第22章 あやまち、そしてこれから(脚本)
〇中庭のステージ
司会者「さあ、それでは登場して頂きましょう!」
司会者「今回がオリジナル曲初披露! 期待のルーキー、Happy♡Paradeさんです!」
時刻が18時半を回った
司会者や前の出演者のおかげで、既に会場のボルテージは最大級だ
はるかは改めて思い出した
背負うべき彼女達の思いを
〇公園の入り口
〇開けた交差点
〇稽古場
〇中庭のステージ
さくら「来た・・・!」
驚いているさくらを目の端で捉えながら、マイクの電源を入れる
はるか「みなさんは、今、楽しいですか?」
はるかの問いかけに応えるように、会場が湧いた
はるか「私も今、とても楽しいです!」
はるか「私たちHappy♡Paradeは、結成して半年が経ちました」
〇綺麗なコンサートホール
はるか「ぶつかったことも、」
〇劇場の舞台
はるか「苦しい思いをすることもありました」
〇中庭のステージ
はるか「それでも、かけがえのない仲間とここでステージに立つことができて」
はるか「私は今、とても幸せです!」
会場中の顔が見える
笑顔でサイリウムを振る人の姿、汗を拭って声をあげる人の姿、それから・・・
苦しそうに、かつ不安そうにステージを見上げる彼女の姿──
はるか「きっと今ここには、毎日苦しんでいる人や、辛い思いをしている人もいると思います」
はるか「でも、私たちの歌を聴いて思い出して欲しいんです」
はるか「楽しかったこと、幸せだったこと、思い出して欲しいんです!」
はるか「未来もきっと、明るく変わっていけるから!」
〇ホールの舞台袖
あやかは思った
──楽しかったこと・・・?
そんなもの、自分の中にあるはずはない
いつだって辛いことばかりだったし、そんな甘えた気持ちはアイドルに必要ない
──はずだ
〇中庭のステージ
はるか「世界中に、笑顔を届けます!! あなたも、あなたも──」
はるか「──あなたにも!!!」
今、わずかにステージ上の彼らと目が合った気がした
曲のイントロが流れ始める
出だしのステップがわずかにずれている
歌い出しの音程も不安定
確かに実力は向上しているが、やはりまだ未熟だ
こんな実力じゃ、アイドルの世界ではすぐ潰されてしまう
──だがそう思うのとは裏腹に、別の”何か”が心の中で膨らんでいるのを感じる
これ以上は見られない
見てしまうのが怖い
この”何か”を思い出したくない
思い出すのが怖い
思い出してしまったら、今までやってきたことが全て水の泡になってしまうような、そんな感覚──
あやか「・・・指摘するところだらけだわ、やっぱり私──」
まみこ「あやか、逃げちゃだめ」
まみこが立ち塞がる
りょう「思い出して、あやちゃん・・・!」
りょうも両手を広げて立ち塞がる
かの「あやちゃん、ステージを見て・・・!」
かの「──ちがう、私たちを、自分自身をちゃんと見て・・・!」
再びあやかは恐る恐るステージに目を向けた
手の角度がまたズレている
歌だってブレスが足りていない
──だが、どうだろう
彼女たちのライブからは、4人でステージに立てることが楽しくてたまらない・・・
踊って、歌って、みんなと一体になれることが嬉しくてたまらない・・・
そんな気持ちがビリビリと伝わってくる
──もう無視はできない
自分の中で膨れ上がるこの気持ち・・・
──怖い、怖い、この感情を認めたくない
──私たちはこの”何か”を封印して走ってきたはずだ
そうしなければ、甘えは捨てなければ、何事も成すことはできないはずだ
──私たちは、いや、私はいつだってそうしてきたはずなんだ・・・
〇教室
あやか「すみません、レッスンがあるので早退させて頂きます・・・」
あやかのクラスメイト「レッスンで早退ってなに〜?(笑)」
あやかのクラスメイト「アイドル練習生ってなんなの(笑) ヘラヘラ楽しそうでいいね〜?」
〇殺風景な部屋
練習生「今度デビューする方、あやか先輩のひとつ下でしたっけ?」
あやか「・・・ええ、まあ・・・」
練習生「え〜、私だったら後輩に先越されるとか泣いちゃうかも〜」
あやか「・・・」
〇コンサート会場
司会者「見事、CRESCENTのメンバーに選ばれたのは・・・!」
あやか「嘘でしょう、どうして・・・」
〇駅前広場
通りすがりの女の子「みてー、CRESCENTすごーい!」
通りすがりの女性「まさにトップアイドルだね! 毎日テレビで引っ張りだこだもんね」
〇月夜
さとこ「CRESCENTの単独全国ツアー開催が決定しました」
〇川に架かる橋
通りすがりの男性「え、あの人オーディション番組で落ちた奴じゃね?」
通りすがりの女性「私も見てた、性格超キツくてあんま好きじゃないわ〜」
通りすがりの男性「正直、落ちて当然だよな(笑)」
通りすがりの女性「コラ、聞こえるよ〜?」
〇綺麗な一人部屋
あやか「・・・ッ!!!」
あやか「また・・・あの夢・・・」
焦り、不安、絶望、私のアイドル人生はそれが全てのはずだった
だって「アイドルの道」というのはそういうものなのだから
今まで散々苦しんできた
もがいてきた
絶対に気の緩みがあってはならないと思っていた
甘えるな、そう自分に言い聞かせてきた
だからこそ、楽しそうにヘラヘラとアイドルをしている人たちが嫌いだった
なのに──
〇中庭のステージ
あやか「・・・・・・」
あやか「・・・楽しそう・・・」
あやか「・・・いいな・・・」
あやかは少し目を伏せた
あやか「・・・本当は羨ましかったのかな」
あやか「・・・楽しそうにステージをするアイドルが」
あやか「・・・私には絶対叶えられない夢だから」
まみこが静かにあやかの手を握る
まみこ「・・・ううん、私たちだって」
〇公園の入り口
まみこ「──私たちだってずっと・・・」
〇劇場の舞台
──ずっと
〇稽古場
──ずっと
〇中庭のステージ
あやか「──私たちも・・・」
あやか「──私たちだって、笑顔でアイドルしてたんだ・・・」
あやか「みんなと一緒にいれて、ずっと楽しかったはずだったんだ・・・!」
あやか「なのに勝手にその気持ちに蓋をして、甘えだって決めつけて、みんなを縛って・・・」
あやか「──みんなの笑顔を奪ったのは、私だ・・・」
あやかの瞳から大粒の涙が溢れた
あやか「ごめんなさい、本当に、ごめんなさい・・・!!」
泣きじゃくるあやかを、3人は抱きしめた
まみこ「あやか、謝らないで」
まみこ「もう一度、やり直せばいい・・・!」
まみこ「今の私たちなら、どこへだって行けるよ!」
りょう「う〜〜、あやちゃぁあん 私たちこそ、ごめんねぇえ」
かの「私たちみんな、あやちゃんのことが大好きだよ!!」
あやか「みんな、ごめん、本当に、ごめん・・・!!!」
ステージからは、抱きしめ合って泣いている4人の姿が見えた
〇空
はるか「みんな、もっとアガっていくよーーーっ!!!」
──こうして文化祭のステージは、大盛況のまま幕を閉じた
この夜がいつまでも続けばいいのに、とはるかは思った
〇文化祭をしている学校
──文化祭終了後、校門前
きり「・・・ハピパレ、すごかったな」
きりは誰もいなくなったメインステージを見つめていた
きり「・・・・・・決めた」
〇空
きり「・・・決めた!」