エピソード7(脚本)
〇古いアパートの居間
兵藤 高藁「いい加減にしてくれないか!」
兵藤 高藁「来る日も来る日も、護衛護衛護衛護衛」
兵藤 高藁「これじゃあ、監視されてるのと何も変わらないじゃないか!」
榊 権藤「そう言われましてもねぇ」
榊 権藤「相手がいつ仕掛けて来るかもわかりませんし」
兵藤 高藁「そこだよ、そこ」
兵藤 高藁「ここ三日間、まるで動きがない」
兵藤 高藁「その、誘拐プランナー? とかいう奴も、恐れをなして諦めたんじゃないか?」
榊 権藤「いえいえ、高木さんは中々食えない奴ですよ」
榊 権藤「まさに、その気の緩むタイミングを狙っているのかも」
兵藤 高藁「どうだか」
兵藤 高藁「第一、あんたらみたいな人種に俺の周りをウロチョロされたら関与が疑われるじゃないか」
兵藤 高藁「軽率なのはいったいどっちだ」
榊 権藤「だけれど、今のところ手の打ちようがありませんからねぇ」
兵藤 高藁「民間の護衛をつけていると言っているだろ」
榊 権藤「何も事情を知らない人間は、あまり当てにできませんよ」
兵藤 高藁「・・・はぁ。全くいい加減にしてくれ」
榊 権藤「今、居場所を探っている最中ですから」
榊 権藤「しばらくの辛抱です」
兵藤 高藁「それはもう聞き飽きた・・・」
兵藤 高藁「帰る」
榊 権藤「玄関まで見送りを──」
兵藤 高藁「いらん!」
榊 権藤「はぁ、叫びたいのはこっちだっての」
片桐 拐斗「行きましたか」
榊 権藤「ああ。お帰りになられたよ、全く」
榊 権藤「聞こえていたか」
片桐 拐斗「あれだけ怒鳴られれば」
榊 権藤「そうだな。まぁ、察しの通りあちらさんはもう我慢の限界だ」
片桐 拐斗「早いですね」
榊 権藤「ああ。稚児でももう少し辛抱強いと思うがね」
片桐 拐斗「本音は別でしょうけれどね」
榊 権藤「ああ、俺も言われて気づいたよ」
片桐 拐斗「俺もです」
片桐 拐斗「お互い、慣れ過ぎてて世間体を度外視し過ぎましたね」
榊 権藤「ああ」
片桐 拐斗「政治家と半グレとが、関わりを持っているというスキャンダル」
片桐 拐斗「誘作のいう人質とはまさにこれでしょう」
片桐 拐斗「今頃、証拠を押さえるのに奔走しているはずです」
榊 権藤「政治家生命を含めて考えて欲しい、か」
片桐 拐斗「何です? それ」
榊 権藤「いや、忠告には耳を傾けるべきだったなと」
榊 権藤「あんたのお弟子さんは大したものだよ」
片桐 拐斗「そんなんじゃないですよ、誘作は」
榊 権藤「・・・そうかい」
榊 権藤「ともかく、ただ兵藤さんの我慢が効かないというだけなら無視を貫き通すところだが、」
榊 権藤「こうなっては別の手段を講じる必要がある」
片桐 拐斗「別の手段?」
榊 権藤「ああ、彼の要求を呑むんだ」
〇ラブホテルの部屋
桐生 優希「ゆ・う・さ・く・さん」
高木 誘作「・・・・・・」
桐生 優希「二人っきりですね」
平川 盗愛「私、いますけど?」
桐生 優希「ラブホテルに連れ込まれたその時から、覚悟はできています」
桐生 優希「初めてだから、優しくしてくださいね?」
高木 誘作「あのさ、優希」
桐生 優希「はい、なんでしょう」
高木 誘作「悪いけど今はそれどころじゃなくてさ」
桐生 優希「今はそれどころじゃないって・・・」
桐生 優希「じゃあ、いつならいいんですか!」
桐生 優希「ここに籠ること丸三日!」
桐生 優希「もう我慢の限界です!」
高木 誘作「それは、もうしばらくの辛抱だから」
桐生 優希「いったい、いつになったら襲って来てくれるんですか!」
高木 誘作「あ、そっち?」
桐生 優希「ラブホテルに二人っきり!」
桐生 優希「邪魔するものは何もないのに、何もしないなんて!」
桐生 優希「そんなのどう考えてもおかしいですよ!」
平川 盗愛「だから、私いるんですけど?」
桐生 優希「なら、もういっそ三人で!」
平川 盗愛「それ、私の許可なく提案しないでくれる?」
高木 誘作「とにかく、もうちょっとだと思うから」
高木 誘作「ね?」
桐生 優希「・・・・・・」
桐生 優希「ごめんなさい。少し取り乱してしまいました」
桐生 優希「そうですよね。今、大事なところなんですもんね」
平川 盗愛(情緒不安定ね)
高木 誘作「ああ、まぁ」
桐生 優希「邪魔してすいません。少し、頭冷やしてきます」
高木 誘作「くれぐれも外には出ないでね」
桐生 優希「はい」
高木 誘作「・・・・・・」
平川 盗愛「あの子、かなり参ってるわね」
平川 盗愛「まぁ、無理もないけれど」
高木 誘作「元来、誘拐なんてのは根競べみたいなものだからね」
高木 誘作「こうなるのは仕方ないと言えば仕方ないんだけれど」
平川 盗愛「あの子のあれは、それだけが理由じゃないでしょうけれどね」
高木 誘作「・・・まぁ、そうだろうな」
高木 誘作「だけど、本当に優希が気に病むことはないんだけどな」
平川 盗愛「いくら言い聞かせても、本人が納得できなきゃ意味がない」
平川 盗愛「この件は、優希自身に任せるしかないわ」
高木 誘作「ああ・・・」
平川 盗愛「それよりも」
高木 誘作「何?」
平川 盗愛「嘘なんでしょう?」
高木 誘作「何が」
平川 盗愛「優希が四年前の事情を知らないなんて」
平川 盗愛「あなたが狂言誘拐を専門としていることや、実際に捕まった犯人が違うことから」
平川 盗愛「自分の身に何が起こったのか、少し考えればよほどのお馬鹿でない限りわかるわよ」
平川 盗愛「誘作に依頼してきた時点で、察しているに決まってるわ」
高木 誘作「なんだ、そんなことか」
高木 誘作「何とも言えないな。少なくとも、俺は嘘はついていないことだけは確かだ」
平川 盗愛「そう」
平川 盗愛「仮によ」
高木 誘作「今度は何?」
平川 盗愛「仮に自らを利用された息子が、本当に父親の身を案じて依頼してくると思う?」
高木 誘作「どうだろうね」
高木 誘作「生憎、親と子のあれこれには疎くてね」
平川 盗愛「そう。まぁ、私も人のこと言えない立場だから何とも言えないけれど」
平川 盗愛「何よ、こんな時に」
平川 盗愛「もしもし?」
平川 盗愛「あなた、誰?」
平川 盗愛「はぁ? 何言ってるの?」
平川 盗愛「その適当な感じ、情報屋ね?」
高木 誘作「お、俺だ」
高木 誘作「借りるよ」
平川 盗愛「あ、ちょっと!」
高木 誘作「もしもし? 首尾はどうだ?」
高木 誘作「写真は? あ、ばっちり?」
高木 誘作「よし、じゃあしばらく持っておいて。うん、必要になったら取りに行くから」
高木 誘作「うん、恩に着るよ。じゃ」
高木 誘作「ありがとう、返す」
平川 盗愛「何の電話よ」
高木 誘作「何、こっちの手札が整ったって話だ」
高木 誘作「後はコールを待つばかりだ」
平川 盗愛「それを言うならショーダウンだけれどね」
平川 盗愛「コールと言えば、よくも私の携帯を私物化してくれたわね」
高木 誘作「いいじゃないか、少しくらい」
平川 盗愛「少しどころじゃないでしょ」
平川 盗愛「通信費請求するわよ」
高木 誘作「それでいいんだ・・・」
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