好きの在処

夏名果純

第17話 花奈の決断(脚本)

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〇学校の昇降口
吉岡修司「・・・あれ、花奈?」
水杉花奈「修司!」
  花奈の隣に立った修司は、薄暗い空を仰いで眉をひそめる。
吉岡修司「・・・あー、急に降ってきたね。 もしかして、傘ないの?」
水杉花奈「うん。今日、持ってきてなくて」
吉岡修司「折りたたみ傘だけど、入る?」
水杉花奈「いいの?」
吉岡修司「家まで一緒だし、もちろん。 じゃあ、帰ろうか」
  修司は笑顔で、快く傘を広げてくれた。
水杉花奈「うん、ありがとう! 助かったよ」

〇通学路
  雨はしとしとと降り続いている。
吉岡修司「やっぱり折りたたみだと、2人で入るには小さかったかな、ごめんね」
水杉花奈「そんな、こちらこそ!」
水杉花奈(あっ、修司の肩が濡れてる!)
  そのことに気づいて、花奈はわずかに端に寄ったのだけど──。
吉岡修司「もっとこっち。濡れるよ」
水杉花奈「!」
  次の瞬間、修司にぐっと肩を抱き寄せられてしまった。
吉岡修司「そんなに遠慮しないで」
水杉花奈「うん・・・」
水杉花奈(修司との距離が近い。でも・・・)
吉岡修司「どうかした?」
水杉花奈「ううん! なんでもない・・・」
吉岡修司「・・・そう?」
  そう言って花奈を見つめる修司の頬には、かすかに朱が差している。
  それは、花奈との至近距離に照れているように見えた。
水杉花奈(修司はこんな風に、私のことを女の子として意識してくれてるんだ・・・)
吉岡修司「ねえ、花奈。 聞くか聞かないか迷ったんだけど・・・」
  しばらくお互いに黙って歩いていると、ふいに修司が口を開いた。
水杉花奈「何?」
吉岡修司「それぞれ3人とデートして、どうだった?」
水杉花奈「えっ!」
吉岡修司「いや、やっぱり気になって」
  口ごもりながら、修司はひかえめに言った。
水杉花奈(修司、ずっと気にしてくれてたんだろうな・・・)
  花奈は言葉を選びながら、素直な気持ちを話す。
水杉花奈「・・・3人とも、すごくよくしてくれたよ」
吉岡修司「そっか。よくしてくれた・・・」
水杉花奈「うん。3人と会って、嫌な気持ちになることは全然なかったよ」
吉岡修司「それは僕も含めてってことだよね?  ひとまず、よかった」
水杉花奈「うん。修司とも過ごせて楽しかった」
吉岡修司「それで、その・・・」
  修司が聞きたがっていることは、最後まで聞かなくても花奈にはよくわかった。
水杉花奈「もう少ししたら、話せるかもしれない。 もう少し待ってくれる?」
吉岡修司「わかった。待ってるよ」
  最後には、修司は力強くうなずいてくれた。

〇明るいリビング
水杉花奈「ただいま」
  花奈が帰宅すると、家では花奈の母が台所に立っていた。
花奈の母「おかえりなさい。ちょうどよかった。 花奈にちょっと頼みごとなんだけど」
水杉花奈「何?」
花奈の母「ほら、この間、お父さんと遊びに出かけたでしょ?」
水杉花奈「あー、私を置いて遊びに行ったヤツ?」
  私が冗談めかして言うと、花奈の母は困ったように眉を寄せる。
花奈の母「ちょっとー、人聞きの悪いこと言わないでよ」
花奈の母「花奈、古い温泉地には興味ないって一緒に来てくれなかったんじゃない」
水杉花奈「ふふっ、そうでした! それで何?」
  花奈が笑うと、花奈の母も頬を緩めて続ける。
花奈の母「お土産をまだ川崎さんに渡せてないのよ。 花奈、今から渡しに行ってくれない?」
水杉花奈「・・・謙弥の家に?」
花奈の母「そう。よろしく頼むわね」
  謙弥と修司の家とは、母親同士も仲がいい。
  こういう頼まれごとはしょっちゅうだけど・・・。
水杉花奈「・・・わかったよ」
水杉花奈(今はちょっと、謙弥の家には行きにくいんだけどなあ・・・)

〇綺麗な一戸建て
  外に出ると、もう雨は止んでいた。
水杉花奈(なんだ、通り雨だったんだ)
水杉花奈(修司に会って助かったけど、ちょうど帰る時に降るなんて間が悪かったよね)
  花奈は重い足取りで、謙弥の家の前に立つ。
水杉花奈「ふう・・・」
  落ち着かせるように一呼吸置いてから、インターフォンを押した。
  ガチャ
謙弥の母「はーい・・・あっ、花奈ちゃん。 どうしたの?」
  すると、すぐに出てきたのは謙弥の母だった。
水杉花奈「こんにちは。これ、両親が出かけた時のお土産なんですけど、持っていくようにって」
謙弥の母「まあ、わざわざありがとう!  仲がよくって羨ましいわ」
謙弥の母「ご両親にもよろしくお伝えください」

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