3枚目・私のドッペルゲンガーと俺のドッペルゲンガー②(脚本)
〇神社の本殿
やがて石段を登り切った泉水は、手水舎で手を清め、社殿へと向かう。
そこで鈴を鳴らし、お賽銭、お辞儀、二拍手をした。
春野 泉水(学園祭で、演劇の公演がうまくいきますように)
心の中で神様にお願いをすると、最後に深々と頭を下げた。
その時だった。
バリッ・・・バリバリバリバリ!!!
突如として、いくつもの雷の音が重なったような、爆音が真後ろから聞こえてきた。
春野 泉水「な、何だ!?」
泉水が慌てて振り返ると、そこには月のように黄色く輝く、直径2メートルはありそうな巨大な光の玉が浮かんでいた。
春野 泉水「何だ・・・これ」
〇神社の本殿
明らかに普通ではない光景だったが、不思議と泉水は引き寄せられるように、光に近づいて行った。
そして、光の玉の周りをグルグルと回りながら観察していった。
やがて、社殿を正面にして光の前に立つと、右手を近づけ観察してみた。
春野 泉水「ものすごく輝いてるけど、熱は感じないな」
もう少し近くで観察してみようと、泉水が顔を近づけた。
その時だった!!
???「うわわわわ!」
どこかからか、女の子の叫ぶ声が聞こえてきた。
春野 泉水「何だ?」
???「ギャー!」
泉水の耳に再び、女の子の叫び声がはっきりと聞こえた。
次の瞬間
光の玉から右手が伸びてきて、彼の右手首を掴んできた。
春野 泉水「うわっ!何だ、これ!?」
???「えっ?えっ?」
驚く泉水、同時にまた女の子の声が聞こえてきた。
だが、その声が女の子の戸惑った声だと脳が判断する前に、彼は掴んできた手を剥がそうと思いっきり腕を引っ張っていた。
だが
掴んできた手は離れず、そのまま手を引っ張ってしまう。
???「きゃ、キャー!」
今度聞こえてきたのは女の子の叫び声。
その声と同時に何かが光の玉の中から、飛び出してくる。
それはなんと、人間の頭だった。
春野 泉水「な、なんだ!?」
春野 泉美「えっ?」
泉水の驚きの声に反応して顔を上げた手の主
それは当時、名前も知らなかった泉美だった。
2人の顔はそのまま近づき。
ゴン!!
思いっきり、おでこ同士をぶつけた。
春野 泉水「がっ!」
春野 泉美「いっ!」
2人は短く叫ぶと、泉水はその場に、泉美は勢いよく飛ばされ離れたところに仰向けに倒れてしまった。
そして、そのまま2人は気絶してしまった。
〇黒背景
数分後・・・
〇神社の本殿
春野 泉美「う、うぅん。ここは?」
先に目を覚ましたのは泉美だった。
彼女は自分に何が起きたのか、思い出そうと周囲を見回す。
そうしているうちに泉美は、ここが神社であることを思い出した。
春野 泉美「そうだ、演劇の公演が、うまくいくように祈願したんだ」
春野 泉美「それから・・・何があったんだっけ?」
直前に何があったのか、泉水とぶつかった影響による一時的な記憶喪失なのだろう。
泉美は何も思い出せなかった。
ただ、おでこが痛くなっていて、触るとたんこぶが出来ており熱を帯びていた。
春野 泉美「何かにぶつかった様な気が、何だったかな?」
泉美は持っていたハンカチで、おでこを押さえながら考えを巡らせていた。
だが、日が完全に沈んでいて、あたりが暗くなっていることに気づくと途端に慌てだした。
春野 泉美「やばっ、真っ暗じゃん!」
状況を把握した泉美は、慌てて神社を後にし、石段を駆け下りていく。
春野 泉美「ヤバい、ヤバい、ヤバい」
石段を駆け下りていく泉美は気づいていなかった。
通学鞄を落とし
後ろに仰向けで倒れている男子がいることに・・・
まったく気づかず、泉美は行ってしまった・・・
〇黒背景
泉美が立ち去ってから、約30秒後・・・
〇神社の本殿
春野 泉水「う、うぅん・・・イタタタ」
泉水は目を覚ました。
彼は痛むおでこを手で押さえながら、よろよろと立ち上がる。
春野 泉水「あれ?俺何してたんだっけ?」
泉水もまた一時的に記憶が混乱しているためか、自分に何があったか思い出せなかった。
周囲を見回した泉水は、ここが神社であることを思い出した。
春野 泉水「そうだ、演劇の公演が、うまくいくように祈願して、それから・・・」
春野 泉水「何かあったような?」
痛む、おでこを抑えながら彼は周囲を見渡す。
そして、辺りが真っ暗になっていることに気が付いた。
春野 泉水「やべっ、真っ暗じゃん!」
春野 泉水「急いで帰らないと・・・」
春野 泉水「ん?」
急いで石段に向かおうとした泉水は、石段の前の石畳に、手提げ鞄が落ちているのに気付いた。
春野 泉水「こんなところに鞄なんて落ちてたか?」
泉水は不思議に思いながらも、鞄を拾い上げた。
春野 泉水「これ高校指定の通学鞄だ」
泉水が手にしたのは、もちろん桜門高校の指定通学鞄だった。
春野 泉水「放って置く訳にも・・・」
春野 泉水「いかないよな」
〇黒背景
泉水はその鞄を持って石段を下りると、社務所を兼任している舞の実家に向かった。
〇平屋の一戸建て
そして、呼び鈴だけのチャイムのボタンを押す。
すると、すぐに舞の声が聞こえてきた。
神条 舞「申し訳ない今立て込んでいて―――」
扉越しに対応する舞の声が聞こえ【ガチャガチャ】と、鍵を開ける音がしてからドアが開いた。
神条 舞「急用でなければ後日に―――」
神条 舞「と、春野君ではないか」
神条 舞「今まで参拝していたのか?」
春野 泉水「いや、そうじゃないんですけど・・・」
春野 泉水「舞先輩、その恰好は?」
険しい表情で応対した舞は、なぜか巫女装束に着替えていた。
神条 舞「ああ・・・これは」
神条 舞「ちょっとな・・・」
春野 泉水「?」
舞にしては歯切れの悪い返事に、泉水は疑問に思いながら
本題に入ることにした。
春野 泉水「あの、これ社殿の前に落ちてたんで、こちらで預かってもらっていいですか?」
少し不思議に感じながら泉水は鞄を差し出した。
だが、泉水が差し出した鞄を見ながら舞は意外なことを言い出した。
神条 舞「これは桜門高校の指定通学鞄か・・・」
神条 舞「すまぬが明日学校に持って行って、預けてもらえはしないだろうか?」
春野 泉水「いや、他人の物を持ち帰る訳―――」
神条 舞「悪用する訳ではあるまい」
春野 泉水「それは、そうですけど・・・」
神条 舞「申し訳ないが、今は使用で忙しくしていて、遺失物を扱っている暇がないのだ。むろん警察へ届ける暇もない」
神条 舞「落とし主がここに来ても、学校に届けたと伝えれば良いだろう」
神条 舞「という訳で悪いが持って帰って明日学校に届けてくれないか?」
春野 泉水「う~ん・・・」
春野 泉水「まぁ、仕方ないですね・・・解りました」
泉水は渋々ながら、鞄を持ち帰ることにした。
一礼して帰路に就こうとしたその時、不意に舞が泉水を呼び止めた。
神条 舞「そうだ!」
神条 舞「先ほど山の方から、轟音が聞こえたのだが、変わったことはなかったか?」
春野 泉水「轟音?」
舞の問いに泉水は首を傾げながら、考え込む。
だが記憶があいまいで轟音について思い出せなかった。
春野 泉水「う~ん、聞いたような気がしますけど・・・」
春野 泉水「すみませんちょっと分からないです」
神条 舞「そうか」
神条 舞「呼び止めてすまなかった」
春野 泉水「いえ、じゃこれで」
春野 泉水「お休みなさい」
神条 舞「ああ、お休み」
〇黒背景
慌てた様子で、家の中へ戻っていく舞と別れた泉水は家に急いだ。
舞に鞄を預けられなかったことが、結果的に泉美のためになるとは露知らず。
〇黒背景
そして再び時は戻って、泉水が泉美に謝った後に戻る。
〇綺麗なダイニング
春野 泉美「へぇー、あなたが主人公の長二を演じることに・・・」
春野 泉美「そして私はヒロインの拍を演じるはずだった・・・」
春野 泉美「こんなところも似てるんだね」
ソファーに座り、太ももの上で丸くなったルーンを撫でながら、泉水の話を聞き泉美は驚きの声を上げる。
一方、泉水も別の意味で驚いているようだった。
春野 泉水「まったくだ」
春野 泉水「だけどそれ以上に驚きなのは、そっちの世界にもマリア先生や舞先輩が居て」
春野 泉水「マリア先生がクラス担任で、部活の顧問も担当していて」
春野 泉水「舞先輩が剣道部の先輩で、演劇部に誘ってくれた人だってことまで一緒ってことだよ」
春野 泉水「ここまで似てくると、逆に似すぎて怖いわ」
驚きの表情を隠せない泉水。
そんな彼に対して、泉美はジト目で恨めしそうに泉水を睨んだ。
春野 泉美「それにしても私がこの世界に飛ばされた原因が、泉水だったとはね?」
春野 泉水「そ、それは謝っただろう」
春野 泉水「そもそも俺が、逆に引っ張られて、そっちの世界に飛ばされたかもしれないだろう?」
春野 泉美「ムリムリ、女の私の腕力で、引っ張れる訳ないでしょ?」
春野 泉水「そ、そりゃそうだ」
春野 泉美「という訳で・・・」
春野 泉美「落とし前・・・」
春野 泉美「つけてもらいましょうか?」
春野 泉水「え?」
春野 泉水「え、えっとー・・・」
ニッコリと満面の笑みで笑う泉美を見て、泉水は冷や汗がダラダラと落ちるのを感じていた。
〇一階の廊下
その頃、2階で何かの作業を終えた父と母
大樹の3人が、リビングに入ろうとしていた。
春野 一郎「いやー、古いマットレス取っておいて良かった、何とか形にはなったな」
春野 一郎「あとは着るものだが・・・」
春野 ハゲハ「明日、買いに行きましょう」
春野 ハゲハ「私の服を着せる訳にもいかないもの」
春野 大樹「いいな、僕もお姉ちゃんの洋服選びたかった」
春野 一郎「大樹は学校があるからな」
春野 一郎「自分も会社があるし、すべて母さんに頼むことになってしまってすまないな」
春野 ハゲハ「いいのいいの、結構楽しいんだから」
楽しそうに笑顔で話す母
だがすぐにその表情は曇ってしまった。
春野 ハゲハ「それよりも、あの子が納得してくれるかしら?」
春野 一郎「納得してもらうしかないだろう」
春野 一郎「このまま外に放り出す、訳にもいかないし」
母の肩に手を置き励ます父
そんな2人の様子に大樹も悲しげな顔でうつむく。
春野 大樹「また、お姉ちゃんって呼んだら、ショック受けるかな?」
春野 大樹「やっぱり、姉ちゃんって呼んだ方がいいのかな?」
春野 大樹「それとも名前で呼ばないとだめ?」
その言葉に母も大樹と同じように悲しげな顔で答える。
春野 ハゲハ「そもそも呼ばせてもらえるか分からないわね」
春野 ハゲハ「ここが自分の居た世界じゃ言ことに、相当ショックを受けてたし」
春野 ハゲハ「最悪『本当の家族でもないクセに!!』って言われてしまうかも」
春野 一郎「そうだな・・・どうすればいいのか」
父も2人と同じように悲しげな顔で、リビングの扉の取っ手に手をかけた。
〇黒背景
その瞬間だった。
〇一階の廊下
春野 泉水「イ゛テ゛テ゛テ゛テ゛!!!」
春野 泉水「ギブギブギブ!!」
春野 泉水「ギブだって!腕折れる!!」
悶絶する泉水の声がリビングから聞こえてくる、慌てて3人はリビングに入る。
〇綺麗なダイニング
そこで見たのは
泉美によって、右腕に関節技を決められている、泉水の姿だった。
春野 泉水「マジマジ!」
春野 泉水「マジ折れるから!」
春野 泉水「ギブアップだって!!」
春野 ハゲハ「ちょ、ちょっと2人とも、何を!?」
慌てる母の声に
泉美はニカッと歯を見せて笑い答える。
春野 泉美「あ、皆さんお揃いで、ちょっと待ってくださいね」
春野 泉美「こいつの腕へし折っちゃうから」
あっけにとられる3人をよそに
泉美は怒りの形相でさらに力を籠める
春野 泉美「私をこの世界に引きずり込んだのは」
春野 泉美「この腕か!」
春野 泉美「この腕か!!」
春野 泉水「マジ止めてくれ!」
春野 泉水「悪かった、悪かったから、本当に折れるって!!」
春野 ハゲハ「や、止めてあげて」
我に返った母が、必死に止めようと泉美の手を握った。
春野 泉美「・・・仕方ないですね」
春野 泉美「これぐらいで許してあげる」
母に説得されて、泉美は力を弱めた。
そして、泉水を開放すると、彼の目を睨みつけて言った。
春野 泉美「その代わりに、私が元の世界に帰る方法を」
春野 泉美「必死になって探してもらいますからね!」
春野 泉水「わ、分かってるって」
春野 泉美「ならいいの」
春野 泉水「母さん、助かったよ」
春野 泉水「マジ折られるかと思った」
春野 ハゲハ「え、ええ」
春野 ハゲハ「折れてないのね」
春野 ハゲハ「そ、それはそれでいいのだけど」
春野 ハゲハ「何があったの?」
春野 泉水「あー・・・」
春野 泉水「ちょっとした罪滅ぼし?」
春野 泉美「ちょっとした悪ふざけです」
春野 泉美「本当に折ろうなんて考えてなかったですよ」
春野 ハゲハ「で、でも折れるって叫んで・・・」
春野 泉美「本当に折るつもりなら、関節技なんて甘い技掛けませんよ」
春野 泉水「まぁ、痛さだけだったら本気で折れるかと思ったけどな」
春野 泉水「それより3人して、どこ行ってたんだ?」
春野 一郎「あ、ああ」
春野 一郎「用意をな」
春野 泉水「用意?」
あっけにとられながら説明してくれる父の言葉に疑問を抱きつつ
泉水はキッチン前に置いてある、卓上テーブルまで歩いて行くと椅子に座った。
春野 泉水「とりあえず座って話そうぜ、今後のことも話し合いたいし」
春野 ハゲハ「そう・・・」
春野 ハゲハ「ね」
春野 ハゲハ「座りましょうか」
春野 大樹「そうだね」
母に続き、大樹もテーブルに向かった
春野 一郎「しかし、お前たち随分と距離が縮まったな」
春野 一郎「何があった?」
春野 泉水「ん?」
春野 泉水「別に、普通に自己紹介しただけさ」
父の問いに泉水は微笑みながら答えた。
〇黒背景
泉美は泉水に促され彼の隣に
その向かいに母と父
そして、キッチンから足りない椅子を持ってきた大樹が
泉水と父の間である机の側面に座った。