エピソード6(脚本)
〇地下室
桐生 和佳「ここは・・・」
片桐 拐斗「お目覚めですか、桐生和住さん」
桐生 和佳「貴様は・・・?」
片桐 拐斗「誘拐請負人、片桐拐斗です」
片桐 拐斗「手荒な真似をして申し訳ない。痛みますか?」
桐生 和佳「いや、問題ない」
桐生 和佳「それよりも誘拐請負人と言ったか」
桐生 和佳「つまり、兵藤の差し金ということでいいんだな?」
片桐 拐斗「まぁ、そう思ってもらって構いません」
桐生 和佳「私を誘拐して、どうするつもりだね?」
桐生 和佳「言っておくが、金なら一銭も払わないからな」
片桐 拐斗「いりません。我々が欲しいのは、あなたの時間です」
桐生 和佳「時間・・・?」
片桐 拐斗「市議会選が終わるその日まで、ここで大人しくしていただきたい」
片桐 拐斗「不自由はさせないつもりです」
桐生 和佳「ふん。ならば、せめて縄を解いて欲しいものだがね」
片桐 拐斗「それは後ほど」
桐生 和佳「・・・いくらだ」
片桐 拐斗「いくら、とは?」
桐生 和佳「兵藤の倍払う。私を解放しろ」
片桐 拐斗「さっき身代金は払わないとおっしゃってませんでしたか?」
桐生 和佳「これはれっきとした交渉だよ。身代金とはわけが違う」
片桐 拐斗「違いがわかりませんよ」
片桐 拐斗「それに、生憎そういった交渉は受け付けないことにしてるんです」
桐生 和佳「ふん、奴とは大違いなんだな」
片桐 拐斗「・・・奴?」
桐生 和佳「高木誘作だよ」
桐生 和佳「とんだ詐欺師だ、奴は」
桐生 和佳「同業者なら評判くらい聞いたことあるんじゃないのかね?」
片桐 拐斗「ええ、知ってますよ」
片桐 拐斗「ご利用されたことがあるようですね」
桐生 和佳「ああ。むしろ利用されたのは私の方かもしれんがな」
片桐 拐斗「我々みたいな連中は基本、人に恨まれてなんぼの商売ですが、せめて仕事中くらいは信頼関係を築きます」
片桐 拐斗「クライアントを裏切って方々に敵を作るような真似していたら、命がいくつあっても足りませんよ」
桐生 和佳「そうかい。今度会った時にでも伝えておくよ」
片桐 拐斗「・・・・・・」
桐生 和佳「誰からだね?」
片桐 拐斗「・・・どうやら、それには及ばないみたいですね」
桐生 和佳「どれには?」
片桐 拐斗「もしもし?」
片桐 拐斗「誘作か?」
〇ラブホテルの部屋
高木 誘作「もしもし? 片桐さん?」
片桐 拐斗「意外だな」
片桐 拐斗「あんなに頑ななまでに足の着くのを嫌ったお前が、ついに携帯を持つようになったとはな」
高木 誘作「ちょっとした心境の変化があってね」
高木 誘作「それにしてもまだこの番号が通じてよかったよ。機種変しなかったんだね」
片桐 拐斗「誘作」
高木 誘作「何さ」
片桐 拐斗「携帯は買い替えても、番号は引き継げるんだよ」
高木 誘作「え、あ、そうなの?」
片桐 拐斗「・・・誰かと一緒にいるんだな?」
高木 誘作「あー、あはは」
高木 誘作「わかる?」
片桐 拐斗「お前はいつもそうだ」
片桐 拐斗「狂言と皮肉で、いつも見栄を張る」
片桐 拐斗「少しは素直になった方がいい」
高木 誘作「よしてよ、今そんなこと」
高木 誘作「それよりもさ、今いったい誰といると思う?」
片桐 拐斗「知るか」
高木 誘作「相変わらず真面目だな、片桐さんは」
高木 誘作「デート中か、くらい聞いてみたらどう?」
片桐 拐斗「デート中なのか?」
高木 誘作「かもしれないね」
片桐 拐斗「羨ましい限りだ」
片桐 拐斗「俺は今、陰険なおっさんと一緒だよ」
高木 誘作「奇遇だね。俺もだ」
高木 誘作「兵藤高藁を誘拐させてもらった」
平川 盗愛「ちょ、ちょっと」
高木 誘作「しーっ」
高木 誘作「要求はただ一つ」
高木 誘作「桐生和住の解放」
高木 誘作「ねぇ、お互いの人質を交換しようよ。穏便にさ」
片桐 拐斗「おいそれとは呑めない話だな」
片桐 拐斗「まずは本当に誘拐されているのかを確認しなくちゃならん」
高木 誘作「いいよ。秘書にでもなんでも、確認してみて」
高木 誘作「尤も代表が誘拐されたなんてスキャンダル、認めないと思うけどね」
片桐 拐斗「・・・はったりだな」
片桐 拐斗「誘作。お前は本当は兵藤を誘拐していないだろ」
片桐 拐斗「違うか?」
平川 盗愛「どうするのよ」
高木 誘作「・・・・・・」
平川 盗愛「誘作・・・?」
高木 誘作「片桐さん、誘拐の定義って知ってる?」
片桐 拐斗「定義?」
高木 誘作「欺罔または誘惑を手段とし、人を生活環境から不法に離脱させ、自己または第三者の事実的・実力的支配下におくこと」
高木 誘作「らしいよ」
片桐 拐斗「欺罔(ぎもう)とは随分と仰々しいな」
片桐 拐斗「だが、嘘をついているのは俺に対してじゃないか」
高木 誘作「何にせよ、手段とはしてるだろ?」
片桐 拐斗「・・・はぁ、お前ってやつは」
高木 誘作「考えてみてよ、片桐さん」
高木 誘作「何も誘拐するのに、本当にかどわかす必要なんてどこにもないんだよ」
高木 誘作「ただ、俺は常に兵藤に目を光らせている。それがわかってもらえればいいんだ」
高木 誘作「いかんせん、兵藤は雲隠れなんてできる立場じゃないからね。公の場に必ず出てくるタイミングがある」
高木 誘作「そこを狙えばいい」
高木 誘作「ま、華麗なる誘拐ってやつだね」
片桐 拐斗「誘作、一つ言っておく」
片桐 拐斗「お前のそれは、誘拐じゃなく単なる脅迫だ」
高木 誘作「さしたる違いを感じないな」
片桐 拐斗「そうだな、お前はそういう奴だ」
高木 誘作「じゃ、いい返事を期待しているよ」
高木 誘作「はい、返すよ」
平川 盗愛「え、ええ」
平川 盗愛「随分と大胆なことするのね」
平川 盗愛「これが策?」
高木 誘作「そのつもりだけど」
平川 盗愛「うまく行くの?」
高木 誘作「いってもらわなきゃ困るね」
平川 盗愛「ちょっと!」
桐生 優希「その、誘作さん。良かったんですか?」
高木 誘作「何が?」
桐生 優希「だって片桐さんという方は、いわば誘作さんのお父さんなんですよね?」
桐生 優希「それを、あんな宣戦布告みたいなことして」
高木 誘作「お互いに同じ世界で生きるプロだ。時には敵対する事だってある」
高木 誘作「それは片桐さんだってわかってるよ」
桐生 優希「そう、なんですね」
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