読切(脚本)
〇電車の中
今日も1日が始まった。
朝起きて、準備をして家を出る。
何の変哲もない日々。
朝起きるのが苦手なものだから、つい二度寝をしてしまいたくなる。
出来ることなら、1日中家でゴロゴロしたい。
何もしたく無い。
そうとすら思ってしまう。
そんな事を願いながら、そんなことは叶わないぞと自分に言い聞かせる。
そんな無駄な事をしながら、朝の準備を始める毎日。
寝ぼけながら起こす体は思ったよりも重い。頭もぼーっとして上手く働かない。
家の中でしっかり目が覚めているなんてほぼ無い。
だから、1日が始まったという感情はこの電車に乗ったときに感じる。
いつもと変わらない風景。
サラリーマンに高校生、腰の悪そうなお婆さん。
そして、通勤ラッシュのせいで飽和してしまっている車内。
行きたくない、面倒くさいなんて気持ちもあるが、ここにいるみんなもそう思いながら乗車しているのだろう。
ガタンゴトンと音を鳴らしながら揺れる電車。
心地良い音とリズムで眠ってしまいそうになるが、眠ってしまえば乗り過ごしてしまうかもしれない。
だから、車内ではあまり眠らない。たまに、寝落ちしている時もあるが。
こうやって電車に揺られ、目的地に向かうのはもう慣れてしまった。
最初のうちは、人がたくさんいるなとか、この人の匂い、きついなとか考えてたけど、
今となっては、何も考えず、むしろリラックスしている。
リラックス出来る空間こそ平和だ。
ただ、ずっと電車を利用していれば事件が起きる。
車内で大声を出すお年寄りの方がいたり、
自らこの世界から旅立つ手段として電車を利用したり。
電車ってそういうものだろう。
本当に苦しくなる。
どれだけ本人が望んでいても、殺人兵器の一部が自分だなんて。
考えただけで恐ろしくなる。
生きていてほしい。そんな状況になって思う事。
ただ、本人が選んだ人生に他人が口出しする権利は無い。
温かく見送ることが大切なのだろう。
少し重い気持ちのまま、数分を過ごす。
そんな時、向かいに座っている人と目が合う。
素敵な人だな。
目が合って、ふとそう思ってしまった。
いつも見ているはずなのに。目が合っただけなのに。
何だろう、この胸の高鳴り。ドキドキする感じ。
笑顔が素敵で、こちらも笑顔で返す。
そんな時、アナウンスが聞こえてきた。
「次はー渋谷ー渋谷ー、お出口は左側です。・・・」
あー、もうちょっと向かいの人を見ていたかった。でも、もう降りなければ。
出口に近づき、プシューとならながら開く扉から降りる。
〇渋谷駅前
電車を降りると駅のホームで声をかけられる。
「あの!」
振り返ると向かいに座っていた人がそこにいた。
「目が合って素敵だなと思ってしまいました。もしよろしければ連絡先を聞いてもよろしいですか?」
「も、もちろんです!!是非お願いします!」
連絡先を交換し終わり、それでは、と言葉を交わし解散する。
「さぁ、今日も1日頑張りますか!」
電車や駅は様々なドラマを生む。
こんな素敵な出会いや最悪な別れだってある。
こんなに人が行き交って、高層ビルだらけで何も生まれなかったらそれはそれでどうなのかともなるが。
それはそうと、人が多く交差するこの場所は、そんなものなのだ。
さぁ、自分の物語を始めよう。
自分の目指す場所へ歩みを進める。
こういった日常のリアリティを感じるお話がとても好きです。 人が多い電車に乗るというのは確かにそれだけでも億劫に感じますが 、こんな素敵な出会いも時としてあるのでしょう。久しぶりに電車に乗りたくなりました。
毎日毎日同じ時間に起きて会社に出勤するのが億劫です。でも、考えていることは皆んな同じなんでしょう。嫌な事があるとなんで自分だけと思ってしまう。でも、皆んな一緒でしょう。
この物語の主人公はあなたです。という言葉に惹かれてやってきました。起きた途端また同じ1日の始まりだと絶望しながらもちょっとした嬉しいできこともあったりして。そういったスパイスがまた明日を迎えるための活力になりますよね。