〇ファミリーレストランの店内
　　・・・一体、
　　何があったの・・・？
　　クラス委員長の田辺さんよね・・・？
　　教師７年目だけど、
　　このタイプの非行は初めてだわ
　　深夜のファミレス・・・
　　残業を終えて
　　夕飯を食べに寄ったら
　　深刻な表情で
　　誰かを待つ教え子・・・
　　『未成年の深夜外出は条例違反よ』
　　頭ごなしに指導をするのは簡単
　　でも、
　　それでは非行に走る
　　彼女の心までは救えない
　　一体・・・何があったの
　　あなたに何があったら・・・
　　髪型まで、
　　地毛でイケるの？
　　まだ声をかけるべきではない
　　真面目なクラス委員長が
　　大江戸スタイルを
　　自ら望むとは考えにくいわ
　　きっと彼女を陥れた、
　　黒幕が──
　　あの子は・・・
　　クラスの問題児、伊藤・・・！
　　そういうことね・・・
　　田辺さんの弱みを握り、
　　ああいうコンセプトの
　　いかがわしい店でバイトさせている
　　心の闇が深すぎるわ
　　どの辺りの層に
　　あの方向の需要があるの？
伊藤「ナベさんが マッチングアプリやるなんてね」
　　・・・マッチングアプリ
　　それが田辺さんの弱み・・・？
　　たしかに18歳未満は
　　利用できないサービスだけれど、
　　その程度のことで
　　江戸にタイムスリップさせるなんて
　　あとアダ名『ナベさん』なのね・・・
　　伊藤・・・
　　悪魔のような子ね・・・
伊藤「なんでアカウント名、 『斎藤優子』にしたの？」
伊藤「顔写真まで、ゆっこ先生じゃん」
　　悪魔、ナベさんだったわ
伊藤「なりすましは 流石にヤバいっしょ」
　　ナベさん、それはね
　　ちゃんとダメなやつよ
　　ちゃんと逮捕されるパターンの手口よ
　　美人教師になりすまし、
　　仲良くなった男から
　　金銭を騙し取るなんて──
田辺「ゆっこ先生、 美人なのに彼氏いないんだって・・・」
田辺「いつも無表情だから 怖い先生だって 誤解されやすいけど・・・」
田辺「本当はすごく優しいんだよ」
田辺「大好きな先生だから、 幸せになって欲しいなって・・・」
伊藤「だから代わりに 良い男を探そうって？」
田辺「うん・・・」
　　まさかの善意
　　そんな・・・
　　私が仕事にかまけて
　　婚期を逃し続けていたばかりに、
　　こんなにも心優しい生徒を
　　犯罪へ走らせてしまうなんて
　　教師失格ね・・・
　　先生も大好きよ・・・田辺さん
　　余計なお世話じゃない？
伊藤「もう待っても来ないんじゃね？」
田辺「で、でも・・・！」
田辺「すごい大企業に勤めてる人なの 年収も1000万だって、」
田辺「佐伯（さえき）──」
田辺「松之丞（まつのじょう）さん」
　　・・・お相手、
　　武士じゃない？
伊藤「よく考えなよ」
伊藤「年収1000万の経営者が アプリで婚活するワケないっしょ」
伊藤「ステータスに騙されんなって」
田辺「で、でも家柄は大事だよ・・・」
　　ジェネレーションギャップは
　　もっと大事よ、田辺さん
伊藤「プロフ盛ってるヤツじゃなくてさ ある程度『だろうな』って感じの人、」
伊藤「そんで『ウチなら気にしないかな』って お互いの欠点を補える相手にしなきゃ」
　　伊藤・・・
　　・・・伊藤先生！
田辺「この、五右衛門（ごえもん）さんとか？」
　　それは大泥棒よ、絶対に
伊藤「う～ん」
伊藤「ゆっこ先生って カンペキ主義っぽいけどさ～」
伊藤「授業終わったあと、 黒板の字とか放置して出てくじゃん？」
伊藤「プライベートは けっこうズボラなんじゃないかな～」
伊藤「オンオフあるタイプっていうかさ」
伊藤「年収よりも家事とか メンタル支えてくれる 尽くし系のが波長合うんじゃね～？」
　　ＦＢＩでバイトしてる？
　　プロファイリングが
　　親を超えてくる解像度だわ
伊藤「ウチだったら 残業の日とか夕飯作ってあげるかな～」
　　あなたと結婚したいわ
田辺「じゃあ、菊ノ進（きくのしん）さん──」
　　江戸から帰って来なさい、田辺さん
　　どうしてなの・・・？
　　どうしてそんなに
　　武家屋敷に嫁がせようとするの？
　　夫婦生活がイメージ出来ないの
　　お願い分かって田辺さん・・・！
　　落ち着くのよ・・・優子
　　２人の非行を、
　　止めなくてはいけない
　　見方によっては、
　　すごく現代的な、
　　人身売買
　　人知れず、尊い人生が奪われてしまう
　　私が当事者なんだけどな・・・!!
　　傷つき
　　迷い
　　道を踏み外した生徒には
　　時には厳しい言葉で
　　導くのが聖職者たる責務
　　でも、すごく話しかけづらいわ
　　この状況に、
　　自分にも責任の一端があると思うと
　　尚のこと、気まずいわ・・・
　　一体どんな言葉をかければいいの？
　　いっそ、そっと立ち去るべき・・・？
　　いや、ダメよ・・・優子
　　スルー出来る要素が１つもないわ
　　時に厳しく
　　生徒を導く手段は──
田辺「電話・・・してみようかな」
伊藤「やめときなよ」
ゆっこ先生「お待たせ致しました」
ゆっこ先生「こちら『メガ盛りポテト』になります」
伊藤「ゆ、ゆっこ先生じゃね？」
田辺「注文・・・してない、です」
　　でしょうね
ゆっこ先生「見つかってしまったようね」
ゆっこ先生「お互いに」
ゆっこ先生「未成年だけでの深夜の外出は 条例で禁止されているわ」
ゆっこ先生「そして──」
ゆっこ先生「公務員の副業も 法律で禁止されているわ」
ゆっこ先生「人目のない深夜に出歩けば、 危険な目に遭う可能性は高くなるし」
ゆっこ先生「副業によって教師たる 本来の責任が疎かになるかも知れない」
ゆっこ先生「ルールとは、」
ゆっこ先生「大切な人生を守るためにあるの」
田辺「先生・・・」
ゆっこ先生「お互いにバレたら大変ね」
ゆっこ先生「先生も、 もうファミレス辞めるから」
ゆっこ先生「あなた達も、 もうマッチングアプリなんか止めるのよ」
伊藤「き、聞いてたん・・・？」
ゆっこ先生「さぁ、２人とも家まで送るわ」
ゆっこ先生「帰りましょう？」
田辺「・・・はい」
伊藤「・・・うん」
ゆっこ先生「駐車場で待っていなさい」
　　これで解決ね
　　今日の夕飯はコンビニで──
ゆっこ先生「帰れよォーッ!! 松之丞ォォーーーーッッ!!!!」