エピソード1(脚本)
〇おしゃれなリビング
遮光カーテンの合間から、朝の日射しが入ってくる。
片側を開けたまま眠ってしまった、昨夜の自分を呪う。
今日は折角の非番だというのに、結局はいつもとほぼ変わらない時間に目を覚ました。
梓藤冬親《しどうふゆちか》は上半身を起こし、不機嫌さを露わに眉間に皺を刻む。
艶やかな金色の髪と、青色の形のいい目をしている梓藤は、警備部特殊捜査局第一係の主任をしている。
現在二十七歳。大学卒業後に警察学校で学び、すぐに特殊捜査局へと配属された。
移動は一度もした事がない。だが周囲が次々と殉死していくため、自動的に昇進していく。
ベッドから降りた梓藤は、百七十二センチのそれなりに筋肉のある体で、
一度背を反らして天井を見上げてから、キッチンへと向かった。
冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、キャップを捻る。すると冷ややかな水が、喉を癒やしてくれた。
それから鏡の前へと向かい、手に水を掬って顔を洗い眠気を覚ます。彼はふと鏡の中の自分を一瞥した。
梓藤は整った顔立ちをしている。少し彫りが深めだ。
だが別段ハーフやクォーターというわけでもないし、かといって髪を染めていたりカラーコンタクトを身につけているわけでもない。
昔から梓藤の家には、時折この色彩の者が、科学的な法則を無視するかのように生まれてくる。
だから梓藤の周囲の人間は、彼の出生時、特に誰も驚くことはなかったらしい。
梓藤は近くのカゴに手を伸ばし、真新しいYシャツの袋を開封して着替えた。
支給されているスマートフォンが着信音を響かせたのは、丁度その時だった。
電話の主が同僚の斑目廣瀬《まだらめひろせ》だと確認してから、梓藤は電話に出る。
梓藤冬親「もしもし」
班目廣瀬「『おはよう、冬親。起きてた?』」
梓藤冬親「おう。なんだよ、こんなに朝早く。事件か?」
班目廣瀬「『うん、そうだね。今、君の家の玄関の前まで来てるけど、入っていい?』」
梓藤冬親「ああ」
頷いた梓藤は、実は非常に寝穢い。寝過ごす事が度々あり、斑目に念のため合鍵を預けている。
梓藤はリビングへ向かい、ティーサーバーの下にカップを置き、珈琲を用意する。
玄関から斑目が入ってくる気配を感じる。珈琲を二つ淹れ終わり、リビングのソファへと向かった時、斑目もその場に顔を出した。
班目廣瀬「ありがとう、冬親」
梓藤を下の名前で呼ぶ人間は、今ではほとんどいない。
カップを斑目の前に置き、対面するソファに腰を下ろしつつ、梓藤は親友を見据えた。
いつも穏やかに微笑している斑目は、梓藤の片腕で副主任をしている。
少し色素の薄い茶色の髪をしていて、それが柔らかそうに見える。瞳の色も同色だ。
梓藤冬親「それで?」
班目廣瀬「「うん。珍しく捕縛に成功したマスクが、警察車両から脱走したんだって」
班目廣瀬「最悪な事に胴体に被弾しているから、恐らく肉体的が完全に死亡していて、」
班目廣瀬「顔からマスクが分離できる状態になっているみたいだよ」」
梓藤冬親「そうか。これだから生け捕りにしようなんていうのは、無理があると俺は思うんだ」
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