モリ突き漁師、異世界に漂流する。(脚本)
〇海辺の街
愛知県の知多半島の北西部に位置する潮風が香る町、知多市:美浜町。
そこには地元住民から親しまれる魚屋さんがあった。
その魚屋の名は「魚屋-うみかぜ-」
家族経営の魚屋である。
店主:海風槍一郎は、海育ちの筋骨隆々の元海軍であり、槍術というこれまたマイナーな武術の師範として道場も開いている。
海風槍太(うみかぜ そうた)「よろしくお願いします!」
海風槍一郎(うみかぜ そういちろう)「かかって来い、息子よ!」
槍一郎は、その場に留まり槍を構え、息子の攻撃を待つ。
強者の風格か、俺は体中に緊張が走り踏み込もうにも踏み出せなかった。
海風槍太(うみかぜ そうた)「すぅーーはぁー」
その緊張を解くように、息子は一度深呼吸を行い、再び槍を構えて父親に向かって距離を詰める。
距離を詰めた息子に対し、槍一郎は動かぬまま構え続ける。
海風槍太(うみかぜ そうた)「ボケたかオヤジ!このままいけば当たるぜ!」
槍一郎が息子の槍の間合いに入り、息子は思いっきり槍で突こうと体勢を変える。
海風槍一郎(うみかぜ そういちろう)「ふっ、誰が当たるって?」
槍一郎は息子の突きを海蛇のような滑らかな動きで交わしながら、息子に胴の胸当てを突く技、胸突きを入れる。
海風槍太(うみかぜ そうた)「うっ」
その突きと、槍一郎による馬鹿力で息子は道場の壁に吹き飛ばされる。
海風槍一郎(うみかぜ そういちろう)「有効打突、勝負あったな息子よ」
海風槍太(うみかぜ そうた)「いててて、手加減しろよオヤジっ!」
海風槍一郎(うみかぜ そういちろう)「あっ、済まん槍太!」
槍一郎は我に帰ったかのように息子に駆け寄り、安否を確認する。
海風槍一郎(うみかぜ そういちろう)「悪いな槍太、これでも手加減してやっているんだが。父ちゃん、槍を使うとどうしてもな?」
海風槍太(うみかぜ そうた)「それは分かってるって、御年45歳の父親が18歳の息子をぶっ飛ばすほどの筋肉馬鹿ってことは」
海風槍太(うみかぜ そうた)「でも悔しいな、あともうちょっとで、当たりそうだったっつーのに」
槍太は悔しそうに槍一郎の方を見る。
海風槍一郎(うみかぜ そういちろう)「そう悔やむな、あの突き海で鍛えたものだろう?いい速度をしていた。父ちゃんじゃなければ避けきれなかったぞ」
海風槍太(うみかぜ そうた)「本当!?」
海風槍一郎(うみかぜ そういちろう)「ああ、本当だ!父ちゃんは嘘はつかないんだぞ」
「ちょっと!貴方達、何ドンドン音を立てているの!?」
道場の引き戸を勢いよく開けて入ってきたのは母親だった。
母親の海風鞠亜は、容姿端麗の外国人である。
旅先で、チンピラに絡まれていたところを助けられ、それ以降、槍一郎に猛烈なアプローチをし、無事結婚を果たす。
その時に染めていた髪色である水色に今でも髪を染めており、あの時の事を忘れずに鮮明に覚えておくためにだそうだ。
何ともロマンチックな話だ。
海風槍太(うみかぜ そうた)「どったの、かーちゃん?」
海風鞠亜(うみがせ まりあ)「どったのもありません!また、道場で暴れて怪我でもしたらどうするの!?」
海風槍一郎(うみかぜ そういちろう)「大丈夫だってマリア、槍太は昔から丈夫だもんな。な?」
海風槍太(うみかぜ そうた)「そうだぜ、かーちゃん。心配しなくて大丈夫。俺、昔から怪我治るの早いんだぜ?」
海風鞠亜(うみがせ まりあ)「だとしても限度ってものがあります!それと槍太、今日は漁行かなくてもいいの?」
海風槍太(うみかぜ そうた)「そうこうしてられねぇ! 俺ちょっと行ってくる!!」
海風鞠亜(うみがせ まりあ)「いってらっしゃい」
海風槍一郎(うみかぜ そういちろう)「気をつけて行くんだぞー」
海風槍太(うみかぜ そうた)「はーい!」
俺は、急いでダイビングスーツを着て、諸々の荷物を防水リュックに入れ、小さな小船で海へと向かった。
目的地に着き、小船に入れていたモリを準備して俺は深く息を吸い海に潜った。
そう、俺の家族の店の商品は俺が海の中で厳選しモリ突きにて仕留めた大物達が並ぶ魚屋なのだ。
始めたきっかけは、友達にモリ突き大会を開いたが、いかんせん人数が多いほどいいとのことで、参加させてもらったからだ。
朝早くに起きて、ダイビングスーツを着てモリを持ち海に潜った。そこで見た景色はとても美しく、俺は「これだ!」と確信した。
趣味で秘境渡りをしてきたが、これほどまでに近く、そして実感できるような景色は見たことがなかったからだ。
それから俺はモリ突き漁師になるため、様々なことを勉強し、見事にモリ突き漁師につけた。
モリ突き漁師になるにはその地域での許可諸々が必要なんだが、両親共に町の人たちからの印象は良いのですぐに許可してくれた。
俺は海中の景色を堪能しながら、大物を探す。
しばらく身を潜めていると見慣れない魚が泳いでいるのを見た。
海風槍太(うみかぜ そうた)「何だあの魚?ここらの海じゃ見かけないよな、もしかして新種の魚か?」
俺はその魚を突こうと近づくと。
突然目の前に渦潮が現れた。
海風槍太(うみかぜ そうた)「なんで、こんな予報なんてなかったのに!」
初めて海に出て自分の死を感じた。
俺は必死にもがいて、小船に上がろうとするが、それも虚しく、小船と共に吸い込まれるように渦潮に流されてゆく。
俺の意識が薄れ、遠のいていく。
〇海辺
ふと意識が戻り始めた、あれから何日経ったのだろうか?
自分は確かモリ突き漁をしている時に海流に流されて、死んだと思っていたが、どうやら違うらしい。
ただよう甘い香りと慣れ親しんだ海の匂い。
そして膝枕でもされているのか、少し頭が上がっている感覚でしかもひんやりとしていて柔らかい感触。
目が覚めた時、俺は驚愕した。
目の前に映るはビーチそして、下半身魚、上半身人間、髪は青のくるりんぱの人魚だった。
マナ「大丈夫ですか?」
海風槍太(うみかぜ そうた)「おっ・・・・・・おう、大丈夫だ」
海風槍太(うみかぜ そうた)「(何がどうなってんだ!?俺は海流に呑まれたはずなのに生きてる!?)」
俺は咄嗟に立ち上がり、人魚から距離を離す。
マナ「よかった。心配したんですよ!浜辺に倒れていたんですから!」
海風槍太(うみかぜ そうた)「気を使ってぐださり、ありがとうございます!」
マナ「あっ、いえ、その気にしないでください。その何と言いますか、体が勝手に動いちゃったというか」
そう人魚は少し頬を赤らめながら言っていた
膝枕をしてたからだろうか?反応いいしカワイイ!
マナ「もしかして、あなたは槍使いですか?」
海風槍太(うみかぜ そうた)「へ?」
マナ「その槍あなたと一緒に流れてきたんですよ」
人魚は渦潮によって破壊されたであろう小船の残骸を指差す。どうやら防水リュックも一緒に脱がれ着いているようだった。
海風槍太(うみかぜ そうた)「あの俺はただのしがないモリ突き漁師ですよ」
マナ「漁師さんだったんですね、どの辺りに住んでいらっしゃるんですか?」
海風槍太(うみかぜ そうた)「あ、愛知県です」
マナ「あ・・・いち?」
海風槍太(うみかぜ そうた)「(やっぱり、今ので確信が着いた、ここは異世界だ!)」
マナ「どうかしましたか?」
海風槍太(うみかぜ そうた)「いいや、なんでもねえ」
海風槍太(うみかぜ そうた)「(とりあえずここら一帯の地形把握と、村探しだな。ここは異世界なのだ、情報は早めに処理してかなくちゃ。)」
海風槍太(うみかぜ そうた)「地図とか持ってませんか?」
マナ「あ、はいありますよ」
海風槍太(うみかぜ そうた)「ありがとうございます、もしよかったらこの地図くださいませんか?俺ちょっと迷子になっちゃったぽいので」
マナ「いいですよ」
海風槍太(うみかぜ そうた)「そういえばまだ名乗ってませんでした、俺の名前は・・・・・・俺の名前は海風槍太、よろしく!」
マナ「私はマナといいます、ソウタさんよろしくお願いします」
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)