人とロボットの物語 歌姫

B作

読切(脚本)

人とロボットの物語 歌姫

B作

今すぐ読む

人とロボットの物語 歌姫
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇コンサート会場
  今夜もステージは満席だった。
  歌姫メリーの人気は絶頂だった。
  私は、その歌姫のマネージャー兼プロデューサー。
  いつものようにステージの袖で彼女を見守っていた。
  彼女の歌に観客達は熱狂していた。
  約二時間のステージがあっという間に
  過ぎていき、ラストナンバーになった。
  ここでいつものバラード。
  今までのステージが嘘のように静まり返って、皆メリーの歌声に陶酔した。
  中には泣いているファンも居た。
  そんなメリーを嬉しく見つめている自分と
  嫉妬している自分が居た。
  いつもそうだ。
  私はメリーを愛しているし憎んでもいる。
  なぜ?
  それは彼女の歌が素晴らし過ぎるからだ。
  メリーを育てたのは自分だ。
  初めは、ほんの気まぐれからメリーに歌を教えたのだった。
  もの覚えの良いメリーはドンドン覚えていき、やがて私が出来なかった事さえ出来るようになった。
  冗談でインターネット上で彼女の歌を公開してみた。
  すると口コミでメリーの歌は広まり、やがてライブを開催する事になった。
  私も面白がってメリーの演出をやり、始めてのライブは大盛況だった。
  更に人気が高まり、ライブ希望のメールが殺到した。
  要望どおりライブを開催し、メリーの人気は更に跳ね上がった。
  こうして歌姫と祭り上げられ、メリーのファン増えていった。
  今では、CDを出さないかという話しまで出てきた。
  しかし、メリーと私には大きな秘密があった。
  それはメリーはロボットだった。
  少し前、私はマイナーではあったがそれなりにファンもいた歌手だった。
  ライブの誘いも結構あり歌には自信があった。
  だけど・・・
  そんなある日、交通事故に逢い大怪我をしてしまった。
  命は助かったが、手術の影響で声が出なくなってしまった。
  あまりのショックに家に引きこもり、
  家族ともろくに口もきかなかった。
  誰にも会いたくなかった。
  そんな私を心配して、親がロボットなら
  大丈夫だろうと思い
  私の世話をさせるためにメリーを購入した。
  はじめはメリーに悪態つき、散々酷い事をした。
  人間ならとっくに愛想つかしていただろう。
  しかしメリーはロボットだった。
  どんなに酷いことをしても、メリーは忠実に仕事をこなすだけだった。
  そんなメリーになぜ歌を教える気になったのか・・・・
  未だにその訳は分からなかった。
  とにかく歌姫メリーの人気は衰えることが無かった。
  ライブに来ているお客さんは誰一人メリーがロボットだとは気づいていなかった。
スタッフ「今日のライブも大成功ですね!」
マリー「そうね」
スタッフ「それじゃ僕、あっちを手伝ってきます」
  スタッフの男の子は、走り去って行った。
  私の声はハスキーと言うのを通り越して、かすれた声しか出せなくなっていた。
  手術の影響で声帯自体が麻痺してしまい、
  私の声は声帯から発しているのではなく
  吐く息で無理やり声にしているのだ。
  だからもう歌は歌えなかった。
  私はメリーに私が出来なかったことをやらせる為に歌を教えたのだろうか??
  メリーのステージを見ながら、頭の中でいつものエンドレスな問答を始めた。
  盛大な拍手で我に戻った。
  どうやらラストナンバーが終わったらしい。
  ステージの幕が降りた。
  私は慌ててメリーに近づき、抱えて控え室に戻った。

〇空っぽの部屋
  メリーのバッテリーが切れかかっていた。
  2時間のステージがメリーにとってはギリギリ活動できる時間だった。
  普通に動いている分には、余裕で4,5時間は稼動できる。
  だが、ステージではかなり激しいダンスをやらせている為にバッテリーの消費が激しいのだ。
  メカニックの菜緒子が入ってきた。
  菜緒子とは昔からの友人だ。
  そして私が歌を歌っていた頃は私の大事なファンだった。
  偶然に菜緒子がロボットに詳しいと知り、このスタッフに迎え入れた。
  彼女のメンテがなければ歌姫メリーは存在できなかっただろう。
菜緒子「あらら・・・また随分と無茶してくれたわね」
マリー「どこか壊れたの?」
菜緒子「大丈夫!ちょっとモータが燃えかかっているだけ・・・」
マリー「モーターが燃える?! 大丈夫なの??」
菜緒子「ロボットには良くあることよ」
菜緒子「よし!これでOK!!」
菜緒子「で・・・いつまでこんな茶番続ける気?」
マリー「え?!」
菜緒子「だから・・・ メリーにいつまでこんな事やらせるのかって事・・・」
マリー「いつまでって・・・」
菜緒子「まだ大丈夫だけど。 こんな無理させてたら、そのうちメリー壊れるよ」
マリー「その時は新しいロボット買うよ」
菜緒子「あんた!!メリーをそんな風に思ってるの!」
マリー「え?!」
菜緒子「もういいわ・・・私は帰る」
  私には菜緒子が何を怒ってるのか分からなかった。
  トントン
マリー「なにか?」
ファン「あの・・・ わたし・・・ メリーさんのファンでして・・・・」
マリー「ありがとう! でもメリーは今ステージが終わったばかりで休んでるのゴメンナサイネ」
ファン「すみません・・・」
マリー「それじゃ、またライブに来てね」
ファン「あのぉ・・・」
マリー「なに?」
ファン「もしかしてマリーさんじゃありませんか?」
ファン「あぁやっぱりマリーさんだ。 私、大ファンだったんです」
マリー「いえ・・・人違いです。それじゃごめんなさいね!!」

〇女の子の部屋
  部屋に戻ってメリーの充電を済ませて一息ついた。
  なんだか今日は最悪な日になったようだ。
  あの女の子に会ったおかげで、またグダグダと考え始めてしまった。
  私はメリーに嫉妬しているのだろうか?
  歌を歌いたいのだろうか?
  何気なく見た視線の先にマイクが置いてあった。
  私は近づき思わず手にとってみた。
菜緒子「いよいよマリーの復活?!」
マリー「菜緒子・・・」
菜緒子「勝手に上がってきたわよ」
  菜緒子は少し酔っているようだった。
菜緒子「また歌えば良いじゃない」
マリー「無理よ・・・こんな声だし・・・・」
菜緒子「何言ってるのよ。歌はハートよ!!」
  そう言って菜緒子は親指で自分の心臓を指差した。
菜緒子「歌えないんじゃなくて、あなたは歌わないよの!!」
菜緒子「本当は歌いたいんじゃないの?」
菜緒子「だからメリーに自分の身代わりさせてるんでしょ」
菜緒子「どんな声だって良いじゃない、その歌いたい気持ちをぶつければ」
マリー「そんな事言ったって・・・・」
菜緒子「少なくともここに一人マリーの復活を望んでる人間がいるのよ!」
マリー「菜緒子・・・」
菜緒子「今度のメリーのライブに、あなた出なさいよ!!」
マリー「え?!」
マリー「だけど・・・」
菜緒子「はっきり言うわね。メリーはもうかなりガタガタよ」
菜緒子「だから、たぶん今度のライブは二時間持たないわ」
マリー「それなら、新しい・・・」
菜緒子「だから、歌姫メリーはこの子だけなのよ!!」
菜緒子「例えメリーがロボットだとしても、この子の身代わりなんて世界中どこにも居ないの!!」
菜緒子「あなたの思いを込めたから歌姫メリーは生まれたの」
菜緒子「あなたの分身じゃないの?メリーは・・・・」
菜緒子「だからメリーの歌にみんな感動してるんじゃないの?」
菜緒子「単なる音楽データなの?メリーの歌は・・・」
  そう言われて私は初めてメリーが特別な存在だと気づいた。
  確かにそうだ・・・私はメリーに私の思いをすべて継ぎこんだ。
  良い事も悪い事も・・・・
  メリーはマリーの分身だ。
  だから愛しているし憎らしくもある。
マリー「そうね。メリーはメリー・・・身代わりは居ないのね・・・」
菜緒子「そうよ!」
マリー「本当にもう治せないの?」
  菜緒子は静かにうなずいた。
マリー「そう・・・」
菜緒子「だから・・・分身じゃなくて、あなたがステージに立つのよ!」
  菜緒子はそう言うが、あの頃のように歌える自信は無かった。
マリー「やっぱり無理よ・・・歌えない・・・」
菜緒子「すぐに答えを出す必要は無いわ。まだ次のステージまで時間があるから・・・」
  そんな事言っても無理なものは無理よ!
  そう反論しようとする私を無視して
菜緒子「それじゃ私・・・帰るわ。じゃぁね!!」
  まったく・・・・
  そう思いながらどこかで自分がステージに立っている姿を想像していた。
  私とメリーのセッション・・・
  そして気がつくと私はマイクを握っていた。

〇女の子の部屋
  それから、何事も無く日々が過ぎていった。
  私はと言えば、次のステージの準備に追われていた。
  あれから菜緒子とは会っていなかった。
  私も、もう一度ステージに立ってみたいとは思う。
  だけど・・・やはりステージに立つ自信はなかった。
  そんな事は夢物語だ。
  とにかく次のステージはメリーに
  負担をかけないような演出にしようと
  頭を悩ませていた。
  今までが、かなり激しいステージだっただけに今更しっとりしたステージには出来ないし、
  かと言ってステージの時間を短縮する訳にもいかない。
  完全に煮詰まっていた。
  菜緒子に相談したかった。
  しかし、あれから菜緒子と連絡が取れなかった。

〇配信部屋
  その日の夜、菜緒子の家を訪ねた。
  呼び鈴を鳴らしたが反応が無かった。
  留守なのだろうか・・・??
  しかし、中から音楽がかすかに聞こえていた。
マリー「菜緒子!!居るんでしょ?私よ!開けて!!」
  私は叫んでみた。
  そして、ドアーのノブに手をかけた。
  するとドアーが開いた。
  どうやらドアーには鍵がかかっていなかった。
マリー(無用心ねぇ・・・・)
  そうつぶやきながら私は部屋の中に入った。
  中に入ると菜緒子はTVモニターを見ながらキーボードを叩いていた。
マリー「何やってのよ!! 電話にも出ないで・・・心配したわよ!」
菜緒子「あぁ・・・来てたんだ・・・」
マリー「来てたんだじゃないわよ!!」
  そこで初めて私はTVモニターには昔の私のライブが流れていた事に気づいた。
マリー「何でこんなモノ見てるのよ!?」
菜緒子「あなたがステージに立つための準備・・・」
マリー「まだそんな事言ってるの!無理に決まってるじゃない!!」
マリー「そんな事より今度のメリーのステージの・・・」
  そう言いかけた私に菜緒子は私にマイクを向けて
菜緒子「歌って」
  唐突に言われたので思わず言葉が詰まってしまった。
菜緒子「データ取るから歌って」
マリー「だから無理だって言ってるでしょ!! 何度言えばわかるの!!」
菜緒子「無理じゃなかったら歌ってくれるの?」
  菜緒子は思わせぶりな言い方をした。
  何を根拠にそんなこと言い出すのか
  理解が出来なかった。
菜緒子「これから言うことを聞いてから 答え出しても遅くないと思うわよ」
マリー「どういう事?」
菜緒子「あなたの声が出ないのは 声帯がうまく機能してないからよね?」
マリー「そうよ!」
菜緒子「その為に、元々あった声が 出なくなったのよね?」
マリー「・・・・」
菜緒子「何で元の声と変わったのかしら? それを考えたら一つの答えを導き出したの」
菜緒子「つまり、声帯が機能しないために出なくなった音の波長を機械で発生させて合成させれば」
菜緒子「元の声・・・それが無理でも 近い声を再生させようと思って」
マリー「そんな事・・・できるの?」
  そんな夢みたいな事出来る訳ない・・・
  そう思いながら、期待している自分が居た。
菜緒子「わからないわ。 でもやってみる価値はあるんじゃない」
マリー「でも・・・」
菜緒子「あぁじれったいなぁ! 歌いたいの歌いたくないの!? どっち?」
  私は歌いたいのかしら??
  その答えは、すでに出ていた。
  そして私は決心した。
マリー「歌いたい!!」
菜緒子「よし!決まり。 それじゃデータ取りに協力して」
  そう言って菜緒子は私にマイクを渡した。
  本当に再びステージに立てるのかどうか分からないが、でも歌いたい!って気持ちは固まった。
  とにかく菜緒子に任せる事にした。
  しばらく菜緒子の家に泊まり込みをする事にした。
  もしかしてステージにまた立てるかもしれないと言う夢を見ながら・・・・
  近すぎて菜緒子の凄さがわからなかった。
  ある意味天才だと私は思った。
  なぜなら、菜緒子は見事に私の声の
  再現に成功させた。
  ソロで歌うことは出来ないが、
  メリーとのデュオする事により
  私の歌声が蘇ることが出来た。
  メリーの発声装置を改良し、
  メリー自身の歌声と
  私の声を補完する音声を
  同時に発声出来るようにした。
  今度のステージはメリーをメインで
  合間に私とメリーのデュオを
  入れる事にした。
  そうする事で、少しでもメリーの負担を
  軽くしようと考えた。

〇コンサート会場
  ライブが近づき、準備で慌ただし過ごしていた。
  そんな私に菜緒子が突然言った。
菜緒子「ごめんなさいね・・・」
菜緒子「あなたをソロで歌わせる事が出来なくて」
マリー「何で謝るのよ・・・ ここまで出来たら凄いわよ!」
  私は本当に感謝していた。
  まさか本当にステージに立てるようになるとは思わなかった。
菜緒子「だけど・・・」
マリー「いいのよ! それよりこんな事は今回限りにするわ」
菜緒子「え?!」
  そう・・・
  私はステージに立つのは今回で最後と
  考えていた。
  そして私の身代わりとかじゃなく、
  メリーを本当の歌姫にしたくなった。
  どんな形であれ、音楽の仕事が出来るだけで幸せだと思えるようになった。
  そのケジメとして今回のステージに
  立つのだと自分で考えていた。
マリー「本気でメリーを歌姫にするわ!」
菜緒子「それでいいの?」
マリー「なんで? 私の歌に対する想いはメリーが 受け継ぐのよ。 素晴らしいじゃない」
  菜緒子は私の顔をじっと見つめて
菜緒子「そう・・ あなたがそう決めたのなら 私は何も言わないわ」
マリー「菜緒子・・・ ありがとうね」
マリー「その為には、菜緒子にはメリーが まだまだライブが出来る方法を 考えてもらわないと」
菜緒子「それは難題ね・・・」
マリー「お願いしますね。 天才メカニック!!」
スタッフ「マリーさん、スイマセン・・・ リハお願いできますか?」
マリー「わかったわ!今行くね!」
  菜緒子はそんな私を嬉しそうに見つめていた。

〇空っぽの部屋
  リハーサルはかなり熱が入ってしまった。
  気がつけばメリーのバッテリーが
  切れかかっていた。
  慌てて私は今日のリハーサルを終了させて、メリーを連れて控え室に向かった。
  菜緒子は控え室で待機していて、
  すぐにメリーのメンテを始めた。
  正直、私もかなりバテバテだった。
  トントン
  スタッフの男の子だった。
マリー「どうしたの?」
  男の子の後には、誰か立っていた。
  いつかの女の子だった。
スタッフ「すみません。 彼女、友達なんですけど、 どうしてもプロデューサーに謝りたいって 言うもんで」
スタッフ「自分が話すって言っても、どうしても 直接会いたいってきかないもんで・・」
マリー「いいわ。ありがとうね」
スタッフ「それじゃ、僕は現場戻るんで・・・」
ファン「あのぉ・・・ この間は無神経な事言ってごめんなさい・・」
  そう言って深々と頭を下げた。
  彼女は彼女なりにこの間の事を気にしていたようだ。
マリー「良いのよ・・・気にしてないから」
ファン「本当にごめんなさい・・・」
  女の子はまだ頭を下げてままだった。
マリー「頭を上げて。 本当に気にしてないから。 それよりもマリーのファンってのは 本当なの?」
  私は、女の子があんまり恐縮しているので
  ちょっと意地悪な事を言ってみた。
「本当です!! マリーさんの歌で私いっぱい元気もらいました」
マリー「でも・・今はメリーのファンなんでしょ?」
  更に意地悪な事を言った。
ファン「それは・・・」
マリー「冗談よ!ごめんなさいね意地悪して」
ファン「いえ。 でも本当にマリーさんの歌、大好きです」
ファン「たぶん、メリーさんを好きなのは、 なんかマリーさんの歌に似てるんですよね」
マリー「そう? 全然曲調とか違うと思うけど・・・・」
ファン「そう言うことじゃなく・・・ なんて言うか・・・ ハートが・・・・」
  私は、そう言われて嬉しくなった。
マリー「ありがとう」
ファン「そんなお礼なんて・・・・」
マリー「でもガッカリしたんじゃない? マリーはこんな声になっちゃったしね」
ファン「そんな事ありません! 私、今もマリーさんの歌が聞きたいです」
マリー「でも・・・昔みたいな歌声は出ないわよ」
ファン「関係ありません。 声がどうだろうとマリーさんの歌が 好きなんです!」
マリー「・・・・・」
ファン「ごめんなさい・・・ 私また気に障ること言いました?」
  私が黙っているので女の子は怒ったのだと勘違いしてしまった。
  私は目頭が熱くなっていた。
  声を出すと涙がこぼれそうだった。
  こんなに私の歌を好きでいてくれたファンが居たなんて・・・
  言葉を出すことが出来なくなった。
菜緒子「結構・・・涙もろいのよ・・・」
  奥から菜緒子が助け舟を出してくれた。
菜緒子「マリーの友人としてお礼を言うわ。 ありがとうね」
菜緒子「今度のメリーのステージ見に来て。 もしかしたらマリーに逢えるかもよ」
  菜緒子はそう言って、女の子にウィンクをした。
ファン「え?! あっ!はい・・・・」
  女の子は意味を理解したようだった。
菜緒子「それじゃ、これあげるわね」
  そう言って菜緒子はライブのチケットを彼女に渡した。
ファン「ありがとうございます。 絶対に行きます!! それでは失礼します」
  そう言って部屋を出て行った。
マリー「ありがたいね・・・ファンって・・・」
菜緒子「そうよ! 言ったでしょあなたの復活を望んでる人が居るって・・・」
マリー「うん。 今度のステージは絶対に成功させるわ!!」
  そして、私は今度のステージである事をやろうと密かに考えていた。
  本当のマリーを復活させるために・・・・

〇コンサート会場
  ライブ当日。
  やり残した事は、まだあるが出来る限りの準備はやったつもりだった。
  後は自分達の力を100%出し切るだけだ。
  泣いても笑っても幕は開いた。
  まずはメリーのエネルギッシュなステージで始まった。
  客席は始まったばかりなのに、もう総立ちになっていた。
  今更ながらメリーの歌は凄いエネルギーに満ち溢れていると感じた。
  本当にメリーはロボットなのかと疑いたくなった。
  私も思わずメリーの歌に酔ってしまった。
  こんな風にメリーを楽しめたのは始めてだった。
  気がつくとメリーの歌に合わせてリズムを取っていた。
スタッフ「マリーさん・・そろそろお願いします」
  スタッフが出番を告げてきた。
  いよいよ私のステージだ。
  不思議と緊張はしていなかった。
  軽く深呼吸をして、私はステージへ向かった。
  自分で言うのも変だが、メリーの歌声と私の歌声が合わさって見事なハーモニーを生んだ。
  観客の声援が心地よかった。
  今、ステージに立っている自分に感動していた。
  こうして、私とメリーのステージは、あっという間に過ぎていった。
  そしてラストナンバーになった。
  そこで私は菜緒子を呼んだ。
マリー「私の歌声を補完をさせる装置を止めてくれる」
菜緒子「え?!」
マリー「最後は本当の私の声で歌いたいの」
  私は機械で作られた声じゃなく、本当の自分の声で歌いたくなっていた。
  望む望まないに関わらず、今の私の声はこうなのだから、そんな自分を否定したくなかった。
  もう・・自分の状況から逃げるのはやめようと思っていた。
菜緒子「わかったわ」
  メリーの発声装置停止させてくれた。
  そしてラストナンバーを歌う為にメリーと一緒にステージに向かった。
  ステージの真ん中に立つと、さっきとは違って凄く緊張していた。
  私はマイクを強く握って
マリー「今日はメリー&マリーのライブに来てくれてありがとう!!」
  その声は普段の、かすれた声だった。
  客席からざわめきが聞こえた。
マリー「ごめんなさい。 さっきまでの歌声は偽者なの」
マリー「私は事故にあって手術の影響で声が出なくなりました」
  さらにざわめきが多くなってきた。
マリー「ショックだったし自暴自棄にもなりました」
マリー「だって大好きな歌が歌えなくなったんだから・・・・」
マリー「私は私の身代わりにメリーを歌わせました」
  今度は逆に客席は静まり返った。
  私は軽く息を吸って
マリー「メリーのステージを見続けていて、私は歌を歌いたかった」
マリー「でもこんな声だから無理だとあきらめてました」
マリー「そんな私に親友は魔法をかけてくれました」
マリー「また元の歌声で歌える魔法を・・・・」
マリー「ありがとう!菜緒子・・・」
  私はステージの袖に居る菜緒子に向かって言った。
マリー「そしてメリーもありがとう!!」
マリー「でも・・・魔法は必ず解けてしまうもの」
マリー「もう魔法は解けて元の声に戻ってしまいました」
マリー「だけど、私は良かったと思ってる」
マリー「だって私は今の自分も大好きだから!だから今の私のこの声も好き」
マリー「こんな声ですけど、本当の今の私の歌を聴いてください!!」
  私は客席に向かって頭を下げた。
  するとバンドが演奏を始めてくれた。
  菜緒子に感謝し、あの女の子に感謝し、
  そしてメリーに感謝しながら
  その気持ちを込めて精一杯歌を歌いました。
  歌い終わると観客が静まり返っていた。
  やっぱり・・・こんな声じゃ・・・
  そう思いかけた瞬間、もの凄い拍手が沸き起こりました。
  スタンディングオベーションが起きた。
  私とメリーはその歓声に包まれていた。
  「良かった!!」
  「頑張って!!」
  色んな声援が聞こえてきた。
  私はこんなにも素晴らしいファンに恵まれていたのかと改めて感じ、涙がこぼれてきた。
  メリーを見ると、彼女も感動しているような気がした。
  そんな事菜緒子に言ったらバカにされそうだが、そう私は感じた。
マリー「メリーやったね!!」
  私はメリーを抱きしめた。
  するとメリーは私の方へ倒れてきた。
  やばっ・・・バッテリー切れだ・・・
  私は慌ててメリーを抱えてステージを降りた。

〇コンサートホールの全景
  それから私は・・・
  と言うか私たちは引っ張りダコになってしまった。
  結局、私は最後のステージだと思っていたのに、私の歌を希望するファンが殺到した。
  メリー&マリーのステージを
  またやって欲しいと言う要望が多すぎて、
  やめるにやめられなくなってしまった。
  もうグダグダと考えることをやめて
  素直な気持ちで歌を歌っていこうと決めた。
  そして私たちはステージの準備に追われる日々を過ごすことになった。
  おわり

コメント

  • ストーリーがうまく展開されていて惹きつけられながら最後まで読み切りました。登場人物の会話の内容も細かく描写されていて、感情をくみ取りやすかったです。楽しく読ませて頂きました。

  • 私たち人間は挫折を経験すると立ち直るのに随分と時間がかかるものなのです。挫折感を持たないロボットの存在が、人間にやる気を起こす重要性を持つかもしれませんね。

  • ロボットには心がないというけれど、気持ちは通じ合っていた。そう思える。
    観客を魅了し、素敵な歌を届けることができた。
    これからも、歌い続けていってください

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ