贋作世界

雪乃

第一話・正しき地下世界(脚本)

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〇秘密基地のモニタールーム
ベリル・オークランド「君はここにくるのは初めてだったか、ハウルゼン四等調査官」
ニール・ハウルゼン「はい、ここが〈トモシビ〉の管理施設なんですね」
ベリル・オークランド「そうだ。ここから〈トモシビ〉は各階層に供給されている」
ベリル・オークランド「我々の生活に不可欠な存在だ」
ベリル・オークランド「モノの生産、明かりも、すべてが〈トモシビ〉によって成り立っている」
ニール・ハウルゼン「「太陽」みたいですね。地上時代にあったって言われてる」
ベリル・オークランド「そう、だな・・・・・・。確かにそうかもしれない」
ニール・ハウルゼン「地上時代、太陽は上にあったんでしょう?」
ニール・ハウルゼン「太陽のようなものが、今は世界の一番下にある」
ニール・ハウルゼン「どんな世界だったんでしょうね、地上」
ベリル・オークランド「ハウルゼン四等調査官。今は職務中だ」
ベリル・オークランド「あまり余計なことを話すべきではない」
ニール・ハウルゼン「申し訳ありません」
  地上が度重なる戦争により壊滅し、人類が地下に移住してから五十年。
  地下に築かれたこの国は人間の居住区を第一階層から第六階層に分け、国民を管理していた。
  太陽なき地下世界で人類を生き永らえさせているエネルギー。それが「トモシビ」だ。
  〈トモシビト〉を管理する〈トモシビ〉研究機構は、第七階層に作られていた。
ベリル・オークランド(皮肉なものだ。かつて戦争で地上を壊滅させたエネルギー体が、ここでは人類の生命線になっている)
フーカ・ナイラ「おや、こんなところにベリルと、初めましての人がいるね」
ベリル・オークランド「ナイラ主任研究員」
ベリル・オークランド「新任の者に案内をしておりました」
ニール・ハウルゼン「先輩、この人は・・・・・・」
ベリル・オークランド「〈トモシビ〉の研究者だ」
ニール・ハウルゼン「え、すごい人じゃないですか」
フーカ・ナイラ「なんか言った?」
ベリル・オークランド「いえ、なんでもありません」
フーカ・ナイラ「新入りくん、何か質問があれば遠慮なく言ってね」
ニール・ハウルゼン「は、はい!」
フーカ・ナイラ「緊張してる?」
ニール・ハウルゼン「いえ、この階層に来るのが初めてなので、まだ信じられないというか・・・・・・」
フーカ・ナイラ「まあ、ここは限られた人間しか立ち入らないからね」
フーカ・ナイラ「第一階層から第六階層に供給される〈トモシビ〉のエネルギーは、この第七階層で管理されてる」
フーカ・ナイラ「ここのモニターで〈トモシビ〉の流れをずっと監視して、管理してるんだ」
フーカ・ナイラ「どの階層にどの程度〈トモシビ〉を供給するかを、ここで決めてる」
フーカ・ナイラ「「上」の階層ほど多く、「下」の階層ほど少なくなるように、ね」
フーカ・ナイラ「文字通り、この国の「心臓部」だよ」
ニール・ハウルゼン「つまり、ここに何かあれば・・・・・・」
フーカ・ナイラ「この国はもう立ち行かないよ」
フーカ・ナイラ「そのために君たちが国を守ってくれているんだろう?」
ベリル・オークランド「はい。この国を守ることが私たち──治安維持局の本懐ですから」
フーカ・ナイラ「期待してるよ、新人くん・・・・・・ハウルゼンくんも頑張って」
ニール・ハウルゼン「は、はい!」
フーカ・ナイラ「そうだ、せっかくだしこっちも見ていく?」
ニール・ハウルゼン「はい、ぜひ!」
フーカ・ナイラ「うんうん、元気が良くて何より」
フーカ・ナイラ「ちょっと、手が空いてる人ー」
研究員A「いかがしましたか、ナイラ主任」
フーカ・ナイラ「この新人くんに、ここを案内してあげて」
研究員A「かしこまりました」
研究員A「ここからは私がご案内いたします」
ニール・ハウルゼン「?・・・・・・よろしくお願いします」
フーカ・ナイラ「じゃ、ベリルくんはこっち」
ニール・ハウルゼン「先輩、一緒に来ないんですか?」
ベリル・オークランド「別の仕事がある」
ベリル・オークランド「ここを一通り案内していただいたら、先に戻っていてくれ」
ニール・ハウルゼン「はい、分かりました」
フーカ・ナイラ「じゃ、ベリルは私と行こうか」

〇近未来の手術室
  第七階層、特別研究室
フーカ・ナイラ「今回の定期検査も数値は異常なし」
フーカ・ナイラ「最近はどう?」
ベリル・オークランド「異常ありません。いつも通りです」
フーカ・ナイラ「なら良いんだけど・・・・・・無理はしないでよね」
ベリル・オークランド「私が貴重な「成功例」だから──ですか?」
ベリル・オークランド「〈トモシビト〉計画の」
フーカ・ナイラ「もちろん、それもあるけどさ」
フーカ・ナイラ「君とは結構長い付き合いなんだ」
フーカ・ナイラ「私だって心配くらいはするよ」
フーカ・ナイラ「私は今でも覚えてるよ」
フーカ・ナイラ「あの時の私はまだ大学院を出たばかりで、〈トモシビト〉計画に参加して間もない日だった」
ベリル・オークランド「まだ私が、何者でもなかった頃」
フーカ・ナイラ「政府の人間が君を〈トモシビト〉に変えた」
フーカ・ナイラ「この計画に呼ばれたときはぞっとしたよ」
フーカ・ナイラ「第六階層の貧民窟の子どもを実験台にして、〈トモシビ〉を人体に埋め込むなんて」
フーカ・ナイラ「当然子どもが何人も亡くなって──成長したのは君と、あと数人だけ」
ベリル・オークランド「そして、使い物になったのは私くらいでしたね」
フーカ・ナイラ「そう。君と出会ったとき、驚いたよ」
フーカ・ナイラ「並みの人間を遥かに超える訓練をとうに終えていた」
ベリル・オークランド「十五歳の頃、でしたか」
フーカ・ナイラ「君が、「ベリル・オークランド」になった日」
フーカ・ナイラ「第一階層の市民として戸籍を与えられた日」
ベリル・オークランド「今日で、あれから十年が経つ」
ベリル・オークランド「早いものですね」
フーカ・ナイラ「・・・・・・そうだね」
ベリル・オークランド「ナイラ先生?」
フーカ・ナイラ「いや、なんでもないよ」
フーカ・ナイラ「とにかく、君の定期検査は私の仕事だから」
フーカ・ナイラ「今後も忘れず来るように」
ベリル・オークランド「言われなくとも」
ベリル・オークランド「呼び出しが来たようです」
フーカ・ナイラ「また、〈昏人(クラビト)〉が出たんだね」
フーカ・ナイラ「場所は?」
ベリル・オークランド「第六階層です」
フーカ・ナイラ「行ってらっしゃい」
フーカ・ナイラ「くれぐれも、気を付けて」
ベリル・オークランド「分かっています」
フーカ・ナイラ(私は政府の命令でここにいる)
フーカ・ナイラ(私だって共犯者だ)
フーカ・ナイラ(〈トモシビ〉研究を始めたのは、本当に、このためだったんだろうか)
フーカ・ナイラ「やめよう」
フーカ・ナイラ「私も、戻ろうか」

〇荒れた倉庫
  第六階層
ベリル・オークランド「相変わらず暗いな、ここは」
  この地下世界にも、「昼」と「夜」は存在している。
  〈トモシビ〉の供給量を調整し、世界の明るさを調整することで、疑似的な昼夜を作り出しているのだ。
  ただ、紛い物の昼と夜を享受できるのも上の階層の特権。
  第六階層は、たとえ時計が昼の時刻を刺していても常に暗いままだった。
ベリル・オークランド(人間が住む世界の最下層)
ベリル・オークランド(俺が、かつていた場所だ)
ベリル・オークランド「・・・・・・俺が呼ばれたのは、お前がいるからか」
ベリル・オークランド(最近は、こういう「仕事」が多い)
ベリル・オークランド「・・・・・・すぐに送ってやる」
  右手が熱い。
  これが〈トモシビ〉の力なのだ。
  地上最後の戦争で、人類を絶滅寸前にまで追い込んだ、人知を超えたエネルギー。
  それが今、光る剣の形を取ってこの手の中にある。
  この国になって脅威となるものを斬るために。
  それが、〈昏人〉と呼ばれる、かつて人であったモノであろうと。
昏人A「ア・・・・・・ア・・・・・・」
ベリル・オークランド「・・・・・・逝ったか」
  上官からの指令が入る。
ベリル・オークランド「始末が済んだらすぐ戻れ、か」
ベリル・オークランド「戻るか、上へ」
???「戻る?」
???「第一階層へ?」
???「随分と立派なことを言うようになったものだね、ベリル」
ベリル・オークランド「誰だ!?」
???「君はよく知っているはずだよ」
???「君と同じ第六階層で、君と同じように貧民窟で育ち、君と同じように〈トモシビト〉計画の実験台になった」
???「君は成功し、僕は失敗した」
???「光あるところには必ず影ができる」
???「言うなれば、僕は君の影だよ」
???「ねえ、ベリル」
ベリル・オークランド「やめろ」
???「第一階層へ戻るだって?」
???「君は本来第六階層の人間じゃないか」
???「戻るとするならこっちだろう、ベリル」
???「そんなに憎いのかい、ここで過ごした過去が」
ベリル・オークランド「・・・・・・やめろ」
???「大層出世なさったものだねえ、今や治安維持局のベリル・オークランド三等調査官様!!」
ベリル・オークランド「やめろ!!!!」
ベリル・オークランド「誰も・・・・・・いない?」
ベリル・オークランド「全部、全部、幻・・・・・・か」
ベリル・オークランド(なぜ、あいつの声がする)
ベリル・オークランド「俺は、俺は・・・・・・」
ベリル・オークランド「ベリル・オークランドだ・・・・・・」

〇豪華な社長室
  第一階層・治安維持局の局長室
「局長、オークランドです」
テオ・スノーヘル「入りたまえ」
ベリル・オークランド「失礼します」
  テオ・スノーヘル。治安維持局現局長。
テオ・スノーヘル「すまないね、直接呼び出すなど」
ベリル・オークランド「いえ、局長のお呼び出しとあらば」
テオ・スノーヘル「君を呼んだのは他でもない、〈昏人(くらびと)〉のことだよ」
テオ・スノーヘル「あれの調査結果が出た」
ベリル・オークランド「〈昏人〉とは一体、何なのでしょうか」
テオ・スノーヘル「やはり〈昏人〉はトモシビトのなり損ないだ」

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