セイルージ(脚本)
〇菜の花畑
ヴィンセント「当時人嫌いだった僕はパーティーを抜け出し、王宮裏の広い花畑に辿り着きました」
ヴィンセント「でもいざ帰ろうとしたときにやっと自分が迷子ということに気がついたんです。後に一国の王子がなにやってるんだと、叱られました」
ヴィンセント「産まれて初めての孤独を感じ、僕は泣きそうになっていました。そしたら後ろから声をかけられたんです」
ヴィンセント「『大丈夫?』と──」
〇菜の花畑
ヴィンセント「・・・君は誰?」
シャイローゼ(幼少期)「あ、ごめんなさい。本来私から名乗るべきだったわね」
シャイローゼ(幼少期)「私はノルマータイ家が長女、シャイローゼ・メイザールです。以後お見知りおきを!」
ヴィンセント(なんて愛らしい方なのだろう。それにお辞儀も美しいな。・・・というか王女?王女なのかこの方?!)
ヴィンセント「失礼しました、僕はハルルク家が次男、ノンヴィティエスです。こちらこそ、よろしくお願いします」
シャイローゼ(幼少期)「──あなた、今夜の舞踏会にいらしたはずよね。こんなところに来てどうしたの?」
ヴィンセント「・・・僕は人があまり好きではありません。なのでこのような場所が苦手で逃げてきました」
ヴィンセント「特に、娘を"第2王子の妃"にしたいという大人が僕にすり寄ってくるのが嫌です」
シャイローゼ(幼少期)「──わかるわ、その気持ち」
ヴィンセント「・・・え」
シャイローゼ(幼少期)「私にもね、私が王女という立場だからか、たくさんの貴族が私に話しかけてくるの。張り付けたような笑顔でね」
シャイローゼ(幼少期)「──皆は私をよく見てくれているわ、”王女”である私をね」
シャイローゼ(幼少期)「時々、貴族じゃない人たちが羨ましくなるの。皆は別け隔てなく接して貰えて、自由に結婚できて」
シャイローゼ(幼少期)「だから私は将来──」
ヴィンセント「”貴族と平民の壁をなくしたい”?」
シャイローゼ(幼少期)「!!よくわかったわね」
ヴィンセント「そういう顔をしていたからです。──それに僕も時々、そう思います」
シャイローゼ(幼少期)「ふふ、なんだか私たち仲良くなれそうね」
ヴィンセント「──そうだと、良いです」
〇菜の花畑
ヴィンセント「それから僕たちは時間の許す限りたくさん話しました。それに話していくうち、僕の敬語も外れていくんです」
ヴィンセント「ねぇ、君はここの花の名前を知っている?暗闇であまり見えなくて」
シャイローゼ(幼少期)「この花は"セイルージ"っていうのよ。この国の象徴である、とっても大事な花。花言葉は"愛情"と"優しい思い出"」
ヴィンセント「なんだか、君の名前と似ているね」
シャイローゼ(幼少期)「私の名前、セイルージから取って付けられたのよ。だから私、この花に見合うくらいの大人になれるように頑張ってるの」
シャイローゼ(幼少期)「そしたらね、周りの人たちがいつの間に私を"花姫様"って呼んでくれるようになったの。私嬉しかったわ。皆に認められたみたいで」
ヴィンセント「・・・ねぇ花姫様、このセイルージを少しだけ摘んでいってもいい?」
シャイローゼ(幼少期)「いいわよ、でもどうして?」
ヴィンセント「この花を家に持って帰るんだ。君のことを忘れないように」
ヴィンセント「そしてもう一つ、お願い」
ヴィンセント「僕はいずれ、”ノルマータイ家の長女”ではなく、”シャイローゼ”を迎えにいく。だから、待っていてほしいんだ」
シャイローゼ(幼少期)「──私、」
???「ノンヴィティエス様!」
???「ここにいらしたのですね・・・皆様顔を青ざめながら貴方を探しているのですよ!さぁ帰りましょう!」
ヴィンセント「あ、ごめん・・・すぐ帰るよ」
???「──このご令嬢は?」
ヴィンセント「──話せば長くなるんだけれど」
シャイローゼ(幼少期)「初めまして!私はこの国の王女であるシャイローゼです。今は一国の王族同士として、親睦を深めているのだけれど・・・」
シャイローゼ(幼少期)「うっかりして無断でノンヴィティエス様を連れ回してしまいましたわ。以後気を付けます」
???「・・・そうですか、私はノンヴィティエス様にお仕えする直属の騎士です。では、私たちはこれで」
ヴィンセント「・・・シャイローゼ様、では僕もこれで失礼します」
シャイローゼ(幼少期)「えぇ、また。・・・さっきの返事は、いずれするわね」
〇上官の部屋
ノンヴィティエス「──このときから僕は、ローゼ様のことをお慕いしています」
ゼルベイク「そうか、でもありがとう。あの娘の事を好いてくれて」
ノンヴィティエス「ローゼ様と婚約したのもそうですが、僕が驚いたのはアレグラットの方もですよ。なんせ、僕つきであった騎士は」
ノンヴィティエス「アレグラットの父なんですよ」
ゼルベイク「それは!僕も知らなかったな、ということはアレグラット自身も知らなかったのかな?」
ノンヴィティエス「そういうことになるでしょう。──国王、1つ頼みがあるのですが」
ゼルベイク「なにかな?」
ノンヴィティエス「──僕とシャイローゼ様の婚姻後、アレグラットを我が国へ連れて行き、僕とシャイローゼ様つきの騎士にさせていただけませんか」
ゼルベイク「──それは、面白い提案だね」
ゼルベイク「そうだね、その答えはYESであり、NOでもあるかな」
ゼルベイク「第一に、彼も貴族の家の者だ。どこかのご令嬢と婚約してもおかしくないからね」
ゼルベイク「2つ目は・・・彼の気持ち、かな」
ノンヴィティエス「・・・そうですね、まずは枯れに聞いてみます」
ゼルベイク「あぁ、そうしておくれ」
ノンヴィティエス「では、今後ともよろしくお願いします」
ゼルベイク「あぁ、よろしく頼むよ・・・おやすみ」
ゼルベイク「・・・出来ればNOであってほしいなぁ。そろそろローゼから引き離さなくては」
〇上官の部屋
翌日の朝、アレグラットは国王に呼び出された
ゼルベイク「さて、ではミルェーツのことについて聞かせて貰おうか」
アレグラット「はい、では胡桃様の検討の話から・・・」
数分後
ゼルベイク「なるほどね、確かにミルェーツを悪魔と仮定するなら辻褄があう。しかし面倒なことになったな・・・」
アレグラット「面倒、とは?」
蝶ケ夜蒼「悪魔には実体がないのよ。そのままの状態ならね」
蝶ケ夜蒼「私たちが視認している彼等はあくまでも"魂"なのよ。でも、ここまで近くに来ても気づけないのなら"色彩"の悪魔かしら・・・」
アレグラット「色彩の悪魔・・・そっちに関しては、少し聞いたことがあります」
ゼルベイク「『色彩の悪魔とは、その色に冠する名前を冠した悪魔である。彼等は通常の悪魔の数十倍の力を有している』」
ゼルベイク「書物にはこう書かれていたかな」
アレグラット「えぇ。しかしその通りならば、きっと依代である核が世界のどこかに封印されているはずですね」
蝶ケ夜蒼「悪魔は自分の核からは離れられない・・・もしかしたら、核はそう遠くないのかも」
アレグラット「早急に探し、教会で浄化しましょう。そうすればミルェーツも弱体化するはずです」
ゼルベイク「──『人に化けて生活する悪魔もいる。彼等は人間を好み、魂を食らうときを待ち続けている』」
「・・・」
ゼルベイク「こう書かれているものが、書庫にあったはずだ。その通りならば・・・」
アレグラット「悪魔は我々の近くに潜んでいるかもしれない、ということですね」
ゼルベイク「1度、ミルェーツの特徴についてまとめてみようか」
ゼルベイク「1つ、ミルェーツは色彩の悪魔である可能性が高い」
蝶ケ夜蒼「2つ、彼は男性の可能性が高い、強い騎士の"誰か"を連れている」
アレグラット「3つ、彼は数年前に貴族の娘を誘拐する事件を起こした犯人である」
ゼルベイク「・・・これ、ミルェーツは貴族に現在進行形で化けているんじゃないかなあ」
蝶ケ夜蒼「それでは、いくら学校の警備や各貴族の家の警備を固くしても意味がないということ・・・?」
アレグラット「いえ、むしろ逆に考えましょう。それだけミルェーツである可能性の高い者が絞れるということです」
アレグラット「それにミルェーツが暴れだす前に捕獲できれば、平民への被害はほぼ失くなると見てよいかと。ここはプラスに考えられます」
ゼルベイク「そうだな、だが学園に通う平民の生徒はリスクが高い。かといってこの事が伝わってしまうと平民たちの不安をあおる可能性もある」
蝶ケ夜蒼「平民たちの暴動に繋がる可能性も捨てきれませんね・・・それに他国との貿易などの繋がりも薄くなってしまうかも」
ゼルベイク「では、この事はこの家の者と、この家に使えるものたち以外へは漏らさないように。あぁ、でも蝶ケ夜家には伝えないとな」
蝶ケ夜蒼「その事は私にお任せを。胡桃にもなにかお礼をしなくてはなりませんね」
アレグラット「ノンヴィティエス様にもお伝えした方がよいのでは。この前の暴動に巻き込まれてもいますし、なによりシャイローゼ様の婚約者です」
ゼルベイク「そうだね、ではこの通りに進めよう。では各自午後の婚約発表の時まで待機だ」
ゼルベイク「──アレグラット、伝えてくれて感謝するよ」
アレグラット「はい、では失礼します」