わすれもの置き場

じんべ

わすれもの置き場(脚本)

わすれもの置き場

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わすれもの置き場
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〇黒背景
  ─あなたのわすれものはなんですか?─

〇シックなバー
遥香「ね、由美は「わすれもの置き場」の話って知ってる?」
  夕方から飲み始めて2軒目
  
  近況報告や職場の愚痴も尽きてきたためか、遥香は急に噂話を切り出してきた
由美「知らないしどうせいつもの都市伝説だから興味もないけど、話したそうだから聞いてあげる」
  話の続きを促すと、遥香は納得いかなそうに膨れてから話し出した
遥香「先輩が友達から聞いた話なんだけどね、渋谷駅のどっかに「自分がどこかで忘れちゃったもの」が現れる場所があるんだって!」
遥香「その人が「忘れちゃったこと自体忘れちゃってるもの」が必ず置いてあって、見た時に初めて忘れてたこと思い出すらしいの」
遥香「「忘れてた忘れ物」と感動の再会した人って一人や二人じゃないらしいよ!」
遥香「すごくない?! 私がこの前カフェに忘れたイヤホンも そこに行けばきっとあると思わない?!」
由美「思わない もしその話が本当だとしても、遥香忘れたこと忘れてないもん」
遥香「うう・・・私のイヤホンちゃん・・・」
遥香「まぁでもそれがどこにあるかとかそういう話は何も出回ってないらしくてさ、これも結局都市伝説かなぁ」
由美「ま、そうでしょうね」
由美「忘れたことすら忘れてるレベルだよ? そんなもの今さら出てきても嬉しくないけどな、私は」
由美「どうせ見つかるなら大当たりしてる宝くじとか結婚相手とかそういうのがいい」
遥香「もー、そんな冷めてたら結婚できないよ?」
由美「大丈夫、素敵な人と出会う方が都市伝説に遭遇するより絶対確率高いから」
遥香「だから、そういうとこ!」

〇階段の踊り場
  その後も他愛もない話は続き、0時間近
  
  タクシーで帰った遥香と別れた由美は一人駅に向かっていた
  早足でホームに向かっていると、視界の端に見覚えのないドアがあることに気付く
由美「あれ?こんなとこにドアなんてあったっけ?」
由美「いやいや、こんななんの変哲もないドアが 気になるなんて私も酔って・・・え?」
  ドアの表示をよく読むとそこには確かに
  「わすれもの置き場」と書かれている
由美「嘘でしょ? よりによって都市伝説の方引いちゃうの?私」
  だが気づいてしまった以上素通りはしたくない
  ドアノブに手をかけゆっくりとドアを開く
  その時、由美は一つのことを考えていた

〇黒背景
  ──私も、何かを忘れてるのかな

〇備品倉庫
  ドアを開くとそこに広がっているのは雑多な忘れ物達だった
  大量の傘の山、紙袋、鞄、上着や本、子どもの遊び道具
由美「いや、確かにこれなら忘れたことを忘れたものとご対面できそうだけど・・・」
  大方、思い入れのある傘か何か忘れていた人がここで偶然感動の再会をして、その話が大きくなったとかそういう類のものだろう
由美「ま、でもスッキリしたし、ちょっとワクワクしたからいっか 後で遥香にも教えてあげよ」
  引き返そうとすると壁に貼られた写真パネルが目に飛び込んできた
  渋谷駅の変遷の写真だ
  ざっと20枚ほどだろうか
  1885年の渋谷駅開駅以降、これまでの変遷の様子が時代ごとに張り出されている
由美「わぁ、渋谷ってこんな昔から駅だったんだ」
由美「あ、この頃は駅の前にプラネタリウムとかあったねそういえば」
  一枚の写真が、現在は地下を走る路線のホームが当時は地上にあったことを告げている
  その瞬間、由美の脳裏に2階の広い改札前での待ち合わせの景色がフラッシュバックした
  
  あれは確か桜木町にいくデートの時だ
由美「あ・・・」

〇広い改札
  そういえば、あの頃はすごく一所懸命に恋してたっけ
  でも当時は彼の優しさに甘えてて、大事にされてることすらちゃんと気づけてなかった
  文句を言って喧嘩して別れて、次の人とも別れて独りになってからやっと彼の優しさや大きさを思い知ったんだった
  別に、連絡を取りたいとか、よりを戻したいとかそういうのじゃない
  
  ただ、少しだけ──
由美「私も「忘れたことすら忘れてたこと」に再会しちゃった、のかな」

〇備品倉庫
「(男性の声)あの、すみません」
由美「ひゃぁっ!はいっ!!!」
  突然声をかけられ心臓が口から出るかと思うくらい驚いた
駅員「ここ、一般の方は立ち入り禁止なのでご退出いただけますか・・・?」
  振り返ると、駅員さんが不審そうな顔で由美の様子を伺っている
由美「あ、すみません 友達から噂話を聞いたものでつい」
駅員「またかぁ ほんとどっから変な噂が立っちゃったんだろうねぇ」
駅員「とにかく、ここではなんの不思議なことも起きませんよ どうぞお気をつけてお帰りください」
由美「はい、すみませんでした・・・」

〇地下鉄のホーム
  思わぬことに時間を取られ終電も近づいていた
  由美は一人苦笑いしながらホームに佇む
由美「さっき声をかけてきたのが駅員さんじゃなくて彼だったらとか一瞬思っちゃったけど、それこそ都市伝説か少女漫画級の奇跡ね」
  でもきっと私みたいにあの場所で何かを思い出した人が本当にいたのだろう
由美「それはある意味、思い出との感動の再会なのかな」
由美「そうね、ちょっと前向きになったかも 仕事に恋愛に、改めて頑張ってみますか!」
  幾度となく姿を変えながら、多くの人の行き帰りを見つめてきた渋谷
  由美を乗せて走る地下鉄が闇に溶けていくのを、誰もいなくなったホームだけが静かに見守っていた

コメント

  • 失くした過去まで見つかるなんて、なんだかロマンティックですね。
    過去の思い出は忘れたいこともあれば、忘れていただけのものもある。
    その中で大切なものが見つかるのって素敵です。

  • 忘れ物を忘れてたものが見つかる渋谷駅。そこに行けば何を忘れたから分かる。物に限らず。忘れていた思い出もあるのか。忘れ物から未来の生き方を学んだ物語です。

  • お話のテーマ、視点がおもしろいですね。私もなにか忘れていないかな、、なんてつい考えちゃいました。駅員さん登場のシーンでは、主人公と同じように、これ話にでてきた男の子のことかな、、とちょっと期待しちゃいました。残念!でも再会って想像しただけで嬉しい!夢があっていいストーリーですね。

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