いた時・・・ お嫁さんになる人に嫉妬したわ」
俺「え?!」
彩子「あなたとは友達関係が一番だと思ってたのに実は恋人になりたかったのね・・・・」
彩子「自分でもこんな気持ちになるなんて 吃驚したんだけど・・・・」
俺「・・・・・・」
　　俺はどう答えて良いか解らなかった。
彩子「だけど・・・ 今日・・・ あなたに彼女との話しを聞いてね・・・」
彩子「おめでとうって本心から思えたのよ。 本当よ!!」
俺「そっか・・・」
　　俺はぶっきらぼうに返事した。
　　それだけ言うのが精いっぱいだった。
　　封印していた気持ちを解き放されたような
　　気がした。
　　彩子とは良い友達だと思ってたのに・・・・
　　いや・・・
　　本当はそう思いこもうとしていたのかも
　　知れない・・・
　　今の彼女との結婚をやめて彩子と、
　　どうこうしようなんて事は
　　これぽっちも思って無いけど・・・・
　　なんて言うか・・・
　　レバタラの世界に酔っていた・・・・
　　もしも・・・
　　彩子と恋人になっていたらって・・・
彩子「ごめん・・・・変な事言って・・・・」
　　そんな俺の迷いに気づいてか、
　　彩子はそう言った。
俺「いや・・・」
　　俺もこう答えるしかなかった。
　　それから二人は黙ってラーメンを食べ続けた。
俺「アヤ・・・」
彩子「ん？」
俺「俺と一緒になるか？」
　　俺は真剣な眼差しで彩子を見つめた。
彩子「え?! な・な・何言ってのよ!! さっきの話しはそんなつもりで 言ったんじゃないんだから・・・・」
　　彩子は必死に否定した。
　　そんな彩子を見て俺はプッ！と
　　吹き出しながら笑った。
彩子「何よ・・・・」
俺「冗談だよ！なにマジにとってんだよ・・・・」
彩子「信じられない!! 普通そういう冗談言う？」
俺「アハハ・・・ 俺は普通ではないのだ!! 今ごろ気づいたのかよ？」
彩子「知ってたけど・・・ 純粋な私はすぐ騙されちゃうのよね・・・・」
俺「誰が純粋だって？ おめぇの何処から純粋なんて言葉が 出て来るんだよ」
彩子「ひっどいぃ・・・・」
俺「アハハ・・・」
　　俺はわざとふざけた事を言った。
　　じゃないと俺の迷いはどんどん広がりそうだったからだ。
俺「そろそろ行くか？」
彩子「そうねぇ・・・」
　　俺は勘定を払って店を出た。

〇ネオン街
　　店に出ると俺はふざけて
俺「俺に惚れてる彩子さん・・・ 俺の腕が寒いんだけど・・・・」
彩子「誰が惚れてるって言うのよ！」
　　と言いつつ彩子は俺に腕を組んできた。
俺「そうこなくっちゃ！」
俺「あれ？・・・」
彩子「なによ？」
俺「彩子って・・・ 結構胸あるじゃない・・・・」
彩子「アホ・・・」
　　彩子は呆れた顔をした。
　　俺はケラケラと笑った。
　　そして俺達は駅に向かって歩き始めた。
　　俺はオチャラケつつも実はかなり
　　ドキドキしていた。
　　それは彩子も同じだろう・・・・
　　オチャラケて迷いを吹っ切るつもりが、
　　逆に迷いをひどくする結果に
　　なってしまった。
　　やはり・・・俺は彩子と・・・・
彩子「もしも・・・」
俺「ん？」
彩子「もしも・・・ 私達恋人同士になってたら・・・ こうしてデートしてたかしら？」
俺「さあなぁ・・・ バカばっか言い合ってて色気の無い デートだったかも知れないぜ！」
彩子「そうかもね・・・・」
俺「もしも・・・の話しだけどな・・・」
彩子「そうね・・・ 所詮・・・ もしもの話しだわね・・・」
　　そして俺の肩に頭をもたれかけてきた。
俺「おいおい・・・あんまり俺を誘惑するなよ」
　　俺は少しふざけて言った。
　　そうでもしないと俺の理性がとびそうだった。
彩子「・・・・・」
俺「彩子・・・」
彩子「もう少し・・・・ もう少しだけこうさせて・・・・」
　　俺もそれ以上何も言えず、黙ったまま駅への道を歩いて行った。
　　駅に着いたら俺達は何処へ行くのだろう・・・・
　　俺は覚悟を決めていた。

〇駅前広場
　　しかし・・・そんな心配は無用だった。
　　いや心配と言うより期待だったかも知れない。
　　駅に着くと彩子はすばやく俺から離れた。
彩子「はい・・・ もしもの恋人の時間はおしまい!!」
　　俺は彩子のあまりにも変わり身の早さに
　　ポカーン・・・としていると
彩子「あれ・・・もしかして・・・本気にしたの？」
俺「別に本気になんかしてねぇよ!!」
彩子「もうすぐ結婚するのに、こんな程度の誘惑にグラつくなんてダメじゃないの!!」
俺「うっせぇなぁ!!」
　　それじゃぁ・・・
　　さっきまでの彩子の態度はお芝居なのか・・・？
　　ふざけんじゃねぇよぉ!!
彩子「お嫁さんを大事にしてあげなさいよ!! 浮気なんかしちゃダメだからね！」
俺「おめぇに言われなくてもそうするよ!!」
彩子「それじゃ早く帰ってラブコールしてあげなさいね！」
俺「いちいちうるさいよ！」
彩子「じゃ・・・またね!!」
俺「あばよ！」
　　そう言って彩子と別れた。

〇駅のホーム
　　俺は彩子の態度にムカムカしながらホームで電車を待った。
　　何気なくむかいのホームを見ると彩子が現れた。
　　よっぽどむこうのホームに向かって
　　バカ野郎!!って言ってやろうかと思った。
　　が・・・よく見ると彩子の奴泣いていた。
　　え?!あいつが泣くなんて・・・・
　　あいつと知り合ってから泣いた彩子を見たのは初めてだった。
　　もしかして・・・
　　憎まれ口を叩いたのが芝居だったのかも知れない・・・
　　それじゃ・・・彩子の本心は・・・・
　　いや・・やめておこう・・・・
　　それが解ったからってどうする事も出来ない。
　　結婚をやめて彩子とやり直す事は
　　俺には出来ない。
　　所詮・・・彩子とはもしもの話しだ。
　　そう自分に言い聞かせた。
　　そして俺と彩子は別々の電車に乗って
　　家路に向かった。
　　おわり