好きの在処

夏名果純

第19話 花火大会の夜に(脚本)

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〇広い屋上
水杉花奈「私ね、花火大会は謙弥と行きたい」
川崎謙弥「・・・っしゃ!」
吉岡修司「・・・・・・」
  花奈の返事に謙弥は大きくガッツポーズをし、修司はすっと表情をなくした。
川崎謙弥「ありがとな、花奈」
  謙弥は頬をかすかに赤く染めながら微笑む。
  花奈も照れてひとつうなずいてから、修司に向き直った。
水杉花奈「・・・あの、修司。ごめんね」
水杉花奈「でも、言ったように修司はもちろん大事な幼馴染みで──」
吉岡修司「うん、わかってるよ。謝らないで。 それに、なんとなく気づいてた」
水杉花奈「えっ?」
吉岡修司「花奈の気持ちにね。 花奈が幸せなのが一番だから、僕は身を引く」
吉岡修司「でも、これからも幼馴染みであることには変わりないから。そういう意味ではいつでも頼ってほしいんだ」
吉岡修司「もちろん、謙弥がヤキモチを妬かない範囲でね」
  そう言って、修司は優しく微笑んだ。
川崎謙弥「・・・別に、妬いたりなんてしねぇよ」
  ぶっきらぼうに謙弥が反論するそばで、花奈はなんだか泣きそうになりながらうなずいた。
水杉花奈「ありがとう、修司・・・」
吉岡修司「じゃあ、邪魔者は消えるよ。 あとは2人で仲良くどうぞ」
水杉花奈「えっ、修司!?」
  戸惑う花奈の声には振り返らず、修司はそのまま屋上を出ていく。
川崎謙弥「・・・あいつ、さっさと行っちまったな」
水杉花奈「うん・・・」
川崎謙弥「・・・・・・」
  いきなり2人きりになった花奈と謙弥はどうしていいかわからず、照れて2人して固まってしまう。
水杉花奈「あ、えっと・・・とりあえず帰る?」
川崎謙弥「・・・ああ! それもそうだな!」
  花奈の言葉に謙弥もうなずき、2人ともぎこちない足取りで屋上を出ていったのだった。

〇明るいリビング
  8月10日(土)
  今日は花火大会当日。
水杉花奈「ねえ、お母さん、浴衣おかしくない?」
花奈の母「別に乱れてないわよ。どうしたの?  いつもそんなに気にしないのに」
水杉花奈「えっ!」
花奈の母「『また幼馴染みとだし、そろそろ彼氏と行きたいー』って去年言ってなかった?」
花奈の母「・・・えっ! もしかして!?」
水杉花奈「・・・あー、もう! 行ってきまーす!」
花奈の母「ふふっ、気をつけてね!」

〇一戸建て
  花奈が家を出ると、そこにはすでに謙弥の姿があった。
水杉花奈「謙弥、お待たせ」
川崎謙弥「・・・おう。浴衣、だな」
  謙弥の視線に、花奈はついそわそわしてしまう。
水杉花奈「去年も同じ浴衣だったし、もう見慣れてるでしょ」
川崎謙弥「そんなことねぇよ。 同じ浴衣でも・・・今年は特別だろ」
水杉花奈「・・・っ」
川崎謙弥「とにかく行こうぜ」
水杉花奈「うん・・・」
水杉花奈(・・・下駄だから、ちょっと歩きにくいな)
  謙弥はゆっくりと歩く花奈を置いて、どんどん先を歩いていってしまう。
水杉花奈「ねえ、ちょっと待・・・」
水杉花奈(もう少しゆっくり歩いてほしいな・・・去年も謙弥だけ、先にどんどん歩いていったっけ)
  花奈が謙弥に告白の返事をしてからも、謙弥の態度が大きく変わることはなかった。
  時々、お互いに意識してしまいぎこちなくはなるものの、それ以外は今までとまったく一緒だった。
水杉花奈(小さい時は何度も手をつないだのに、あれからはまだ一度もない)
水杉花奈(・・・今日は手つなぎたいな)

〇神社の出店
  2人が神社に着いた頃には、少しずつ日も暮れ始めててきた。
水杉花奈(あっ、りんご飴だ!)
水杉花奈「ねえ、謙・・・」
  花奈が話しかけようとしたけど、見れば謙弥の姿が見えなくなっていた。
水杉花奈(えっ、謙弥は・・・?)
  花奈が不安になってきょろきょろ辺りを見渡していると、すぐに謙弥が戻ってきた。
川崎謙弥「いた!」
水杉花奈「ちょっと謙弥、置いていかないでよー」
川崎謙弥「いや、だって、ついてきてるもんだとばかり思って・・・悪かった」
  謝ってはくれるものの、謙弥から手をつないでくれる気配はまったくない。
水杉花奈(・・・もういいや、自分から言っちゃお)
水杉花奈「・・・はい!」
  花奈は謙弥に片手を差し出した。
川崎謙弥「な、なんだよ?」
水杉花奈(えっ、わからない!?)
水杉花奈「手! つなごう」
川崎謙弥「手って! んなもん・・・」
  途端に、謙弥の顔は真っ赤になる。
  そんな謙弥を見て、花奈は急に恥ずかしくなってうつむいた。
水杉花奈(せっかく勇気を出したけど・・・私1人、早まったかな・・・)

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