世界は工作員で溢れている!?

たくひあい

あたしの日常が終わる。(脚本)

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たくひあい

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〇雑踏
納二科寧音「ふいー、やっぱ街中は暑っちぃねぇ・・・」
  あたしは今。
  町をふらふらと歩いている。
  家には居られなかった。
  だって今日は、「荷物を送る日」だから。
  ・・・って、言ってもわからないか。
  えっと。まぁ、あたしにもわからないんだが。
  
  ある日、世界が動き出してしまったんだ。
  ――――きっかけが、どれからだったのか今となってはわからない。
  まぁ中二病の妄想くらいで聞いても構わないけど・・・・・・
  小さい頃からあたしはずっと『狙われて』いる。
  この状況は借金を作って逃げた親父がやらかしたとかいろいろ言われるけど、細かい事はあたしも知らなかった。
  ただ、確かな事は・・・・・・
  
  世界は工作員で溢れているってこと。
  知り合いの話じゃ、どうやら、個人情報を買うやつがいるらしい。
  そして、あたしみたいなのが高く売れるらしい。
  あたしの携帯が大量に同期されていて、突然停止した日には既に手遅れだったし
  その携帯電話も、修理に出すつもりが店員に持ち逃げされてしまった。
  僅かな個人情報ですら、宝の山。
  ちょっとしたメモ書きですらシュレッダーにかけねばならない程、
  あたしか世界のどちらかが異常なようだ。
  そんな中、少し前から始まった、母親の大量の『仕送り』
  それが、あたしが荷物の日に家に帰りたくない理由だ。

〇教室
  ある日の朝。
  あたしはいつも通り学校に行っていた。
納二科寧音「おはよー!」
梅ヶ丘 ゆりこ「あ、おはよう」
  クラスメイトが、なんだか焦ったような困ったような表情であたしを見ているのに気付いた。
納二科寧音「ん?どしたの?」
  なんか変だな、と思いながらも、あたしは
  教室に入ろうとして・・・・・・
「う、うわぁああああ!!!」
  馬田が大声を上げだしたのに気が付く。
  目がぎらついていて、普通じゃない。
  今にも襲い掛からんとばかりに
  敵意をむき出しにしている。
納二科寧音「な、なに!?」
梅ヶ丘 ゆりこ「それが・・・・・・」
馬田レナ「俺は見張られているんだ! 統合失調症なんかじゃない!!! 今も観られている!!」
納二科寧音「・・・・・・なに、あれ」
梅ヶ丘 ゆりこ「う、うーん・・・・・・」
  近くに居たクラスメイトを始め、殆どのクラスメイトが馬に引いていた。
梅ヶ丘 ゆりこ「たぶん、アニメとかの見過ぎだよ・・・」
納二科寧音「そうなのかな・・・・・・アニメって怖いんだね」
  確かにその時期は、そういうアニメもあったようで、あまりの喧しさから『蝉病』なんて言われる人も居た。
馬田レナ「俺の置いたゴミが移動している! 畑に穴がいくつも開けられている! カメラにとってある!」
納二科寧音「・・・・・・って、学校で言われてもぉ・・・」
  ボソッと呟くあたしに、クラスメイトが「だよねぇ」と同調する。
納二科寧音「で、でもさぁ、学校には、不審者とか入れないと思うしさぁ」
  よせばいいのに。あたしは馬田に声をかけた。
  だってなんか、五月蠅いし。
  それになんか、必死そうだったから。
馬田レナ「あぁ!!俺はもうおしまいだぁ!! 警察にも言ったけど動かなかった 馬野県警は(ピーーーー)だ!!!!」
納二科寧音「・・・・・・」
  彼はあたしの声が聞こえることもなく、教室を出ていく。
納二科寧音「な、なんかすごかったね」
梅ヶ丘 ゆりこ「馬田君、真面目でいい子だったのに・・・」

〇学校脇の道
  その日は、その後馬田が早退したくらいで特に変わったことはなかった。
  頭の片隅で馬田が言った言葉が気になっていたけど
  畑に穴が開くとか、なんか移動してるとか言われてもそんなことをして得をする人が居ると思えなかった。
  そのまま、放課後。
松田 千波「あっ」
  校舎を出掛かったあたしに『あっ』がかかる。
松田 千波「あの・・・・・・大事なお話があるんですけどぉ。お時間宜しいですか?」
納二科寧音「げっ」
  彼女の小脇に抱えられているものに、あたしはすっっごーーく見覚えがあった。
  黄色いパンフレット。
  真ん中にでかでかと描かれる『地球』!
  仰々しいフォントで書かれる
  「幸せの楽園への道しるべをお示しくださなんかややこしいカタカナ」!!!
  あたしは嫌な予感がして、目を合わせずに早歩きする。
納二科寧音「なんなんだよっあのババァ・・・・・・ 毎日毎日、校舎裏に佇みやがって」
  あたしの通って居た学校の付近には
  いつもあのババアが立っている。
  そりゃ、宗教は珍しくはなかった。
  地域柄「黒と黄色のあの看板」もあったし、
  友達の母親が謎の集会に出かける噂もある。
  委員長でもいれば学校の敷地内での勧誘は禁止だった筈だぞ!とか言うのかもしれないけど、
  あれってフィクションだから出来るのだろうか・・・・・・恐い恐い・・・・・・
  ただ、あまりにも堂々と馴染んでいるせいで、
  あまりにも突っ込まれない存在と言うか・・・そんな感じであった。
納二科寧音「はーーーだる・・・・・・ 早く帰ってだらだらしたいなぁ──」
  あたしはこのときはまだ、思いもよらなかった。
  
  日常だと思っていたものが既に壊れて来て居る事・・・・・・

〇女性の部屋
納二科寧音「ただいまぁーーー!」
納二科寧音「ふぃー、今日も疲れたなーーっ」
  帰宅後、あたしはいつものように部屋に直行してだらけていた。
  夕飯まで、少しベッドに寝ころぼうとしたときだ。
  外から、ガリ・・・・・・ガリ・・・・・・と妙な音が聞こえてきた。
納二科寧音「ん?」
  今まで真夜中に聞いたことのない音。
  
  あたしは恐る恐る、窓際に近づいて外を見に行った。
  窓の外・・・・・・
  ウチの敷地の前に誰かいる。
納二科寧音「あれって・・・・・・!」
  見間違えるはずがない。
  毎日学校の前に待ち伏せしていたその人――――
  あの勧誘ババァが、妙な服を着て庭に立っている。
納二科寧音「・・・・・・?」
  ・・・・・・彼女の他に数人の大人が居た。どれも中年~高齢者くらいで、5,6、人の男女である。
納二科寧音「夜の集会でもあんのかな?」
  いや、そんな事はどうでもいい。
  それよりもそこで何をしていたかっていうと、
  土地の境界を分ける為の杭を抜こうと、土を掘り返していたのだった。
  ・・・・・・?
  いや、うちの杭を抜いてどうするんだ?
  あたしにはわからない何らかの理屈で彼らは話し合っている。
  彼女の後ろにいた爺さんは、なにやら入ったビニール袋を片手に持っており少し怒っている様子だった。
納二科寧音「なんだろ、なんか不気味だな・・・」
  そう、思った辺りであたしの意識はふっと薄れる。
納二科寧音「・・・そういえば・・・・・・今朝、早起きしたん、だった」
  吸い寄せられるようにベッドに行き、
  
  気が付けば意識を失っていた。

〇新緑
  むにゃ・・・・・・
  むにゃ・・・・・・
  心地の良い、鳥のさえずり。
  何処からか吹いている風。
「そろそろ起きなさーい! 朝ごはん、冷めちゃうよー!」
  母さんの声。

〇女性の部屋
納二科寧音「・・・・・・ん」
納二科寧音「・・・・・・・・・・・・」
納二科寧音「・・・・・なんだ。もう、朝か」
  一人ごちながら体を起こす。
  すっかり眠っていたらしい。
  夕飯も食べてないのでお腹が空いた。
納二科寧音「焼けたパンにバターとかぬりぬりしたいなぁ」
  そんな事を思いながら、枕元に置いていたスマホで時間を確認する。
  前の携帯が突然使えなくなり死んだので最近新しく買ったものだ。
  ロックを解除し、待ち受けを表示すると、
  新たに通知が届いているのに目が行く。
納二科寧音「ん? こんなのあったかな」
  最初はなかった気がするけどいつの間にかアプデしたのだろうか。
   通知を押すと最新のニュースが表示されるようになっていて、
  そこに、ある見出しがあった。
  馬間市にあるアパートで、複数人の首だけ遺体が見つかる。
  彼らは自殺サークルで集まったと見られていて、殺害した犯人は「首吊り師」と名乗って活動していたらしい。
  首はいづれも女性のもの。「首吊り師」と接触した後に、殺害によって自殺・・・・・・したようだ。
納二科寧音「こういうのって難しいね。 自殺目的で集まってるんだし、首吊り師だけのせいでもなさそうだし・・・」
  とはいえ犯人は、犯行を認めていて
  「自分がやった、彼女たちは自殺を手伝って欲しくて集まったけど殺されるのは嫌そうだった」と語っている。
  自己弁護に走らないなんて、メディア映えするような今時の連続殺人犯にしては珍しい。
  ま、どうでもいいけど・・・・・・
  そう。
  言いたいけど。
納二科寧音「げっ」
  何気なく見た、自殺志願者の名前の一覧を見てあたしは嫌な気分になる。
  菜葉寧音 冊居寧々 手野寧々  
  納二科のね  寧々田紫音 寧々・・・・・・
  全部の名前に、あたしの名前と同じような字が入っている。
  組み合わせれば納二科寧々になるような、まるでそれを悟って欲しいと言っているかのような、執拗なまでの文字列に思えて
納二科寧音「なんか、気持ち悪い・・・・・・」
  しかも、首だけ収拾していた事も
  底知れない不気味さがあった。
納二科寧音「怖っ・・・・・・」
  冒頭で書いたけど、
  あたしはずっと、何か分からないものに狙われている。
  でも、それがいつまで続くのか、
  どうして今になってこんな風に、
  あたしは、不安になっているのか――――
  昨日の、馬田の顔がチラつく。
  ・・・・・・・・・・・・。
納二科寧音「まぁいいや、先に朝ごはん食べちゃおう」

〇雑踏
  いつの時代もそうだった。
  時代が動く時、
  
  
     生首が曝される

〇アパートの台所
  朝食の風景はいつも、同じような感じである。
  行ってきます、と仕事に出掛けて行った母さんを見送ると、トースターでパンを焼く。
納二科寧音「♪~」
  焼けるのを待つ間にサラダを用意し、カフェオレを入れる。
  ちょうど焼けたパンをお皿によそって、
  それからスマホをチェック。
納二科寧音「えーっと。今日の課題は・・・・・・」
  課題を確認するべく、アプリを開くと部長から3件程のメッセージが届いていた。
納二科寧音「タイピング2セット、トレンドの辞書登録、それから・・・・・・首吊り師ぃ!?」
  言って無かったけど、あたしは学校の文芸部に所属している。
  意味が分からないと思うけど、此処の文芸部は体育会系だ。
  文章を書く為にあらゆる体力づくりをし、文章と言う芸術を極める為だけの部活なのである。
  文芸部っていうと「本読んだりするだけの暇そうな部活でしょ?」と、みんな思うと思う。
  あたしも最初はそうだった。んだけどな・・・
納二科寧音「カチカチカチカチ・・・・・・」
  指が・・・・・・指が死ぬ・・・・・・
  カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ。
  文芸部の為のタイピングソフトをインストールし、表示されている文字をひたすら、制限時間内に入力。
  それが終わると、今度は様々な言語で同じセットを繰り返す。
  あたしは握力が弱いので、結構キツい。
  一時期は軽い腱鞘炎になってしばらくテストに難儀したくらいだ。
  まぁ、運動部ではないので手の体力づくりが多いけど、勿論、何故か外を走る事もあって・・・・・・
  寝不足でも文章を仕上げる体力づくりらしいから、本当に、何に魂を売るつもりなんだこの部活。
  過酷なタイピングは基礎体力、たまにあるランニングも基礎体力、
  トレンドの辞書登録は、端末側で行うもので、流行語や部長がピックアップした単語を辞書登録するというものだ。
  予測変換は速度が命。迅速にトレンドに対応すべく常に最新の辞書を作り上げる必要が、文芸部にだけあるのである。
納二科寧音「ぴぇ・・・・・・」
  途中で指がつっかえて、あたしはスマホから指を放す。
  「しゅうりょー!」と賑やかな声が響き、タイピングが終了した。
  あたしの得点が表示され、頑張ったね!と文字が出てきた。
  前回よりちょっとスコアが上がっている。
  だけどそんなのにあまり関心はなくって、あたしが気になるのは・・・・・・
納二科寧音「うわ、部長また一位だ」
  結果発表に表示される部員のランキング。全体的に見てあたしは中間くらいだけど、部長はいつもトップだ。
納二科寧音「すごいなー。メール返信もいつも秒だし・・・・・・何喰ったらああなるんだ」
  部長は穏やかで、厳しい人だ。
  だけど過酷なタイピングに勤しんでいるからか、文章がひとつひとつ静謐で美しいんだよね。
  『首吊り師のことで、諸君らには集まってもらう』
  さっき来た部長のメッセージを思い出した。
納二科寧音「・・・・・・忘れてた」
  『特に、寧音。お前に用がある』
納二科寧音「あたし、なんかしたっけ・・・」

次のエピソード:首吊り師と文芸部。

コメント

  • 文学的ですね。
    セリフにキレがあって、世界に不条理が満ちてますね。
    主人公の怒りが世界にどう響いていくのか楽しみですね。

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