〈どんな髪もサラサラにする〉ヘアアイロン(脚本)
〇祈祷場
供養鑑定士「この世には何らかの理由で日の目を浴びる事の出来なかった物語が存在します」
供養鑑定士「私は、そんな尖った物語専門の供養鑑定士」
供養鑑定士「さて、本日の物語は一体おいくらになるのでしょうか・・・」
ユサ「ユサと申します。 よろしくお願いします」
供養鑑定士「ユサさん、どうぞお話しください」
ユサ「はい。私の物語は、 このヘアアイロンにまつわるものです」
〇電気屋
ユサ「あ、あの!」
ユサ「この中で、一番サラサラにできるヘアアイロンはどれですか?」
トモミツ「髪をサラサラにしたいんですね」
トモミツ「巻き髪と両用のタイプもありますが」
ユサ「まっすぐにできればいいです!」
ユサ「私の髪は頑固で、縮毛矯正しても翌日にはこの状態なんです」
トモミツ「なるほど・・・」
トモミツ「それなら、毎日お手入れできるヘアアイロンはお客様にぴったりですね」
ユサ「やっぱり、そうですか!」
トモミツ「上位機種でも、お値段は縮毛矯正一回分です」
トモミツ「少し手間はかかりますが、コスパ最高ですよ!」
トモミツ「太くて癖の強い髪質なら、こちらの新商品などいかがでしょうか」
ユサ「設定できる温度が低くないですか?」
トモミツ「パワフルさより、髪の保護機能を重視する方が、結果的にはサラサラになりますよ」
ユサ「・・・じゃあこれ、買います!」
〇ファンシーな部屋
ユサ「効果あるかな」
ユサ「こんなひどい髪のクセ、もう消したい。 サラサラの髪になりたい・・・!」
ユサ「すごい・・・!」
〇宮益坂
ユサ「髪が風になびく感覚、初めて」
〇ドラッグストア
ユサ「えーと・・・」
サラ「何かお探しですか?」
ユサ「ヘアオイルとか、ありますか?」
サラ「お使いになるのはご自身ですか?」
ユサ「はい」
サラ「でしたら、こちらなどおすすめです」
サラ「私も使ってますけど、ほら。 ツルツルサラサラでしょ?」
ユサ「本当だ・・・」
〇電気屋
ユサ「店員さん、こんにちは」
トモミツ「いらっしゃいませ」
ユサ「先日、ここでヘアアイロンを 購入したんですが」
トモミツ「何か問題がありましたか?」
ユサ「いえ。すっごくいいです!」
ユサ「見てください、毎日サラサラなんです。 おすすめありがとうございました!」
トモミツ「あっ、もしかして、縮毛矯正が翌日までもたない方ですか?」
ユサ「はい」
トモミツ「見違えました! サラサラのロングヘア、お似合いです」
ユサ「そうですか?」
トモミツ「ええ。素敵すぎて、ドキドキしてます」
ユサ「えっ・・・」
トモミツ「あ、申し訳ないです。 お客様にこんなこと」
ユサ「いえ。嬉しいです。 髪を褒められたのなんて、初めてで」
トモミツ「こちらこそ、商品のお礼まで伝えにきていただいたのは、初めてで・・・」
トモミツ「よろしければ、商品ポップにお客様の声としてご感想を掲載したいのですが」
ユサ「私でよければ、ぜひ」
〇ドラッグストア
サラ「その人と、今度デートするんだ?」
ユサ「デートというか、お食事に」
サラ「それがデート! 2人きりなんでしょ?」
サラ「で、ユサちゃんは もっと可愛くなりたいってわけね」
ユサ「流行りのメイクとか、よくわからなくて」
サラ「私に任せて!」
ユサ「ありがとう、サラさん」
サラ「サラちゃんでいいよ~」
〇清潔な浴室
ユサ「髪が・・・」
ユサ「持ってきて良かった」
〇ラブホテルの部屋
トモミツ「ユサ」
ミキ「トモミツくん・・・」
トモミツ「こっちにおいで」
トモミツ「ユサの髪はサラサラで気持ちいいな」
ユサ「・・・トモミツくんに髪をなでられるの、好き」
トモミツ「じゃあ、ここは?」
ユサ「あ」
ユサ「トモミツくんが触ってくれるところ、 全部好き・・・」
〇ドラッグストア
ユサ「サラちゃん」
サラ「あっ、ユサちゃん!」
サラ「こちらが噂の彼氏さん?」
ユサ「そうなの・・・髪に香水をつけたいって言ったら、一緒に選ぼうって」
サラ「いいねー、ぴったりなのがあるよ!」
トモミツ「サラさんですね。 お噂はかねがね」
サラ「えーっ、どんな噂ですか?」
トモミツ「気さくで美人で髪が綺麗で、 美容アドバイスも的確だって」
サラ「やだ、ユサちゃん褒めすぎ!」
トモミツ「いえいえ。 ユサの言っていた通りです」
トモミツ「本当に、綺麗な髪ですね」
サラ「私はユサちゃんと逆で、クセが全然つかないんですよー。巻き髪にも憧れるんですけど」
トモミツ「そんな無い物ねだりしなくていいです。 サラサラの髪、お似合いですよ」
ユサ「ちょっと、トモミツくん・・・」
トモミツ「あ、そうだったね」
トモミツ「ユサにぴったりの香水ってどれですか?」
〇清潔な浴室
トモミツ「ユサ、まだ?」
ユサ「ちょっと待って」
ユサ「まだクセが残ってる! もっとサラサラにしなきゃ・・・」
〇ラブホテルの部屋
ユサ「お待たせ」
トモミツ「待たせすぎだよ。 1時間も何してたんだよ」
ユサ「ごめんなさい」
〇ドラッグストア
ユサ「あれ? トモミツくん・・・」
サラちゃんの髪を、なでてる?
トモミツ「あっ、ユサ!?」
トモミツ「えーと・・・」
サラ「あはは、バレちゃったね」
サラ「ユサちゃんのプレゼントの相談聞いてたんだよ」
トモミツ「ハハ、サプライズにしたかったのになぁ」
ユサ「何のプレゼント? 誕生日はまだ先だけど・・・」
トモミツ「ほら、付き合ってもうすぐ半年だろ?」
サラ「友達がお祝いしてたから、自分も何かしようかなって。トモミツさん、優しいよね」
トモミツ「ヘアケア用品がいいかと思って、サラさんの髪で試させてもらってたんだ」
サラ「・・・」
ユサ「そう・・・」
〇白いバスルーム
トモミツ「またヘアアイロン? もういいだろ、早く来いよ」
ユサ「まだクセが残ってるの!」
トモミツ「残ってないって。 充分サラサラだよ」
ユサ「私は天然の直毛じゃないから、 手を抜いたらすぐ戻っちゃうの!」
ユサ「私ね。 髪のせいで、ずっといじめられてたんだ」
ユサ「みんなに避けられて、友達もできなくて・・・」
ユサ「でもトモミツくんが勧めてくれたヘアアイロンのおかげで、人生変わったんだよ」
ユサ「私はもう、あんな惨めなモジャモジャの髪に戻りたくないの!」
トモミツ「ユサ・・・」
〇ドラッグストア
ユサ「サラちゃん、これ、プレゼント」
サラ「え?」
ユサ「巻き髪用のヘアアイロン! 憧れてたんでしょ?」
サラ「あ、ありがとう。 でも、私巻き髪は・・・」
ユサ「このメーカーのヘアアイロン、私のしつこい髪をまっすぐにしてくれたんだよ」
ユサ「サラちゃんもクルクルの巻き髪になれるよ!」
サラ「そうなんだ。 使ってみるね・・・」
〇おしゃれなレストラン
トモミツ「おい! こんなところで」
ユサ「クセが戻りそうなの!」
トモミツ「だからって・・・」
ユサ「知ってるよ。 トモミツくん、髪フェチなんだよね」
トモミツ「えっ」
ユサ「サラサラのロングヘアに興奮するんでしょ?」
トモミツ「そ、それは」
ユサ「私はもっともっと、サラサラの髪になるの」
〇センター街
〇車内
〇映画館の座席
〇モヤモヤ
サラちゃんよりもっと、サラサラに・・・
〇ドラッグストア
ユサ「どうして巻き髪にしないの? ヘアアイロン、使うって言ってたのに」
サラ「あー、やっぱりちゃんとクセがつかなくて」
ユサ「そんなはずない! 使ってないでしよ? 出会った頃よりサラサラじゃない!」
サラ「いやー・・・」
ユサ「そうだ、ショートにしよう! カットで有名なヘアサロンの予約してあげる!」
サラ「え、ちょっと待ってよ!」
ユサ「もしもし、予約をお願いします」
サラ「待ってってば!」
ユサ「どうして髪型を変えようとしないの?」
サラ「そんなの、私の自由でしょ」
ユサ「トモミツくんが、その髪型を好きだから? トモミツくんに好かれたいの??」
サラ「・・・だったら何?」
サラ「どうして私がユサちゃんのために自分らしさを捨てなきゃいけないの?」
サラ「ユサちゃんがトモミツさんを繋ぎ止められないのは、私のせいじゃないでしょ!」
ユサ「なんですって?」
トモミツ「ユサ! 何やってるんだ」
ユサ「トモミツくん!」
トモミツ「サラさんに迷惑をかけるな。 こっちに来い!」
〇階段の踊り場
トモミツ「ユサ。 別れてくれ」
ユサ「どうして?」
トモミツ「どうして、じゃないだろ!」
トモミツ「家でも外でもホテルでもカフェでも、 いつでもどこでもヘアアイロン」
トモミツ「異常だよ、ついて行けないよ! 挙げ句の果てに、サラさんにあんなこと」
ユサ「私より、サラちゃんが好きなの? サラちゃんのところに、行くの?」
トモミツ「・・・正直、そうしたい」
ユサ「っ!」
トモミツ「お前が思ってる通り、俺はサラサラのロングヘアに興奮する変態だよ」
トモミツ「そしてお前は、自分を偽って変態男に合わせようとしておかしくなった」
トモミツ「俺とは合わなかったんだ・・・」
トモミツ「そのままのお前を愛してくれる、 まともな男を見つけてくれ」
ユサ「そんな人いないよ! 私もっと努力するから」
トモミツ「それが負担だって言ってるんだよ!」
トモミツ「偽らずに済む相手と、素直に生きた方がいい。俺のことは諦めてくれ」
ユサ「・・・そんな。トモミツくん。 諦めたくない。諦めさせないで。ねぇ・・・」
ユサ「お願い・・・!」
〇祈祷場
ユサ「必死でお願いしたけど、ダメでした」
ユサ「だからね、もう諦めることにしたんです。 私は私の自然な姿で生きて行こうって」
供養鑑定士「そうですか・・・」
供養鑑定士「わっ!?」
ユサ「あら、ごめんなさい。 髪のクセが随分戻って・・・」
ユサ「抑えるのが大変だわ」
供養鑑定士「あなたは・・・もしや」
ユサ「トモミツくんとサラちゃんは、 婚約したんですって」
ユサ「この髪が完全に元に戻ったら お祝いしに行かなきゃ」
ユサ「2人が、石のように固く結ばれるように」
ユサ「メデューサも封印するヘアアイロンの物語」
ユサ「鑑定額、弾んでくださいね」
こんばんは!
ストーリーとしてもいわくの恐ろしさを楽しめるし、最後がファンタジーになっていることで2度楽しめるオチもついていて楽しかったです🙌
私も癖毛だから、ゆさの気持ちわかるな😂
面白かったですー!✨☺️
名前の回収笑いました!😂
さすが咲良さん…センス抜群です…✨👏
オチも素晴らしいですよね!!
二人に会いに行ったらどうなるんだろう?と先の想像力を掻き立てられました✨☺️
大人な話……💕
と思っていたら彼は髪フェチマンだったのですねー
なーんて思っていたら最後は実はメデューサ!?
驚きの展開が面白かったです。