海に溶ける

こーじゅ

読切(脚本)

海に溶ける

こーじゅ

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〇沖合
  ここはどこだろうか
  目を開けると海に囲まれた小さな堤防に座っていた
  いや、波が全くないことから"水が張られている"の方が正しいかもしれない
  ・・・・・・自分が誰なのかがわからない
  記憶が全くないようだ
少女「あっっ!起きた!!」
  ・・・・・・急な大声で堤防から落ち、濡れてしまった
少女「わ、わわごめんね!?大丈夫・・・・・・!?」
  水とは思えない感触だ。何か、この水は普通じゃない気がした
  そう思いながらもう一度堤防に登り、少女の隣に座った
少女「えっと・・・・・・私の事、わかる?」
少女「・・・・・・・・・・・・」
少女「大丈夫だよ。分かんなくても」
  何だか申し訳なくなってしまった
  彼女は自分の大切な人だったのか?
少女「私ね、すっごーく前からここにいるの!」
少女「ここはさ、お日様も海も綺麗で・・・大好きなんだぁ」
  そう言い彼女は手を太陽にかざした
  どこか苦しそうに見えたのは気のせいだろうか?
少女「え?暇そうだって?」
少女「あっはは!確かにそうだけど・・・」
少女「それなりに理由があるからねぇ」
  表情がころころと変わる姿はやはり少女そのものだ
少女「あ、聞き忘れてた」
少女「えっと・・・おにーさんかな?おねーさんかな?」
  ・・・少し考えたがわからなかった
少女「じゃあ・・・おにーさん!」
少女「おにーさんは覚えていることとか無いの?」
  ・・・何も無かった
少女「うーん、持ち物もないし・・・」
少女「あ!その指輪は!?」
  よく見ると左手の薬指に指輪がはめられていた
  宝石などはついていない、至ってシンプルな物だ
少女「うーん、何か思い出せた?」
  ・・・・・・ダメだった
少女「え?私?」
少女「私はね、ずーっとある人を待ってるの」
少女「けどここの水はずっと触れてると消えちゃうから」
少女「座るしか選択肢がなかったんだぁ」
  さっき落ちた時、消えるかもしれなかったのか
  そういうことは早く言って欲しい
少女「私にはねぇねがいたから」
少女「いつかここに来ると信じてた」
少女「他にもここに来た人は居たんだけど・・・」
  全員海の中で消えていったのか
  この歳の少女にはさぞ辛かっただろう
少女「けどね、きっと大丈夫!」
少女「それに・・・!」
  "無理をしないで"
  そう本音を投げかけた
少女「・・・・・・」
少女「私の事、心配してるの?」
少女「本当に?」
少女「うっそだぁ・・・・・・」
  そこそこ失礼な奴だ
  本当に前から変わっていないな
少女「あれ」
少女「今前からって言った?」
  ・・・?
  いや、けどこの子は・・・?あれ?
少女「そっか」
少女「思い出したんだ」
  一気に顔が青ざめた
  ここに来た理由も自分もこの少女も
  思い出さない方が良かったかもしれない
少女「ねぇ」
少女「いっその事、2人で飛び込んじゃおうよ」
  嫌だ
  だって俺は
少女「ね、あんなやつ忘れて私と」
  違う
  こいつは俺の妻じゃない
少女「何で?」
少女「何で拒否するの?」
少女「顔は同じだよ?」
  こいつは
  妻の妹だ
  そして
少女「ね、心中しよう」
少女「ずっと一緒に居よう?」
  俺と妻を
  殺した
少女「ねぇ」

〇水中
  気づくと海に落ちていた
  押されてしまったようだ
少女「ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ」
  体が溶ける感覚がする
  いやだ
  いやだいやだいやだ
  いや

コメント

  • サクッと纏まってるけれど、重厚な読後感を覚える作品だなと…
    ラスト、空白の吹き出しが印象的でした

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