エピソード8(脚本)
〇廃ビルのフロア
桐生 優希「こんなことしても無駄ですよ」
高木 誘作「なんでそう思うの?」
桐生 優希「父はきっと、僕のことなんか気に掛けていませんから」
桐生 優希「どうでもいいと、」
桐生 優希「いや、それどころか仕事の邪魔くらいにしか思っていませんよ」
桐生 優希「僕のために何か、一銭も払わないでしょう」
高木 誘作「・・・・・・」
高木 誘作「そんなことないさ」
高木 誘作「お父さんは、必ず君を助けてくれる」
桐生 優希「・・・・・・」
高木 誘作「子を思わない親なんて・・・」
高木 誘作「いない、はずだから」
桐生 優希「そう、でしょうか」
高木 誘作「これを」
高木 誘作「君にあげよう」
桐生 優希「名刺?」
高木 誘作「俺の名刺だ」
高木 誘作「いつか、必要になる時が来るかもしれない」
高木 誘作「その時まで、持っておいて」
〇地下室
桐生 優希「夢・・・」
片桐 拐斗「目が覚めたようだな」
桐生 優希「あ、あなたは・・・」
片桐 拐斗「片桐拐斗。誘拐請負人だ」
桐生 優希「あなたが」
片桐 拐斗「驚いたよ」
片桐 拐斗「桐生和住には一人息子がいると聞いていたが、こんなに可愛らしいお嬢さんだったとはね」
桐生 優希「僕を、誘拐したんですか?」
片桐 拐斗「ああ。悪く思わないでくれ」
片桐 拐斗「君にはしばらく、お父さんに対する抑止力として働いてもらう」
片桐 拐斗「と言っても、選挙が終わるその日までじっとしてくれるだけでいいんだがね」
片桐 拐斗「もちろん、危害は加えないつもりだ」
桐生 優希「・・・はい。わかりました」
片桐 拐斗「随分と物わかりがいいんだな」
桐生 優希「ええ。誘拐されることには慣れているので」
片桐 拐斗「聞いてるよ。父親の政治的戦略に利用されたんだろ?」
桐生 優希「・・・ええ、まぁ」
片桐 拐斗「世の中、酷い親父もいるもんだ」
桐生 優希「・・・・・・」
片桐 拐斗「まぁ、こう言う仕事を長く続けているといろんな奴を見るよ」
片桐 拐斗「時折、子供を見捨てる親っての見かける」
桐生 優希「そう、なんですね」
片桐 拐斗「まぁ、偉そうなことを言える口じゃあないんだがな」
片桐 拐斗「俺も以前、父親の真似事をしたことがあるんだ」
桐生 優希「それって・・・」
片桐 拐斗「だが、柄じゃなかった」
片桐 拐斗「ろくなことを教えてやれなかったよ」
片桐 拐斗「おかげで、随分と冷たい人間に育っちまった」
片桐 拐斗「合理的で、実利的な人間にな」
桐生 優希「・・・そんなことありません」
桐生 優希「誘作さん、とても優しい方です」
桐生 優希「人の気持ちを、ちゃんと推し量れる方ですよ」
片桐 拐斗「そうか・・・」
桐生 優希「片桐さんにも、恩義を感じているみたいです」
桐生 優希「言葉にはしませんが、僕にはそう見えました」
片桐 拐斗「そうだな」
片桐 拐斗「奴は思ったことを口にしないんだ。昔からの癖でな」
片桐 拐斗「全然、素直じゃない。まるで可愛げなかったよ」
桐生 優希「ふふ、何だか目に浮かびます」
桐生 優希「どうして、誘作さんと別れたんですか?」
片桐 拐斗「どういう意味だ?」
桐生 優希「いえ、同じような仕事をしているのですからいっそ一緒にやった方がいいんじゃないかと」
桐生 優希「お二人、気が合っているようですし」
片桐 拐斗「そりゃあ、長く一緒にいたからな」
片桐 拐斗「誘拐のイロハも俺が教えてやったよ」
桐生 優希「なら、尚更」
片桐 拐斗「ただ、ちょっとした方向性の違いだ」
片桐 拐斗「俺はあいつの考える狂言誘拐ビジネスというのが、どうもうまく行く未来が見えなかったんだ」
片桐 拐斗「ま、俺に先見の明がなかっただけだよ」
桐生 優希「そう、だったんですね」
桐生 優希「・・・・・・」
片桐 拐斗「どうした?」
桐生 優希「その片桐さん」
桐生 優希「一つ、お願いがあります」
桐生 優希「聞いてくれますか?」
〇ファストフード店の席
高木 誘作「・・・・・・」
平川 盗愛「何、ボケっとしてるのよ」
高木 誘作「・・・ああ、盗愛か」
平川 盗愛「盗愛か、じゃないわよ」
平川 盗愛「あんた、状況わかってるの?」
高木 誘作「何が」
平川 盗愛「何がって、優希と連絡がつかなくなってるのよ」
平川 盗愛「このタイミングで失踪なんて、絶対巻き込まれてるに決まってるじゃない」
高木 誘作「盗愛」
平川 盗愛「何よ」
高木 誘作「優希とそんなに仲良くなってたんだな」
平川 盗愛「今、そんなことどうでもいでしょう!」
平川 盗愛「いい? これは、明らかにあんたのミスよ」
平川 盗愛「あいつら、優希のお父さんを返す代わりに優希本人を攫ったのよ」
平川 盗愛「そうして、桐生和住の選挙活動の妨害を行おうって魂胆よ」
平川 盗愛「これが、わからないあなたじゃなかったでしょうに」
高木 誘作「・・・・・・」
平川 盗愛「・・・ごめん、言い過ぎた」
平川 盗愛「わかってるわよ、片桐とかいう男はあんたの父親代わり」
平川 盗愛「これ以上、追い詰めるような真似したくなかったのよね」
平川 盗愛「だから、あんたは無意識のうちにその可能性を排除した」
平川 盗愛「違う?」
高木 誘作「違うよ」
平川 盗愛「んな!」
平川 盗愛「じゃあ、何だって言うのよ!」
平川 盗愛「まさか、本当に優希が攫われないと思っていたの?」
高木 誘作「・・・いや」
高木 誘作「そうだな、盗愛には説明するべきか」
〇ビルの裏
情報屋「榊権藤って男を追え」
情報屋「俺から言えるのはそれだけだ」
高木 誘作「恩に着る」
情報屋「それには及ばん」
情報屋「俺はただ貰った金を返したくなかっただけだ」
高木 誘作「そういうことにしておくよ」
高木 誘作「ああ。後それからもう一つ」
情報屋「何だよ、今度は」
高木 誘作「なるべく兵藤の周りを嗅ぎまわってほしい」
高木 誘作「どっかから半グレとの関わりを持っている証拠が出てくるかもしれないから」
高木 誘作「ただ、街頭演説とかに顔を出してくれるだけでいい。危険な橋を渡る必要はない」
情報屋「何か考えがあるのか?」
高木 誘作「いや念のためだよ、念のため」
高木 誘作「弱みを握るに越したことないしね」
高木 誘作「そっちにしても、悪いことじゃないでしょ?」
情報屋「確かにな。わかったよ」
情報屋「もし何かわかったら連絡する」
情報屋「じゃあな」
高木 誘作「ああ、頼んだよ」
高木 誘作「・・・あ」
桐生 優希「どうかしましたか?」
高木 誘作(そういや、あいつ俺の連絡先とか知らないよな)
高木 誘作(まぁ、何とでもするか)
高木 誘作「いや、何でもない」
高木 誘作「とりあえず、こっちはこっちで探ってみよう」
高木 誘作「半グレに接触するなら、そうだな──」
桐生 優希「あの」
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