世界は工作員で溢れている!?

たくひあい

人形と、西峰知事(脚本)

世界は工作員で溢れている!?

たくひあい

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〇女性の部屋
納二科寧音「たっだいまー」
  あれから、ひとまず家に帰った。
  ポテチと麦茶を持って自室に向かう。
  いつものようにベッドに寝ころぶ――――つもりだったが、なんとなく、デスクの方に目が向いた。
  そこには、あたしが作った人形が座っている。
  いつだったか、気まぐれに作ったものだ。
  プロに比べたらだいぶ不格好ではあるけれど、
  一つずつ髪を縫い付けたり左右対称になるように目を付けたりは大変だったので、それなりに愛着がある。
納二科寧音「ただいま」
  それはとくに何か言うでもなくじっとこっちを見ていた。
納二科寧音「ふふふ・・・・・・」
  なんだか、安心する。
  人形はきっと変わらない。
  もし、百合子と争う事になっても・・・・・
納二科寧音(これから先、ずっと)
納二科寧音(誰かが何か好きになったり、嫌いになったり・・・・・・きっと、目まぐるしく変わって行く)

〇生徒会室
部長「お前には、才能がある」
納二科寧音(才能なんて誰にでもあるよ)
  目を付けたからね、とか、君に決めた、とか。
納二科寧音(あぁ・・・・・・いやだな・・・・・・)
  才能があると、財産があるは似ている。
  多くのコネクションに囲まれてすぐに動ける人なら良いだろう。
  
  だけど、単にそれだけじゃ不特定多数の泥棒に怯えるだけ。
  見ないようにしていた財産を一人で抱えて守り続ける自覚に迫られて、急に世界が怖くなる。
  いっそ無いと言われればどれだけ救われる事だろうか。
納二科寧音(それに本当のところ、西峰と同じ世界で、似たような褒められ方したくないんだよなぁ・・・)
  それじゃ何も、意味が無い気がするし、まるで埋め合わせみたいにされて、素直に喜びたくなるとは思えない。
  西峰維織で満たしていた企業体質の自尊心みたいなものが、変質するような気がする。
  あるいは、元に戻ってしまうだけだ。
納二科寧音(でも、何がしたいのだろう?)
  どうなりたいのかなんて、あたしにもわからない。
納二科寧音「・・・・・・」
部長「実際、どこまで圧力を掛けて来るかはわからないが・・・・・・」
部長「死人が出ている事も知っている」
部長「なるべく、被害は我が身内のみで抑えるつもりだ」
部長「しかし・・・・・・万が一、という事も、勿論、無い訳ではない」
  そんなときだからこそ、作家協会が表沙汰にしては困るネタを持つあたしのような人こそが因縁に被せられる最後の砦。
納二科寧音(部長の気持ちも、わかる・・・・・・)
  あたしにだって、ほんとうはわかっていた。
  ずっと関わらないように、目を背けていただけだ。
寧々母「お願いだから、小説家にだけはならないでね?」
納二科寧音(パイロットかっつーの)
  根底に在るのは結局、
  母が手に取りやすい、本という型式への嫌悪感。
  今までは、単なる趣味として無縁だったのに・・・・・・
  ・・・・・・正直、母が認めるかなど関係がない。
納二科寧音(あたしのこれまでの平穏の為にしてきた努力が母の評価が加わり否定に変わる)
  褒められてもあの怒りは何か、
  叱られても、これまで通り
  母を省いて形成して安定していた人生が、否定される。
  母の視界に入れたくないし、
  
  あたしにも関わってこないで欲しい。
  だけど、
部長「それに恐らく、あの首の飛ばし様は、お前に挑戦してきている」
納二科寧音「・・・・・・」
部長「今後も、恐らく。 お前が出てくるまでずっと事件を起こす気かもしれない」
部長「意味の分からない話だろうが、彼らは『喧嘩に自分からは手を出さない』と教わっているそうだ」
部長「しかし、事件は起こすだろう・・・・・・」
部長「私の手の届く範囲は、私の届く範囲にしかない」
部長「それは、わかってほしい」
納二科寧音「・・・・・・」

〇女性の部屋
納二科寧音「・・・・・・」
納二科寧音「いや、単なる攻撃性だけじゃない」
納二科寧音「あたしとは無関係ですよ、と思わせたくてわざと話題を捏造、でっち上げている・・・」
  今はおそらく、本当の理由を隠す時間稼ぎだ。
  西峰は、些細なプライドが傷付くのも耐えられない人物──
  
  西峰県、西峰知事みたいなものだ。
  となると、わざとこっちの話になぞらえてくる事でしか正当性を主張出来ないほど、既に現時点で追い込まれている――?
納二科寧音「自ら、何もないところから生みだす力は無し、か・・・・・・それなら確かに勝機はあるかも」
納二科寧音「わっ」
  急に響く着信に慌ててスマホを探す。
  枕の横にあったそれを手に、平常心に努めた。
納二科寧音「もしもし」

〇学校脇の道
  紗香って名前は、松本さんが広めたの。
  青木文書?リスト?わかんないけど。持ち出した名前から勝手に、こだわって使ってる名前だから。
  もし、それと一緒に悪いことしてる人が、
  個人情報流出に関わっていた場合は、確実にそこにいる紗香を捕まえて欲しい。
  それが、流出の手がかり、
村田紗香「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
村田紗香「・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ」
  小さい頃と比べて、だいぶ体力が付いた気がする。
  そう、思いながら走っていると、無心になれる気がして・・・・・・
  私は部活の無い放課後も走っている。
  自分がどうなりたいのか、なんて体力がなければ考えもしなかった。
  こういうとき医者になれ、とか勉強しろ、とか言われる家系じゃなくてよかったかもしれないと、思う。
村田紗香(進路、かぁ・・・・・・)
  進路、進路。
  ずっと、疲れて・・・・・・体力をつけたい、以外に考えられない生活だったから
村田紗香「どうしよう・・・・・・私、どうしたいんだろう」
  寝ているときに、本や動画はそれなりに見たから内的な知識はある方だと思うけど・・・・・・活かせる特技もわからない
  早いうちに自分の適性を決めようと思って、いろいろ応募してみたんだけど・・・・・・いつも結果そのものが来ず。
  松本さんが来るようになった。
村田紗香(・・・・・・意味が、わからないよね)
納二科寧音「あ、村田さんだ」
村田紗香「寧々ちゃん」
村田紗香「どうしたの?」
納二科寧音「ちょっと、用事があって。出かけるだけ」
納二科寧音「今日も走ってるんだ」
村田紗香「うん。なんか事件とか怖いけど、家に居てもすること無いし」
納二科寧音「そっか、じゃあ、あたし行くね!」
村田紗香「うん。バイバイ」
村田紗香「寧々ちゃんは、夢、とかあるのかな」

〇街中の道路
納二科寧音「この道も久しぶりだなぁ」

〇街中の道路
納二科寧音「お買物〜、お買物〜」
「オーディションに落ちたお前を、私的に拾ってやるというのだ!」
納二科寧音「ん?」
村田紗香「離してください! そんなの、頼んでません!」
?「私が目をかけてやると言っているのに」
  入ろうとした店の前で、村田さんとハゲが揉み合っていた。
?「プロのセカイは厳しいぞ! 私なら」
「うっせーハゲ」
?「ハゲ!?」
納二科寧音「退いてくれない?さっきから邪魔なんですけど」
?「君は黙ってなさい」
  彼はちょっと身体をずらしてくれたが、あたしも村田さんの行く末が気になって、結局その場にいた。
?「夢があるんじゃないの?プロのセカイの厳しさも知らないままではだね、」
村田紗香「・・・・・・あなた、誰? なんで、私を追いかけてくるの?」
村田紗香「いきなり、恩とか、感謝とか・・・・・・」
納二科寧音(初対面か・・・・・・)
  たまにあるんだよなぁ。こういう、本番に通らないのに裏から自称プロデューサーが声かけてきたりする人。
  かからない人もいるってのが、重要なポイントだ。
  部長が言っていたけど、例えば「うますぎる」とコンテストでは落とされるらしい。
  あと、先輩とキャラが被るから、というのも芸能界や出版業界でもあるとか。
  ・・・・・・そういう人を敢えて落とし、自称プロデューサーが引き取り、恩を売って安く買い叩く、
  という事例も結構あるんだとか。
?「悔しいだろ! 此処で、悔しいと言ってみたらどうだ?」
村田紗香「・・・・・・・・・・・・」
  村田さんが沈黙する。
  
  ハゲの方は「悔しい」とか言わせないと商売にならないのだろうから必死なんだろうけど
  そうやって言質をとるのに必死になって、
  強い気持ちを持つ人程売りさばくんだと思うと、余計に彼の拘りに気持ち悪さがあった。
村田紗香「私は嬉しかった」
村田紗香「歩けるようになったこと、喋れること、全部。嬉しかった。1点でもくれた人が居て、嬉しかった」
納二科寧音「村田さん・・・・・・」
?「才能を捨てる為に、来たのか!?」
  ハゲの、一段と低い声がした。
?「たまにいるんだよなぁ!思い出づくりとかって!やる気もないのに応募してくる奴が!!」
?「捨てるくらいなら寄越せ!! 要らないなら私が貰ってやる!」
納二科寧音「いや友達が応募したとか、小遣い稼ぎとか多いじゃん」
  なんでハゲにここまで言われないとならないんだろう。
  大事なのは適性があるかどうかだ。
  彼だってそれがわかってて付き纏ってるくせに。
納二科寧音「行こ」
村田紗香「うん」
?「話は終わってないぞ!」
?「誰も気に掛ける奴がいないと思って、こっちが声を掛けてやっているのに、落ちたんじゃないのか?悔しさも無いのか!?」
  同じ事、浪人生に言ってみて欲しい。
  追いかけてくるハゲを振り切って、あたしたちは目の前の店に飛び込む。

〇コンビニの店内
「いらっしゃいませー」
  店内はまだお昼前で空いていたので、
  いきなり駆け込んできたあたしたちに驚く人もそう居なかった。
村田紗香「びっくりした・・・」
納二科寧音「なにあのハゲ!!! ムカつくーー!!」
納二科寧音「気に掛けてやってるとか、恩を売るとか、あーいうこと言って来るやつ、大っ嫌い」
納二科寧音「何がプロのセカイは厳しいんだー だよ!厳しいのはお前の頭じゃないのか」
村田紗香「・・・・・・大丈夫?」
納二科寧音「・・・・・・・・・・・・」
村田紗香「・・・・・・・・・・・・?」
  咄嗟に訳の分からないことを言ってしまった。あたしの方が熱くなってしまったかもしれない。
納二科寧音「あたしより、村田さんは平気?」
村田紗香「う、うん・・・・・・その、ごめんね」
納二科寧音「さっきの人って、なんで村田さんを見つけたの?」
村田紗香「分からない。 選考とかの、あたしとかの書類、回してるみたいで・・・・・・」
納二科寧音「はーなにそれ!私的流用じゃん! 『応募以外には使用せず適切に処理して破棄しなきゃいけない』んだよね!?」
  ハゲは自分のしてる事がわかってるんだろうか?
  個人情報を私的流用して「落ちたんだよね」と話しかけて、自分で権限を振りかざすなんて・・・・・・
納二科寧音「どっかの宗教勧誘くらいムカつく」
  「捨てるな」も「寄越せ」もあんなハゲが独断で言うことじゃない。
村田紗香「・・・・・・」
村田紗香「なんか、ショーに出てくれないかって、言ってたけど、やっぱり変だよね」
納二科寧音「ショーってなんのショーなの!? 豚小屋かなんかじゃないの?」
村田紗香「わからないけど、私を本当に気に掛けるなら、いきなり 落ちたとか、自分がどうとか言わないよね・・・」
??「ショウがどうした?」
納二科寧音「どうもしません」
村田紗香「あっ、こんにちは、ショウさん」
  この人は、此処で働いているショウさん。
  あたしは正直、ちょっと苦手だ。
村田紗香「寧々ちゃん?」
  村田さんの後ろに隠れるあたしを彼女は不思議そうに見ている。
納二科寧音「・・・・・・」
「あ、ショウさんだ!」
「ショウさーん!」
納二科寧音「・・・・・・」
  店に入っただけでどこからともなく飛び交う謎のギャラリーの声といい、
松田 千波「偶然ですねー!」
??「あぁ、こんにちは」
  連れて来る地雷女率の高さといい、
  
  女運とかの前にずっと笑顔過ぎて馬鹿なんじゃないのかと思ってしまう。
  ・・・・・・処世術、なんだろうけど。
納二科寧音(こんな日に限って、なんであの人来てるのー!)
納二科寧音(・・・・・・いや、帰るなあたし。 お醤油と洗剤買わないと)
村田紗香「寧々ちゃん?」
  村田さんが、あたしの視線の先をみる。
村田紗香「あの人、勧誘の人だよね」
??「え、これ自宅で作ってるんですか? 嬉しいなー。今度食べに行こうかな」
納二科寧音(距離感絶対おかしいよ ・・・・・・!)
村田紗香「ね、寧々ちゃん・・・・・・?」
納二科寧音「え? あ。うん・・・・・なんだっけ」
村田紗香「・・・・・・大丈夫?」
納二科寧音「ちょっと、ボーっとしただけ・・・」
  いかんいかん、思わずぼんやりしていた。
  ・・・とはいえ、おばさんの話が長いのでもう少しボーっとしていても良いくらいだった。
  客が居ないのもあって、レジがなかなか空かないのを待ちながら、暇だったあたしはふと、村田さんに聞いてみる。
納二科寧音「そういえば、その・・・・・・どうしてオーディション?に応募したの?」
村田紗香「その、こんな事言うと怒られそうなんだけど」
納二科寧音「え? 適当に出したとかって事?別に、あたしも訳あって適当に生きざるを得ないから、そのくらいなんとも思わないよ」
  そう言うと、彼女はやや躊躇いがちに話し始めた。
村田紗香「・・・・・・私、背とか、スタイルだけはあったから、注目だけはされる事、小さい頃からあったんだ」
村田紗香「でも体は上手く動かなくて、それでいて、その、弱弱しくしてると、他の子の気に障る?みたいで・・・・・・」
村田紗香「半端に持っているものが全部嫌になって」
納二科寧音「うんうん、それで?」
村田紗香「向いてないんだって、こんなにやって駄目だったんだって烙印みたいなの貰えればもう、そう言う目で見られないんじゃないかって」
納二科寧音「なるほどー、村田さんわりとどこでも人目を惹いちゃうからなぁ。悩んで居たのか・・・・・・」
村田紗香「・・・・・・まぁ、遺伝子だよ、ね。私が自分で成してる事って何があるんだろうっていうのもあったのかな」
納二科寧音「・・・・・・・・・・・・」
  存在意義に疑問を持った。
  彼女の両親の事は知らないけど、なんとなくそこはわかるような気がする。
  私は何気なくショウさんの方を見る。
  この人にもそう言う悩みがあるのだろうか?
  あたしにはムズカシイ世界だが、でも、あたしも今、文藝部の事で悩んでいるわけだ。
  才能が皆無なら起こらないような争いの渦中
納二科寧音(まぁ、でも、別にハゲじゃなくても 目に留まるんだろうな・・・って感じか)
村田紗香「でも、なんか気付いたら準決勝まで行ってしまって、」
納二科寧音「えー!すごい」
村田紗香「う、うん・・・・・・」
村田紗香「でも、なんか変だった」
村田紗香「なんか、優勝かもって言葉も聞こえて来てて・・・・・・これはどうしようって思いながら、 まぁでもこれも悪く無いかなって、なってたら」
納二科寧音「そしたら?」
村田紗香「休憩中に、ふと舞台の方見たらね、 謎の女の人が審査員のとこに詰め掛けてて」
納二科寧音「!?」
村田紗香「で、急にその人が一位、グランプリになったの。お仲間っぽい人も後に続いたよ」
納二科寧音「え? どういう事・・・・・・?」
村田紗香「わからない。 「裕子より目立つ子なんて聞いてない!こんなのヤラセだ!」って」
村田紗香「他の人も「誰なの!あの子!」って感じで会場でも何人か喚いてて」
村田紗香「だから、悔しいとかよりも、私は優勝できたのかもって気持ちとか、上手く言えないけど・・・・・・」
村田紗香「こんな状況で寄付とか、お金とかそういうのじゃない形で上がれたのって、凄い奇跡なんだって」
村田紗香「本当はあの人が全部好きなように動かすつもりだったけど、それが狂った、って・・・・・・いうか。うん、負けたけど勝っていたというか」
村田紗香「上手く言えないけど、それは嬉しいことだよ。だって、『私自身』が認められたんだから」
納二科寧音「・・・・・・なるほどねー、強制終了じゃ才能も何もそもそも関係無いよね」
  確かにそれじゃあたしも一周回ってどうでもよくなりそうだって感じだった。
村田紗香「なんか、スポンサー?が既についてて、そういう段取りが全部狂っちゃうから、どうしてくれるんだ!って言われたら」
村田紗香「取り下げざるを得なかったみたいで、 審査員も従ってた」
村田紗香「私は、でもそういう贔屓目無しでも少しは評価されたのかなって」
納二科寧音「大人の事情ねぇ・・・・・・」
  そういえば、昔有名大学に通ってた親戚が、ミスコンはやらせで最初からグランプリが大体決まってるって言ってたけど・・・・・・
  彼女の見た世界も、そういうのが最初から仕込んであったって事なんだろう。
  大人は汚い、嫌な話。
  そう思っているうちにあたしたちも大人になってしまうけれど
納二科寧音(などと、ポエミーなことを言って居られない!)
  実害が出ている。
  落としておきながら付き纏うなんて普通じゃない。
  大会が終わっても、
  
  「 個人情報 」が必要なのか?
納二科寧音(もしかして・・・・・・彼女も・・・・・・)

〇雑踏
  不思議だよね。
  確かに才能無いって言われたかったはずなのに・・・・・・
  いざあのやり取りを目にすると、才能があった事が、嬉しいよ。
  もしかしたら、本当は――
  
  私たちはただ、見えない檻に居るだけで。
  才能があれば壊せるものも、在るのかも
村田紗香「そんなチャンスがあったら、どうする?」

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