読切(脚本)
〇渋谷駅前
彩佳(化粧、髪型、服装・・・)
彩佳(これで合ってるの?)
彩佳(落ち着け・・・)
彩佳(お母さんと調べたんだ これで間違いない)
私は右の上腕部分に触れた。
彩佳(よし・・・ 心拍計も腕に巻いている)
彩佳(準備万全だ!)
彩佳(心拍数が心配だけど)
──その時、アラームが鳴った。
試合開始の合図だった。
彩佳(始まった)
彩佳「──絶対に優勝するんだ!」
〇男の子の一人部屋
事の発端はネットで見た企画だった。
彩佳「・・・引きこもり限定の試合?」
「引きこもり支援プロジェクト」
──よくある文面である。
しかし、それは一風変わった内容だった。
〇渋谷の雑踏
ルール
渋谷の人間になりきる事
参加条件は一つ
「引きこもりに限る」
〇男の子の一人部屋
彩佳「参加料は2万円」
彩佳「優勝賞金は・・・」
彩佳「ひゃ・・・100万円?」
私は胸の高鳴りを覚えた。
それは賞金の事ではない。
「変わりたい」
常日頃からそう思っていた。
この企画はそんな心に火を付けたのだった。
彩佳「・・・とにかく相談してみよう」
〇綺麗なリビング
佐恵子「手伝うわ!」
博夫「やりなさい!」
両親からは全面協力を得た。
そして主催側から審査が始まり──
佐恵子「彩佳! 招待状が来たわよっ!」
彩佳「やったぁーっ!」
正式に試合へ招待されたのだった。
〇渋谷駅前
スマホを確認してみる。
現在のポイント
100P
彩佳(──よし 減点されてない!)
彩佳(私はおかしくないんだ!)
しかし油断は禁物である。
私は常にスタッフから見張られている。
それが誰なのかは分からない。
今の持ち点は100P。
しかし、渋谷らしからぬ行動をすれば減点されてゆく。
そして腕に巻いたバンド──
これで心拍数は計測されている。
心の乱れすら採点対象なのである。
彩佳(気を抜けば負ける)
彩佳(私は渋谷の人間なんだ!)
〇SHIBUYA109
彩佳「参加者は何人なのかな? さすがに100人はいないと思うけど・・・」
彩佳「えっ?」
彩佳「あの子・・・」
〇教室
弘美?
〇SHIBUYA109
彩佳「まさかね」
その時、スマホにメッセージが送信された。
彩佳「来た!」
指令
ファッションビルで可愛い服を買う
彩佳「よーし・・・やるぞ!」
〇ショッピングモールの一階
彩佳(まずい・・・緊張してきた)
彩佳(深呼吸)
彩佳「イメトレを思い出せ・・・」
〇綺麗なリビング
彩佳「商品を探す」
彩佳「店員さんに聞く」
彩佳「そしてレジへ!」
佐恵子「その調子よ!」
博夫「頑張れ! 彩佳!」
〇ショッピングモールの一階
彩佳「よし、いける!」
〇試着室
彩佳「あの・・・ すいま・・・せん」
店員「はい」
彩佳「この服・・・買いたいんです」
店員「かしこまりました レジへどうぞ」
彩佳「は・・・はい!」
かなりどもったが、
私はなんとか洋服を買えた。
彩佳(服って高いんだなぁ)
〇黒
こうして最初の指令はクリアした。
ポイントは少し減っていた。
しかし──
「引きこもりの私でも買えた」
それは何よりも嬉しい経験だった。
〇センター街
彩佳(もうお昼か・・・)
次の指令までは自由だ。
散歩がてらに街を歩いていると
飲食店が賑わっていた。
彩佳(・・・っと いきなり来たな)
指令
有名チェーン店で1人飯
彩佳(レストランなんか1人で入った事もないのに!)
私はイメトレを思い出す。
さすがにこれは違うと思った。
彩佳「分かった・・・ やったろうじゃない」
彩佳「無心で食べる!」
〇カウンター席
彩佳(なんとか注文できた)
私はカウンター席で食べる事にした。
彩佳(とりあえず休憩っと)
「こんにちは」
真司「隣、空いてる?」
彩佳「え? ・・・えっと」
思いがけない事だ。
男性から声をかけられてしまった。
彩佳(どうしよう)
真司「ねえ、君 これから暇かな?」
彩佳(まずい・・・ 心拍が乱れてる)
彩佳(普通に答えるんだ)
彩佳「ごめんなさい! 友達と待ち合わせてるんです」
真司「そっかぁ・・・」
真司「なら仕方ないね」
彩佳(嘘ついちゃった・・・)
彩佳「ごめんなさい」
〇公園通り
真司(頑張って・・・ 彩佳さん)
真司「みんな見守ってるからね」
〇SHIBUYA109
現在のポイント
65P
微妙な数字だ。
しかし、せっかくここまで頑張ったのだ。
優勝が無理でも最後までやろう。
そんな気持ちで私は指令をこなしていった。
しかし──
〇SHIBUYA SKY
彩佳「これは・・・無理だ」
最終指令
渋谷スカイで二人写真を取る
※ただし相手はその場でみつける
彩佳(その場でって・・・)
彩佳(他人と写真を?)
彩佳「できるわけないでしょ・・・」
彩佳「あの子は?」
弘美「うーん・・・」
彩佳(やっぱり)
彩佳「弘美だ」
彩佳「・・・」
〇黒
忘れたい思い出が過った。
〇教室
小学校の頃だ。
あの時、弘美はずっと助けを求めていた。
しかし──
私は手を差し伸べなかった。
友達なのに・・・
程無くして弘美は学校に来なくなった。
そして──
〇黒
次のターゲットは
私に変わった。
〇SHIBUYA SKY
弘美「・・・どうしよう」
彩佳「弘美」
弘美「・・・」
弘美「彩佳?」
彩佳「あの・・・」
彩佳(勇気を出して言うんだ)
彩佳「お願いがあるんだけど・・・ いいかな」
弘美「な・・・なに?」
彩佳「一緒に写真を撮って欲しいの」
彩佳「駄目かな」
弘美「え・・・」
弘美「・・・」
弘美「うん・・・いいよ」
彩佳「あ・・・ありがとう!」
胸の高鳴りを押さえられない。
心の乱れ・・・
それは失格を意味している。
それでも──
彩佳「じゃあ撮るよ!」
弘美「うん!」
〇黒
その時、アラームが鳴り響いた。
〇SHIBUYA SKY
現在のポイント
0P
彩佳「失格かぁ」
弘美「失格・・・」
彩佳「え・・・」
彩佳「まさか弘美も・・・?」
弘美「うん」
弘美「実はね・・・」
弘美はスマホを見せてくれた。
弘美「同じ指令だったの」
彩佳「そ・・・そうだったんだ!」
彩佳「・・・」
彩佳「ごめんね」
弘美「・・・」
弘美「夕陽が綺麗だね」
彩佳「え?」
弘美「もう一度、写真撮ろうよ」
弘美「今度は指令無しで」
彩佳「うん!」
私達は夕陽をバックに笑った。
〇渋谷の雑踏
こうして試合は終わった。
──結果は失格。
だが得た事は大きかった。
〇SHIBUYA109
弘美「待った?」
彩佳「ううん」
弘美「じゃあ行こっか!」
彩佳「うん!」
〇SHIBUYA109
時折、思う事がある。
あれは試合だったのだろうか?
弘美と出会えたのは偶然?
私には分からない。
しかし、一つ言えるのは──
〇黒
楽しかった。
本当にそう思う。
だから、また私達は渋谷に来たのだ。
〇SHIBUYA SKY
私と弘美は歩き始めた。
──堂々と胸を張って。
面白かったし、感動しました。大賞になったらいいな!
ひきこもっている方々の多くも、ほんとはひきこもっていることに後ろめたさを感じていて、こんなふうになにかきっかけと少しの勇気があればかわれるんでしょうね。実際にこんなイベントがあればいいなと思いました。お父さんお母さんたちは彼女が参加してみるといったとき、嬉しかったんじゃないでしょうか。
賞金うんぬんの目的のゲーム参加ではなく変わりたいと思う主人公の気持ちにグッときました。そして友達と自ら渋谷へ行く姿、とても素敵なお話でした。